第13話 起こるべくして起こる
アーク達と別れ俺達は帰路に着いた。
自宅に着くまでの数分間どうしたもんかと考えていた。
これから2人で暮らす事になる訳だが、共同生活をした経験がない。旅行程度で幼馴染とは2、3日程ならあるが、ずっとはない……。
──本当にどうしたものか……。
そんな事を考え、家に向かい歩いていると、石畳みが綺麗に整備され、レンガや石造り、木造と様々な建物や店が建ち並ぶ街中に差し掛かった。
すると、俺の左後ろを歩くミスティがもじもじしながら話しかけてきた。
「あ、あの……ハルア。ちょっと寄りたい店があるんだけど、お金持ってなくて……。貸してもらってもいいかな?」
そう言われて俺は、突然人界に来ることになってしまったミスティに目を向け、気付いた様に返した。
「ごめん。気付くのが遅れて……。そりぁそうだよな、はだ……何もなく急にだったから。喚んだのは俺だし、俺が出すからその店に行こう!」
「出してもらうのは悪いから、貸してくれるのでいいよ」
「まぁ、それでいいならいいけど、これから一緒に暮らすから、結局は2人で稼ぐことになるから変わらないぞ?」
「確かにそだね……。まぁでも、貸ということにしてて」
「分かったよ。そんなに言うならそれでいいよ。で、どこに行きたいんだよ?」
そう返すとミスティは「普段着と……」と言うが、それ以上の言葉がなかなか聞き取れないので再度それを聞き返すと、顔がどんどん赤くなり──
「──パ、パンティとかを買いに行きたいです!!」
と、なぜか大声で言った。
「!? なんで大声で言ったぁ!?」
周囲には買い物に訪れている人達が大勢おり、一気に注目を集めた。
それに気付いたミスティはさらに顔を赤くして、顔を押さえて──ごめんなさい。と言ってその場にうずくまってしまった。
そのミスティの手を引き、その場から逃げる様に近くの服屋へと入った。
そして、恥ずかしがりながら色々と、本当に
ミスティの使用する部屋や、家の間取りなどを説明すると、夕飯を摂ることにした。
「ミスティ、夕飯を作るけど何か食べたい物とか、苦手なものとかあるか? 前もって言ってくれればなるべく外す事にするから。でも、好き嫌いはダメだぞ!」
「大丈夫だよ。好き嫌いはないから。農家の方々が作ってくれた物を残したりはしないよ! でも、今日は私が作るよ。ここに住むし、私も出来ることはしたいしね」
「……そっかぁ? じゃあお願いするよ。ちなみに俺も好き嫌いないから。それと、保管庫にあるのは何でも使っていいからなぁ〜」
「うん! 分かったよ」
それから手際よく、料理が出来上がった。
自分で作ると言うことはあり、料理は出来た。と言うよりもかなり上手だった。
しかも、美味かった。山菜のおこわに、野菜のスープ、そして鶏肉の香草焼きといった夕飯だった。
「なんて言うか……、料理上手いんだな」
「上手いかは分からないけど、私は一人暮らしだったから、何でもやらないと暮らしていけないから」
「一人暮らしなのか? 両親とかはいないのか? まぁそう言う俺も、見ての通り一人暮らしなんだけどな。両親は俺が幼い頃に魔者に殺されたから。でも、アークやルールウやリメルの親が面倒見てくれたから、何とかここまでこれたんだけどな」
「そうだったんだね……。私の場合は師匠はいるけど、両親はいないよ。と言うよりも、生きてるのか、もういないのか分からないって言うのが本当のところだよ。私は捨て子だったみたいだから……」
それを聞いたハルアは、驚きつつも疑問を口にしていた。
「人界ならまだしも、神天界って神や天使が暮らす世界なのに捨て子とかがあるのか?」
その問いに声のトーンを下げながら口を開いた。
「神とか天使の世界といっても、私が拾われて、暮らしていた
「なんか、神天界って想像していたよりも人界っぽいとこもあるんだなぁ……」
「そうだね。生活圏は分けてあるけど、色んな性格の神とか天使とかが、一緒の世界に暮らしてる訳だからね。でも、少界以上の区画は、また違ってくると思うよ」
「少界以上ってことは、その上があるんだよな? 一体どこまであるんだ?」
そう尋ねると、ミスティは口の中にある物を飲み込み、口元に人差し指を当てて答えてくれた。
「上にはあと2区画あって、
ハルアは初めて聞く〈戦界〉という言葉が気になり聞き返した。
「戦界……? って何なんだ? 神天界とか魔神界とは別なのか?」
「戦界っていうのはね、神天軍と魔軍が戦う場所と決められた世界なんだよ。戦争には強大な力がぶつかり合うから、神天界や魔神界はもちろん、人界への影響が最小限に抑えられる場所として定められたんだよ。それでも、戦いの影響は起こってしまうんだけどね。空間の歪みとか、植物の異常繁殖とか、挙げればキリが無いほど色々起こるんだよ。最小限でこれだから、まともに影響が出たらどんな事になるか分からないし、それでお互いの世界が破滅に向かったら本末転倒だし」
「まぁ確かに、至る所で影響が出たら、それこそ相手を倒すとかっていう状況じゃなくなるよな……」
「そういう事だよ」
ミスティのその言葉に、俺は戦争にもある程度の線引きをしないいけない事に改めて気付かされた。関係のない者まで巻き込んでしまってはどちらが悪か分からなくなるしな。
(でも、戦争はお互いが正しいとか、思ってはじまる事が殆どだからな……。何とも言えないところだよな)
そんな事を考えていると、ミスティが食事を終えた皿を片付け始めた。
俺はそれに気付き、立ち上がると──俺が片付けるからいいよ! と声を掛けた。ミスティは「私がやるからいいよ」と言ってくれたが、ご飯を作ってもらって、さらに片付けもしてもらっては、いくら何でも申し訳なさすぎる。
「いいからさ! ご飯作ってもらったんだから、後は俺がやるから。それに、いきなり喚びだして色々と疲れてると思うから、早く風呂にでも入ってきなよ。ご飯を作ってもらってる間に湯は溜めてあるからさ」
「そういうなら……。それじゃあ先にお湯をもらうね」
そう言い準備をすると、風呂場の方に向かって行った。俺は早速皿洗いを始めようと台所に向かったところで、トイレに行きたくなった。トイレの横にある風呂場からは灯りが漏れていて、ミスティはすぐに入ったみたいだった。
(まぁ、急にだったから、やっぱり大変だったんだろうな……。なんか、今さらながら申し訳ないよ。ゆっくり疲れをとってもらえたらいいけどな)
隣の風呂場に目を向けながら、トイレのノブに手を掛け、さっさと済ませようとドアを開けた。
そしてトイレに向き直ると──
目の前には真っ赤な顔をし、用を足し終え、今にもパンティを履く姿の栗色の髪が見えた。
「あ、あれ……? お、お風呂に入ってたんじゃないの……?」
俺は汗をダラダラと流しながら、口をパクパクさせているミスティに聞いた。もちろん、履いている途中の前屈みなので胸もしっかりと見えてしまった。
「ト、トイレによってから……は、入ろうとお、思って……」
「…………」
「…………」
静寂が続いた…………
ミスティは改めて自分の姿を確認すると、堰を切ったかの様に叫び声が響き渡った。
「きゃああああああ!!」
「ごめんーー!!」
──やってしまった……
やっぱり、事故は起こるべくして起こる……。
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