第32話似た者同士


拝啓真白、お元気ですか。私は今絶賛大ピンチです。是非助けて欲しいというか助けろ。



何故かって?そんなのエストレアのせいに決まっているじゃないか。



そう、時は数分前に遡る・・・。



────────────────────



城を出た私達は路地裏で誰が言うでもなく同時に止まった。



そろそろいいだろうと判断し、エストレアに話しかけようとした途端、エストレアはじゃあね、と言って私に背を向けたのだ。



は?と思わず声に出しながら、慌ててエストレアの腕を掴んだ。そしたらその次の瞬間光が私達を覆ったのだ。



マズいと思ったものの、ここでエストレアを離せばもう一生会えない気がした私は、驚くエストレアを視界に映しながら光に包まれた。



するとどうだろう、いつの間にか知らない場所にいるでは無いか。しかもそこは木で建てられたボロボロの小屋の中だった。



『────────は?』



再度呟く。どうなってるのか理解不能のままに固まっていた私は、同じく驚き固まっていたエストレアが動き出したことに気付かなかった。



ボスン、と音がして、またしても視界は別の場所を捉えた。しかし別の場所に移動した訳では無いらしい。なんせ見えているのは天井と、それから────────、



────────人を殺せそうなほど鋭く冷たい殺気を零し、私を睨み付ける───



────────────エストレアの顔なのだから



そう、つまりは押し倒されたのだ。それも、感触からしてベッドの上に。



それが今、真白に助けを求めた状況であった。



しかしどうだろう、ベッドに押し倒されたというのに甘い雰囲気など微塵も感じられない。



それは先程述べたようにエストレアの殺気と人殺しのような雰囲気のせいもあるのだが、もう一つ。



エストレアは躊躇なく首を絞めているのだ。私の首を、思い切り、力任せに。



だからほんとはこんなに悠長に何かを考えてる余裕などないのだが、考えてないと意識が飛びそうなのだ。察してくれ。



『っ、ぁ・・・っ、ぇす、と、れあ・・・ッ、』



「───────気安く名前で呼ぶな。」



それは確かに、気安かったかもしれない。・・・って、こんなこと考えてる場合じゃないんだった。



このまま絞め殺されるのは・・・うん、別にいい。いいんだけども、いいんだけどさぁ・・・。



──────さっきから目が合ってるんだよね



私と、エストレアの目が、ばっちり。



やはり真白の言うことは全て正しいな、と改めて感じた。それにしてもまさか、こんな強硬手段すらも読んでいるなんて。流石は白の眷属だ。



というか、ね。死んでもいいって言ったけど、やっぱり訂正する。



死ねないよ、これは。ずるいよ、こんなの。だって私が死ねば・・・私に呪われたカルミアとエノテラ、それとついでにアーテルも死ぬ。



エストレアは自業自得だとしても、3人は違う。



────────私が死んでも、呪いは解呪されない。



なんて、厄介。なんて残酷。私が父の所へ行くことも、この世界やこの呪いから逃げ出すことも許さないなんて。



─────────なによりも、



私が、私自身が、恐怖や不安から逃げ出すことを、私の呪いで誰かが死ぬことを、許してくれない。



──────嗚呼、本当に・・・厄介な呪いだなぁ



『シャ、ルール・・・、卿・・・ッ、』



「しぶといなぁ、まだ息があるんだ?」



ウザったそうな顔をしたエストレアは、更に力を込めてきた。



指が喉にくい込んでいるのがわかる。私は思わずエストレアの手を掴んで、息を吸い込もうと足掻いた。



──────手に触れた瞬間、エストレアがビクリと反応したのには気付かないふりをして、私は力づくでエストレアの手を引き剥がし、息を大きく吸い込んだ。



『──── ッ、《害毒針(ポイズンポインター)》!』



「なっ、」



驚いたエストレアは、避けることもせずに毒針を食らった。



腕にひと針刺さっただけだが、どうやら効いてくれたようでエストレアは目を閉じてバタりと私の方へ倒れ込んできた。



それを避けられずエストレアと一緒にベッドに倒れ込む。エストレアが私の体の上に乗っていて重いが、今は仕方ないだろう。



『っ、はぁ、・・・はぁ、はぁっ・・・けほ、けホッ、はぁ、』



というか・・・しんどすぎるでしょ・・・。首締められたのなんていつぶりだろ・・・。



『死んで、はない・・・よね?』



息も大分整ってきたところで、エストレアの脈を測る。うん、体がくっついてるから脈どころか心臓の鼓動が聞こえてくる。普通に生きてるな。



打ち込んだ針の毒は睡眠作用のある毒のはずだから、多分あと数時間すれば起きるだろう。



それまでに・・・エストレアの鑑定と、この部屋の物色をしたいんだけど・・・。う、動いても起きないよね?



私はゴクリと唾を飲み込み、緊張感を抱きながらもエストレアの下から抜け出した。



とりあえず起きることはなかったので、まずエストレアを鑑定してみる。



『《鑑定(ステータス)》』



エストレアが私よりもレベルが下なら鑑定出来るはずだけど・・・っと、出た。てことは私よりもレベル低いのか。



えぇっと・・・名前はエストレア・ブリュム・ドゥ・シャルール。歳は18・・・ってことは同い年か。



職業は伯爵家三男と魔法騎士、それから冒険者。ふむ、エノテラに聞いた情報とほぼ差異はないな。魔法騎士ってのは少し気になるけど、これは多分過去の職業だろう。



そして・・・種族は人。状態異常は・・・って、え?



『魔吸の呪い・・・?』



詳細は・・・半径5m以内の人の魔力を吸い取り続ける・・・?ってことは、本当にエストレアが吸魔事件の犯人なのか?



・・・いいや、決め付けるのはまだ早い。とりあえずは鑑定結果を端から端までしっかり確認しよう。



『レベルは・・・172?意外と低いな。さっきは私と互角の戦いをしてたのに。』



私のレベルは270。つまり約100はレベルが違うのだ。それなのに互角だった。ということは・・・。



『・・・やっぱり。魔力量が判定不可能になってる。つまり、底がない。無限の魔力を持ってる。』



納得した。それだけ魔力があれば100くらいのレベル差は埋められるだろう。



さて、次は・・・っと、これは・・・。私以外でステータス数値がマイナスの人初めて見た。



なんと、エストレアは魅力がマイナス100万だった。



魅力は他人に好かれているか否かを判別する数値だ。この数値を見て悪人か善人か決める人もいるらしい。



それがマイナスということは・・・やはりエストレアは相当な嫌われ者なのだろう。それも、多分この街のほとんどの人から嫌われてる。



嫌われてる理由は・・・きっとさっきの呪いだ。エストレアが魔力を吸い取るから。だから人々はエストレアを恐れた。



それに、その呪いは恐らく・・・、



─────────大罪系スキルの一つ、暴食の副作用だろう。



つまり私達は、色んな意味で似た者同士というわけだ。



まさかこんなところにいるなんて。《暴食の瞳(グルマンディーズ)》の保持者が。



・・・あぁ、困った。最近こんなことばかりで嫌になる。私は私のためだけに生きていたいのに。



・・・それでもなんだか、少しだけ・・・放っておけないと思ってしまったのだ。



あぁ・・・多分これ、真白の手のひらの上だなぁ。それでも真白だからと許してしまう私は、相当真白が好きらしい。



・・・しょうがない。もう暫くは、手のひらの上で踊ってあげますか。



そう、あくまでも─────真白のためだ。



私はそう言い訳をして、寝そべるエストレアにそっと掛け布団を掛けたのだった。


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