第28話 アミザ・メフィスト& フィア・フェルト

 ──少し時間は戻り──

 ──ハルアがちょうど魔生に襲われている時──


 

 アーク達の戦況は相変わらず膠着し、同じ応酬の繰り返しだった。


 どちらが不利になる訳でも有利になる訳でもなく、ただ戦っている状態であった。


 実力的に言えば、ディゼル側が上なのだが、学生が相手だと舐めていたせいか、回復役を準備せず、回復を使える者がいない。


 そのせいで魔力の消費は激しかったのだ。

 

 逆に、アーク側は能力的には劣っていると思われていたが、ミスティの継続回復と身体強化でかなりバランスの取れた戦い方が出来ていた。


 この結果は、ハルアが考えていた通りで、見事にハマったと言える。

 そして、この膠着状態に苛立っていたのはディゼルだった。


「お前達! 学生相手になに手間取ってやがる!! 親父に手を回してもらって処刑するぞ! それが嫌ならさっさと殺せ!」


 そう叫ぶディゼルの態度に、2人の冒険者も苛立っていた。


「このクソガキ! てめぇーも役に立ってねーじゃねーか!」


 武術を使う巨漢の男はディゼルの暴言に激怒すると女の魔法士も続けて言った。


「アンタ1人で出来ないから【ヴァルハビア家】に言われてお守りをしてやってるのに! なんだいその態度は!! ここでアンタを始末することも出来るんだよ! アンタがさっきアイツらに言った様に『魔生に殺されて死んだ』ってね!!」


 その仲間割れの言葉を聞いたアークは1つの疑問が解決した。ただの学生に3人の冒険者が付き従っている事に………。


「……ディゼル・。そうか、まさかとは思ったが、お前は港街【サリア】の豪商ヴァルハビア家の奴か!」


 アークの言葉にルールウとリメルも続けた。


「あまりいい噂を聞かない豪商の……」


「息子がこうだと悪い噂ってのは本当なんだろうね」

 この流れに乗る様にミスティは質問した。


「そんなに有名なの?」


 即座に答えたのはリメルだ。

「有名なんてもんじゃないわよ……。人身売買、違法盗掘、しまいには魔者に人間を売ってるとか色々言われてるんだから」


「そうそう。ヴァルハビア家の商人が、魔者と一緒にいる所を見たっていう噂もあったし……」


 リメルとルールウの答えに、ミスティは驚いたが、これまでの人を見下す言い方といい、プライドの高さといい、納得がいった。


 その会話を聞いたディゼルは大きく舌打ちをし、仲間とは名ばかりの雇われ冒険者に怒鳴った。


「チッ!! お前達のせいで完全にバレたじゃねーか!! でもまぁ、ここでコイツらを殺せばなんの問題もないな……」


 そう言うと、ディゼルはマジックアイテムの収納袋から一口台の虹色の飴を2つ取り出すと、冒険者に投げ渡した。


「おい。何だこれは? 妙な光を帯びてるな……」


「なんか変な感覚がするわね……」


 2人の冒険者を見るなり、ディゼルは薄ら笑いを浮かべながらとんでもないことを言った。


「それはなぁ、うちの商会が魔者との取引で得た特別な物で、人間の生命力を凝縮して創り出した能力上昇の飴だ。それを食えば爆発的に能力が上がる! さっさと食え!! 俺も食う! 俺は一度試してるからなあ!」


 言うと同時にディゼルは口に放り込み、一気に噛み潰した。


 すると、体中から漆黒の靄を出し、それが収まる頃には膨大な魔力を全身に帯び、その影響で天衣力も跳ね上がっていた。


 それを見た冒険者達も口にし、噛み砕いた。2人の結果も同じように漆黒の靄が収まると膨大な魔力を得ていた。


 その圧倒的変化に、アーク達は驚愕の表情で最悪となった相手を見ていた。


「こりゃあいいや!! どんなに使っても力が無くなる気がしねーよおおお!!」


「本当に最高だわぁ!! 今なら四大属性全て使える感覚だわ!!」


 2人はそう叫ぶと、アーク達に殺意を向けた。


 それを察知したアークはリメルとルールウ、ミスティに防御と攻撃と回復を行う様に指示を出した──が、アークが持つ光霊剣にとてつもない衝撃が加わり、剣に罅が入り後方へと吹っ飛ばされた。


 目線の先には、目が金色に変わったディゼルが、赤黒く変化した砂鉄の黒剣を振り下ろした姿で見ていた。

 そして即座にアーク目掛けて迫っていた!


「どうしたよーーーー!! リザーブ!! 反応出来てないじゃねーかぁぁぁぁ!!」


「──くっ……。何だこの変化は!? さっきとは比べ物にならない……!」

 

 何が起こったか理解できずにいたリメル、ルールウ、ミスティも反応する事が出来ず立ち尽くしていた。


 すると、風と水の合成魔法によって地面ごと足下を氷結させられると、行動も奪われた。


 続けて3人の目の前に、筋肉を黒く変貌させた男が地面を抉る様に拳を叩きつけた!


 すると地面は波打ちリメル達に襲いかかっていた!


 防御も間に合わなかった3人はその勢いに飛ばされ、アークとは別の方向へと飛ばされた!



「──うっっ!!!!!!」


「きゃぁっ!!!!!!」


「きゃあっ!!」



 3人は後方にある木々にそれぞれぶつかり動きを止めていた。

 アークは追撃してくるディゼルに新たに創り出した剣で対応していたが、またしても吹っ飛ぶと、光霊剣も砕けていた。


「いいザマだなぁ! だからあの時言っただろう? 『人間は選んだ方がいい』ってなぁ!! だが、もう遅いからなぁ! お前達はこのまま殺す……いや、魔者に売ることにしようか……。そうだ! もてあそんで売ろう!! その方が楽しそうだあ!」


 大声で欲望を叫ぶディゼルは、仲間もどきの冒険者達に──生かして捕まえろ! と言う。


 武術の男は防御の強いリメルの首目掛けて、太く黒い腕を伸ばし──


 魔法士の女は、攻撃魔法を使えるルールウに大地属性の拘束魔法を放ち──


 ディゼルは光霊剣を使えるアークに赤黒く変化し強化された砂鉄で縛鎖を作り、拘束しようとした──



 ──だがその時!



「そーはさせないよっとぉッ!!!!」



「この変質者ーーーー!!」



 突然現れたのは2人の女性であった。


 リメルへの攻撃を防ぎ、筋肉男を掌底で吹っ飛ばしたのは赤色のボブヘアーで綺麗な漆黒の瞳を持つ──


 アミザ・メフィストという【学生ギルド】の受付をしている女性──。


 

 そして、『変質者』という言葉と共に魔法を打ち消し、膨大な魔力を纏った蹴りで、女性魔法士を蹴り飛ばしたのは──

 

 腰まである青み掛かった黒髪を踊らせている、同じく学生ギルドの受付の──フィア・フェルトであった。

 

 その2人の攻撃で、20メルト程飛ばされた冒険者達は、複数の木々を薙ぎ倒し漸く勢いを止めた。


 逆に今度は、何が起こったか分からないディゼルがアークに迫ろうとしていた砂鉄の拘束を止めていた。


 その行動のキャンセルの一瞬で、ディゼルの腹部に強烈な痛みが走っていた。


 目の前には、小柄で白銀の髪を靡かせた少女──


 ──センス・ラビットートが悠然と立っていた

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