第27話 少女と男

 抗おうとした感情虚しく、黒象の刃がハルアを切り刻もうとしたその時──



 ──パチンッ……



 と、何かが弾けた様な音が聞こえた。


 次の瞬間には、目の前まで迫っていた黒象の鼻どころか、黒象その物が跡形なく吹き飛んでいた。


 ハルアは薄れゆく意識の中で少女と男の声を耳にした──



『……変な気配があると思ったら、何でこんな所に人造魔生アーシャルがいるのよ……? レオ、私はこの少年を治療するから、残り片付けといてね』



『はいはいお姫様……。俺はあまり回復は得意じゃねーしな……』



『お姫様って言わないで!! ぶん殴るわよ! それに、あんたこそよく言うわよ……。現最強の人間が……』



『悪かったよ……。戦いと回復は違うからなぁ。で、その少年は全快出来そうかあ?』


『誰に言ってんのよ! 出来ないとでも??』


『悪かった悪かった……。じゃあ任せたぞ



(──何なんだよ……この人達……。猛級? ってなんだよ……。しかも……あの黒象バケモノを一撃って…………もう……意識……が……)


 体を柔らかなグリーンの光が包むと、身を任せる様に、ハルアはそのまま深い意識の中へと落ちたのだった──……


 猛級と言われた黒象はハルアが意識を失った直後に一体たりと残らず消滅していた。


 それをやってのけた男は、意識を失ったこの少年に近づくと、回復魔法をかけている少女に話しかけていた。


「お前にしては回復に時間が掛かってるな……?」



「軽い傷ならすぐだけど、この大きな傷のせいで神力を増してかけてるの。その影響で、この少年の中の力がぶつかり合って邪魔してるのよ……。それに、この少年もしかしたら────」





 それを伝えられた【レオ】と言われた男は少し驚きを見せながら答えた。



「──……まさか、そんな事があるなんてな……」



「私もビックリよ。でも、そう考えたら回復を邪魔してるのも頷けるわ……。本来、が混ざってるせいで、上手く回復が伝わらないのよ……」



「──じゃあ、全快は無理なのか?」

 男は少しニヤけながら言った。



 それを言われたラシリアという少女はため息を吐き、怒り気味に同じ答えを返すのだった。



「誰に言ってるのよ!! 出来ないとでも!!!!」



「そうだな……なんたって、稀代の天才【ラシリア・リンスレット・エルダール王女】だもんなぁ……」


 

「……やっぱ、あんたぶん殴るわ──」



 さっきまで、猛級に囲まれていたとは思えない程、ごくごく当たり前の様に会話を続ける天才と最強は、ハルアを安全な場所へと運んだのだった。


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