第33話君が私に似てるから
エストレアside
これはなんの冗談だと、俺は頭が痛くなった。思わず頭を押さえてしまったのは仕方ないことだと思う。
夢ならどれだけいいかと考えて、ふと目を瞑った。目を開けたら悪夢から覚めますようにと柄にもなく祈ったのだが、やはり悪夢は悪夢。目を開けた先には悪夢の元凶である女がいた。
確か名前はトモリだったか。印象的な名前だったためよく覚えている。
しかしその女が好きかと聞かれれば答えはノー。俺はこの女が嫌いだった。
だから瞬間移動の際付いてきた女に思わず手が出たのだが、多分気絶させられたのだろう。よく覚えてないけどムカつくのは分かる。
そして・・・ついさっき目が覚めた訳だが、俺は一瞬地獄にでも落ちたのかと錯覚するほど目を疑った。
女がいた。それも椅子に座ってこちらをじっと無言で見つめていたのだ。
俺が目覚めても何も言わず、ただただ目だけが合っている。気まずいというか、普通に拷問だろこんなの。
しかし俺から目を逸らすのもなんだか癪だし、目を離すと何をされるか分からないから監視しておきたい。
・・・というかなんでまだいるの?早く帰れよクソ女。殺されかけたこと覚えてないのか?頭も悪いとか最悪じゃん。
「・・・なんだよなにか言えば?クソ女。」
『こんな美少女捕まえてクソ女だなんて、シャルール卿はお口が悪いんですね。』
「・・・・・・・・・、」
『あら?何か仰りたいことでも?』
・・・こんな喋り方だっけ?純粋に気持ち悪いと思うのは俺だけじゃないはず。それにニコニコした顔が腹立つし、その顔が本人の言うように見たこともないくらい綺麗なのも腹立つ。何よりその首に痣が残っているのも、謝れと言われているようで不快だ。
なんでフード取ってんだよ、俺が目覚めるまでは付けてたくせに。・・・まぁ、押し倒した弾みで取れたけど。
「・・・うざい喋り方しないでよ。」
『うふふ、ウザイだなんて酷いですわシャルール卿。あ、そうだ!シャルール卿ってばぐっすり眠ってらしたから起こさなかったんですけれど、もう朝の8時ですわよ?』
「・・・・・・・・・、」
『あぁ、朝御飯は召し上がられますか?私、料理が得意なので何かお作りしますわよ。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おれが、わるかったから・・・・・・・・・・・・それやめて。」
『それ?なんのことでしょうかシャルール卿。大体シャルール卿が仰ったのではないですか。お前に名前を呼ばれると吐き気がするから二度と呼ぶなと。』
「そこまで言ってない。・・・・・・エストレアでいいから、その気色の悪い喋り方と敬語をやめて。」
『ならエストレア、いい朝だなおはよう。ご飯にするか?お風呂にするか?それとも昨日の続きでもするか?』
いきなり無表情になったな・・・ニコニコした顔よりかはマシだけど、これはこれで感情が読み取れなくて不気味だ。
というかなんなんださっきから、ご飯とかお風呂とか。あと最後の絶対それじゃないだろ。
『・・・それとも、スキルの話でもするか?例えば・・・そうだな、大罪系スキルの話、とか。』
「・・・・・・は?」
こいつ今なんて・・・大罪系?ってことはまさか、寝てる間にステータスを見られた?ということは・・・このクソ女が、俺よりもレベルが上ってことか?こんな、綺麗な身なりをした、なんの苦労も知らなさそうな女が?
「─────ふざっけんな。殺すぞクソ女。」
『・・・あー、そうそう。ステータスといえば、君のステータスに新たな状態異常が追加されたみたいだぞ?』
は?状態異常?追加された?一体何が・・・、
俺はすぐ様ステータスを表示し、自身の状態異常欄を確認した。するとそこには、女の言う通り新しい状態異常が追加されていた。
頭が真っ白になる。そして次の瞬間には、目の前のクソ女に対する殺意で満ち満ちた。
「ふざっけんなよ・・・ッ!───────色欲のクソ女が!!」
色欲、あぁ色欲・・・。あの女と、クソ女と目が合ったから。押し倒した時に、目が合ったから。
「────────ころしてやる・・・っ、」
自業自得だろうが関係ない。色欲は悪だ、メメントモリと同等以上の悪人だ。見つけたら殺すのは自然の摂理で、産まれちゃいけない存在なんだ。
──────────だから・・・俺が殺してやる。
エストレアsideEND
トモリside
「《風刃(ウィンドカッター)》!」
エストレアから殺害予告を受け、すぐ様後ろに飛び退いた瞬間に魔法を放ってきた。
それを全部避けつつ小屋の外に出る。外は森の中だった。
というか今の魔法で家の中の家具とか切り刻まれたけど大丈夫なのか?一応そこ、エストレアの家だよな?
変な心配をしていたのも束の間、私を追って外に出てきたエストレアが剣を構えて私に迫ってきた。
「《風波(ラフ)》&《突風(ゲイル)》!」
エストレアが魔法を発動すると、風の波がエストレアの剣に纏わりついた。そしてもう1つの魔法を用い、風の力で一瞬にして私の前までやってきた。
その速さに思わず後ずさるが、エストレアの剣の射程からは逃げられない。
剣の切っ先が目の前まで迫る。しかしそれを対処出来ない私では無い。
『《魔力剣(チャームソード)》』
呟くと、魔力の剣が私の目の前に現れエストレアの剣を弾いた。エストレアはまさかこの距離で弾かれると思っていなかったのか、簡単に剣を手放してしまう。
しかし直ぐに正気に戻り、掌を私に向けた。恐らく魔法を使おうとしたのだろうが、もう遅い。
私は魔力の剣を手放し、すかさずエストレアの横腹に蹴りを入れた。
「カハッ・・・!!」
エストレアは痛みに悶える隙もなく数m先の木まで吹っ飛び、激突した。
蹴り自体はあまり効いてないらしいが、木に激突した時に背中を打ったため、その痛みから立ち上がることが出来ないようだった。
そんなエストレアの傍までゆっくりと歩く。やっぱり人間相手は楽だなぁなんて、エストレアに言ったら吹っ飛ばされそうだけど。
「・・・殺せ。」
傍で立ち止まった私にエストレアがポツリと呟く。その発言に、こいつなにか勘違いしてるな?と感じ、間違いを訂正するために口を開いた。
『言っておくが、お前を殺すつもりは無いぞ。』
「・・・は?お情けのつもり?同じ大罪系スキルの保持者だから?それとも俺から信頼でも得るつもりなの?・・・ふざけんな、ふざっけんなよ。お前も、俺にこんな力を与えた神も、全部全部全部クソ喰らえだ・・・ッ!!!」
私がお情けでエストレアを助けたって?・・・あれ、もしかしなくても私、善人にでも見られてる?とエストレアを見て感じた。だってさぁ、自分を殺そうとした相手に情けをかけるような偽善者ぶった人間に見られてるってことでしょ?勘違いも甚だしいな。
『・・・勘違いしてるようだから訂正しておくが、私はどうでもいいやつに情けなんかかけない。かける情けすら勿体ないし、面倒だし。・・・大罪系スキルがどうとかも、関係ないとは言えないが、根本的な関係は無い。』
「・・・じゃあなに。なんで俺を殺さないの。俺はお前を殺そうとしたのに。頭沸いてんじゃないか。自分を殺そうとした人間に対して情けをかけるなんて。甘い、甘すぎて吐きそうだ。そういう甘いヤツだから、俺はお前が嫌いなんだ・・・ッ、」
『そうか。・・・だからなんだ?だから死んでくれって?はいそうですか分かりましたとかお利口に垂れて死を選ぶほどお前に心酔してないぞ、私は。というか、私が1番好きなのは私だし。私以外の人間・・・いや、私と真白以外の人間は割とどうでもいい。』
「・・・・・・だったら、ディランのことも?」
・・・ディラン、ね。やっぱり2人は知り合いなのか。エストレアは何故かディランを知らないふりをしてたけど。でもその嘘、私が与えたスキルのお陰でディランには見え見えだよ?
『まぁ、家族だしそれなりには大事にしてるけど。』
「は?家族?ディランをそれなりにしか愛せないお前が、アイツの家族だって?何の冗談だよ、心底笑えないな。──────やめてくれ、不愉快だ。」
・・・あぁ、やっと本性を見せたか。やはりエストレアは、ディランのことを、
『──────ならお前がディランを守れ。』
そんなにディランを愛し、守りたいと思うのなら。その気持ちが本当なら。行動で示してみろ。
「なっ、意味分かってるの?俺は、俺はこの国の嫌われ者で・・・国王であるディランを守るなんて・・・それこそ、ディランが国民に何を言われるかわかったものじゃない。・・・俺の存在はきっと、ディランのそばに居るだけでディランの未来を奪ってしまう。」
だから、ディランのこと知らないフリをしたのか。賢明だけど、エストレアってもしかして真面目ちゃんか?
『・・・おかしいと思わないか?』
「・・・なにがだよ。」
『どうしてこの世界の嫌われ者である私が嫌われてないのに、お前が嫌われてるんだ?』
「・・・それは、俺の・・・生まれた環境と人間関係の運が無かったから。逆に、お前は生まれた環境と人間関係の運が良かったから、だろ。明白なこの世の摂理だ。親は選べないし、人間関係を選び取る縁も目には見えない。・・・性格すら、この腐った瞳じゃ識別出来ない。・・・俺は運が無かったんだよ。」
自分を嘲笑うように口元を歪めたエストレアにため息しか出ない。・・・エストレアはなんというか、かなりネガティブだな。
『マイナス2万9千。』
「は?」
『なんの数字だと思う?』
「何って、『─────運だよ。』・・・ぇ、」
『私の運。マイナス2万9千。』
「なに、え、じゃあどうして、」
『───────まずは父親だった。』
「へ、ちち、おや・・・?」
『私と目が合った父さんは、数ヶ月で死に至った。』
「なっ、!!」
『母親は元々いなかったから、両親は父さんが死んでいなくなった。次に犠牲になったのは親戚達。親戚達は私の呪いで全滅、その時点で私の存在は異端、悪魔の子だと言われていた。私も自分の目が人を殺すことを幼いながらに理解した。だから家を飛び出した。その先でも色んな人が死んだ。それからは目を隠すようになった。フードをして、私の呪いが人を殺すことを恐れた。・・・あのね、君が私の事を嫌いなのは・・・多分──────私が君に似てるからだよ。』
「っ、・・・!!」
驚いた顔。でも、否定する気はないのか図星なのか、エストレアは顔を俯かせた。
『君は君自身が嫌いだった。だから君に似てる私の事が嫌い。・・・違う?』
「・・・っ、くそ・・・なんでわかるんだよ・・・!!・・・お前なんて、きらいだ・・・っ、大っ嫌いだ!!」
うん、知ってる。なんて心の中で返事をしながら、私はエストレアの目の前の地面に座り込んだ。
「・・・なんでこっち来るんだよ。」
『ダメだったか?・・・話をするなら、目の前にいた方がいいだろう?』
「・・・・・・・・・チッ・・・ほんと嫌い。」
『知ってる。・・・それじゃあ、お聞かせ願おうか。お前の話。』
「・・・・・・ハッ、いいよ。聞かせてあげる。俺の過去の話を。」
トモリsideEND
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