第43話 ラシリア

 ハルアの力に呼応して、透き通る紅に姿を変えたそれは対峙している魔生を真っ二つに切り上げていた。


 その波動は後方で高みの見物をしていたルジールの左腕を同時に切り落としていた。


 直撃をくらった魔生は一瞬で灰になり消滅し、その余波を受けたルジールは激痛に耐えていた。


「──がぁぁぁァァァァ!? ウ……でがァ……」

 その場でうずくまり、大量の鮮血を流しながらハルアにその視線を向け、堰を切ったようかのように捲し立てていた。


「クソガキがァァァァァァァアアアアアア!!!! この俺のォ! よくもォォオオオ! 殺してやる! コロシテヤル!! 殺してヤルからなァァァァ!!」

 叫び声を上げたルジールは、残った腕を空間に入れ込むと一振りの黒剣を取り出した。そして──


「魔封剣デルトォォォォォ!! お前の中の全てを解放しろォォォ!!!!!!!」


 それに呼応するように、黒い渦が出現すると、その闇から数十体の猛級人造魔生アーシャルがその姿を表し、ハルアを取り囲んでいた。



「ガキィ!! これでその剣ごとお前達を葬ってやるよォォォォォ!!」

 


 ハルアは戦うき満々でラシエルを構えていた。

 だが、ため息とともにラシリアの声が聞こえてきた。


〈はぁ〜……。こうなっちゃうのね……。やっぱりレオにやってもらうべきだったわ……〉


〈何言ってんだよ! 今だったらアイツらを相手できるような気がする! だから俺がやる!〉


〈あなた本当にバカよね……。1体倒したからってなに言ってんのよ! あなたは今、興奮状態にあるからそう思うのよ! その上使ってるんだからね! 冷静に考えなさい。これは戦う上で重要なことよ! 戦況を見誤ったら死ぬわよ!〉

 

 そう言われ、──だけど……。と言いかけたが、ラシリアが先に言葉を発した。


〈『だけど』もなにもないわよ! 無理なものは無理なの! 今のあなたでも数体倒せればいいくらいよ。それにあなたのその手首の花が減ってきてるってことは、この力を使っていられる時間だと思うわ。時間の経過から言って1枚1分……。残りは2枚、つまり2分てこと! それでこの数をどう倒そうと!〉


〈じゃあ、どうすればいいんだよ。レオリスを起こすのか?〉


 頭の中でため息をつくラシリアは、〈──私がやるに決まってるじゃない!〉と告げた。


〈そ、そりゃあ確かに人造魔生アーシャルを使うアイツに対して『たかだが中級に毛の生えた程度』とか言ってたけど、それにプラスして猛級がいるんだぞ! レオリスに頼んだ方が……〉


〈でも、そのコイツらを1人で相手するとか言ってたのはどこの誰だっけ?〉


〈……悪かったよ。ラシリアの言う通り興奮状態だったからだよな……。だけど、コイツの相手はやっぱり最強っていってたレオリスに……〉


 そこまで言葉を出すと、ラシエルが光り始め元のラシリアの姿へと戻っていた。そして、続けて口を開いた。


「確かにレオは最強よ。間違いなくね……。でもそれは、ってことだけどね」


 ラシリアはゆっくりとハルアの前に出ると魔者ルジールに質問をしていた。


「ねぇ? この人造魔生アーシャルを生む魔薬や魔玉は、どこで製造されてるか教えてくれる?」

 この質問に激怒したのはルジールだった。



「貴様! バカにしているのか! そんなことお前如きに言う訳ないだろ!」


「まぁ、そうよねぇ……。ただ聞いてみただけよ。じゃあもう用がないから消そうと思うんだけど言い残した言葉はない?」


 その言葉にさらに激怒したルジールは、数十体の人造魔生アーシャルに2人を殺すように命じたのだ。


 だが────……


 それは一瞬だった。ハルアとラシリアに向かわせていた人造魔生アーシャルは、ラシリアが指を動かした瞬間に消滅し、2人の元へと辿り着くことはなかった。


(なッ! なんだ!? 今のはなにが起こった? あの女が前に出て、指を動かしたような気がしたが……それだけだ……。なのになぜ全て消えている!?)


「そこまで驚愕されると女の子としては傷つくわ……私はただだけなんだから」


(俺も全然分からなかった……。ラシリアが手を前に出して人差し指を横に滑らせただけで消滅した……)


 驚愕し、自分の中から出てくるとは思はなかった恐怖を感じながらもルジールは声を出した。


「何をなぞったんだ……。一体何をした!?」

 ラシリアは口元を緩めると、不適な笑みを浮かべひと言──……


 ──空間をなぞっただけよ……。


 と言った。






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