第18話 【ルーメル】学生ギルド②
午前中は座学だけで、午後からは昨日も使った演習場で能力の実技訓練が行われた。
今回は、各自に渡されてある、革紐についた小さめのガラス玉5個を1時間維持するか、あまり取られない様にする訓練だった。
もちろん訓練である以上、より多くのガラス玉を獲得する事も含まれる。
素早さや洞察力、適応力を補う他、能力の効率の良い使い方を学ぶためらしい。
そして──訓練が開始された。
──……数分後。
俺は……当然全て取られた。自分で当然と言うのは嫌なのだが、事実なので仕方がない。
詳しく言えば、始まって数分で5人に囲まれた。
身体強化を使い応戦したものの、5人は仲良しらしく、俺から奪ったガラス玉を『よし! ゲットだ!!』とか言って平等に分けていた。
「一瞬で終わったな………」
「──うん、そだね……。始まって数分しか経ってないけど、すぐに囲まれたよね……。出発地点はバラバラだったのにね……」
そうなのである。
出発地点は全員バラバラに配置されての開始だった。本当にあっという間だったよ。効率よく探索能力を使ったらしい──そりゃあ、一番小さな者を見つければいいだけだからなぁ……。
「なんか周りにも人の気配がするよな……」
「そうだね……。真っ先の標的は私達だったんだろうね。なんか、ため息も聞こえる様な気がするよ」
「そうだろうよ。何せ一番簡単であろう俺達のガラス玉がすでに0だからな……」
それにしても、俺達からすればこれは訓練じゃなくないか?
まぁ、奪われたものは仕方ない……。
「少しでも取り返したいな……」
「だね……。頑張ろうね」
そう言ったものの……時間はどんどん過ぎ、タイムオーバーになった。
訓練を終えた他の学生は、訓練場の入口付近に集まっていた。全員それぞれ、ガラス玉は持っていた。
5個無い者もいたが、0は俺達だけの様だった。
見た目で分かる範囲では10個ほど持っている学生もいたのだが、意外だったのはアークだ。
「なぁアーク、お前はかなり取ってると思ってたけど3個しか獲得してないんだな?」
「あぁ、これか? 別に取る事がメインの訓練じゃ無いだろ? 5個をなるべく維持する事だからな。3個増えたのは、同時に3人に囲まれたからだよ」
「でも、より多くの獲得する事も入ってただろ?」
「それはそうだけど、どこを重視してるかの違いだと思うぞ。俺は取りに来た相手から取られないような動きをして、自分がどこまでガラス玉を維持できるかを意識したからな。逆に、取りに来た学生達はどれだけ自分達の力が通じるかを兼ねているんじやないかな?」
「でも俺は纏召喚の力を発揮できないにも関わらず、5人に囲まれたぞ……」
「まぁ、それに関しては何とも言えないな……。ただ取る事だけを考えたのかもしれないな。人それぞれ考え方は違うしな。そういう意味では、チームプレイみたいな感じなのかも……?」
「いやいや。力を発揮できない奴を狙ってもチームプレイの向上にはならないだろう……。それこそ、アークみたいな強力な能力を持った相手じゃないと……。俺のは多分、単に取りに来ただけだよ」
「私もそう思うよ。『ゲットだぜ!!』とか言ってたし……」
「はははっ……」
アークは汗をかきながら何とも言えない声で返事を返してきた。
その会話が終わる頃、こちらに向かってくる数人の人影が見えた。
俺達がそちらの方に目を向けると、一番先頭を歩いている、腰に多くのガラス玉をぶら下げた男子学生がバカにした口調で、俺に視線を向けて言葉を放った。
「リザーブよお。自分が仲良くする人間は選んだほうがいいぞ! お前ほどの力があれば俺達と一緒にいた方が先が明るいぜ。そんな纏召喚がまともに使えない奴といるよりもなぁ」
そう言い放ったのは、砂鉄を纏召喚するデカ男で、能力覚醒の際『チッ!』と舌打ちをしていた奴だ。確か名前は──。
「ディゼル・ヴァルハビア……。確かにお前の言う通り、人間は選んだ方がいいな。お前みたいに俺の友人をバカにするような奴とは一緒にいない方が俺の先が明るいな」
アークはかなり怒り気味にヴァルハビアに返すと、俺とミスティに、「学生ギルドに行こう。向こうでひとまず、リメルとルールウと合流しよう」と言いその場から離れようとすると、ヴァルハビアとその周りにいる4人が俺達の周囲を囲んだ。
「リザーブ……!! てめぇにはがっかりだぜ。そんな
そう叫んだヴァルハビアは、砂鉄で作り上げた3メルトはある黒い大剣10本を空中に漂わせていた。
取り巻の学生達は能力の解放はせず、天衣力と無召力を応用したであろう能力の壁を形成すると、俺達3人を逃さないように閉じ込めていた。
「どういうつもりだ。囲んで何がしたい?」
「リザーブ。てめぇこそ何をしようとしている?」
ヴァルハビアが大剣を空中に漂わせたとほぼ同時に、アークも光霊剣を展開していた。数は大剣10本に比べて3本だが、纏っている天衣力は比べものにならない程であった。
その圧に押され、俺達を囲んでいた学生達は動揺して壁を維持できていなかった。
今にもぶつかり合いが始まりそうな時、それを分断する漆黒の鎖が降り注いだ。そして、2人の能力を潰す様に互いの剣に巻き付き霧散させた。
アークとヴァルハビアは勿論、ハルアとミスティと周囲の学生達も鎖を放った者に目をやった。
「お前達! 何をやっている!! 訓練以外での決闘は許さんぞ! 周囲を巻き込んだらどうするんだ!」
ゼシアス教官は2人に怒りの声を上げた。その後には周囲の学生達にも「なぜ止めなかった?」と注意ををし、囲まれた中心にいた俺とミスティの方に寄って来ると説明を求めた。
俺は成り行きを説明し、教官の言葉を待っていた。
「ヴァルハビア! 能力が弱いからと言って、相手を卑下し、差別をする様なことは止めろ!! リザーブ。お前も対抗せずにすぐに俺に知らせろ。俺がいなければ他の教官でも構わない! 今後こんな事はするな!」
教官は2人にそう言い、もう一度、俺達に向き直ると「何か起こりそうな時や、起こった時はすぐに知らせろ。こんな事は許しはしないから」
「……行くぞ」
ヴァルハビアは4人にそう言うと、アークと俺達を睨みながらその場を後にした。
それを見送りながら、やっぱり教官は教官であって、昨日の床に顔を埋めた何とも言えない姿とは違い、やはり学生よりも強い。
まぁ当たり前と言えば当たり前だが、昨日あれだけアークの能力は強力と言いながらも、あっさりと霧散させた。学生達と教官の力の差はかなりあるのだと実感されられた。
「ハルア、すまなかったな。能力を解放したせいで巻き込まれそうになって……」
やはりアークは凄いと思う……。
ヴァルハビアの暴言はあったとしても、むしろ巻き込む原因の元は俺の方だと思うが、それを自分のせいであると俺に気を使うところは頭が下がる。
「なに言ってんだよ……。俺の能力が足りないからお前を巻き込んだんじゃないか。だからアークのせいじゃねーよ。な! ミスティ?」
「そーだね。守られた側だからね。アークさんのせいじゃないよ。私達も自分たちでどうにかできる様にがんばるよ!」
「そうか……。俺もハルアとミスティさんが力をつけていける様に力を貸すよ。じゃあ早速、経験を積む為にさっき言った学生ギルドに向かおうか。修了ポイントを貯めないといけないんだからさ」
そう言い終わり、教官にお礼を言うと俺達は学生ギルドに向かう事にした。
──少し離れた後、後ろの方でため息と「……疲れる」とひと言だけ聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます