第34話魔力を喰らう死神のお話


エストレアside



───────物心ついた時から、俺は人々に嫌われていた。



家の中にいても冷遇され、外に出ると石を投げられる。それに疑問を抱いたのは、外で家族が仲良く歩いているのを見たから。



「とうさま、ぼくはどこかへんなのですか・・・?」



「・・・話し掛けるな化け物め。」



父様に話し掛けると、俺に一瞥もくれることなく去ってしまう。



「かあさま、ぼくもてをつなぎたいです、」



「はぁ?ふざけないでよ気持ち悪い、魔力の死神め!」



魔力の死神。その言葉の意味は、幼い俺には理解出来なかった。でも、それがいい意味じゃないことだけは子供ながらに分かっていた。



そして、父様や母様・・・もっと言うと兄弟にも好かれていないことも、俺はなんとなく理解していた。



だから距離を置いた。どうすればいいか分からなかったから、距離を置くことで家族から逃げた。



人形のように寝て起きて食事をする生活を繰り返した。外に出なくなって、やがて部屋から出なくなった。そんなある時。



父様が俺の部屋にやってきたのだ。そして一言、魔法騎士になれと言った。



俺は恥ずかしいことに、それを期待されているのだと勘違いしたのだ。



だから魔法騎士になったし、無闇に本気を出してかなりの地位にまで昇りつめた。



しかし父様は俺を見なかった。いつまでも優秀な長男ばかりを見ていた。



俺は悟った。俺はあの家から追い出されたのだと。思えば魔法騎士は死の危険もある危険な職業。つまり父様は・・・あの人達は、俺に死んで欲しいのだと、察してしまった。



その頃からだろうか。俺の中に反抗心が芽生えた。父様の思惑通りになんか踊ってやるものか、俺は俺の人生を生きてやる。



そう決心した。それからは必死に魔法騎士として戦績を上げ、地位を上げた。そしてお金を稼ぎ、いつかこの国を出てやると誓った。



その誓いは固かった。何があっても俺の意思は揺るがなかった。・・・いいや、揺るがない、はずだったのだ。



───────ディランに出会うまでは



俺はいつの間にかディランの見張りに任命されていた。誰もやりたがらないその仕事。押し付けられたと知っていたが、特に気にはしなかった。仕事ができるならなんでもよかった。



早くお金を貯めてこの国を出よう、そして俺を知らない国で、楽しく仕事をして、俺を受け入れてくれる人と結婚して、子供を作って、そして・・・幸せに、なるんだ。



「───────新しい見張りの人、ですか?」



綺麗な声が響いた。─────それは、ディランと俺の初めての出会いだった。



「・・・そうですよ、王子殿下。」



一応敬語を付け、何事もなくやり過ごそうでした。けど、ディランは何故かパァァァと笑顔で窓にある穴に近付いてきたのだ。



「・・・・・・、」



他人に笑顔を向けられたのは、初めての経験だった。だから少し戸惑って、ディランの話を聞いてなかった。



「───────だから僕とお友達になってくれませんか?」



「・・・・・・あ、はい。」



「ほんとですか!!?」



「う、うん。」



何がほんとなのか全く理解出来なかったが、とりあえず頷いておく。



それからは、俺とディランの不思議な友達関係が始まったのだ。



ディランは俺と出会って数週間経った時、俺に夢を語った。いつかここを出て王様になるのだ、王様になって国民を助けるのだ、と。



キラキラした目だった。眩しい程に輝く、太陽のような目。



眩しくて眩しくて、目が潰れてしまうと危機感を覚えた。だから逃げてしまったのだ。魔法騎士という地位もシャルール家も捨てて、俺は冒険者となった。



この国を出ることは出来なかった。理由はいくつかある。ディランが幽閉されていることが気掛かりだったから、ディランを守りたかったから。そして・・・この国を出て幸せになるという俺の目標は、ディランの夢に比べたら酷く霞んで見えたから。だから俺は、目標を捨てた。



路地裏で一筋の光に焦がれながら、溝鼠のように地を這って生きていくことを決めたのだ。



エストレアsideEND



トモリside



エストレアの話を聞き終わって、私はエストレアの性格や雰囲気について全て納得した。



ネガティブなのも、自信が無さげなのも、笑わないのも、全部全部その過去に繋がってたわけだ。



「ほんとはこんな話、誰にもするはず無かった・・・いや、出来ないと思ってた。だからお前には結構感謝してるよ。”最期”に俺の話を聞いてくれてありがとう。・・・ディランに伝えてよ。守れなくてごめんって。」



『・・・、は?』



「・・・それから、・・・・・・酷いことして、ごめん。」



悲しげな顔。そんな顔をするくらいなら、いっそ何もかもから逃げ出してしまえばいいのに。



『・・・どこに行く気なの。』



思わず聞いた。エストレアはこの国を出る気なのだと悟ったから。



「・・・さぁね。俺の事を知ってる人がいないところ。・・・・・・もう、天上にしか居場所は無いみたいだから。」



天上・・・つまりエストレアは、死ぬ気なのだ。全てに絶望し、唯一の友達すら守ることが出来ずに。なんという悲劇だろうか。



エストレアを見ていると、自分が不幸になっていく様を見ているようで気分が悪いな。



まぁ、なんにしろもう私の選択は決めてある。エストレアの意思とか決意とか知ったこっちゃないね。



───────誰よりも自己中なんだよ、私は。



刹那、瞬間移動を使って逃げようとしたエストレアの腕を掴み、後ろに引っ張った。



魔法は発動寸前で消え、私達は瞬間移動せずに地面に倒れ込んだ。



「っ、なにすんの、俺は本気で・・・ッ!」



『──────死のうとした、か?ハッ、笑わせるな。・・・死ねるわけが無い。』



「なっ、」



『魔力が多い人間は寿命が伸びる。・・・つまりエストレア、お前は死ねない。死なないんだよ。』



「は・・・っ、そ、んな・・・、」



可哀想、なんて思わない。私は私を哀れまない。まぁ、エストレアは私では無いが・・・私に似たエストレアを最早他人とは思えない。



『・・・だから、私のモノになれ。』



「・・・・・・は?」



『色欲に魅入られたエストレア、生きるために何もかもを捨てろ。名前も希望も夢も何もかもを捨て去り、唯のエストレアになったら・・・私の下僕として私の為だけに生きろ。』



「いきなりなんでそんな・・・大体俺の事嫌いなんじゃ、」



『私がいつそんなことを言った?・・・私は私が好きだ。私を1番に考えてるし私が1番大事だ。だから・・・私に似てるお前も、嫌いじゃない。』



そう言うと、エストレアは何故か固まった。そして顔を真っ赤にして、後ずさろうとした。ので腕を捕まえて離さないようにしておく。また顔が赤く染る。



「・・・き、きらいじゃない、ってことは、さ・・・。す、好き・・・ってこと、なの?」



好き?・・・あぁ、好きといえば好きなのかもしれない。でも好きというよりは・・・。



『──────あいしてる』



「ッ・・・!!!」



『の方が近いかもしれないな?』



「・・・は、なに、それ・・・っ、」



あーあ、顔が真っ赤だ。・・・好きとか愛とかに慣れてないエストレアは、こういうのが効果的だと思ったのだが・・・どうやら正解だったらしい。



・・・というかエストレア、こうして間近で見るとかっこいいな。綺麗な水色の髪にエメラルド色の瞳。高い身長と美しく神秘的な甘いフェイス。・・・うん、アイドル目指せるんじゃないか?



『・・・綺麗な顔だね。』



「んッ、は、今度は何!?」



『目の色もとても綺麗だ。』



「ぐぬっ、」



『・・・好きだエストレア。』



「〜〜〜〜〜〜ッッ////////」



うわ、これ楽しいな・・・。でもあんまりからかいすぎるのも返り討ちに合いそうで怖いしこの辺にしておくか。



「・・・ほ、ほんとに好き?」



『え、あ、うん。好きだ。』



「・・・ずっと一緒に居てくれる?」



『うん、そばにいる。』



「・・・俺を、幸せにしてくれる?」



『ん、約束する。』



「俺を、『──────エストレア』っ、」



つまり、安心出来ればいいんだろ?



『人々がお前に向ける負の感情の何百倍もの愛を、お前にやるよ。』



「ぇ、」



『私がお前の魅力を、マイナス100万からプラス100万にするって言ってるんだ。それまで一生お前を愛する。・・・だから私に従え。』



エストレア、と名前を呼ぶ。するとエストレアは私の両肩を掴み、それからきつくきつく抱き締めた。



「・・・人の体温なんて、初めて感じた。・・・こんなにも、あったかいんだね・・・、」



その感覚は知っている。私も真白の体温で感動したことがある。・・・人の温もりは、時に心をも温めてくれる。



『・・・さ、家に入ろう。・・・あ、そうだ。ご飯にするか?お風呂にするか?それとも・・・、「─────トモリ」へっ、』



「───────トモリにする。」



ニッコリといい笑顔で笑ったエストレアを見て、私は再度真白にSOSを送る。



『(これはこれで、身の危険を感じる・・・っ!!)』



助けてくれ真白、なんてヘルプを強請ってみても返事は来ない。恨むぞ真白、なんて逆恨みも甚だしいことを頭の中で叫んだ。



その後、家の中でご飯を食べてお風呂に入ったあと、エストレアの抱き枕にされて眠りについたのだった。


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