第36話ヴァイス王国の現状
2人揃って城に戻ると、真白以外の3人が酷く驚いたように目を見開いた。まぁ、真白だけは分かってたように普通に出迎えてくれたけど。
そしてエストレアがディランと話がしたいと言うので、会議室に2人きりにしてみたのだが・・・これは、どういう状況だろう。
「・・・あちゃー、こうなっちゃったか。」
「えぇえええ!?な、何があったんですか!?」
「・・・・・・・・・はぁ。」
30分程2人きりにした後、部屋まで迎えに行き返事を待たずに扉を開けたまではいいんだが・・・扉の先に、何故か剣を構えて戦いを繰り広げる2人がいた。
それを見て、真白は察していたように苦笑いを零し、カルミアは驚きすぎて変なポーズを取ったまま後ずさり、エノテラは思考を放棄したようにため息をついて明後日の方向を見つめた。
かく言う私は、未だに2人の戦闘を見て呆然と突っ立っていた。
いや・・・いきなりのことで頭がついていかないんだけど。
『・・・真白。』
「なぁにトモリちゃん。」
『・・・・・・これは、なんだ。』
心底分からないと言うように真白を見つめると、真白は遠い目をしながら答えた。
「あの喧嘩はね・・・トモリが原因だよ。」
『そうか。・・・・・・・・・えっ、わたし?』
「そ、わたしわたし。多分、無事に仲直りはしたんだと思うよ?でもね・・・その後の雑談中に事件は起こった。」
「そんな大袈裟な・・・。」
エノテラの言う通り大袈裟だな。たかが喧嘩でしょうが。あんまり喧嘩しなさそうな2人が喧嘩してるから驚いただけで、別に喧嘩自体はいいんじゃないか?
「いいや、大袈裟なんかじゃないよ。なんて言ったって・・・喧嘩の理由は恐らく───────それだよ。」
それ、と言って真白が指さしたのは、私の首。3人の視線が私の首に集まる。
「・・・え、あのトモリ様?その痣どうしたんですか・・・?」
カルミアが心配そうに顔を歪めながら私の首の痣について触れてきた。
あまり触れてほしくない話題だったから今まで黙ってたんだけど・・・というかなんでこの痣が原因なんだ?
『・・・まぁ、色々とあってな。それで真白、何故この痣が原因なんだ?』
意味がわからなくて理由を聞くと、何故か呆れたような目で見られた。しかもエノテラからも似たような視線を向けられてる。
「「・・・・・・はぁ。」」
『「???」』
何をそんなに呆れているんだ、と同じく分かっていないカルミアと顔を見合せて首を傾げる。うん、やはりわからん。
「トモリちゃんってさぁ・・・色々と自覚はあるのに鈍感だよね。」
「しかも自覚がある分質が悪いです。」
『いやだから何が。』
自覚はあるのに鈍感とか、自覚がある分質が悪いとか、もしかしなくても悪口か?
「・・・あっ、俺分かりました!つまりディラン陛下はシャルール様とトモリ様が仲良くなって嫉妬してるんですよ!!」
『嫉妬ぉ?』
どっちに?てかそれと首の痣になんの関係が?
「まぁ、カルミアにしてはいい線いってるけど。でもそれだと首の痣のことはどうなるんだ?」
「あ。うぇぇえ、じ、じゃあ首の痣はシャルール様がつけたとか!?」
「ピンポーン、カルミア大正解!多分ねぇ、ディランはトモリちゃんに痣を付けたことに怒ってるし、嫉妬もしてるんだよ。」
『・・・ディランの戦う理由はそれだとしても、エストレアには戦う理由なんてないだろ。』
でもよく見たら2人ともやる気満々だし。つまり両者共に殺気立っているのだ。
「多分、トモリちゃんとの仲の良さを自慢されたんじゃないかなぁ。」
『・・・それで怒ったと?』
「恐らくはそうかと思われます。」
いやくだらないな・・・。仲良しアピールにキレたってこと?歳上なんだからもっと大人の対応を見せようよエストレア・・・。
「・・・俺の方が仲良いし。」
「僕の方が仲良い!!」
バチバチと睨み合いながら剣を交える2人。今はどちらが私と仲がいいかという話に切り替わっているようだった。
『おーい2人とも、少し落ち着け。』
声を掛けてみるが応答は無い。うん、これは周りが見えてないな。
「大体出会ったのだって僕の方が先だし!仲良くなったのも僕の方が先だ!!」
「時間なんて関係ないよ。というかディランは歳下だから、対象外なんじゃないの?」
「むっ、歳とか関係ないし!僕の方が仲良いから問題ないもん!」
「まぁ俺はもうベッドで仲良く寝た仲だけどね。トモリの寝顔可愛かったなぁ。」
「なっ、ぼ、僕はトモリと手を繋いだことあるし!」
・・・なんかマウントの取り合いに発展してないか?それに私の話題だと思うと恥ずかしい・・・。
「・・・ベッドとか手とか言ってますけど、いいんですかあれ。」
エノテラはそう言うと、チラリと真白を見た。何故そこで真白を見たのか知らないが、私も流れに身を任せて真白の方を見る。
真白は依然として余裕そうに笑ったまま、喧嘩をする2人を見下すように言い放った。
「だからなに?って感じかなぁ。だって、ボクの体の中にはトモリちゃんの魔力が巡ってる・・・つまりボクの中にはトモリちゃんがいるんだよ。それにトモリちゃんが一番好きなのは、言うまでもなくボクだし。」
無駄な争いご苦労さま、なんつって。と盛大にディランとエストレアを煽る真白。いつの間にか2人は真白を見ていて、その顔は怒りに染っていた。
「・・・言ってくれるね。てかトモリの1番だとか勘違いも甚だしくない?トモリの1番は俺だし。」
「いや僕だから!エストレアも真白も自意識過剰なんじゃない?」
どいつもこいつも自意識過剰だからな?私の一番は私だし。2番目はまぁ・・・真白、かもしれないけども。
「あ、あの皆さん一旦落ち着きませんか?少し冷静に・・・、」
「そうですよ。こんな無駄な口論をする前にやるべきことがあるのではないですか?」
『あぁ。お遊びはやめにして、そろそろ会議に移るぞ。』
真剣な声でそう話し出すと、3人は喧嘩をやめてこちらを見た。さて・・・そろそろ本題に入るか。
私は近くの椅子に座り、5人にも椅子に座るように促す。
カルミアは椅子に座ることに遠慮していたが、エノテラに何か言われた後直ぐに椅子に座った。力関係が見え見えだな・・・。
『まずは報告から。えーと、この度めでたくエストレアが仲間に加わりました。』
「わ!おめでとうございますトモリ様!」
ぱちぱちと拍手で祝福してくれたのはエノテラとカルミアのみ。エノテラは結構どうでもよさげだけど。
そして真白は当然だと言うようにニコニコと笑っていて、ディランは何故か不満げ。エストレアはふわふわとした顔で笑っていて、実に嬉しそうだった。
「ね〜、そんじゃさぁ、あの約束を果たしてもらおうかなぁ〜。」
ニマニマした顔でそう言った真白。・・・あの約束ってどの約束のこと?
「あぁ、トモリ様に惚れたらシャルール様の負け、惚れなかったらシャルール様の勝ちで、負けた方は勝った方のお願いを何でもひとつ聞く、でしたっけ。」
エノテラの説明のおかげで朧気だけど記憶が蘇ってきた。そういえばそんな約束してたな。
「でもトモリ様、どうやってシャルール様を惚れさせたんです?」
気になります!と顔に書いてあるカルミアが、挙手をして質問してきた。
でもそれ、私に聞くんじゃなくてエストレアに聞いた方が早いよな?
と、期待に満ち満ちた顔をしたカルミアから目を逸らしてエストレアを見ると、エストレアは意図を汲んでくれたのか、それはもううっとりとした顔で話し始めた。
「トモリはね、初めて俺に好きって言ってくれたから。」
だから俺も好き♡と甘い声で言ったエストレアに、唖然としたのはこちらだった。
『え・・・こんな美少女捕まえて理由がそれ?可愛すぎるからとかそういうのじゃなく??』
「トモリちゃんって鈍感な割に自分の顔の良さはしっかり理解してるよねぇ・・・。」
『鈍感じゃないですけど??変な言い掛かりはやめてくれるか??』
大体私みたいな美少女他に居ないからな?1億年に1度の美少女だぞ??
「もちろんトモリの顔とかも好きだけど・・・やっぱり1番は俺の事が好きなところかな。」
聞いたこともない理由・・・そんなこと前の世界で聞いたら寒すぎて引いてた自信があるね・・・。
「な、なるほど・・・勉強になります!!」
「何が勉強になるんだバカカルミア。・・・ゴホン、すみませんトモリ様。どうぞ続けてください。」
『あ、うん。』
エノテラはやっぱりクールというかドライというか・・・。絡みづらいんだよなぁ。
『・・・で、真白。願いを何にするかだが・・・。』
「考え中だから思いついたら言うよ。それでいいよね?シャルール卿?」
「・・・その名前はもう捨てた。俺はただのエストレアだ。だからエストレアって呼んで。」
そう言って真白を見つめたエストレアに、迷いの色は無かった。後悔してるんじゃないかと少し思ってたけど・・・杞憂だったみたいだな。
『・・・次はディランの戴冠式についてだな。』
話を元に戻すべくそう言うと、真白が小さく手を挙げて発言する。
「それについては色々落ち着いた後になると思うよ〜。まずはこの国を立て直して、植民地問題についても考えなきゃ。」
なるほどな。あんなことがあった後で国民もまだ動揺してるだろうし、少し間を置いて考える時間をあげた方がいいかもしれない。
植民地問題についても・・・・・・・・・・・・・・・いや待て。・・・植民地問題、だと?
『待て。待て真白。今植民地と言ったか?』
「え?うん・・・・・・あっれぇ、もしかしてトモリちゃん知らなかったの〜?」
ニヤニヤしやがって・・・と苛立ちを覚えたが、知らないものは知らないのでグッと押し黙る。
そしてこの国の現王であるディランを見ると、ディランは苦笑いを浮かべつつも教えてくれた。
「ヴァイス王国はね、隣国のナハト帝国の植民地・・・つまり支配国なの。だから今回の件も、ナハト帝国に報告しなきゃならない。」
『・・・なるほど。何故あんなクズみたいな王様がこの国で生きていけるのか疑問だったけど・・・そのナハト帝国がバックについてたってことか。だから前王は好き勝手できた。そして国民は前王が怖かった訳ではなく・・・ナハト帝国を恐れていた、ってことであってる?』
「せーかい!さっすがトモリちゃん!頭の回転が早いね〜!」
「でも結構有名ですよね?ヴァイス王国が植民地だってこと。トモリ様って結構箱入りだったんですか?」
箱入りねぇ・・・まぁ箱と言うより結界だけど。間違っちゃいないよなぁ。
『まぁ、外界と断絶された場所にいた、とだけ。』
「まさかムショ暮らしだったんですか?」
『おい、やめろエノテラ。カルミアがショックを受けたような顔で見てくるから。』
「違うんですか。なんだ。」
『なんだってなんだ。お前私に対して容赦も遠慮もなくなってきてないか?』
「え?必要ですか?」
『必要・・・って言いたいとこだが、まぁいい。遠慮がなくなってきたならいい兆候なんじゃないか。』
多分。きっと。エノテラに舐められてる訳では断じてない。はず。
「・・・外界と断絶された場所、ね。」
真白が一人ポツリと呟いた。それを聞き取れたのは私だけだったようだが、真白なら既に私が言った場所がどこなのか特定しているかもしれないので、敢えて聞かなかったことにした。
どうせ後で話すんだし、今じゃなくてもいいと思ったのだ。
『で、話を戻すが。植民地問題について・・・だったか。』
「うん。ナハト帝国はヴェリタ軍事皇国っていう国と仲が悪くて、年がら年中戦争をしてるんだけど・・・このヴァイス王国もよく戦争に駆り出されてて、死傷者は耐えない。」
俺も一度戦争に参加したことがある、とエストレア。流石だな。元魔法騎士なだけあって、そういう情報もよく知ってるらしい。
「今戦争に巻き込まれれば、大きな被害が出るのは確実だねぇ。」
「えっ、でも次の戦争は・・・、」
「2週間後。・・・特に今回の戦争は負けられないでしょうし、確実にヴァイス王国の兵を出兵させろと命令が来ていたはず。」
真白の言葉にカルミアが焦ったような反応を見せる。その理由は、次にエノテラが話したことで分かった。
・・・私達には出兵の命令が来てたかどうかなんて分からない。なぜなら知っている人・・・つまりお偉い貴族様はほとんど牢に幽閉しているから。
でもエノテラの話が本当なら、確実に命令は来てたんだろうけど・・・エノテラの言う、負けられない理由っていうのが気になるな。
「ねぇ、その負けられない理由ってなんなの?」
私と同じことを思ったのか、ディランが不思議そうに説明する。その質問にエノテラは話しずらそうに少しの間押し黙っていたが、暫くすると渋々という様子で話し始めた。
「負けられない理由っていうのは、まぁ単純に喧嘩を売られたからです。」
『喧嘩?ヴェリタ軍事皇国が、ナハト帝国に喧嘩を売ったってことか?でも2つの国は仲が悪いんだろ?喧嘩の売り買いなんて日常的に行われているんじゃないのか?』
「いえ、今回喧嘩を売ったのは国ではなく────────異世界からの召喚者、つまり」
─────────勇者と呼ばれる者達です
『ゆ、』
───────────────勇者?
勇者ってことは・・・まさか、私の友達であるあの3人も・・・。
『(───────戦争に、参加・・・)』
・・・・・・させられている、って、・・・こと。
『───────────は?』
瞬間、空気がピリついた。膨大な量の魔力が部屋中に充満し、ガタガタと窓を鳴らした。
突然魔力を垂れ流し始めた私に驚いたのか、或いは怒っている私を見て驚いたのか、5人は目を見開いて私を見ていた。
特にカルミアなんかは怯えて・・・エノテラも、私を警戒するように見てて・・・、あれ?
──────────もしかして私、怒ってる・・・?
それを自覚した途端、熱が冷めたように体の芯が冷えていった。
誰かのために怒れる心がまだあったのかと感心する。何に怒っているのかはさておき、私にも怒りという感情があったのだ。
『・・・・・・・・・・・・続けて?』
何事も無かったかのようにエノテラに言うと、エノテラは警戒するどころが寧ろ呆れていた。
カルミアも私が元に戻ったのにホッとしてるいる。真白とエストレアとディランの反応は見てなかったけど、惜しいことをした。ちゃんと見ておけば珍しいものを見れたかもしれないのに。
「・・・・・・え、怒った?今、トモリちゃん、怒ったの?」
思わずといったように言ったのは真白だった。どういう意味だと睨み付けるが、真白には効果がないどころか寧ろ怒ってないか?
「誰に?勇者に?それともヴェリタ軍事皇国に?ねぇ、誰のために怒ったの。ボクも、ボクですらトモリちゃんのそんな姿見た事ないのに・・・!」
「そうだよ!トモリ、僕と喧嘩した時ですらそんな顔してなかった!今本気で怒ってたよね!?ね!?誰に!?誰に!!?」
「・・・・・・え?俺、首絞めたよね?首絞めても怒らなかったのに、なんで今怒るの?ねぇ、なんで?・・・誰のために怒ったの?」
「ヒェッ・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・。」
『・・・・・・・・・。』
カルミアがエノテラの陰に隠れた。いや、隠れたいのこっちね?なんか怖いっていうか不気味だし?
思わず無言でエノテラを見たが、エノテラは目が合った癖に容赦なく逸らしやがった。いつか絶対締めてやる・・・!
『・・・えと、勇者の中にね?その・・・友達?がいて、』
「「「聞いてないよ???」」」
『う、うん、言ってないしな・・・?その、それで・・・あの、友達が戦争に参加させられてるって思ったら・・・ね?その、つい・・・カッとなって。』
しどろもどろになりながらも答える。しかし3人の目は依然怖いまま。うん、帰りたい・・・。
「名前は?」
『エッ、名前・・・』
「友達の名前。何ちゃん?」
真白さぁん?怖い怖い目がとにかく怖いって・・・!目に光が宿ってないし・・・何より暗い・・・!!
てかちゃん確定なの?君は?君は許されないの?え??君の友達しかいませんが??悪かったな女友達いなくて!所詮ボッチのコミュ障だよ!!
『な、なるちゃんとゆずちゃんとちはやちゃん・・・かな!』
ごめん3人とも・・・と心の中で謝る。今この瞬間を乗り越えれば全てが上手くいくんだ・・・多分。だから女の子ってことにしといてください・・・。
「・・・・・・エノテラ。」
「はい。」
「勇者達の名前を全てフルネームで調べて。それから戦争についての情報も集めること。」
「承知しました陛下。」
「それからカルミア。」
「は、はい!」
「お前は幽閉してる貴族たちに情報を聞きに行け。戦争についてのことと、それから何でもいいからナハト帝国のこと。あとは勇者や勇者や勇者について。」
「はいっ!!必ず!!」
2人はディランの命令に従い部屋を出た。その瞬間私は悟った。あ、終わったな・・・と。
「さて・・・トモリ。ゆぅーっくり話を聞こうか。」
エストレアの爽やかな笑顔が、今は悪魔の笑みに見えたのだった。
その後どうなったか?・・・・・・聞かないでくれると助かる。
こうして最悪な形で会議は終わり、着々と今後の流れが決まっていったのだった。
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