第37話再会のための別れ


会議の次の日。突然慌ただしくなった城内を見て回り、最終的にディランの部屋に落ち着いた。



その部屋には既に真白とエストレアもいて、真白は何かを書いている。内容は分からないけど。エストレアはディランの書類仕事の手伝いをしていた。なんだかんだ仲良いんだよなぁこの2人。



と1人だけ暇なのでボーッと様子を見ていたのだが、何かを思い出したような顔になったディランが、パッと笑顔になった。



「そうだトモリ。褒賞は何がいい?」



何でもいいよ、と付け加えられたその言葉に、待ってましたとばかりに顔を上げれば、流石に呆れられた。



「余っ程何か欲しいものがあったんだねトモリ・・・。」



『ゴホン、まぁね。で、褒賞なんだけど・・・土地が欲しいんだよ。』



「土地?」



私の土地が欲しいという言葉に反応したのはディランだけでなく、エストレアと真白も顔を上げてこちらを見た。



『あぁ。でも欲しいのは普通の土地じゃなくて─────────沈黙の森、だ。』



「・・・・・・・・・え?」



バサバサバサ、と紙を落とす音が聞こえてそちらを見ると、エストレアが書類を落とし固まっていた。



・・・ま、無理もないか。沈黙の森って入れない・出れない・危険の三拍子が揃った超危険地帯だもんね。



そこで1年間暮らしてた私が言えたことじゃないけど、沈黙の森が危険だってことはここにいるみんなの反応を見てればわかる。



でもあそこ危険じゃなければ最高なんだぞ?誰も来ないし静かだし実り豊かだし。余生を過ごすのにもってこいの森だ。



・・・いや、まだ余生じゃないけどな?



『・・・おーい、ディラン?』



「・・・・・・・・・。」



ダメだこりゃ。完全に固まってる。というか・・・真白はどんな反応をしたんだろ?



気になって真白の方を見ると、パチリと目が合った。暫く見つめ合った後、真白はニコッと綺麗な笑みを浮かべた。



「もちろんボクの部屋もあるよね?」



『えッ、』



「ね?」



笑顔の圧に屈しこくこくと何度も頷く。真白ってば当たり前のように私が沈黙の森に住んでること見抜いてたな・・・?白の眷属ってやっぱ凄い・・・。



「って・・・まさか沈黙の森に住んでるの!!?」



「えっ、そうなの!?」



ディランの言葉にエストレアも驚く。良かった、ようやく正気に戻ったみたい。



『うん、1年前からずっと。住み心地いいぞ?』



「いやいやいや、あそこ普通の生物が生きられないくらい濃い酸と毒で満ちてるんだよ?普通は死ぬんだよ!」



「あはは、ディランは知らなかったっけ?トモリちゃんは酸と毒の属性を持ってるんだよ〜?だから多分、沈黙の森の中に入っても平気なんだと思う。」



「・・・そこ、俺達が入っても大丈夫なの?」



不安そうなエストレアにこくりと頷いて大丈夫だと伝える。・・・てか当たり前のようについてくる気だな?まぁ連れてくけどさ・・・。



ディランは・・・この国の王としての務めがあるから連れて行けないけど。



「・・・褒賞の件については・・・とりあえず、分かった。でも・・・これからどうするの?沈黙の森に帰るの?」



『うーん、私の目的は勇者の友達を探し出す事だったんだけど・・・もう場所わかったしなぁ。』



沈黙の森に帰るのもいいけど・・・折角外に出たんだし、あの3人に会ってから帰るのも悪くない、か?



でもなぁ・・・ヴェリタ軍事皇国ってなんか危険そうだし・・・あの3人に会うならもれなく他のクラスメイト達とも会うことになりそうだし。



「行くだけ行ってみればいいんじゃない?何より楽しそうだし♪」



『・・・真白がそう言うなら行ってみよっかな。』



「やった!いつ行く?」



『1週間後くらい?』



「え、ホントに行くの!?ヴェリタ軍事皇国に!!?」



ディランってばどうしたんだ?そんな焦ったような顔して。



「・・・1週間後なら、ちょうど戦争中じゃない?」



『うん、だから戦争の最中に会いに行く。』



「いやいやいや!!いくらなんでも危険だよトモリ!」



普通に行く方が危険じゃないか?一応私、ディランの騎士だよ?つまりヴェリタ軍事皇国からしたら敵国の植民地の騎士って認識になるわけで。



そんな得体の知れない人が、勇者に会えるわけが無い。



でも戦争中なら話は別。なんなら戦乱の中突っ込むのもアリだな。



『・・・・・・私のことよりもディラン、戦争はどうなったんだ?』



分かりやすく話を逸らせば、ディランはまたもや呆れたような顔になったが、しょうがないとでと言いたげな顔でため息をついた。



「戦争については、まだ家臣達と相談中。戦争に参加するか、無理だと思うけど戦争に参加しないか・・・あるいは、」



『───────叛逆、か?』



「・・・・・・・・・うん。」



私的には叛逆する方が楽しそうだと思うけど。大体、ナハト帝国ってそんなに怖い国なのか?いっそ今回みたく革命でも起こせばいいのに。



「・・・・・・でも、叛逆にはトモリ達の力が必要不可欠。だからナハト帝国に叛逆する場合は協力して欲しいんだけど・・・・・・そうも言ってられなくなりそうなんだよ。」



「それ、どういう意味?トモリなら絶対協力してくれると思うけど・・・。」



まぁ協力するけどさ、エストレアはなんで私のことに関しては自信満々な感じなの?



「・・・・・・あぁ、そ〜いうこと。家臣達に反対されてるんでしょ〜。」



「・・・・・・・・・うん。」



・・・なるほど。いくら私が革命を起こしてこの国を危機から救った英雄と言えども、所詮は何処の馬の骨とも分からない冒険者。いつ裏切るかも分からない余所者を、計画の主軸として組み込むことはしたくないってか。



賢明だな。それに、無償で信じられるよりもそうやって疑われる方がほっとするし私も遠慮なく疑える。やはり、こっちの方が楽だ。



家臣達の心情としては、これ以上この国に関わらないでほしい、って感じかな。



そりゃそうだ。私は勇者みたいなみんなの英雄でヒーローでもない。そんなものになりたくも無いし、なる気もない。



・・・目立つつもりはないし、今ここで手を引くのが最善手なんだろうけど。一度手を出した手前、全てを放り投げてこの国を去るのはなんか違う気がする。



でも・・・私が───────色欲の瞳を持つ私が、運に見放され見知らぬ誰かさんに呪われた私が・・・弱い私が、これ以上首を突っ込むべきではないのかもしれない。



運の悪さは伝播する。私は私以外の人を、危険な目には合わせたくない。



『・・・だったら、私達は手を引く。後はディラン達この国の人間が何とかしてくれ。』



「っえ、トモリ・・・!!?」



『・・・ただ、見捨てる気はないからどうにもならなくなったら私を頼れ。・・・・・・ディランは、家族・・・だから。特別に、面倒事でも引き受けてやる。』



「・・・ッ、うん、・・・うんっ!!ありがとう、ありがとうトモリ・・・ッ!!」



『・・・あぁ。それから呪いの関係でカルミアとエノテラに会いに顔を出すから、2人にも言っておいてくれ。』



星約を結んだから一先ずは大丈夫だと思うが、やはりあの二人には早く私のことを好きになって貰わなくては。



「言っといて・・・って、もしかして今すぐ出ていくつもり!!?」



『あぁ。長居は無用だし、色々やりたいこともあるしな。』



荷物が置いてある部屋に向かうべく扉を開ける。悲しそうな顔のディランが目に入ったが、どうすることも出来ないのでなるべく優しく微笑んでおく。



・・・そんな悲しそうな顔されると、出ていきにくいっつーの。バカディラン。



『───────真白、エストレア・・・行くぞ。』



2人を呼ぶと、2人は嬉しそうな声色で返事をして私の後ろに続いた。



それを見届けてから、私は部屋を出た。振り返ることは無かった。・・・サヨナラも、言わなかった。



『またな、ディラン。』



───────────また逢う日まで。

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