第53話 センス能力解放

 ──スイール中心部──


「──くそ! なんなんだよ! コイツら!」


 そう叫んだのは銀髪の少女──センス・ラビットートだ。彼女の周囲には、5メルト程あるゴリラと象を融合させた魔生、翼の生えた巨大な猿の魔生、残りは虎や大蛇の魔生などが、複数の黒を纏い蹂躙を繰り返していた。

 これに応戦するものの、致命的ダメージは与えられていない。しかしながら、決して苦戦を強いている訳ではない。


(前、森で会った魔生とはレベルが違いすぎるだろ!?)


「──センス! そっちは大丈夫?」

「ああ! 強くはなってるけど問題ねーよ! 姉貴!」

「それじゃあここは任せるわよ! 私は数体の大型魔生が向かった【ルーメル】に戻るわ!」


 ペリシア・ラビットートは、妹センスにそう言葉を投げると、一直線にルーメルに向かった。

 残ったセンスは腰に手を当てため息を吐くと──。


「はぁ…… やるか──【光の衣ガライト!】」


 センスは光の衣を纏い、額にはティアラが現れた。

 その両手には光の剣を携えている。


「全力で行くぜー! 月華げっか!!」


 光の剣をクロスさせ、離れた場所から《光刃こうじん》を飛ばし、20体ほどの虎と大蛇の魔生を消し飛ばした!


 次の標的は、残った2体の魔生となる。

 だがセンスが攻撃に移るより先に、翼の生えた巨大な猿──、巨猿と言えるそれは襲いかかっていた。


 巨猿は鋭利な爪を長く伸ばし、先程までセンスがいた場所に突き立てていた! 

 地面には大きく罅が入り、土煙を巻き上げる。

 その動きは大きさとは似つかわしくない程素早く、センスだからこそ躱せたと言っていい程である。


 センスは一旦後方に大きく退がり、巨猿に向かい即座に踏み切り姿を消した。


 この動きについていけなかった巨猿はセンスを見失っていた。

 周囲に視線を巡らせるが視認できない。しかし、次の瞬間には巨猿の背中に着地すると──。


「──この翼、邪魔だよな! 飛ばれでもしたら面倒だ……斬り落とすことにしよーか……」


 両手に持った光の剣──《光剣》で巨猿の翼を瞬時に斬り落としていた。


 センスは巨猿の背を全力で踏み切ると、上空へと飛び上がった。


 眼下には、反動で地面へに突っ伏している巨猿が見る。

 翼のあった背中からは、黒味を帯びた葡萄色えびいろの体液が霧のように吹き出していた。


 巨猿も痛覚はあるのか、金切り声をあげもがいている。それを眼下に見ながら、そのままの勢いでゴリラと象の融合体に向けて光剣を振りきった!

 

 だが──、その鼻の鋭い刃に防がれ間合いを開け着地した。


「くっそー! 変な姿しやがって! 力だけは馬鹿みたいに強いつえーな……!」


 センスがそう放つ姿は、さながらケンタウロスの様に見えるが、下半身は4足の象の体、その胴体と繋がる様にゴリラの顔と上半身を持ち、刃の付いた象の鼻を持っている。


(……この融合体を造ったのは馬鹿だろ。ゴリラの素早さを象の動きで殺すなんてな……。力だけの緩慢な魔生なんて問題じゃねーな……)


 考えを巡らせたセンスは即座に面倒そうな巨猿を先に片付ける判断をする。

 未だもがいている巨猿目掛け後方に飛び、その背中に向け両手の光剣を突き立て言った。


「──月震げっしん──!」


 センスの突き立てた剣を中心に、波紋の様に光が広がると、巨猿の体を一瞬にして光炎で燃やし尽くし分解させていた。


「とりあえずは面倒そうな奴は片付いた……。残りはお前だけだぞ。まぁその動きじゃあオレの敵じゃねーけどな!」


 センスはそのまま踏み切ると、間合いを瞬時に詰めた! 

 これに対応し、融合体は刃の鼻を振り下ろしていた! 

 それを難なく光剣で受け止めると、そのまま踊る様に振り斬り鼻ごと斬り刻んでいた。

 鼻を斬り落とされた融合体は、ゴリラの上半身でドラミングをすると、そこから生まれた波動によりセンスを吹き飛ばしていた。


「──くっそー! ゴリラと象どっちなんだよ!」


 大声で叫ぶセンスをよそに、融合体は驚くべきことをしたのだ。

 このドラミングにより、消滅したはずの巨猿の残滓から、黒い靄を吸収し始めたのだ。それはみるみる形となりその姿を変えていく。


「はぁ!? なんだそれ!?」


 このセンスの驚きは当然であった。


 なぜなら、象の下半身はゴリラと猿の融合体となり素早さを上げ、さらにその胴体には、漆黒の翼が生え、ゴリラの上半身にも同じく翼が生えていた。


 4枚の翼を持った全長10メルト程のバケモノはセンスをジッと見据えていた。

 

「──うぇ〜……なんだアレ……。もう何だかわっかんねーよ……。はぁ〜。使いたくねーな〜……。邪魔になるもんなぁ〜……」


 ぶつぶつ独り言を言うが、迷っている暇はなかった。融合体は瞬時に距離を詰めるとセンスの目の前に現れていた。その素早さは尋常ではなかった。


「どんだけスピード上がったんだよ! くっそ! あーもうやるしかねーか……!」


 センスは再び距離を取り着地すると、ため息混じりに言う。



「──【天満月あまみつつき】……解放──」


 ──言葉と同時に体を纏っていた光の衣が、センスの全身を包みこんだ。


 ──その眩い光の衣は一瞬にして霧散すると、その場に立っていたのは大人と化したセンスであった。


 腰までの銀髪。紅の瞳──。

 150センチ程の身長は、160センチ半ばまで伸びていた。

 何と言っても目を引くのは、そのたわわに成長した胸である。


 センスの言った『──邪魔になる』とはこの胸のことであったのだ。

 だがその姿は、夜に咲く美しい花、《月下美人》と言える。


「──ああ……。なっちまったぁ……。少しの間元に戻れねーんだよなぁ……はぁ……」


 センスはその恨みをぶつける様に続けた。


「てめぇのせいだからな! がこの姿になったのは!」

 

 これが理解できるはずもないバケモノはただ雄叫びやあげるだけであった。

 しかし、そのバケモノも反応できない程の一瞬で、センスは目の前に移動していたのだ。何が起こったか理解が追いつかないバケモノはただ前に現れたセンスに向けて反射だけで鋭利な爪を振り下ろした!


 だが──! 

 振り下ろされた爪を素手で受け止めると、いつのまにか一つに融合させた光剣で、その腕ごと斬り落としていた。そしてそのまま刃を返すともう片方の腕をも斬り落としていた。


「なんだよ……。せっかくこの姿になったんだからもう少し粘ってくれよっ!」


 次には真横に剣を薙、4本の足を斬り消していた。

 横たわりもがくバケモノを見ながら言う。


「やっぱ解放すると相手になんねーな……。まぁ被害が広がらない為にはベストだけどな……」


 その状態でも起きあがろうとするバケモノに──。


「──散れ……【朧月おぼろづき】──」


 光剣を振り下ろすとバケモノの姿は、光を纏い霧散した。


 ──その光は、靄がかかった月のように幻想的な輝きを放っていた──。

 


────⭐︎────⭐︎────⭐︎────⭐︎────


 週末に更新できなかったので、週末ではない日になりました。

 お知らせの通り、当面は週末の更新となりますのでよろしくお願いいたしますm(_ _)m




 

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