第10話その魂に灯を点す
”灯を点せ、されば光は汝に宿らん。灯を燃やし、命を灯せ。されば汝、禁忌をも超越する光とならん。”
”とーさん?なにいってるのー?”
”んー?灯の名前の由来だ。人の心に命を灯し、あらゆる生き物の光になりますように、って願いを込めてるんだぞ。だから灯、困ってる人がいたら助けるんだ。そうしたらきっと、倍になって感謝が返って来る。・・・人の弱さを包み込める、優しい人間になってくれ。”
”うん!あたし、だれよりもやさしくなる!!それでね、いつかとうさんのひかりになるの!!”
”・・・!!ははっ、灯は生まれた時から俺達の光だ。母さんも、お前のことを愛してるんだぞ。”
”そうなのー?あたしのおかーさん、いつか会いたいなー。”
”・・・会えるさ。いつかきっと、な。”
”うん!!”
──────────次の日、父さんは私の呪いのせいで死んだ。
そして父さんと共に、弱い私も同時に死んだのだ。
絶望に押し潰された、か弱い少女の私が。
─────────────────
『・・・ん、ま・・・しろ?』
あれ・・・私、どうなったんだっけ。確か・・・マシロが、死んで・・・、
『・・・っ、マシロ!!!』
目覚める前の記憶を思い出し、私は思わず勢いよく起き上がった。しかし怪我をしていたことを忘れていたため、痛みでもう一度元の場所に戻ってしまう。
その時、ボスンという音と共に何かの上に頭を乗せた感覚があり、もしかしてずっとこれを枕にして寝ていたのか?と思考する。
・・・そもそも、これ・・・何を枕にしてるの?感触的に人間の足だけど・・・あれ、慌てすぎてて見えてなかったけど、ほんとに足じゃんこれ。え、待ってまさか膝枕か?だ、誰の足?
ちょうど顔とは逆の方を向いて寝ているから誰の足か分からない。・・・・・・知らない人、とかじゃないよね?
私はそおっと起き上がり、伏し目がちになりながらもチラリと膝枕の主を見た。
『・・・・・・・・・・・・ぇ、』
──────そこには、目を閉じてすやすやと眠るマシロがいた。
私は訳が分からなくて困惑する。なに?何が起こってるの?だって・・・え?どうして・・・────────どうしてマシロが、生きてるの?
生きて・・・るんだよね?夢じゃないよね?私は鼓動を確かめるべく、そっとマシロの心臓に耳を当ててみた。・・・動いてる。え、どうして?
だって・・・死んだんじゃ・・・?意味がわからなくてめちゃくちゃ混乱してるが・・・・・・そんなのどうでもいいくらい、歓喜している自分もいる。
『よかった・・・ましろ、本当に良かった・・・っ、』
思わずマシロに抱き着く。それにしても何しても起きないな・・・どうしてだ?
「・・・あの〜、トモリちゃん?そろそろいいかなぁ〜?」
『・・・・・・・・・・・・。』
・・・待ってくれ。ほんと、ほんとに待って、え?おき、起きてたの?寝たふりしてたってこと?はぁ?
『・・・殴っていいか。』
「そんなに睨まないでよトモリちゃん。だって起きたらなんかボクの心臓の鼓動確かめたり、抱きしめたりしてくるし?なんか・・・嬉しくてさ〜。」
・・・ほんとに嬉しそうな顔。でも、そんな顔しても許してやらない。私にはめちゃくちゃ言いたいことも聞きたいこともあるんだ。
『・・・っ、いろいろ、ほんとに色々言いたいこともある。聞きたいことだって、たくさんあって・・・でも、その前に、マシロ・・・、』
あぁ・・・ダメだ。今マシロから離れたら、こんな情けない顔を見せることになる。
でも仕方ないだろ。私は、この涙の止め方なんて知らないんだから。
『本当に・・・ほんとに、よかった・・・ッ!!』
「・・・っ、トモリ・・・ちゃん。泣いてるの?」
『泣いてない!・・・でも、・・・暫く、このままがいい。』
「・・・ん。ごめんなさい、トモリちゃん。・・・ほんとうに、ごめんね・・・、」
ほんとだよ、馬鹿マシロ。マシロは私の下僕だって言ったのに、どうしてあんなことになるまで私に助けを呼ばなかったんだ。
・・・でも、もういい。全部後でいい。今はただ、マシロの温もりに触れていたいから。
「────あぁ・・・あったかいなぁ・・・ッ、」
マシロが発した声が震えていたのには、気付かないふりをしてあげた。
─────────────────
「・・・トモリちゃんって、結構甘えん坊なの?」
『うるさい!これは罰なんだ、私の気が済むまで大人しくしてろ!!』
「これが罰・・・?寧ろご褒美じゃ・・・?」
『何か言ったか?』
「イエナンデモナイデス。」
ふん、言っておくが何年経とうが許すつもりはないからな。この私の心にあれだけの精神的負荷を与えたんだから。
だから・・・邪魔でもなんでも、黙って抱き締められておけ。
そう心の中で言い訳しつつ、ぎゅうっとマシロの体を後ろから抱き締める。
それが意外と心地よくて、離れ難いのは内緒だ。
でも・・・そろそろ話を戻すか。まずは何故1人で森に向かったのかと、私が意識を失ってからの話を聞かなくては。
『で?私を置いてどこに行こうとしたんだ。』
「あはは・・・これ以上トモリちゃんと一緒に居たら、もう離れられなくなりそうで怖くて・・・つい逃げちゃったんだ。だけどボク1人で森を抜けられる訳もなくて、あっさり魔物に見つかってそのまま殺されたんだよ。でも、起きたら傷は全部治ってて、その代わりトモリちゃんが傷だらけで意識を失ってた。」
・・・それは攻撃を受けたからだが、まぁマシロなら言わなくてもわかるだろう。
「・・・ねぇ、知ってた?他人に魔力を譲渡するのって、すっごく危ないんだよ?下手したら両方死ぬし、相性が悪い相手だったら魔力暴走を起こしてた可能性だってある。それに、ボクは既に死んでいた。それは確かだ。だからその状態のボクを魔力だけで蘇生したとなると、トモリちゃんはとんでもない量の魔力をボクに注いだことになる。そりゃあ気絶くらいするよ。寧ろ気絶で済んだのは奇跡と言ってもいいくらいだ。・・・お願いだから、もう二度とこんな真似しないで。」
『ちょ、ちょっと待て。何の話だ。』
魔力を譲渡?魔力暴走?蘇生って、私が?
「・・・もしかして、無意識でやったの?」
何がだ。大体魔力を譲渡なんて・・・そんな魔法、私は使えないが。
「・・・トモリちゃんはね、ボクに魔力を譲渡したんだよ。実態のない、生きてもいないボクに。」
『・・・・・・そんなこと、可能なのか?』
「可能なわけないじゃん。聞いたことないよ、魔力を譲渡して蘇生したなんて。でも魔力が生命維持に大きく関わってる魔物なら、或いは可能かも・・・っていう感じかな。」
『ふぅん。』
「ほんとに分かってる?凄いことをしたってこと。と・に・か・く!何があっても二度と魔力譲渡なんてしないこと!下手するとトモリちゃんが死んじゃうんだから!」
そんなに怒らなくても・・・とは思いつつも、マシロの意見にも一理あるので素直に謝っておく。
『・・・ごめん・・・なさい。』
「・・・・・・まぁ、でも。悪いことばかりじゃないんだよ?」
『へ?』
「ボクの中に巡ってる魔力は全部トモリちゃんに貰ったものだ。だからかな・・・トモリちゃんの温もりを傍に感じる。初めて・・・心が満たされてる。・・・だから、ありがとう。トモリちゃん。」
嬉しそうに笑ったマシロが私の方を向いた。その笑顔は、紛れもなく本物だと言えるほどに綺麗で・・・・・・・・・というか。なんか、視界に違和感が・・・あれ?
『ま、ましろ、あの、私が着けてた仮面は?』
─────────どうしよう。
「え?邪魔だったから外したよ?」
──────────目が、合ってしまった。
不思議そうにこちらを見るマシロと、現在進行形で目が合っている。・・・あぁ、どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・、
────────今度は私が、殺してしまう。
遅いとは分かっていても、バッと手で目を隠した。
ごめんなさい、と小さな声が零れ落ちた。自然と、涙が零れた。
「ど、どうしたのトモリちゃん!!なんで泣いて、え、ど、どうしよう、」
『私・・・っ、わたしは呪われてて・・・、誰かと目を合わせると、──────死んでしまうほどの悪運を、相手に振り撒いてしまう・・・っ、』
「っ、呪い・・・?それってまさか・・・色欲の?」
『・・・色欲の瞳、っていうスキル。』
「・・・大罪系の、ユニークスキル・・・?」
あぁ、やはり知っていたか。それはそうだ。大罪系と天使系のスキルは必ず誰かに引き継がれる。だからそれらに関する本は多く存在しているのだ。
「・・・でも確か、色欲の瞳は持ち主を好いている相手には効かないんじゃなかったっけ?」
『・・・そう、だけど・・・でもマシロは、』
「あ、じゃあボク大丈夫だよ。」
『・・・・・・・・・・・・え?』
「ボク、トモリちゃんのこと好きだし。番になりたいって、最初会った時に言ったでしょ?あの言葉に嘘はないよ。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
「・・・ありゃりゃ。固まっちゃった。そうやって意識してくれるのは嬉しいけど・・・ふふ、こんなことで照れてちゃ先が思いやられるね?」
・・・・・・・・・あれ、好きってなんだっけ?やばい、思考が飛んでる。・・・・・・え?なに?どういうこと?
つまり今のって・・・告白か?
『・・・よぉしわかった、一旦落ち着こう?ね?』
「ボクは冷静だよ?それにしてもトモリちゃん、顔真っ赤だねぇ。」
ふふふ、とマシロが怪しく笑うものだから、思わずサッと離れる。どうしてこんな幼い容姿でクラクラするほどの色気を出せるんだ!?
『ま、ま、ま、まままま・・・っ、マシロのバカァァァァッ!!!!』
大声で叫び、走って遠いところに逃げようとしたが、怪我が痛すぎて地面に伏した。くっ、不覚・・・。
「あんまり動いちゃダメだよ〜トモリちゃん?・・・なんなら、ボクがぜぇんぶお世話してあげるから。だからトモリちゃんはボクに身を任せて?」
マシロはそう言うと、私の体を気遣うようにそっと抱き上げた。
拒否権・・・ないじゃないか。キッと睨み付けても、マシロはニコニコと楽しそうに笑うだけ。その顔を見て、思わずはぁ、とため息を吐き、マシロの首に腕を回した。こうなったら、とことんマシロに甘えてやる。
早々に開き直った私は、マシロに色々と世話をさせたが、その度に口説いてくるマシロに、容赦なく色香を振り撒かれたのだった。
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