第50話 スイールの戦い

「──大変だよ! 街が、スイールの街が……!」

 このミスティの普通ではない言葉に窓から外に目を向けた。


 すると、スイールの街の中心の方角から魔生の叫び声が響き、真っ赤な炎が立ち上っていた。


 ◇🔹◇🔹◇


 

 ミスティに起こされた俺はすぐに着替えを済ませ、古代武器エンシェントウエポンを携え、表へと出た。

 時刻は深夜に迫る時間帯。

 表はスイールの中心が燃えているであろう炎の明かりと、街灯が照らしている。


 周囲の住民達も異常事態に気付いているため表には結構な数の人々が不安の声と、驚きの声を上げていた。

 

 俺達の住んでいる場所は、スイールの街の端っこの方。魔生の影響はここまで及んではいなかった。

 だが、いつこの場所まで魔生が来てしまうか分からない。

 

 そう考えていると、突然それは目の前に現れた。


 漆黒の靄を纏い、体長5メルトはあると思う熊型の魔生が地響きをたて降り立っていた。

 それを見た人々の表情は恐怖に支配されているように感じる。

 俺自身も、森の中でこの異常な魔生と遭遇した時は何が何だか分からず驚いていた。だからよく分かる。


 これを目にした人達は、魔生が降り立っていない反対側へとパニックを起こしながら逃げ惑っていた。


 だが──その反対側に、俺も対した黒い猿が現れていた。以前、相対した黒象同様にその猿も、人間を殺してはその肉を貪り食べていた。

 俺の耳には不快な音が聞こえてきている。

 ミスティは口を覆い悲鳴と恐怖を必死に抑えていた。


「──ミスティ……大丈夫か? ……て大丈夫なわけないよな。俺はさ、一度森の中であの漆黒の靄を纏った魔生と会ったんだよ……。正直その時は死を覚悟したんだけど、ラシリア達に助けてもらってさ……。アイツらは人造魔生アーシャルて言うらしいんだよ。多分アレも猛級に分類される魔生だと思う」

 

 この俺の話を聞いたミスティは、人造魔生バケモノだけでも感覚が追いつかないでいる上、猛級という言葉に恐怖が支配するような表情を見せた。

 この表情からミスティは戦えないだろうと判断した。たとえ戦えたとしても倒せるとは到底思えない。


 それは自分がよく分かっている。

 アレは普通の魔生とは桁違いのバケモノだと。

 しかし、このままではこの人造魔生アーシャルに蹂躙されるのは時間の問題だと分かる。


 時間制限はあるが、やるしかない。

 決断するには時間は掛からなかった。


「ミスティ。これから俺がアイツらを倒すよ」

 俺の判断に少し驚きつつも返事を返した。


「!? もしかしてラシリアさんからもらった武器を使う……の?」


「──ああ使う」


「でも制限時間が……」

「1分で片付ける!」


 即座に武器を構え、天衣力を流し込んだ。

 それと同時に全身が強化されると、俺を光が包み込んでいた。

 その光が霧散すると、ミスティが驚いた表情を見せていた。


「ハ、ハルア……。髪の色が銀色になってる……」

 そう言われたが、今の状況では確認することすら時間の無駄だと思った。


「時間ねーから、とりあえずアイツらを消す……!」


 俺の変化に人造魔生アーシャルも気付き、視線をこちらに向けてきた。そしてこっちにターゲットを変更し、襲ってこようとした時────。


 ──瞬時に踏み切った!

 

 目の前から俺が消えたことにその動きが完全に止まっている。見失った俺を探すように視線を巡らせているのが分かった。


 ──この至近距離であるからだ。


 表情も目線もハッキリと分かる。

 俺は踏み切った瞬間には、黒い猿達の懐に入っていた。低い体勢から猿達を見上げるように光を纏った剣を構えると、横一閃に薙いだ。


 恐らく何が起こったか分からないままの猿達は蒸発するように消え去った。


(……マジかよ。前、剣のラシリア……《ラシエル》を使った時よりも遥かにつぇーよ)


 ミスティはあまりの強さに言葉を失っている。

 俺自身もここまでとは思っていなかった。

 ラシリアが俺に合わせて調整していたのではないかと思えてしまうほどだ。


 だが、思考をすぐに切り替えると、あと一匹。


 熊の人造魔生アーシャルは俺に向けて猛スピードで迫ってきていた。

 黒熊こくゆうと表現できる熊は鋭い爪を俺に向け振り下ろしてきていた。

 

 だが遅い────


 全身が強化された俺は、この黒熊こくゆうの動きは緩慢に見える。

 その振り下ろされた鋭い爪を、腕ごと掴み止めると、そのまま腕をちぎり取った。

 そしてそのまま剣を振り上げると、真っ二つに斬り終えた。


 自然に出た言葉は──────



「──ちょうど1分だ……」


 これと同時に天衣力を解いた。

 

「ミスティ、急ごう。多分スイールの中心地はこんなもんじゃないと思うからさ……。幼馴染あいつらが気になるから……」


 ミスティは目の前のことに驚きながら頷くと「──うん。急ごう」といい、急ぐ俺の後方を追うように中心部へと足を進めていた。

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