第6話 能力覚醒②

 

 俺も声を上げたが、それ以上に少女の声は悲痛さを帯び、凄まじさを超えて、凄惨な声に聞こえた。


 少女は座り込み即座にバスタオルを体に纏った。

 上目遣いで、目には涙を溜め、周囲を確認した後、正面の俺を見て言った。

 

「ど、どどどどこですかここは!? 何なんですかぁあなた方は!? 何で私はここに居るんですか!?」


「……えっと、それは……」


 と言いかけたはいいが、それ以上の言葉が出てこない。


 『召喚したら君が出た』とありのままを言うのか、どう説明したらいいのか、これはどういう事か……俺自身も頭が追いつかない。


 困った挙句「お風呂上がりだった?」と全く意味不明なことを言ってしまい、カオス度が高まった。

 

「あなたは変態ですかぁぁぁぁぁ!? この状況を説明して下さいよぉ!? 私はシャワーを終えたばかりですよ!!」


 などと、説明を求めつつも、シャワーを浴びていたことを言う少女──どうしよう、もう収拾がつかないよ。と思った時、漸く教官が口を開いて状況を説明してくれた──もっと早くお願いします。



 ◇🔹◇🔹◇


 

「つまり君は……神様? って事でいいのかな?」


 教官はその少女にそう話しかけた。

 あれから移動をし、バスタオルだけを巻いた少女と一緒に自分の席に戻った俺は、アーク以外の学生達から、熱い視線とひそひそを受けていた。


「……見習いです……」


「え〜……見習いというのは何の?」


 恐らく教官は理解しているのだと思うが、【それ】に見習いというものがあるのかを確認したいのだろうと思う。


「神天界の神様見習いです……」


 俯き、涙を溜めながらそう答える少女に、俺はその外見から咄嗟に思い浮かんだ言葉を口にしていた。


「……なんかあまり、俺と年齢が変わらない様に見えるけど、す、すげーな……神様になるなんて……」


「そんなに簡単な事じゃないもん……。あまり才能ないもん……」


 少女は、ますます落ち込み、今にも溢れそうなほどに涙を溜めては、必死に耐えていた──なんか、状況が悪くなっている様な気がする。


「で、でも、その若そうな年齢で見習いなんだからすげーには変わりないよ……」


「……あまり見習いなんてないんだもん……。それに、神様わたしたちにはあまり年齢なんて関係ないし……。でも、今は14歳だよ……」


 と、落ち込みながらも律儀に答えてくれる少女の人格の良さが窺える。

 そのやり取りを聞いていた教官が、1つの疑問を口にする。

 

「なんていうか……女神きみ(見習い)は肉体を持ってるよね……?」


「当たり前じゃないですか……。何だと思ってるんですか……? 幽霊に見えるんですか?」


 この状態で喚びだされた上、肉体があるのかどうかを質問され、少し怒り気味に返事をしているけど、もうそろそろ、溜めきれなくなった雫が溢れ始めている


 ──ん? ちょっと待ってくれ……


 確かゼシアス教官の話じゃあ、纏召喚は肉体があると纏えないんじゃなかったっけ? 


 いやいや。待て待て待て……ん? んん!? 


 教官と目が合った

 すぐ逸らされた……

 そして、教官の口から出た言葉は……


「お前はすごいぞ! なんたって一生に一回の召喚で女神様を召喚したんだから。それにキミもその若さで女神してるんだから……なっ!」


 目を逸らしたな! この教官! と思いつつも、一生に一回というその事実を言い聞かせる様に、声に出し復唱した。


「……やっぱり一生に一回なんだよな……」

 女神見習さんは言い直す様に続けて言った。


「……ううっ……まだ女神じゃないもん……見習いになったばかりだもん……ぐすっ……」

 

「まぁ、応援してるよ……」

 

 そして、2時間は経過した……。

 

「まぁこれで全員、能力覚醒が終わった訳だ! で、早速だがこれより能力測定をするぞ! 場所を移して自分の能力がどのくらいか測って把握して、理解してもらう!」


「あの……ゼシアス教官……。俺、纏えないんじゃないんですか?」


 俺の言葉に教官は、ビクッとしたが、平静を装いながら返事をした。

 

「応援してるぞ!」

 

 またその言葉か……。

 教官自身もどう対処して良いか分からないらしい。どうやら俺は、アークとは真逆の意味で前例が無いらしい。

 

「どうしよう……。俺、やっていけるのか……」

 

 そう独り言を呟きながら、自分の名前も言わず、少女の名前も聞いてない事を、今更ながら思い出した。そして、隣で大粒の涙を流す少女に先に名前を告げ、尋ねた。


「あの、名前を聞いていいかな?」


「……私は、ミスティ・フォルトゥナです……」


「じゃあ、ミスティさんって呼んでいいかな? 俺もハルアと呼んでもらっていいからさ」


「……ミスティでいいです……。ところで、私はいつになったら服を着れるんですか……?」


 ミスティは涙と怒りの訳のわからない感情に、体を震わせながら尋ね返してきた──ですよね……半裸だからね。


「ごめん……。能力測定前に、教官にすぐ用意してもらうから……。もう少し待って下さい」


 小さくコクリと頷くと、黙ってしまった。

 ミスティはもちろんだけど──俺も辛い。


 これが俺の現実なのか……。


 もう何度目かの心の声が俺の中で繰り返された。


 

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