第26話 最強と姫
「はぁ……はぁっはぁッ──」
ハルアは右手に守岩壁を捉えながら仲間から距離を取る為に全速力で走っていた。
後方に目を向けると、追ってくる先頭には、さっきのディゼルの仲間である狼の
2つに分かれた
(……結構離れたから……はぁッ……、アーク達は任せよう……はぁッ……こっちは、このまま逃げても追いつかれる……。実際……はぁッはぁッ……少しずつ
距離が縮まってきてる……)
ハルアはアーク達と別れ、走り出してから約15分が経とうとしていた。
距離で言えば北西に15キロ程の所だ。だが、天衣力は限界を迎えつつあった。
(くそっ……はぁッはぁッはぁッ……。もう、天衣力が持たない……。残りはミスティの……はぁッはぁッ……掛けてくれた身体強化だけだ……)
自身が施した身体強化を解き、ミスティの力に頼った。分かっていた結果だが、魔生との差は明らかに狭まってきていた。
周囲を確認しながら進んでいくと、目の前に岩場が現れ、その一部に人が入れる程の穴が空いているのが見えた。人は入れるが魔生は無理といった感じの穴。
(はぁッ、はぁッ……──あそこに逃げ込むしかないな……。とりあえず気配を消して隠れる。その後の事は隠れながら考えるか……)
そう判断すると、勢いをギリギリまで落とし入り込んだ。思ったやよりも中は広く、入口だけが狭かっただけの様だった。
入口付近を素早く崩すと、微かに空いた穴から外の様子を見た。
ハルアを見失った狼の
すると、漸くと言うべきか、上級魔生と思える獣が現れた。
その姿は、5メルトの
(なんだアイツ……。あんなのが上級魔生なのか? いや……何か変だ……。底辺の俺でも分かる。あの乱れた魔力は異常だ……──!? なんだ!? 何をやってるんだあれは!?)
目に映った光景とは、黒象が自身の鼻先に付いた鋭い刃で兎角を切り刻み殺し、狼の獣幻である男をも絶命させている姿であった。
さらに驚く事に、黒象は兎角の肉を喰い散らかし、獣幻の男の肉をも食べていた。
それを喰い終わると大きく前足を地面に叩きつけ、叫び声を上げ、地響きとともに絶望を感じざるを得ないことが起こった。
(マジかよ……!? 象って草食じゃねーのか? そうじゃないにしろ、人の肉まで喰うなんて……。それに、さっきの足踏みは仲間を呼ぶ合図だったのか……!?)
ハルアの目線の先には、10数体の黒象が現た。
恐らく自分を探しているだろう察しはつく。
絶望を感じながらも、頭を巡らせどうするかを考えていると、顔面の激痛と共に、身を隠す為に崩した穴から外へと飛ばされていた。
飛ばされながらも、自身がいた場所に目をやると、黒象と同じく全身黒色で、靄を漂わせる1・5メルト程の複数の猿が、不気味な笑みを浮かべてハルアを見ていた。ある物は手を叩き、ある物は飛び跳ね面白がっていた。
(何なんだよあの猿は……! また上級魔生!? くそ!!)
10メルト程吹っ飛ばされたハルアは、大きな音をたて、木に体をぶつけ止まった。
そのダメージでまともに体を動かせずにいると、黒象は周りに集まり、獲物を見る様に見下していた。
ハルアを吹っ飛ばした黒猿の手には鋭利な刃物が握られて、それを確認する頃には、黒猿はすぐ目の前に迫り、ハルアの右太腿を突き刺していた。
上手く刺すことができた黒猿は喜びの表情で「キーキャッキャッーーーーーー!!」と大声で叫び、残りの黒猿も手を叩き愉しんでいた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ……」
叫び声を上げると黒猿達はさらに歓びの声を上げた。
(コイツら……愉しんでやがる。人語までは喋らないけど……。半端に知能が高い分、質が悪い……)
すると、またしても黒象は兎角同様、黒猿達を切り刻み始め同じ様に肉を貪っていた。
そして、ゆっくりとハルアに近づくと、右前足でハルアの左足を踏み潰し自由を奪った。
言葉にならない程の声を上げると、黒象は面白がる様に背後の木ごと蹴り飛ばし、ハルアの体はさらに後方の木へと体をぶつけた。
度重なるダメージにより、心も精神も追い詰められ意識が遠のいていくのが分かった。
(……ああ。こりゃあダメだな……ははっ。ルーメルに入って、たったの3日目で死ぬなんてな……。ミスティに死ぬ気はないって言ったけど……怒るだろうな。それにアーク、ルールウ、リメルも……。沢山の人……助けたいって思ってたのにな……。それに
諦めの感情を感じながらも──ジッと黒象を見上げ、目線だけでも、遠のく意識の中で抗おうとしていた。
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