第54話 魔者の目的

 センスは解放した姿のまま、その場に佇んでいた。


「あ〜あ……。この戦いが終わるまで解除できねーな……。胸、邪魔だなぁ……」


 独り言を言っているセンスの近くに、地面を踏み込む音が耳に届いた。一つではなく二つ。

 これに気付き、──また新手が現れたのか!? と咄嗟にセンスは身構え、音のする方へと視線を向ける。だがそこに居たのは、センスを笑顔にさせる人物達であった。


「ハルア! ミスティ!! お前達無事だったんだなー!!」


 声をかけられた二人は、目の前の銀髪の美女に、──だれ? と言う表情を浮かべると、ハルアが口を開いた。


「え……っと。だ、誰ですか?」

 

 そう返事を返しながらも、どことなく見たことのある姿に戸惑っている。


「う〜ん……。私、なんか見たことある様な気がするするんだよね……」


 ミスティも頬に右手の人差し指を当てつつ、唸っている。この姿を見たセンスは──。


「何言ってんだよ! だぜ! センスだ!」


「──はぁ!?」

「──えぇぇ!?」


 二人とも開いた口が塞がらない。


「──ほ、本当にセンスなのか……? 一人称もじゃなくなってるし……。でも、言われてみればセンスだよな……その姿なんだよ……!?」

「確かにセンスだね……。でも、背も伸びてるし……大人になってるし……む、胸がお、大きくなって……」


 ハルアに続けてミスティも言うが、ミスティの視線の先は、その豊かな胸に釘付けである。

 さらに言えば、自分の胸と比べ青ざめている。

 これにセンスは、自分の胸を下から持ち上げると、「そーなんだよぉ〜……。ものすごく邪魔でさぁ……」と言っている。


 しかしこれを見たミスティは、ハルアも釘付けであるのに気付き、慌てて言った。


「──セ、センス! 男の子の前でそれはダメ!」

「え〜なんでぇ……。別にいいじゃねーか……」

「ダーーーーメ!!」


 そう言われてミスティにより手を下げられた。

 頬を膨らませながらもセンスはこの状況を説明した。


 ◇🔹◇🔹◇


「──なるほどな……以前戦った魔生より遥かに強くなってたから、か……」


「そうなんだよ……。一旦この姿になってから元に戻ったら、当分力が出せないんだよ……。だからさ、この戦いが終わるまではこの姿でいないとダメなんだよぉ……」


「強い能力だから、やっぱりリスクも大きいんだね……」


 センスはひと通り話終わると、姉であるペリシアが大きな魔生を追い、【ルーメル】に向かったことを伝えた。


「ペリシアさんはルーメルに行ったって言ってたけどさ、他の教官達はどうしてるんだ?」

 ハルアの問いに、センスは腰に手を当てながら説明した。


「ルミナ姉とイリス姐さんは二人で街の東側で魔生討伐してるぜ! ガルバのおっちゃんは一人で西側を討伐してると思うよ。で、お前らの担当のキールは、強い能力を持ってる学生達を率いて討伐に当たってるぜ。それに……命都サイラムから騎士団が来てるから住民の避難や残党の討伐は大丈夫だと思う、ぜ……」


 センスの最後の言い淀みが気になるが、ハルアはガルバとキールを心配する様子を見せなら聞いた。


「センスが全力を出して倒したあの魔生達を二人はともかく、一人のガルバ・ゼルディス教官と、学生と一緒のキール・ゼシアス教官は大丈夫なのか?」


「大丈夫だろ。ガルバのおっちゃんはああ見えてウチくらい強いし、キールんもうち程じゃないけど、このレベルの魔生だったら大丈夫だ! それに、この街に入り込んでいるほとんどの魔生は、ルーメルに集中してるみたいだから、おっちゃんのところと、キールんのところにいるのは一、二体しか反応ねーしな」


 センスの全く心配していない様子からハルアとミスティは安心できた。どうやら、多くの魔生のほとんどは、センス、ペリシアが引き受けていたことが分かった。

 だが、センスは気になることを口にした。


「──魔生はいいんだけどよ、これだけの魔生がこの街にいるってことは、これを引き入れたがいるってことだ……。恐らく魔者だと思けど、一つ引っかかるんだよ……」

「引っかかること?」


 これに、センスが言い淀んだ答えが分かった。


「魔者は間違いなくいると思うんだけどよ、タイミングがおかしいんだよ……騎士団が来たさ……」

 ハルアは疑問の声を上げる。


「なんで騎士団が来たことがおかしいんだよ? これだけ魔生が現れれば、サイラムから派遣されてもおかしくないだろ?」

「だから言っただろう? ってよ」

「──タイミングってどう言うことだよ?」


 ミスティは何かに気付いたのか口を開いた。


「もしかして、ハルアが行方不明になってすぐ?」

 これにセンスは頷いた。


「ミスティの言う通りだ。ハルアが行方不明になって、うちとギルドのフィア姉とアミザ姉とお前達を救援に向かったすぐ後に来たみたいなんだよ……」


 未だ、ピンとこないハルアの様子を見ながら、ミスティは自分の見解を話した──。


 それは──、ギルドの依頼に遡る。


 そもそも新人が受けるにはレベルの違う《兎角》の討伐依頼。本来なら、この様な依頼は学生ギルドに存在するわけではなかったこと。

 その上、学生ギルドに出入りしていた謎の男。

 結果を言えば、その男は魔者であった。


 そして、この依頼により学生が危なくなり、育成機関【ルーメル】から救援が出される。当然、救援に向かうのは、確実に助けられるであろうルーメルでも高能力を持つ者が向かうと予測できる。

 そうなると、ルーメルを守ることのできる戦力を分散できる。

 しかも、ルーメルの機関長であるペリシア・ラビットートは、が出ており不在。


 この時に騎士団が来た。

 これを見計らっていたかの様に……。


 これらが全て、偶然ではなく必然であると示唆している。

 ミスティは続けた。


「きっとこれは、何かを手に入れる為に行われた必然じゃないかな……」


 漸く気付いたハルアは口を開く。


「なら、コイツらの目的は何なんだよ……」


 センスはこの答えであろう言葉を口にする。

 新人の能力を振り分け、最高神であるラフィサリウスによって与えられた力の塊──。



「──多分、【ルーメル】にある《エメロードリング》だ……」


 

 

 



 

 

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