第5話 能力覚醒①

 それぞれの教室に分かれた俺たちに、教官が口を開いた。


「え〜、これから1人ずつ前に出て来てもらい、能力覚醒を行なってもらう……。〈召喚〉には2種類あって、〈悠召喚ユウサモン〉と〈纏召喚テンサモン〉に分かれる……」

 

 半円状の教室の見下ろされる位置で、ゼシアス教官は淡々と説明を続けていた。


 額からはいまだに血が出ている状態で……。

 一番激しく叩きつけられたらしく止まっていない。


 女性教官には手加減していたのだろう、ここまでではなかった。

 きっと、ゼシアス教官が最後のトドメを言ったことで、力が倍増したのだと思う。周りの学生も気づいてはいるみたいだけど、教官の話を大人しく聞いていた。

 

「……先ず、悠召喚から説明するとだな。これは、いわゆる普通召喚と言われるもので、〈無召力ムショウリョク〉が高ければ悠召喚となる。魔法でいう魔力の様な物だ。召喚した、意思を持つ植物、生物などと共に戦うものだ。だから、召喚した側とされた側が互いに、信頼関係を築かないと上手く戦えないから、悠召喚に限らず、纏召喚も同様に覚醒したら上手くやる様にな。だが、初見から相性が合わなかったり、プライドが高く、大人しく従ってくれないのも居るから、そういう時は、戦って力を示す必要があるんだ。そこから、合わないなりに努力して、互いに歩み寄っていき、共闘しないといけないんだよ。それに召喚だけに関わらずなんだが、能力覚醒は一生に一回にしか出来ない。その能力を覚醒した以上、向き合っていかないといけないという事だ。やり直しは出来ないからな!」

 

 そう話す教官の言葉に、隣に座るアークも他の皆んなも真剣に耳を傾けていた。


 この一回の召喚でこれからの人生も左右される。

 耳は傾けつつも、隣で平然と聞いているアークに小声で話しかけた。

 

「なぁ、結局のところ覚醒してみないと分からないよな? 俺もどうなるか分からなけど、アークもちょっとは不安を感じるのか?」


「当然だろ! 不安はあるけど、今考えても仕方ないだろ? なる様になるし、出来る様にするしかないしな!」


 そんな事をさらっと言うアークに(やっぱり、なんか違うよな……俺と……)などと思いながら、話しの続きを聞くことした

 

「で、後一つの纏召喚というものは、〈天衣力テンイリョク〉の高さで決まる。これもさっき同様、魔力の様な物だが、さっきとは種類が異なるからな。これは、植物はもちろん、霊獣と言ったような、様々な生物と物質を〈纏化テンカ〉する事で、自らに纏い武器として戦うというものだ。まぁ、纏化と言うのは、天衣力によって、神霊に能力昇華する事だ。なので、普通の動物や人間の様に、などは、纏うことが出来ない。因みに俺は纏召喚で、黒鎖コクサといわれる漆黒の鎖を纏化している。長さは天衣力の大きさで決まる」

 

 そう話す教官の周囲を、一つひとつが、人の拳台はあるであろう太い鎖が、防御をする様に連なり、取り巻いていた。


 教官が手を動かすと、それに従い、うねうねと大蛇の様な動きを見せている。

 ひと目では長さは分からないが、自由自在なところを見ると、長さも変えられそうだ。

 で、その疑問に答えるかの様に、教官は言葉を続けた。

 

「この様に、この鎖は俺の意のままに操ることが出来るわけだ。まぁ、長さは限界まで出したわけじゃないが千メルトは出せる。それプラス、俺の天衣力の残りを考えても、倍以上はいけると思うぞ。ただ、長さだけならそうといえるが、これに硬度を付加したり、何らかの形に変化させれば、その分、天衣力は消費するから、一概にこうとは言えないんだがな」

 

 そう言うと、教官の周囲を取り巻いていた鎖が消滅した。


 つまり、無召力と天衣力の大きさで、その能力の限界が決まるという単純な仕組みな訳だ。

 まぁ何事も分かり易い方がいいと思うよ。


 俺がどっちになるか分からないけど、残りの力を考えた、使い方をしないといけないという事だ。

 

「とまぁ、こういう感じだから、早速、覚醒を行う事にするぞ! 一人ずつ前に出てきてもらい、この陣の中で力を呼び出すイメージ、あるいは、それが難しければ、光の湖から何かを引き上げる釣り感覚で集中してみてくれ! そうすると、この教室の空間に色が付く。悠召喚であれば〈青〉、纏召喚であれば〈赤〉く染る。そうすると、召喚者サモナーの周囲を、その色の風が包み込むからな。まぁ、慌てず落ち着いて受け入れろ! それでは、一番左端の先頭の者を1番とし、その後ろが2番という様になる。で、一番右端の先頭を20番とするから、順番に出て来い」

 

 教官の言葉に促され、1番と決められた女子学生が呼ばれ、返事をすると、直径2メルト程ある円の陣に歩みを進めた。


 円の中央には、三角形が施されてあり、その中心に女子学生は立っていた。

 俺は20番と決められた席にいたので、最後の最後だ。

 

 そうこうしていると、教室中が青色に包まれた。


 そして風がさった後、女子学生の前には体長3メルトはあろうかという黒猫が伸びをしていた──なんかもう猫かどうかも怪しい。


 その次に呼ばれたのは、190はあるのでは? という身長で、俺達よりも年上だと思われる、体格のいい男子学生だった。


 その学生が覚醒を行うと、教室は赤に染まり纏召喚だと分かった。

 能力は砂鉄らしいが、小さく舌打ちした音が聞こえたような……。


(まぁ気にいらない能力はあるよな……)

とは思いつつも、自分の順番を待つことにした。


 その後も、赤や青と教室の色が変化しながら、漸く俺の一つ前まで来て教官がその人物の名前を呼んだ。


「19番のアーク・リザーブ前に来い!」


 そう呼ばれると、アークには珍しく、緊張した面持ちで俺の横を通り過ぎ、陣の場所まで下りていき、さっそく覚醒を開始した。

 

 すると、周囲の色がみるみるうちに赤く染り始め、アークは今までの学生達よりも濃い赤の風に包まれ、あっという間に姿が見えなくなっていった。


 俺を含め教官や他の学生達もこれまでとは違う雰囲気に視線を集中させていた。


 そして、風が拡散するとアークの身長とあまり変わらない、180センチ程の両刃の長剣3本が扇状に浮いていた。

 その剣は微かに金色の光を放ち、なんとも神秘的な不思議な感覚を覚えた。


 その光景に目を奪われていると、教官が驚きの声を上げた。

 

「これは凄いな……。【光霊剣コウレイケン】じゃないか」


 その聞き慣れない言葉に、アークも俺も学生達も疑問の声を上げた。すると、それに応えて教官は言葉を続けた。

 

「光霊剣というのは、神天界で鍛えられた霊剣で、使用者の能力値でその数を変化させる特殊な剣だ。だから、今は3本でも能力を伸ばしていけば、それに比例してどんどん数が増えていくんだよ。その上、1本1本が強力な力を持っているから、増えれば増えるほど攻撃能力も倍々と増していくんだ。それに今まで、最初から3本を顕現させる者は居なかったからな! リザーブ、お前は才能があるぞ」

 

 そう興奮する様に教官は声を出した。

 周囲の学生からも──おおっ! などと、感嘆の声を出し、アーク本人も驚いた様子で──へぇーと声を漏らしていた。


 そして、纏召喚を解除すると、ゆっくりと俺の後方にある自分の席へと戻って来た。


「やっぱりすげーな……アーク。教官があそこまで興奮するなんてよっぽどの能力なんだろうな……」


 そう言う俺に、人差し指で軽く頬を掻きながら返事を返してきた。


「たまたま俺と相性が良かったのが、珍しい能力だっただけだと思うぞ。まぁ、いい能力で良かったとは思うけどな。それに、ハルアだって、これからなんだから何が起こるか分からないぞ? もっと珍しい能力を得るかもしれないし」


「それはまぁやってみないと分からない部分はあるけど、いい能力な事を祈るよ……。魔者から救える強力な力であれば尚いいけどな」


「お前は昔から、魔者達から救える人は救いたいって言ってたからな。やっぱり、両親が殺されたって事も理由の一つではあるんだろ?」


「確かにな……。俺みたいな思いをする人間を増やしたくないから救える人は救いたいよ。大層な事を言ってるけど、そうありたいと思ってる」

 

 そう話をしていると、20番の俺が呼ばれた。


 話に夢中になっていたから、ひょっとしたら何度か呼ばれたかも知れないが、適性診断時の様に、怒ってはいないようだからよしとしよう。


 俺はゆっくりと陣へと歩いていった。そして中心に着くと、教官の言うイメージを思い浮かべた。


 ──目を閉じて集中する。



 光を放つ湖……湖面を撫でる緩やかな風を──


 ──思い描く……風の糸で引き上げる

 

 相性に沿った力を──



 そうイメージを膨らませた時、周囲に風が巻き起こり始めた。それと同時に目を開き、その光景を脳が理解した。


 教室の空間は赤に染り、同じ色の風が取り囲んでいた。理解したのは、俺が纏召喚が確定した事だった。

 

 たが一つ違和感を覚えていた。


 アークもだったが、その他の学生が纏召喚の覚醒が起こった時、色の濃い差はあったが、赤は赤一色で違う色は混ざっていなかった。


 だけど、俺の場合は何か違う。

 

 何故なら、その赤に混じって金色が含まれていた。一瞬アークと似た様な能力かとも思ったが、アークの場合は風が拡散してからの金色の剣だった。


 そう考えると、それとは違い赤そのものに金色が混じっている……。


 違和感を覚えながらも、風が拡散するのを待っていた。

 

 そして、風が拡散する瞬間、俺の顔に水滴の様な雫が降ってきた。それを何かすぐには理解出来なかったが、その答えが目の前に現れた。

 

 ウェーブ掛かった肩まで掛かる栗色の髪を濡らし、今まさにバスタオルで体を拭こうとしている全裸の少女がそこには居た。


 俺と目が合い、互いに状況を把握しようと、脳がもうスピードで回転していたと思う。


 ほんの数秒だったんだろうが、俺からすればかなり長く感じた。


 そして、次の瞬間、俺と少女の口から把握しきれなかった言葉が漏れた。

 

「……は!?」


「え……!?」


 

「「………………」」


 

 沈黙が数秒続いた……


 その直後──


「ぬああああああぁぁぁぁぁーーーー!?」


「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁーーーー!!」

 

 凄まじい叫び声が教室中に響き渡った……。


 


 

 

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