第44話 魔封剣デルト
(『──なぞっただけ……』俺も全然分からなかった……。ラシリアが手を前に出して人差し指を横に滑らせただけで消滅した……)
驚愕し、自分の中から出てくるとは思はなかった恐怖を感じながらもルジールは声を出した。
「何をなぞったんだ……。一体何をした!?」
ラシリアは口元を緩めると、不適な笑みで答えていた。
「空間をなぞったのよ。そこに神力を流し込み、その内側から破壊した……。それだけよ。外からは身を守れても、
この答えに、ルジールはようやく気付いたのだ。猛級の
(コイツはまずいぞ。俺の力では勝てる気がしない。かと言って逃す気はないだろう……。どうする? どうする!??)
──力を貸してやろうか?
ルジールの頭の中に、その言葉はどこからともなく聞こえてきた。響くように……。
〈ルジール。お前は僕をあの人から預けられただろ?〉
その声に覚えはなかった。だが、預けてもらった物はある……。今自分が持っているこの【魔封剣デルト】だ。
〈お前はデルトなのか……?〉
〈それ以外何がある? 今のお前に力を貸す奴は僕くらいだろ? 何を驚いている? 剣が言葉を発するのが珍しいか? だがお前はあの女が剣になる所も見ているだろ? それが僕に起こっていたとしても、変ではないだろうに〉
〈では、力を貸せ! アイツらをブッ殺す!〉
〈いいねー……。じゃあ思う存分戦ってきなよ。お前だけでな〉
そう告げた剣は、ルジールに黒い靄を流し込んでいた。そのスピードは速く、瞬時に体内へと入り込んでいった。
「があァァァァァァァァァァァァ!! なんだ!? ナンダ! いっだァイナンダァァァ!!」
その変化の途中には剣は消えていた。
だが、その光景を気配を消し、木の上から見物している人影があった。黒の外套を羽織り横に伸びた長い耳と褐色の肌を持つ、少年の姿をしたダークエルフ【デルト・
「さてさて、どんな風に変わるのか楽しみだよ……。魔薬の濃度を10倍ほどにしたこれで、この
みるみる姿を変化させる魔者を見たラシリアはすぐに察知したのだ。この場で、この魔者を実験にしている何かがいることに。
ハルアに警戒を促すと、ラシリアは周囲に探索魔法を発動した。だが、その姿を捉えられないでいた。
(近くにいるはずだけど掛からない……。相当な隠蔽魔法ね。でも、そっちがその気ならやってやろうじゃない! まずは、目の前のコイツね!)
その目線の先には、変化を遂げたルジール……いや元ルジールが存在していた。
魔者の時の面影はなく、その体は漆黒の毛に覆われた体長5メルト程の大きさで、二足歩行の何かになっていた。
あえて動物で言うなら、ゴリラと狼の混合の様な姿で、毛の間から見えるギラギラした大きな2つの目がハルアとラシリアを捉えていた。
「ハルアは下がってて! 私がコイツと遊ぶわ!」
「遊ぶって……」
「いいから下がりなさい!!」
「分かったよ!」
そう言うと、ハルアは後方10メルト程下がりテント付近まで来ていた。すると中からレオリスが小声で話しかけてきた。
「ハルア、あの変異体はラシリアに任せろ……。で、お前はこのテントの近くにいろ。俺が守ってやるから」
「守るって言っても、あの化け物はラシリアが相手するんだからこっち側には影響はないだろ?」
「そうじゃないさ。あと1人高みの見物をしている奴がいる……。俺もまだ居場所は把握してないが、アイツのいきなりの変異は明らかに不自然だ。それに、アイツが持っていた剣がどこにも無い。これはラシリアと似たような方法で剣になっていたと考えた方がいいだろ。だから、ここから離れるな」
「……ああ、分かったよ」
その言葉通り、テントの近くでラシリアの戦いを見ることになった。
変異体はラシリアの隙を窺うべく間合いを取りながらゆっくりと移動していた。
だが、ラシリアは構えるどころか隙だらけといった感じで眺めているだけであった。それを察した変異体は何の予兆も音もなくラシリアに突進してきていた!
「まさか何の予測もさせないように動くなんて、面白いわね。でも、予測が無理なら動いた瞬間に捉えればいいだけよ!」
その時には、ラシリアは突進してきた変異体の頭に逆さの体勢で手を乗せ、綺麗な金髪を踊らせながらその背中に神力を纏った蹴りをくらわせていた!
「こんな風にね!」
その蹴りは途轍もない衝撃で変異体を地面に叩き伏せていた。その瞬間には大きなクレーターができ周りの木々をも薙ぎ倒していた。
その反動を利用して、ゆっくりと着地したラシリアに予想もしていなかったことが起こった。
着地したその地面から黒の靄の手が伸び、その足を掴み、空中へと投げ飛ばされていのだ。
「──!? まさかあの靄まで操れるなんて油断したわ!! でも次はない! それにこんなのに掴まれたなんて私の汚点の追加だわ! ちょっと本気出そうかしら……」
するとラシリアは神聖魔法を編み始めると、変異体の最後となる言葉を言ったのだった。
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