第28話ぶつかる思い
足早に広い廊下を歩く。余程怖いオーラでも出ていたのだろうか、騎士や貴族が何事かとこちらを見てくる。─────その顔がいつもより赤いことに、私は気付かなかった訳じゃない。
でも今の私にはそれに構ってる余裕などなく、気にせず廊下を歩き、いつの間にか走り出していた。
ディランの居場所はすぐに分かった。部屋に戻ると言っておきながら、気配を探ってみれば居たのは玉座の間で。
どうしてそんな場所へとか、まだ死体の処理が終わってないはずなのにとか、色々と思うことはあったが、それを考えてる余裕すらなくて。ただ、走る。ひたすら走る。
そうして、無駄に広い城の中を走って、漸く玉座の間へと辿り着いた。
若干乱れた呼吸を整えた。玉座の間の前には2人の騎士が守るように立っていた。でも今の私はディランの騎士だ、入れるだろうと決め込み玉座の間の扉に手をかけた。しかし、スッ、と両隣から剣が振り下ろされそれを阻まれた。
なんのつもりだと言うように、とりあえず右隣にいた騎士を睨み付けると、騎士はビクリと肩を震わせながら答えた。
「お、王の命によりあなたをお通しすることは出来ません!分かってください、騎士様!」
『・・・・・・通して。』
「っ、出来ません!!」
「お帰り願います、騎士様。」
ビクビクと震えながら答える騎士に、思わずグッと拳を固く握り締めた。やるせなさが募って、私の心を締め付ける。
『(・・・そもそも、何故私はこんな所にいるんだ。)』
今更な問い掛けも、今の私の脆くなってる部分にはジンジンと沁みた。考えれば考えるほどネガティブになっていく思考回路に、私は嫌悪した。考えちゃいけない。そんなの分かってる。でも勝手に嫌な考えばかり浮かんでしまうんだ。
どうして革命の手助けなんかしたんだっけ?解毒剤のため?国民のため?・・・違う、アルバートさんや仲良くなった冒険者のみんなを助けるためだったはずだ。なのに、どうしてこうなった?
『(・・・潮時かもな。)』
私は踏み込み過ぎた。私らしくもなく、人の心に踏み入りすぎた。家族になる?私が?家族なんて父さん以外は知らないのに?
あぁ、なんて滑稽なのだろう。いっそもう、このまま立ち去ってもいいのかもしれない。嫌われたのだから、いい機会じゃないか。真白だって、私のことを許してくれる。真白は甘いから。私に優しいから。その優しさを利用すればいい。
────────思い出せ、トモリ。人の優しさなんて、私が生きるための道具でしかないんだからさ。
この世で最も大事なものはなんだ?それは考えるまでもなく、私自身だろう?
私が傷付く選択はするな、私が生き残り、私が闇に震えなくていいようにしろ。
─────どこまでも自己中心的に生きないと。
─────例えまた、自分を殺すことになっても
私は騎士達に背を向け、元来た廊下の道を戻り始めた。
これでいい。これでいいんだ。真白には早くここを去る旨を伝えよう。大丈夫、真白なら分かってくれる。真白は優しいから。だから・・・・・・。
『ま・・・しろ、』
小さい声で真白の名前を呼んだ。返事は無い。あるはずも無い。だけど頭の中に確かに浮かんだ。真白の言葉が。
───────”あんなことくらいで嫌いにならないよ。というか、何があってもずっと好きだから。それともボクの好意が信用出来ない?”
───────”トモリちゃんが望むなら、何回だって言ってあげる。──────だぁい好きだよ、って。”
───────”逃げたい・・・けど、なんでだろうね。・・・・・・ボク、どうしてか少しだけ助けたいって思っちゃった。”
───────”助けに行きたい。もしも街の人が、ボクらの力を必要としているなら。”
───────”少なくともトモリちゃんは、十分あの少年に優しく出来ていたと思うよ。それはもう、本物の家族みたいに。”
『(・・・真白は、真白はきっと、何があっても私のことを嫌いにならない。ならない、けど・・・っ、)』
やっぱり、どうしても、嫌われたくないって思ってしまう。ディランやアルバートさんにはいくら嫌われてもそんなものだとある程度は割り切れるとは思う。でも、真白だけは、だめ・・・ダメなんだ。
『(このまま帰って、真白に失望されたらどうしよう・・・?そんな人間だったと思わなかったって言われない?嫌われない?怖い・・・真白に嫌われることが、何よりも怖い・・・っ、)』
──────だから、そう、だから・・・、
私は歩みを止めた。無意識だった。全てが無意識で、そしてまた、私の意思でもあった。
『─────ディラン、』
名前を呼んだ。家族として、騎士として。彼の1番になる覚悟をした。
『ディラン・・・、聞けディラン!!』
「き、騎士様!?何を、!、」
「おやめ下さい!!」
二人の騎士が叫び、私に剣を向けた。それをものともせず、私は扉を無理矢理こじ開けた。
蹴破られた扉は、粉々に粉砕していた。それは少し前にディランをあの監禁部屋から連れ出した時のことを彷彿とさせ、少し笑みが溢れた。
ディランは玉座の前に立っていた。座るでもなく、ただ、誰かを待つように立っていた。
「・・・どうして来たの、トモリ。」
ディランの声は冷たい。しかし、それで怯むような環境では育っていない。罵倒は当たり前、暴言は挨拶みたいな環境にいた私にとって、その声は懐かしさを感じさせるものだった。
『家族、だからな。』
「・・・違うって、言った。利用しただけなんでしょ?本気じゃなかったんでしょ?」
『・・・ディランがそう思いたいのならそう思えばいい。でもな、私は確かに本気で言ったんだ。家族になるなんて言葉、冗談半分で言えるわけが無い。だけどそれで納得しろってのも無理な話だと思う。だから、今から本音で話そうと思う。』
「・・・!!」
例え私の本音が、ディランを傷付けるとしても。それでディランに取り返しがつかないくらい嫌われたとしても。私はどうしても、本音でぶつかってみたかった。
『まず!私は自己中心的で我儘だ。私以外は基本どうでもいいし、国なんてもん興味もない。今回助けたのもたまたま気まぐれが働いただけだ。でも責任もって最後まで見届けようとは思ってる。でもな、私は権力者とか暴君が嫌いだ。もしお前がそういう嫌いな王になろうものなら、家族としてぶん殴って止めるから覚悟しておけ。』
「えっ、と・・・、トモリ?」
『それから、ディランも言いたいことがあるなら言って欲しい。出来る限りなら何とかするから。』
「言いたいこと・・・。」
お、その顔はどうやら言いたいことがあるみたいだな?言っちゃえ、楽になるぞ?
『私も本音を語ったんだ、ディランも本音で語るのが筋ってもんだろ?』
私がそう言うと、ディランは泣きそうな顔でキュッと口を結んだ。しかし数秒後には覚悟を決めた顔付きに変わり、それは全て私に向けられた。ディランの全力の叫びが、私に向いたのだ。
「・・・なら。なら言うけど!僕はトモリの役に立ちたい!トモリの役に立って、トモリに愛して欲しい!!トモリの・・・家族になりたい!!」
『だから!!家族だって言ってるだろ!?何回言わせんだよこのタコ!!』
「信じられるわけないだろ!?ちょっとは僕の気持ちも考えてよバカ!!」
『人の気持ちなんてわかるか!!私は私のしたいようにする!人の気持ちなんて関係ないね!!』
「なら僕も僕のしたいようにする!!トモリの気持ちなんて関係ない!!僕はトモリの家族だ!!トモリは僕の家族だ!!そしてトモリは一生、僕の騎士だ!!異論は認めないっ!!」
『・・・それでいいんだよ。私はお前の騎士で家族だ、ディラン!!だからもう遠慮なんてしなくていい!!今みたいにぶつかり合えばいい!!』
家族って、多分そういうものだ。父さん以外の家族を知らない私と、父親しか知らないディラン。お互いにお互いが、愛を知らず家族を知らない。ならば未熟者同士、少しずつ見つければいい。時間なら、まだたっぷりあるから。
ディランはスッキリとした顔をしていた。私も恐らく、同じような顔をしているのだろう。
ちょっと前は逃げようとしてたはずなのに、今ではあの時逃げなくて良かったと心底思う。
そう思えるほど、ちょっとずつディランのことを好きになってきているのだと理解して、胸の中が暖かい何かで溢れた。
これが、長い長い歴史を作る2人の・・・私とディランの、始まりのお話だ。
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