第31話予見した懐柔


城へ着くと人気のない道を選び、エストレアを客間へと連れて行った。



そこには何故か真白がいて、やほーとか言いながらソファで寛いでいた。



どうしてここがわかったんだと思ったものの、まぁ真白だしと謎に納得した。



「もうすぐ来ると思ってたよトモリちゃん!あ、紅茶飲む?それとも珈琲?」



『・・・・・・真白。』



「あはは、冗談だよ。オレンジジュースでいい?」



『・・・あぁ。』



いや、別に紅茶も珈琲も飲めない訳ではなくて・・・ただ苦手というか・・・とにかく子供舌というわけでは断じてない!



「・・・意外でした。子供舌なんですね。」



『いや、今はオレンジジュースの気分ってだけだ。』



「嘘ばっかり〜。あ、そうだ。一応挨拶しておかなきゃね。」



挨拶?誰に・・・と真白を眺めていると、真白はニコリと微笑みながらエノテラに向かって手を差し出した。



「ボクは真白!これからよろしくね〜。」



「!!・・・まさか、あなたも。」



「うん、ボクはトモリちゃんの相棒だよ〜。キミもトモリちゃんと契約したんでしょ?」



「えぇ、まぁ。・・・エノテラ・テトラプテラです。・・・というか、いいんですか。ここでこんな話して。」



確かに信用出来ない人に契約の話を聞かれるのはまずい。でも、真白だから何か考えがあるんだろう。



若しくは、エストレアになら聞かれても問題ないと確信し得る程の何かをエストレアから感じたのか。



「いいんだよ〜。だってこの人、エストレア・ブリュム・ドゥ・シャルールでしょ?」



「そうですけど・・・この方はこの国のシャルール伯爵家の三男殿ですから、敬称は付けてください。」



「はいはい、エノテラはお堅いなぁ〜。えっと・・・さっきの話だけど、シャルール卿なら大丈夫だよ。」



『・・・何を根拠に言っている。』



真白の言うことなら大体は何でも無条件で信じるが、流石に目の前で私たちを睨み付けている彼が、私達の秘密を知ってても大丈夫っていうのは無理がある。



「だってぇ───────彼、きっとトモリちゃんの仲間になるから。」



『・・・・・・はっ?』



「・・・・・・、」



エストレアが、私の仲間になる?・・・つまり、星約を結ぶことになると?・・・いやいやいや、流石にそれは無いだろう。



だってエストレア、私の事すっごい睨み付けてくるもん。親の仇くらいの鋭さを含んでるもん。



「・・・・・・さっきから聞いてれば・・・俺なら大丈夫だの仲間になるだの・・・随分と勝手なことばっか言ってくれるね。」



「えー、だって事実だしぃ?──────断言するよ。キミはトモリちゃんに堕ちる。そして、忠誠を誓う。再度言うよ、これは確定した未来だ。ボクには分かる。」



『いやいやいや、ちょ、え・・・真白さーん・・・?』



「・・・面白いじゃん。その戯言が本当かどうか、確かめてあげる。」



『いや、え・・・あのー・・・?』



「じゃあ勝負だ♪もしトモリちゃんに惚れたらキミの負け。惚れなかったらキミの勝ち。勝った方は負けた方になんでも言うことを聞かせられる。これでどう?」



「いいよ、乗った。期間は?」



「1週間。1週間以内に絶対にトモリちゃんはキミを落とす。だからキミはできる限りトモリちゃんと行動すること。」



「この女と一緒に?・・・後悔しても知らないよ。」



「ふふ、後悔するのは君だよ。」



バチバチバチ、と両者の間に火花が散る。なんか当事者を置き去りに勝負事が始まったんですけどどういうことだろう・・・?



真白なりに考えがあるんだろうけど、一言言って欲しかった・・・。



「・・・あの、お疲れ様です、色々と。」



『その哀れみの目をやめろエノテラ・・・。』



そんな可哀想なものを見る目で見るな、もっと悲しくなってくる。はぁ、なんか色々と憂鬱だ・・・。



既に疲れ果ててソファにだらんと座っていると、トントンと扉がノックされた。



「し、失礼します!陛下がおいでになられました!!」



『あぁ、カルミアとディランか・・・。2人とも入れ。』



「は、はい!失礼します!!」



「っ、トモリ、エストレアは!?!?」



カルミアが入ってすぐに部屋に入ってきたディランは、エノテラに抑えられるエストレアを見て目を見開いた。



「エストレア!っ、おい、縄を解け!」



「いや、しかし、」



「いいから!」



「・・・かしこまりました。」



エノテラは渋々縄を解いた。解放されたエストレアは、自由になって喜ばしいはずなのに表情は優れない。しかも、どういう訳かディランを見ないようにしている。



「エストレア・・・僕だよ、ディランだよ、僕のこと覚えてない?」



「・・・・・・・・・。」



「エストレア・・・!!」



エストレアは黙ったままだ。それも、俯いたまま顔をあげようとしない。何か訳があるのかと思ったが、フードで顔を隠しているしもしかしたらそこに理由があるのかも、と当たりをつけて展開を見守る。



「・・・・・・俺は陛下のことを存じ上げません。」



「ぇ・・・ど、どうして・・・エストレア!!」



「──────知らないと言ってるんです。あなたの事など、知りません。」



「・・・ッ!!」



ディランは知らないと言われて怖気付いたのか、三歩ほど後ろに下がった。その目にはショックの色が滲んで見えた。



「・・・は、はは・・・ごめん、エストレア。迷惑、だったよね。・・・うん、ほんと、ごめん。」



ディランはなんとか笑顔で言葉を紡いだ。ディランの震え声を聞いて少しエストレアが反応したことは、ショックのせいで気付いていないのだろう。・・・というかこれは、周りが見えてないな。



─────────あぁ・・・いや、そうでもないか。



「────────」



泣きそうな顔で私の方を見た。そして、トモリ、と確かに口を動かした。



それは確かな、ディランからのSOSであった。



『───────エストレア・・・いや、シャルール卿?』



「・・・・・・なに。」



『よく分からないが勝負はもう始まっているのだろう。仲良くなる意味も込めて二人で散歩にでも行かないか。』



「・・・・・・うん。」



エストレアもディランには思うところがあるようで、素直に私の提案に乗ってきた。



「・・・トモリ。」



『”──────大丈夫だ。”』



「!!”と、トモリ・・・?”」



『”絶対にエストレアとディランでまた話をさせてやる。だからそれまで待っていろ。”』



「”!・・・うん、うん・・・っ、待ってる・・・!!”」



ディランの返事を聞き、エストレアを伴って部屋の外に出た。



城を出るまで、二人の間に会話は無かった。

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