第47話 帰還

 俺はセンスと【ルーメル】に戻ってきた。

 ようやくと言うべきか、辿り着いた。


 アーク達は、俺とセンスが到着する2日前にはルーメルに着いていたらしい。そして、俺の顔を見るや否や怒りの感情を露わにし俺は後方に飛ばされた。


 要するに、殴られた。

 アークは胸ぐらを掴み、怒りながら顔を近づけてきた。

 だけど、その顔の表情は怒りではなくなんとも言えない表情を見せていた。

 そして次に出てきた言葉でその表情がなんなのか理解した。


「──心配させんじゃねーよ! なんで1人で敵を引きつけてんだよ! いい加減にしろよ! 幼馴染で友人だろーが!」


「ああ、悪かったよ。でも、あの状況じゃあ……」


「『あの状況』て話じゃねーんだよ! 1人で勝手に考えて行動をして決めるな! 言えよ! それで皆んなで対処すればなんとか出来るかも知れねーだろーが!」 


 心配と怒りを伝えてくるアークを制するようにセンスが割って入った。


「まぁリザーブよ。無事だったんだからそれで許してやれよ!」

「ラビットート教官は黙って下さい!」

「お、おう……」


 センスはアークの勢いに気圧され黙る。

 そこにさらにルールウ、リメルそしてミスティが現れた。


 リメルはアークと同じようにズカズカと俺に近づくと右の頬にビンタを飛ばしてきた。


「次にあんなことしたらもっとひどいから!」

 その目には明確に怒りが見える。


 そして今度はルールウ。

 反対側の頬にビンタをくらった。


「あんなまねしないで!」

 目尻に涙が滲んでいる。


 続けてミスティ。

 ぶたれるのを覚悟した。だけど、俺の両腕を掴むとその頭を俺の胸へと押し当て────


「──ごめん、ね。やっぱり止めるべきだったよ。あれはやっぱり無謀すぎる……。私ね……探索魔法が使えるでしょ……? それでね、ハルアの気配がね……ほとんど消えてる時があったこと分かってね……。ひょっとしたらもう……なんて思ったの………。だからすごく後悔、して……」


 ミスティは消え入りそうな声で言っている。

 俺も声を抑えながら返した。


「──悪かった……。ミスティの言う通り、俺は一度死にそうになったんだよ……。そこにレオリスとラシリアが来て助けてくれたんだよ………多分助けてもらってなければ死んでたよ……ごめん……」


「次は一人で行かせないから……!」


 顔を上げそう言うミスティの目には強い意志の様なものが宿り、真っ直ぐに俺を見ていた。

 すると後方から女性の声が聞こえてきた。



「──レオリス? ラシリア? 少年。君はさっき言った二人と会ったのか?」


 その声に気付き振り向くと、俺より先にセンスが声を上げる。


「姉貴ー! 命都サイラムから戻ってきたのか!」

 

 センスを見ると満面の笑みで嬉しそうにしている。

 その女性も笑顔で近づくと、センスの頭を撫でながら言う。


「ああ。今帰ったよ、センス。それにこのルーメルの学生ギルドの依頼でおかしなことが起こった事と、その遠征先で奇妙な魔生が現れたこと。全て聞いたよ。それで、その当事者が君だね? それとさっきののことだが──」


 そう言おうとしたが、センスが腰に手を当て《姉貴》と言う女性に注意していた。


「姉貴! ダメだぜ! 最初に自己紹介しねーと! 今まで、本部機関校ライサの緊急召集でサイラムに行ってたんだからさ! ハルアたちは新人なんだぜ!」


 これに気付き女性は「──そうだったな」と言い続けた。


「すまないな。自己紹介が遅れた。私はセンスの姉で、この抗魔技専門機関こうまぎせんもんきかんイーリアスイール支部【ルーメル】の機関長ペリシア・ラビットートと言う者だよ」


 この自己紹介に、俺はレオリスとラシリアの言っていたことを思い出し、口に出していた。


「──じゃああなたがサイラムにある騎士団の隊長の……ラビットート隊長ですか?」


 俺のつい口に出してしまった言葉にラビットートさんは「う〜ん……」言いながら答えてくれた。


「それはそうなんだが……そのラビットートと呼ぶのはよしてくれないか? 皆んなペリシアと呼ぶから君もそう読んでくれないか? それと、私が隊長と言うことはレオリス様とラシリア様からの聞いたのかい?」


 穏やかな口調でそう問われると返事をする。


「はい。レオリスとラシリアから聞きました。あの二人がペリシアさんがとんでもなく強いって言ってました……」

 

 俺の返事にペリシアさんは右手を腰に当て、ため息混じりに言ってきた。


「はぁ……。あのお二人から言われるのは嬉しいが、あの方達に比べると恥ずかしくなる……それにしても、あのお二人を呼び捨てとは……」


 確かにペリシアさんは《様》を付けている。

 あの二人が強いことは分かるが、そこまでの人物かは分からない。


 なんせ、俺は素っ裸にされたし……。

 

「──あの……ペリシアさん。レオリスとラシリアはそんなに有名なのですか?」


 その問いに答えてくれた。

「じゃあ遠征の話を聞く前に、お二人のことを少し話そうか」


 そして、俺が本人達に聞けなかった話をしてくれる事になった。


 

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