第25話 奪い合い
そうと決まると、来た時と同じ様な陣形で道を引き返し始めた。
魔生の警戒を怠らず確実に引き返していたのだが、警戒もしていなかった物がアークの前に降ってきた。
目の前には、黒い大剣が数本地面に突き刺さり、ハルア達の行手を阻んだのだ。
アーク達は魔生ばかり警戒していた為それを忘れていた。奪い合いもあるという事を……。
「よお……。リザーブと雑魚ども……」
バカにした言葉と共に現れたのは、昨日の訓練が終わった帰り際、ハルア達を囲み戦闘を開始しようとした学生──ディゼル・ヴァルハビア。
「何の用だ? ヴァルハビア。俺達はこれからルーメルに帰る所なんだ、要件は手短に言え……」
「要件も何も、潰しに来たんだよ……。お前らを。この依頼の最中は『奪い合い』も許可されてるからなぁ! まとめて後悔させてやるぜーーーー!!」
そう大声で叫ぶと、漆黒の砂鉄剣を分解し、無数の矢に再構築するとハルア達を目掛け降り注がせた。
その矢の雨は、砂埃を上げつつ地面に刺さると、次にはその砂鉄を利用した粉塵爆発を起こした。
だが、それはルールウの防御魔法によって全て塞いだ。
しかし、ハルア達の後方から風魔法の風刃が追撃する様に押し寄せていた。
その風刃を防いだのはアークで、光霊剣を回転させかろうじて防いだ。
「ヴァルハビア! お前は俺達を殺す気なのか!? 他の仲間とも協力しているみたいだが、仲間はあの時俺達を囲んだ奴らか?」
ディゼルは鼻で笑い、冷たい目でアークに答えた。
「あんな奴らが俺の役に立つわけないだろ? 今いるのはルーメルに入る前からの本当の仲間だ。ああ……でも、兎角の囮くらいには役に立ったか。まぁそのくらいしか使い道がなかったからなぁ……」
その淡々とした冷ややかな言葉に全員が驚愕の表情で怒りの声を上げ、ディゼルを見た。
すると、ディゼルの言う本当の仲間が、後方、左右からハルア達を囲むように現れた。
最初に口を開いたのはハルアだった。
「お前!! あの時の奴らを犠牲にして討伐をやったのか!?」
続けてアークも言葉を放った。
「ヴァルハビア!! お前は!! なぜ平然と言えるんだ!!」
「平然じゃないさ。心の底から感謝してるさぁ!! いいペットだったてなァァァァァ!!!!!!!!」
歯を剥き出しにした、悪魔のような笑みでハルア達に言葉を投げつけた。
それを聞いたミスティは顔を押さえ、ルールウは口元に手を当て、リメルは怒りの表情でディゼルを見ていた。
「安心しろ! お前らもすぐに殺してやるから! その後で角を回収して、お前らは『魔生にやられて死んだ』って伝えといてやるよ……。おい! お前らこコイツらを殺すぞ!!」
その言葉を合図に、一斉に動きハルア達に襲いかかった!
左に居た男は、獣幻の能力で2メルトを越える漆黒の狼に変貌し、右の男は武術で、全身強化により3メルトの鋼の筋肉を持つ巨漢になり、後方に居た女の魔法士は風の槍を放ち、攻撃を加えた。
ハルアはミスティとの身体強化により、ミスティを抱えて、獣幻の攻撃を躱しその場を飛び退いた。
ルールウは同じ風魔法を使い応戦し、リメルは
アークはディゼルの大剣に光霊剣で対抗していた。
「どうしたよーーーー!!!!!! 才能保持者がーーーーー!!!!!!!!!!」
そう叫びながら、ディゼルは砂鉄の大剣を10数本出し、次々と攻撃を繰り出していた。
それに負けず、アークも光霊剣で凌ぎきっていた。
これを見たハルアは自分が参戦できない事に悔しく歯を食いしばった。
(くそ! 俺の力じゃこの戦いに加勢も出来ない! それどころか、守られてる……。この獣幻の攻撃も避けることしかできない……。これじゃあ足手纏いじゃないか……)
俺の横では獣幻の相手を気にしながらも、ミスティが──大丈夫? と声を掛けてくれた。
自分が情けなくていけない……
沢山の人達を守りたいって言ってこれかよ……
そんなことを考えいた俺に、ミスティは今度は違う口調で俺に言ってきた。
「ハルア。まずいよ。この騒ぎで複数の……多分、兎角とさっきとは違う大きな魔力の……恐らく上級の魔生が近づいてきてる。敵意が向けられてる……」
「──本当なのか!?」
俺はそう聞き返すと、どうするべきを考えた。
(……アーク達は戦いで気付いてない。でもこのままだと襲撃される……。こんな所でヴァルハビア達と上級魔生を相手にする訳にはいかない。アイツの仲間って言う奴らの能力の使い方から、多分、学生ではない様な気がする……。ルールウもリメルも俺とミスティに攻撃が来ない様に戦ってる様に見えるし……。特に俺には……。ミスティには神聖魔法の回復があるからこの戦いには役に立つ……)
ハルアはそう考えると、覚悟を決め、大きく深呼吸をするとミスティに向けて自分が足手纏いにならないであろう行動を伝えた。
「なぁ。ミスティ……。こっちに向かってきている魔生達と、この狼の奴に俺をターゲットにさせる事は可能か?」
「魔生には必ずかけられるよ……。多分、狼の人にもかけられると思う。今は獣の姿をしてるから──」
ミスティは驚愕の表情を浮かべると、ハルアを見つめて言った。
「囮になるつもりなの!?」
「そうするしかない……。アーク達は俺に気を使って戦ってる。じゃあ、それがなくなったらもう少し戦えるんじゃないか?」
「それだったら私も庇われてる! ハルアだけじゃないよ!」
「……いや、ミスティは回復魔法が使えるだろ? 身体強化しか出来ない俺は本当の足手纏いだ……。だから俺に魔生と狼の気を向けて、俺がここから離れる。ミスティは継続的にあいつらに回復魔法と身体強化を掛けてやってくれ……。そうすれば、能力低下が抑えられてミスティひとりなら守って戦えるはずだから……」
「ダメだよ。そんな事したら……。アークさん達怒るよ……。私だって嫌だ……」
ハルアは説得する様に──俺も死ぬつもりはない。と言い、ミスティに提案した。
「これを凌ぐにはこの方法しか思い浮かばないんだ。それにミスティの身体強化魔法も使えば、コイツらくらいからは逃げることはできると思う」
数秒沈黙すると、ミスティは──本当に大丈夫なんだね? と聞いた。
ハルアは大きく頷くと魔法を頼んだ。
言われた通りミスティは身体強化魔法を行使し、ハルアの強化がなされた。
魔法を受けたハルアは、より遠くへと全速力で離れ始めた。
それと同時に狼の獣幻も後を追う様に走っていった。戦いながら横目で確認したディゼルはこれは面白いと言わんばかりに叫んだ。
「こりゃあおもしれーーーー!! アイツひとりで逃げやがったぞ! 仲間を捨てるなんて俺と同じじゃねーか!! はっはっは!! だが俺の仲間も追いかけたみたいだから助からねーぞォォォォォォ!!」
その声に怒り、最初に上げたのはアークだった。
「お前と一緒にするな!! ハルアにはハルアの事情がある!!」
「そうよ! ハルアはあんたとは違うから!!」
そうリメルが続き、残っているミスティに視線を向けると、目尻に涙を溜めながら頷き、後方に視線を誘導した。
それに気付いたのは風魔法で応戦していて、探索魔法を止めていたルールウであった。再度探索魔法を使用すると、複数の反応があるのが分かった。
「アーク!! リメル!! ハルアが走って行った後を追う様に兎角らしき物と、魔力の大きい上級魔生が移動してる!!」
「なんだと!?」
「……うそ……!?」
その驚きの声に反応する様にルールウは──
「ハルアが囮になってこっちと会わない様にしてるんだわ!!」
その後、2つの魔法を同時に使ったルールウは体力と魔力を大きく消耗していたが、その消耗はすぐに回復する事になった。
これで悟ったルールウは──なんでこんな事……。と小さく言うと、2人の仲間に伝えたのだ。
「アーク、リメル……。私達が全力で戦っても、ミスティさんが回復してくれるよ……。だから、早くこの場を耐え切ってハルアのとこに急ぐよ」
「ハルアの奴……。後で一発は殴ってやる!」
「私も引っ叩いてやる……」
「私も許さないんだから……!」
それぞれの想いを複雑な感情で吐露すると、ミスティの身体強化魔法でさらに能力の上昇した3人は早く終わらせるべく、能力を集中させるのだった。
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