第37話 センスと魔者

(くそガキ! いつまで追ってきやがる! それどころじゃねェーんだよ!! あの馬鹿げた力の正体を掴まねェーと、計画が台無しになりかねん……)



 魔者は後ろから猛スピードで追いつこうとするセンスを引き離そうとさらにスピードを上げていた。



「あの魔者! さらにペース上げやがったな! それにしても、とんでもないスピードだぞ……。オレが全力で走ってるのに追いつかねーよ。絶対に足を止めてやるからな!」



 センスはその言葉を実行に移す様にある事を考えていた。

 自分の獣幻の適性能力と、あと1つの副適性で奴を攻撃する! と言うことを。


 あまり得意じゃないが、この距離を苦にしない魔法。



 ──やるか!!



「……瞬槍シュピア──」



 そう静かに言った瞬間! 

 右手に集まった光魔法はセンスの身長を優に超える槍の姿になり、前方を走る魔者目掛けて放たれていた!

 

 それは、センスの思惑通り一瞬で魔者に迫り、気配を感じた魔者は素早く横に躱していた。

 槍はその軌道を急激に変え、地面に突き刺さると、岩や土を巻き上げて空中でその足を止めさせた。



「くそガキーーーー!!」



 怒鳴り声を上げるが、辺りは視界が悪くセンスの姿を捉えられないでいた。


 だが、センスは違っていた……。


 姿を熊獣ユウジュウに変え、獣が持ち得る鋭い嗅覚で確実に獲物を捉えていた! 


 ──次の瞬間には!


「やっと追いついたぞーー!!」



 それが聞こえた頃には、魔者は顔面に獣の強烈な一撃を食らっていた。



「グッがぁぁぁッ!!」



 大きな音と共に地面に叩きつけられ、その衝撃で周囲5メルトの木々は吹き飛び、大きなクレーターを生んだ。が、どうにか着地をし、次の攻撃に備えていた。


 しかし、見上げるが一向に追撃が来なかった。


 だがそれは、に過ぎなかった。


 姿をまたしても人に戻し、小回りのきく体になっていたのだ。

 そして、その攻撃はすでに腹部に叩き込まれる直前であった。


 

「どこ見てんだよ……。鳥でも飛んでたか?」



「──!? いつ降りてきたんだ!? ガキ!!」



「そんな事も分からないのか? お前強くないな」



 今度は獣の時よりも比較にならない程の大きな衝撃と共に吹っ飛んでいた!


 いくつもの木を薙ぎ倒した後、漸くその勢いを止めた。



(……あのガキ──。人の姿の時の方が力を増しているとはどういう事だ!? くそッ!! このままじゃあ、未知の能力を突き止められない……! 本来の力を出せば、あのガキくらいどうにか出来るが、今向かっている相手と戦わないといけなくなった場合の為に取っておかなければな……仕方ない、ストックは少ないが、猛級をぶつける事にするか……)



 そう考えをまとめると、センスが来る前に行動を起こした。


 上司から貸し与えられた【魔封剣まふうけんデルト】によって猛級の人造魔生アーシャルを出現させたのである。

 

 その気配を感じ取ったが、センスは勢いのまま人造魔生アーシャルをぶっ飛ばそうと光を収束した拳を放った。


 だが!! 少し後方に下がっただけで、ダメージが通った気配がなかったのだ。



(っ!? なんだ!? コイツ! クソ硬いじゃねーかよ!! あの訳の分からない気配の奴、こんなもんを一撃で倒したのかよ!? マジか!?)



「どうやら、お前の力でも一撃で倒せない様だなぁ。お前は大人しく人造魔生そいつでも相手にしてろ! 特別だ! もう1体置いていってやるからなァ! お前が生きてたなら、また相手してやるよクソガキ!!」



「お前ェェェェーーーー!」



 センスは怒りの声を上げていた。

 だが、魔者はそのクソガキという言葉と人造魔生アーシャル2体を残し、目的の場所へ向かったのだった。

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