第46話 因縁

 ──デルト。お前に監視魔を付けていて正解だったよ。お前は色々飛び回っているからなぁ。何かを掴んでくれるんじゃないかと思っていたよ。

 

 その声はデルトの頭の中に直接響いてきた。聞き覚えのある声……デルトがあの人と呼ぶ……。


 ──今回は、ラシリアを見つけたから助けてやろう。だが、今回だけだ。次は勝手に死ね。

 

(……お手間を掛けて申し訳ございません。次はこんなヘマを致しません) 


「無いなら殺すわね──空間剥離スイセイション


 その言葉はさっきと同様、デルトの周囲を罅で囲み始めていた……だが──!


 囲みきる寸前! その罅は霧散し、その場に漆黒の渦が開くとデルトはその中に吸い込まれ姿を消した。


「!? 何一体!? どう言う事なの!? 私の魔法が消えた……」

 ラシリアは事態が飲み込めないでいたが、それをさらに驚愕させる事実が発覚する事になる。

 それは何も無い空間に響くように放たれた。


「三千年ぶりか……。探したぞ!!」

「誰!?」

「こう言えば分かるか? リンスレットどの……」


 その言い方には覚えがあった。三千年前ミレナザーダが滅びる元凶を運んで来た魔者。大臣を乗っ取り城に侵入した魔者。そして、自分が消したはずの魔者。


「あなた! あの時の!!」

「名前は分からないだろ? その前にオレを消したからなァ……。オレは忘れたことはなかったがなァ! お前は消したと思ったんだろうが、お前の魔法は不完全だったよ。オレは生きたぞ。お前に復讐するためになァ! この時代でオレはかたとこの世界潰す。全ての生命力を動力とした次の世界へと生まれ変わらせるのだよ! そして今度こそお前を殺してやる。よく覚えていろ……オレの名前を!!」


 ──オレの名前は【ザディギアス・グラバジール】よく覚えておけ!! オレに殺されるまで死ぬなよ。クッはっはははははぁ──


 それを言い終わると、全ての気配がなくなりラシリア達はその場に残されていた。


「ラシリア……あれって……?」

 ハルアは不安を感じながら聞いた。


「……あれは私の汚点の追加ね……。しかも、アイツはさらに強くなってる。しかも、魔薬と魔玉の生成にも関わってそうね……。魔王ガーヴが編み出すきっかけになった可能性もあるわ……」


「それじゃあラシリア達は、アレを相手にする事になるってことなのか?」


「そう言う事になるわね……。レオ!」

 声を掛けると、すでにテントから出てきているレオリスが頷き応えた。


「ああ、分かってる。さっさと人間牧場を見つけ出して、捕らわれている人間を助け、アイツらの力を少しずつ削いでいくんだろ?」

「ええ! そうよ。早速、魔者側あっちに渡るわよ!」

「ちょ──!? 待ってくれよ! まだあんたらに教えてもらいたい事が……。それに着いて行く事を諦めた訳じゃあ──」

 言いかけた言葉はレオリスに遮られた。


「最初に言ったとおりお前は連れていけない。全くの力不足だ!」

「そうよハルア。あなたはダメ。でも、私の封印を解けるくらいになったら一緒にいきましょう」


「何言ってんだよ! 俺がラシリアの封印を解けるはずないだろ!?」


 静かにハルアを見つめ、戦いの中で感じた感覚を思い浮かべると、ラシリアは広角を上げて言った。


「あなたなら出来るかもしれないわよ。いい……あなたは力の使い方を覚えたばかりなの。だから、これからはひたすら経験を積みなさい! そうすればいずれあなたの人を助けたいって言う気持ちに応えてくれるはずよ。頑張りなさい! それと後で教えてあげるって言った【剣】のことだけど、また今度ね。それにそろそろお迎えが来るわよ……。あと一旦お別れにこの剣をあげるわ」


 それを渡された……正確に言えば放り投げられた物は刀身が無い柄だけのものであった。


「何だよこれは?」


「それは私が創った剣よ! もうこの世界にはほとんど残っていない言うなれば古代武器エンシェントウエポンかしらね」


「だけどただの剣の柄にしか見えないんだけど……」

 この疑問に答えてラシリアが言った。


「これはあなたの潜在能力を引き出せるわ。それにあなたの天衣力を流し込みなさい! 刀身が現れるわ! それと同時に、さっきみたいに5枚の花びらの紋様が浮き上がる。時間も変わらないと思うから、5分は絶する力で戦えるはずよ!」


 そう説明したラシリアは、レオリスの近くに行くとハルアに告げていた。


「ほら! もう近くに来てるわよ!」



 そうラシリアの言葉を聞いた後、遠くから自分を呼ぶ少女の声が聞こえてきた。


「ハルアーーーー! どの辺りだぁーー!」

 その聞き覚えのある可愛らしい声──。

「……センスが近くに来てるのか……」

 そちらに目を向けていると、後ろから透き通る声と逞しい声を掛けられた。


「じゃあな、またどこかで会えればいいな」

「ハルア! また会おうね!! じゃあーね!」

 すぐに振り向いたが、2人は笑みを浮かべその場から消えてしまった。

 1人残されたハルアはセンスの到着を早める様に叫んだ。


「おーい!! センスーーーー! こっちだーー!」

 それを聞いた一瞬で、目の前には白銀の長髪ロングヘアーを踊らせながら、満面の笑みでハルアに抱きつくセンスがいた。


「心配したじゃねーかよぉー! まったく無茶すんなよな!」

「あぁ、悪かったよ……。で、来てくれてありがとうな!」

 そう言われたセンスは顔を赤くし照れながら、さらに笑みを深くし──


「あったり前だろ! オレの大事な友達なんだからな!」


 その笑みにつられて、ハルアも笑みで返し、2人はスイールにあるルーメルへと帰還したのであった。

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