第19話 【ルーメル】学生ギルド③

 ──教官の疲れ切ったため息を背に歩き始めていた。


 生徒のいざこざにせよ、俺の纏召喚テンサモンにせよ、ことごとく心労をかけている様な気がする……。


 ──暴走する生徒、半裸の少女を召喚した俺……。

 何か申し訳ない……。


 だけど、考えたところで仕方がない!

 よし! 前を向こう!!


 そんな思いを巡らせながら、徒歩で約10分程行くと、赤煉瓦の建物が見えてきた。

 入口の上には【学生ギルド】と分かりやすく書かれていて、沢山の学生が出たり入ったりとしていた。


 その学生達とすれ違いながら、中に入ろうと階段に足をかけた時、フードを被った奴と肩がぶつかった。


 少しよろめきながらも謝罪をし、あちら側も──すみませんと返してきた。

 だが、その場を離れようとした時、フードの奴から声が聞こえた様な気がした。


 ──楽しくなりそうだ、と……。


 だけど、アークはそのまま進んでいるので、少し気になりながらもアークを追う様にギルドへと歩みを進めた。


 中に入ると受付があり、その横には依頼情報が貼り出されていた。

 当然、その前にも複数の学生がポイントの為、達成報酬、人助けと様々な理由での依頼を選んでいた。


 そこから少し離れた場所に、ルールウとリメルが立っているのが見え、2人もこちらに気付いたみたいで手を振ってアピールしていた。

 俺達が合流すると、リメルが最初に口を開いた。

 

「おっそーい! 私もルールウも早く終わって待ってたんだから!」


「まぁまぁリメル。訓練内容はそれぞれ違うんだから仕方ないよ」


「確かに訓練も時間が掛かったんだけど、俺が同じ纏召喚の学生と色々あってさ……」


「あれはハルアが悪いわけじゃないだろぉ……? あっちが悪いだろ」


 そう話していると、ルールウとリメルが──何があったの? とハモリ気味に聞いてきた。その質問にアークが何があったかを2人に伝えた。




「何なの!! それ! 能力が弱いからってそんなに人を見下して! 私がぶん殴ってやる!!」


「ルールウ! ルールウ! 落ち着いて! アークもそれで教官に怒られたんだからぁ!」


 大声を上げて、怒り狂うルールウをリメルとアークが必死に抑えていた。


 俺の事で怒ってくれるのはありがたいが、これは流石にやばいような気がする……。


 どうにかして宥めようとした時、ルールウに気を取られすっかりその存在を忘れていたミスティがひと言、「ルールウさんごめんなさい!」と何かの神聖魔法使った。


 すると、つい今まで怒り狂っていたルールウが首を垂れる様に静かに眠りに着いた。

 俺達はミスティの方を向き、──これは何? といった表情を浮かべるとそれに答える様に返事をしてきた。

 

「えっと、神聖魔法の森眠シンリープっていうもので、耐性がない猛獣や狂獣きょうじゅうを強制的に眠らせることができるの。人にはあまり使わないんだけど、大人しくしてもらう魔法は他に知らないから……。猛獣とかが5分くらいだから、人に使ったらもう少し眠るみたいで、大体30分くらいだって聞いたよ」

 

 さらっとそんな魔法を使うミスティに俺を含めた3人は──。


((この娘怖い!!!))


 という様な表情をしていた。が、それをさらに驚愕させる事が起こってしまう。

 

「もう何なのぉ……。急に眠気がきたと思ったら意識なくなるし……。ん? どうしたの4人とも?」


 ──ルールウが目を覚ました……


 目の前で起こった事に一番驚いていたのは魔法をかけた張本人であるミスティだ。


 顔からは血の気が引き口をわなわなさせて言葉が出てこない。

 

 そういう俺とリメルも驚愕している。


 当然、アークも驚いているのだが、「──ルールウは魔法特性だから耐性があるんだろう……」と言った。俺達の表情とアークの言葉が何を指しているのか分からないルールウは、疑問を浮かべた表情で聞いてきた。


「あの……どういう事?? 全く訳がわからないんだけど?」

 その問いに、今までの流れを説明した。

 

「何だぁ。そういうことかぁ。アークの言う通り私はある程度の魔法について耐性があるみたいだから直ぐに目覚めたんだと思うよ」


「なんか、急に魔法かけてごめんなさい……」


「全然気にしてないから大丈夫だよ。それにこのお陰で落ち着けたしね」


 そう会話をしているが、ミスティの顔から恐怖の表情が窺えた。


 どうやらルールウの魔法耐性に驚いているのだろうと思っていたが、何か違う感じがした俺は、ミスティに尋ねてみた。

 

「どうしたんだよ? アークが言った様に耐性があるから早かっただけなんだろ? 何か問題でもあるのか?」



「あのね……。猛獣、狂獣とかは神天界でもいるし、この人界で神人戦争時代には移動手段があったから、遺伝的に耐性を持った獣とかがいてもおかしくないんだけど……。この戦争以降は人界と関わらない様になったから、に耐性を持っている人がいる……訳……ないん……だけど……──」


 ──などと言いながら、段々と声が小さくなっていった。その事実に驚きながらも、恐る恐る聞き返した。

 

「えっと、つまり……ルールウには普通の魔法に対しての耐性はあるけど、神聖魔法に対しての耐性がにも関わらず、猛獣、狂獣でも、5分くらい眠らせる魔法だったのに程で目を覚ましたと……」


 目を泳がせながらコクリと頷くミスティに、隣で一緒に聞いていたリメルも汗を滲ませながら口を半開きにし、驚きを隠せていなかった。


 アークはルールウと話している為にこの事を聞いていない。


 結果、──よし! この事は黙っておこう! 


 3人の心に止めておく事にした。


 また下手なことを言い、ルールウが怒り狂わない様に……。

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