第20話動き出す元凶


路地裏に溶け込んでから約10分が経過した。街の中では、流石に異変に気が付いた魔力のない人達がざわめき始めていた。



それをぼーっと眺めつつ、真白の声を愚直に待ち続ける。



しかしあまりにも暇すぎて思わずウトウトしてしまう。眠気が私を襲う中、それを破ったのは真白の静かな呟きだった。



────────”来たよ”



その言葉にバッと目を開く。そして路地裏から街の方を観察していると、なんだか門の方が騒がしい。何かあったのだろうか。



不審に思いじっと見ていると、逃げるようにこちらに駆け出してくる兵士が見えた。その姿を見て、異変に気が付いた市民が思わずといった様子で叫んだ。



「───────ま、魔物だああぁっ!!!」



なんと、魔物が門から我が物顔で入ってきたのである。



つまり魔力持ちの人間を王宮に追いやり、魔物を街に解き放つ。そして魔力持ち以外の人間を襲わせる。



なぜ?一体誰が?なんのために?その疑問を解決してくれそうな人達がたった今空から飛んできた。



その人達は黒い軍服を身に纏っており、見覚えがある格好に思わず目を見張った。



気配を消していて普通の人には見えていないみたいだけど、私にはポッシブスキルがあるからわかる。



『(どうしてアイツらがここに・・・?)』



というか・・・黒い軍服ということは・・・あのオネェもいたりして?



私は最悪なトラウマを思い出しそうになり、顔を歪めて首を横に振った。



『”あー、真白?黒い軍服の奴らがいるんだが。”』



「”あ、もう?結構早かったねぇ。じゃ、トモリちゃんはその黒い軍服の奴らを相手にしてね。ボクは魔物を片付けておくから。”」



・・・まさか、私のトラウマを掘り返す気か?やめてくれ切実に。



しかし、私は頭が追い付いてないし、やれることと言えば真白の指示に従うことだけだもんな。仕方ない・・・うん、仕方ないよ・・・。



せめてあのオネェが居ないことを祈ろう・・・そう結論付けて、私は気配を消したまま黒い軍服の奴らを排除しに向かった。



トモリsideEND



客観side



時は遡り、アルバートを説得している頃。真白はトモリに対してとある言葉を伝心で伝えた。



その言葉にトモリは滅多に崩さない無表情を崩し、驚きに顔を染めていたのだが、フードをしていてアルバートからは見えなかったらしい。何も言うことなく、後のことを託してこの場を去っていった。



その頃にはもうトモリの表情はいつも通り無表情に戻っていて、そこに驚きの色は見えない。



───────真白がトモリに伝えた言葉はこうだった。



──────────”冒険者の中に敵のスパイがいる”、と。



その声色は既に確信している様子で、トモリも直ぐに事情を理解した。



真白がアルバートに何も説明せず、ここに残った訳も、トモリに伝心で伝えた訳も。



それは敵のスパイに悟らせないため。真白がこの事件の全てを理解した、ということを。



だから真白はトモリにさえ僅かな情報しか与えなかった。それも全て伝心で。そして移動も最低限、気配を消して。



真白のように先を見通せる頭脳を持っていなければ、恐らく気付かれていただろうが、真白の頭脳は全てを見通す。不可能は存在しない。それが白の眷属と謳われる所以であり、力でもある。



そしてそんな素晴らしい力を持った真白は、今現在この街のために動いていた。



勿論気配を消して、しかしできる範囲で走るスピードを上げて。そうして辿り着いた場所は、昨日真白達も潜り抜けた門の傍だった。



昨日と同じように門番に兵士が立っているが、真白には気が付いていなかった。



真白はその調子のまま、ひたすらに時を待った。あんなに疲れた宴の次の日だというのに、碌に眠れずに違和感に起こされたため、真白の眠気はピークに近かった。ウトウトと首を上下に動かしている。



その頃トモリも同じように眠たげにしており、まさに以心伝心しているように同じ行動を取っていたのだが、それを知る者はいない。



そして待機し始めて何分間か経過した頃。真白は数え切れないくらいの魔物の気配を感知し、トモリに伝心で”来たよ”と報告を入れた。



するとトモリからも報告があった。どうやら真白の読み通り、黒い軍服の奴らが飛んで来たらしい。



思ったよりも早かったという計算外はあったが、想定内であることに変わりは無い。真白のやるべき事は揺るがず、トモリに黒い軍服の奴らを任せて魔物を倒すことに専念することにした。



「(それにしても・・・黒、ねぇ。)」



真白は内心でトモリのことを心配していた。トモリが強いことは真白とて承知の上なのだが、ついこの間最悪な出会い方をしたばかりなのだ。過保護にもなる。



それにトモリは生まれて3年の真白よりもずっと世界に関する知識がない。魔力についてもあまり知らないみたいだったし、と真白は二度目の名約をした時のことを思い出した。



「(それに・・・”メメントモリ”のことも、多分知らないんだろうな〜。)」



”メメントモリ”という組織の名前なのだが、トモリはその言葉すらも知らない。



それ自体がおかしいことだということは、真白も十分に理解していた。



「(生まれた人間の子供がまず最初に覚えさせられること・・・それが反王国軍”メメントモリ”について。その実態の多くは謎に包まれており、知られていることは数少ない。それでも人間の親は我が子に一番最初にこう教える。”メメントモリに関わるな”、と。悪逆非道で世界一の犯罪軍事組織。絶望の代名詞とも言われる悪の王。人々は名前を聞くだけで震え上がるくらいの組織なんだけど・・・トモリちゃんは、きっと知らない。)」



軍服で統一された服装は、メメントモリと直ぐに分かるくらい一目瞭然だ。



しかしトモリはメメントモリの象徴である軍服を見ても何も言わない。それは、この世界の人間からしたらおかしなことであった。



「(ねぇ、トモリちゃん。キミは一体、どこから来たの?)」



ほぼ答えが出ている問いを、少し離れた場所にいるトモリに心の中で問い掛けた。伝心を使っていないのだから答えなど帰ってくるはずもない。



が、どうやら真白は答えを求めている訳では無いらしい。



「(・・・勇者、ね。)」



心の中の呟きは、やはり誰にも届かない。真白は静かに笑みを浮かべた。



そして門を通り抜けてきた魔物に目をやり、攻撃態勢に入ったのだった。



客観sideEND

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