戦争へと続くフラグ
第35話お揃いのレッテル
『──────星に導かれし者よ、我より星約騎士(シュヴァリエ)の名を受け取り給え。されば汝、我が至高の恩恵を賜るだろう。天を降し、夜を配せ、汝の星名は客星(ゲストスター)なり。永遠の生を我と共に生き、永遠の忠誠を誓い給え。星約に応じよ、汝の名はエストレアなり。』
星約を、交わした。魔力がごっそりと吸い取られて、疲労が体に溜まっていくのが分かる。
それでもなんとか魔法を発動し続け、契約完了の時を待った。
「・・・星約騎士・・・騎士、俺が、トモリの騎士・・・トモリが俺を必要としてる、トモリが俺に期待してくれてる・・・トモリが、」
・・・目の前で跪きながらブツブツ呟くエストレアに集中力が離散しそうになったが、何とか耐えて契約を完了させたのだった。
『・・・もういいよ、エストレア。』
そう言うと、エストレアはスッと立ち上がり、ふわりと笑った。
うん、顔がいいな・・・。というかいきなり態度が変わりすぎじゃないか?
『・・・嫌いはもういいのか?』
思わず聞いてみると、エストレアは私の発言を聞いてぷくりと頬を膨らませた。
「意地悪だなぁトモリは。・・・トモリが俺に呪いをかけたくせに。」
『・・・それはお前の自業自得だろ。見ろ、まだ痕が残ってるんだからな。』
「・・・・・・・・・、」
『・・・?おい、エストレア。聞いてるのか?』
首を絞められた時のことを思い出して首に付いてある痕を見せ付けると、エストレアは目を見開いた状態のまま固まった。
『エストレア、「ま、・・・って、ごめ、////」エッ、』
なんでそこで顔赤くするの??首絞めた痕だぞ??怪我と一緒だぞ??
「・・・あの、不謹慎なんだけど・・・俺が付けた痕だって思うと・・・その、」
恥ずかしそうに、だけどどこか嬉しそうに、顔を真っ赤にしながら話すエストレアは、今までとは違う顔をしていた。
「───────俺のもの、みたいで・・・興奮する・・・というか、」
・・・・・・・・・・・・は、
『オレノモノ・・・私が、お前のものってこと?』
「や、あの・・・ごめん、忘れて欲しいデス・・・。」
オレノモノ・・・オレノモノね。・・・なら、私のモノであるエストレアも、何か印が必要なんじゃないか?
何がいいかな・・・傷とか怪我は痕が消える場合があるからな。刺青とかは?・・・痛そうだな。
じゃあ真白と同じようにアクセサリーを送るか・・・あぁ、そうだ。いっそ私のモノだという印として、星約を結んだ相手全員に渡そうか。
何がいいかなぁ、目印として渡すわけだし、あんまり被らないようにしたいんだけど・・・。
真白にチョーカーを渡したから、チョーカーを渡すのは無しで・・・カルミアは剣とかの方がいいかな?戦闘中にアクセサリーは邪魔になるかもだし。エノテラには・・・そうだな、隠密系の能力だし目立たないように、バングルとか?
ディランには・・・蠍座をモチーフにした能力だし、蠍の飾りを付けたブレスレットを渡そう。
そうなるとエストレアには・・・うん、ピアスを渡そう。
でもエストレアの耳に穴は無いから、ピアッサーも作らないとな。
・・・そうだ、そういえばエストレアに聞きたいことがあったんだった。
『エストレア、お前に聞きたいことがあるんだが。』
「え、どうしたの改まって。俺何かした?」
『いや、そうじゃない。・・・何週間か前に、人助けをしなかったか?』
「・・・・・・・・・・・・。」
思い当たる節があるのか、エストレアはきまり悪そうな顔をして目を逸らした。
あの時助けた人間が私だってことには気付いているのだろう。でも、多分助けた後現場から少し離れた森の中に放置したのを気にしているのだと思う。
だから放置したことに関して怒るつもりではないということを伝えるため、私は口を開いた。
『・・・もし助けてくれたのがエストレアなら、言ってくれ。・・・・・・私と真白の命の恩人だ、ちゃんとした礼がしたい。』
「トモリ・・・・・・うん、確かに助けたのは俺だよ。でも・・・怒ってないの?森の中に放置したこと。」
確かに不親切な恩人だとその時は思った。でもその恩人がエストレアなら、話は別だ。
『───────危ないところだったから思わず助けてしまった。』
「・・・っ、え、」
『でも自分が街まで運んだら、嫌われ者の仲間だと思われるかもしれない。』
「・・・・・・、」
『ならばこの人達には悪いけど、ここに放置させてもらおう。その方が、この人達の為にもなるだろうから。』
「・・・・・・よく、俺の考えがわかったね。」
分かったというか、私ならこうするっていう考えを述べたまでなんだが。当たっているということは、やはり私達の考えや生き様は似ているらしい。
『・・・流石に分かる。似てるからな、私達は。』
「あはは、嬉しいなぁ・・・トモリとお揃いだ。」
嫌われ者っていうレッテルをお揃いって言うのもどうかと思うけど・・・そうだね、
『──────エストレアとお揃いなら、嫌われ者も悪くないかもな。』
「・・・・・・ッッ!!!//////」
わぁ、顔が真っ赤だ。でもそんなに照れるようなこと言ったか?
「・・・ずるいよ、トモリ。」
『ん?何がだよ。それより───────ありがとな。助けてくれて。』
なにかお礼がしたいんだが・・・と言いながら、ふと気になってしまってエストレアの顔を覗き込んだ。
『・・・え、エストレア?』
エストレアは泣きそうな顔で私を見つめていた。ギョッとして思わず名前を呼ぶと、エストレアは我慢出来ないと言わんばかりに静かに涙を流し始めた。
「ありがとう、っ・・・かぁ、ふへへ・・・生まれて初めて感謝されたかも・・・ッ、」
生まれて初めて、ね。その言葉だけで、エストレアがどれだけ苦労してこの世界を生きてきたのかが伺える。
親に愛されず、環境にも周囲の人間にも恵まれず、”暴食”という名に振り回されたエストレア。
大罪の瞳を持つと言うだけで、その人間は罪である。昔読んだ本に書いてあった言葉だ。
でもそれが罪になるのなら、何もしていないエストレアを悪意のない恐怖で傷付けた人間達にも罪はある。
優しいエストレアの心を捻じ曲げて、踏み躙った人間共。そんな人間共が正義で、何故エストレアが悪なのか。
こんな・・・初めての感謝の言葉に感動して、涙を流すような青年の心を傷付けることが、本当にお前らの正義なのかと、私は問い質したい気持ちになった。
でもいい、もういい。お前らはもう口を開くな。その口がエストレアを傷付けるのなら、その口が無為に人を殺す正義を騙るのなら、私は言の葉が音にならないように、エストレアの耳に届かないように、そっとエストレアの耳を塞ぐのだ。・・・そう、そうだ。
──────私がエストレアを守る
私が、私に似たこの青年を、全ての悪意から守るのだ。
・・・なんて、やはりらしくないけれど。でも、それでも・・・今のエストレアは、その昔私が切り捨てた弱い私にそっくりだから。だからだろうな、こんなにも守りたいと思ってしまうのは。
『──────大丈夫、大丈夫だよ。』
エストレアを抱き寄せ、頭を撫でて落ち着かせるように大丈夫だと語り掛ける。
そしたら更にエストレアは泣くもんだから、思わず苦笑いを零した。
──────こんな風に抱き締めて、頭を撫でて、大丈夫だよって言ってくれる誰かがあの時の私にいたのなら。
私はきっと、こんなにひねくれた人間にはならなかったのに。
『──────大丈夫。』
それはまるで、自分に言い聞かせるように。感情の籠らない声は、エストレアに届いただろうか。
なんて、どれもこれも、やはり私のためなのだ。
───────私が守りたいのは・・・昔の私だから。
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