第52話 神天剣ラーヴェン

「──このくそ猿! 絶対ぜってー許さねーからな!!」


 そう言うと、すでに展開しているラシリアからもらった古代武器エンシェントウエポンである【神天剣ジンテンケンラーヴェン】を構えていた。



「──簡単に死ねると思うなよ……!」


 ハルアの絶する力は、目の前の黒猿を駆逐するべくその力を発揮しようとしていた。



 ◇🔹◇🔹◇



(──残り時間はあと3分と少し。猿なんかに時間はかけられない……30秒だ……)


 その考えに至ると、行動は早かった。


 黒猿は腕を斬り落とされながらも次の行動へと移っている。

 大きな巨体には似つかわしくない素早さで、無事な片腕でハルアを叩き潰そうと狙ったが、これを余裕で躱わす。

 

 そして一瞬で懐に飛び込んだ。


 ハルアは黒猿の腹部を大きく蹴り上げ、上空へと飛ばした。そのまま一緒に飛び上がると、今度は地面へと叩きつけた!

 叩きつけられた黒猿は怒りの声を上げている。


 舞い上がる土煙の中──。


 その眼下に黒猿を捉えていた。

 黒猿は周囲に視線を巡らせてハルアを探している。


 ハルアは狙いを定めると、神天剣ジンテンケンラーヴェンを大きく振りかぶった。


 ──そして……。


 次の瞬間には、黒猿を真っ二つに斬り裂き、地面に降り立っていた。

 だが、体を半分にされたにも関わらず、死ぬ事なくハルアに視線を向けた。


「──!? 何なんだよアレは! 真っ二つにしても死なねーて一体……!?」


 黒猿は斬られた半分を補う様に漆黒の靄を体の代わりとして代用していた。


「体の半分も補えるのかよ! くッ!? あんなのありかよ!」


 地面に降りたままの体勢で見上げるハルアに、黒猿はその漆黒の靄でできた腕を、ゴムのように伸ばすとハルアに巻きつけた!


「くっそ! (……以前、森であった奴とはレベルが違う!)」


 黒猿はニヤけたように口角を上げると、ハルアをそのまま靄で覆いつくし体に呑み込んだ。

 自分が勝ったと確信した黒猿は雄叫びを上げる。


 だが──。



「──消し尽くせ……。ラーヴェン……」



 呑み込んだはずの体内からハルアの声が響いた。 


 黒猿の体は靄と共に、渦を巻く様に弾き切られていた!

 上半身と下半身を分断された黒猿はその場に倒れ伏していた。そしてハルアは続ける。


「──絶光ゼッコウ……」


 ハルアは横にラーヴェンを薙ぐと、一閃の帯が黒猿を捉えて、その漆黒の靄ごと斬り裂き、断末魔と共に消滅し尽くしていた。


「──はぁ……、1分かかちまった……。早く中心部に行かないと……!」


 これにアークとリメルが聞いてくる。


「──ハルア……何だよその力は……?」

「あんなバケモノ相手に、臆しないなんて……」


 二人の驚きは当然だが、時間がない事を理由に先を急ぐ事を告げる。

 

「恐らくもっと中心部ではこれより強い奴が来てるはずだ……。教官やセンス達がいるとは思うけど、周囲を守りながらじゃあ力も出せないだろ? だから、その人達が力を出せる様に俺が補助しようと思う。ってもあまり残された時間はないんだけどな……」


 この言葉からアークは、ハルアの強力な力には使用時間がある事が理解できる。

 ルールウの治療を終えたミスティは、ハルアと一緒に中心部へ向かうために駆け寄っていた。


「ハルア。ルールウさんはもう大丈夫だよ」

「ああ、ありがとうな!」


 ミスティにそう返し、アークとリメル、そしてルールウに視線を向ける。


「アーク! リメル! ルールウを連れてここから離れろ! 俺達が通って来た方角へ行けば、魔生はいない! 通りすがら全部殺したからな! それと、俺の家に行け! そこには俺達があらかじめ施しておいた結界がある」


 ハルアの言葉にただただ驚くばかりであった。

 魔生を倒す圧倒的な力……。

 結界を張ったという準備のよさ。

 これにアークは言う──。


「ラシリア様達と会ったとはいえ、お前はあの森でどんな体験したんだよ……」


 これに今すぐ答えることはないが──。

「まぁ色々とな……(素っ裸にされたこととか……)」


 そんな事を考えながら、「──またその内話してやるよ!」と言うと、ミスティに声をかけた。


「ミスティ! 急ぐぞ!」

「うん! 行こうか!」


 二人はそう言うと中心部へと駆け出していた。


「──死ぬなよ、ハルア……」


 アークの声は届いていないが、友人を思う言葉はその場に小さく響いていた。

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