第36話 向かってくる者

 ──ハルアは訳のわからないことを言われていた。


「だからぁ! 服脱ぎなさいよ!」


「え? あ……えッ?」


「素っ裸! フルオープン!!」


「はぁぁぁぁ!? なんで!? 何で脱ぐ必要があんだよ!?」


 声を上げつつレオリスを見ると眉間を押さえて頭を振りながらハルアを見ていた。



(──え!? 俺裸になるの!?)



 このハルアの意図を察したのか、小さく頷くと、もう一度ラシリアに視線を戻した。


(満面の笑み。なんか目がキラキラしてる……ああ……俺脱ぐのかぁ……)



 ──結果、脱いでいた……。




「……思ってたより小さいわね……」


「どこ見て言ったぁ!?」


「変な誤解しないでよね! 私が言ったのは思ってたより、筋肉のつき方が小さいって言ったのよ!! でもまぁ……ふふっ」


「今度こそ違うとこ見て言ったよなぁ!?」


「気のせいよ」


 レオリスはハルアを見ながら、こうなるよな……。という顔でもう一度ため息を吐き──


「ラシリアぁ……。さっさと終わらせろよ」

 そう言うと、寝転び目を瞑った。


 施術を開始して、15分程経ってようやく終わった。服を脱がした理由は、直接肌に触れる事で両方の力の流れを正確に感じ取るためだとハルアに告げていた。


 前面と背後、手やら足に人差し指と中指を立てて、ゆっくりと全身をなぞり部位ごとに何かを流し込んでいた。

 ハルアそれを言葉通り、全身で感じていた。


 それを終えると、安定させるために10分を胡座をかいてじっとしていた。

 ラシリアは背中に手を当て安定を促し、施術の全てが終わった。

 その頃にレオリスは欠伸をしながら起き上がっていた。


「なんかあまり変わってない様な気がするけど……。本当に変わってるのか?」


「当然でしょ!! できない事はしないわよ! まぁすぐには実感はわかないだろうけどね。天衣力を使っていけば分かるわよ」


 さらに質問をしようとすると、ラシリアが何かを感じとったのか、ハルアの横に立っていた。目つきは鋭さを増してレオリスに向かい静かに言った。


「レオ。こっちに2人、何か向かってるわね。1人は……人間で女の子ね。あともう1人は……恐らく人造魔生アーシャルを連れて来た魔者ね……」


「だろうな。人間の方は……。似た様な感じを持った姉ちゃんに会ったことあるな。確か、ペリシア・ラビットートて言ったかなぁ……」


「言われてみればそうね。ペリシアって確かサイラムの騎士団の何番隊か忘れたけど、隊長だったわよねぇ」


 2人の会話を聞いていたハルアは、ある人物の顔を思い浮かべていた。

 

「──その似た様な感じは多分、ルーメルの教官のセンスだと思うよ。姉貴がいる言ってたから(なぜセンスが来てくれてるのか分からないけど……)」



「なるほどなぁ。ペリシアの妹ならこの結構な力の波動はわかるな……。あの姉ちゃんもかなりつえーからなぁ」


「ま、私の方が強いけどねぇ〜」


「次元が違うんだよ! お前は!」



「あのさ、センスと魔者が近づいて来てるって言ってたけど、センスが追いかけられてるのか?」


「センスちゃん……? いや、違うわ。そのセンスちゃんが追いかけてるのよ」


 何でセンスが……? という疑問が浮かんだのだろう、ハルアはどういうことか聞いていた。

 これにレオリスが口を開いた。


「まぁ、俺もハッキリとは言えんが、ハルア。お前と関係あるんじゃないか?」


 そう言われれば思い当たることは一つしかなかった。


「ああ……まぁ。同期の奴に囲まれたよ。仲間つきでさ……。1人は武術マールツで、1人は魔法マジック、あと1人は獣幻ビスジョンの奴らだったよ……」


 話し終わると同時に、ラシリアが──それね! と言うと言葉を続けた。


「──最後の獣幻の奴ね。今向かってるのは……」


「何でそこまで分かるんだよ?」


「まぁ、私とかレオは姿も見えてるからねぇ」


「……そんなに精度が高いのかよ……」


 ひとり呆気に取られていると、ラシリアはまたしても何かを感じ取っている様だった。


「──あぁ……。コイツ人造魔生アーシャルを喚んだわね……」


「そうみたいだなぁ……。まぁでも、センスって言ったけ? この娘の力なら大丈夫だろ……」


「そうねぇ。苦戦はするかもだけど、やられる事はないでしょ! 危なくなったら助ければいいしね」


 この人達は……何なんだと? と思いつつ、その言葉を何故か信じてみようとハルアは思えた。


 レオリスは、ハルアの考えとは別の事を考えていたらしく魔者について喋っていた。


「で、今こっちに向かっている魔者どうするよ?」


「どうするって……。決まってるじゃない! 大人しくさせて、こっちにどうやって猛級を連れて来たのか拷問するわ!」


「まぁ、大人しくさせるのはいいが、喋るかねぇ……?」


「喋らなくても殺すことには違いないけどねぇ〜。の魔者よ相手にならないわ」


 淡々と言う2人にハルアは言葉を失っていた。

 そして心の中で思っていた。


(──なんか本当に次元が違うよな……)

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