そして死神は道化となる

第30話卑怯の代償


カルミアとエノテラを説得、というか主にカルミアを説得して、私は窓から飛び降りた。



先程エストレアという男がいた場所に走って向かったのだが、そこには既に誰もいなかった。



もう違う場所に行ってしまったとか、或いは瞬間移動系の魔法で移動したのか、と推測していたのだが、探索魔法に人の気配が引っかかったことに気づき、視線をそちらに向けた。



・・・止まってる?それも、気配を消して?ということは・・・まさかとは思うけど、私達の気配に気付かれた?あの距離から?



有り得ない、とは言いきれないけど・・・そんな超人的なこと、余程探索魔法のレベルが高いのか・・・それとも、それだけエストレアという人物が強いのかしか考えられない。



どちらにしろ、捕まえて話を聞いてみたいものだな。それにディランのことも気になるし。



でも捕まえると言っても、真っ向から向かっていったら簡単に逃げられる。瞬間移動系の魔法があれば良かったんだけど。



それか、気配を最大まで薄くする魔法とか・・・・・・、あ。



そういえば、確かエノテラに授けた魔法って・・・。



『”・・・エノテラ、聞こえるか?”』



「”!!こ、れは・・・テレパシーですか?凄いですね、まさかこんな能力まで・・・。”」



『”あー、その話はまた後で。それより今はどこに?”』



「”指示通り陛下を追い掛けている途中です。今は門の前に。何かありましたか?”」



『”ちょっと協力して欲しいことがある。”』



「”・・・・・・何をすればいいんです?”」



私はエノテラに作戦を説明し、テレパシーを切った。



さて・・・狩りの時間だ。



トモリsideEND



─────────────────────



エノテラside



─────────第一印象は、変な人だった。



何故か何の関係もない筈なのに革命を起こして、ディラン様・・・陛下と仲良くなって。



かと思えば、喧嘩したとかで周りをよく見もせずに喚き散らして。



子供かと思う程に1か100の選択しかしない酷く極端な少女。我儘・・・というより自分本位で、だけどその実優しくて、でも何故かそれを見せないように隠している、やっぱり変な人。



そんな個性豊かな少女と、成り行きで主従関係を築き、今もその少女の指示通りに動いている。



初めは・・・というか今もだけど、俺はカルミアを守るために少女と主従関係を結んだ。



そこにほかの感情なんてないし、少女を好きになれるとも思わない。



俺は誰よりも俺の感情に真っ直ぐだから、好きじゃないのに好きだとか思えないし、恋とか愛とかもよく分からないような人間だ。



騎士になったのだって、カルミアがなりたいって言ったから、それに着いてきただけ。少しは強くなりたいって気持ちもあったけど、やはり俺の中での理由は全てカルミアだった。



それくらい俺はカルミアを中心に生きている。いつからなんて分からない。幼馴染だった俺達は小さい頃からずっと一緒だったから。だから、いつの間にか俺達は2人だった。



二人でいるのが当たり前で、それが心地好くて、何をするにもカルミアが一番で、今思えば依存のようだなと自分でも思う。



でもそんな生き方に後悔も何も無いのだから、俺も大概変なのかもしれない。



まぁ、そんな変な少女だが、変な人という印象が変わったのは少女が色欲だと知ってからだった。



色欲、と聞けば誰もが震え上がるであろう大罪の呼び名。極悪組織メメントモリと同じかそれ以上に恐れられる色欲は、物語や小説などで悪役としてばかり描かれる嫌われ者。



そんな、危険な色欲が、目の前にいる。だけどどうだろう、少女から敵意は感じない。しかし安心はできない、俺がカルミアを守らねば、と義務のような気持ちを抱いた。



案の定カルミアは流され少女の優しさに絆されかけている。確かに表面上は優しげではあるが、それはただの仮面だ。裏を読み、俺がカルミアを守るのだ。



そう決意を新たにし、俺はじっと目を離さぬように前を見た。俺は少女に授けられた魔法で指示された建物の裏に待機し、アストレア・ブリュム・ドゥ・シャルール様・・・シャルール卿に近付く少女を見守っていた。



シャルール卿は少女の気配に気づいているのだろう、大人しく裏路地から表通りに出た。



少女もそれに気付き歩みを止める。少女とシャルール卿はぽつりぽつりと何かを話していた。しかし2人とも小さい声で話しているため声は聞き取れない。



盗聴スキルでも習得しておけば良かったと後悔しつつも、二人の会話が気になっている自分に気付き驚いた。



まさか自分が、少女に興味があるとでも?いいや、有り得ない。恐らく、シャルール卿と少女という組み合わせが珍しいからだろう。



誰に言い訳してるのかも分からない言葉を並べていると、ふいに少女が攻撃を仕掛けた。



しかしそれは簡単に交わされ、目で追うのがやっとというような戦いが始まった。



強いとは思っていたけど、あのシャルール卿と互角なんてとんだ化け物だな、と色んな意味で感心した。



でも・・・多分押されてる。いや、もしかしたら態と力を抜いてる?だとしたら・・・戦い、というか戦争というものに些か慣れすぎているような気もするけど。



見たところまだ子供。そんな子供が、戦い慣れしているなんて。世も末だな、と他人事のように心の中で呟いた。



と、ここでようやく展開が進んだ。少女がシャルール卿に勢いよく吹き飛ばされ、建物に思い切り突っ込んだのだ。



それを見て若干の心配が募りつつも、自分の役目を果たすべく走り出す。



ギリギリまでシャルール卿に近付いて、近付いて、そうして───────捕らえる。



「っ、!?どこから、」



「───────任務完了。」



しっかりとシャルール卿の体を押さえつけながら、縄で素早く縛る。



そして瞬間移動対策で体のどこかに触れておくことも忘れない。



さてどうする、と少女を見遣る。少女は服に着いた瓦礫を払い除けながら、シャルール卿をじっと見つめていた。



『・・・勝負は私の勝ち、でいいかな?』



「・・・チッ、好きにすれば。」



・・・なるほど、何か勝負でもしていたのか。そして少女はそれに勝った。勝てば言うことを聞く、とでも言ってたのか。



『エノテラ、彼を抑えたまま城まで。あ、誰にも見られないように裏から行こうか。』



「かしこまりました。」



返事をして、シャルール卿を縛っている縄を引く。シャルール卿は忌々しそうに俺を睨んだが、他人などどうでもいい俺は当然無視。これがカルミアなら怯えてたかもな。



さて・・・吸魔事件の犯人として捕らえたのであれば裏門からコソコソと入る必要は無いはず。だったら陛下のために捕まえたとか?いや、少女はそこまで陛下に盲目的では無い。寧ろ逆だろうし。



だったら・・・少女は一体何故シャルール卿を捕らえたのか。あぁ・・・理解しようとしてみても、やはりどう足掻いても分からない。



そういうミステリアスなところに、みんな惹かれるのかもしれないが。俺は到底、好きになれそうにない。



エノテラsideEND



トモリside



真正面からエストレアに近付くと、エストレアも簡単に姿を現してくれた。



しかし熱烈歓迎って訳では無いようで、フードの中にある眼光が鋭く光って私を見つめているのがわかった。



『・・・初めまして、でいいのかな。』



「・・・俺になんの用?」



うわぁ、声が冷たい。一応初対面のはずなんだけどなぁ。



『話がしたいんだが。少し時間いいか?』



「・・・嫌、って言ったら?」



『・・・なら、勝負しよう。』



「は?勝負?」



『そう。先に相手をねじ伏せた方の勝ち。』



「・・・それで勝てば、諦めてくれるんだね。」



『うん。・・・勝てればね。』



残念だけど、私は正々堂々戦うタイプじゃないんだ。卑怯な手は、戦場での基本だよ。



・・・さて。まずは相手の強さを見極めて、その後徐々に力を抜いて・・・。



・・・いける!



私は地面を蹴り、素早くエストレアの前まで移動して蹴りを繰り出した。



しかし簡単に交わされ、反撃を食らう。その攻撃の速さに思わず素で目を見開いた。



強い・・・というか、なにこの、魔力量・・・。攻撃に込められた魔力が半端じゃない。1回でも食らったら・・・やばい。



私はなるべく交わすかいなすかで攻撃を防ぎつつ、機会を伺った。



そして今だというタイミングでエストレアの攻撃をモロに受け止める。



勢い余って建物に突っ込んでしまい、エストレアの攻撃の分と併せて痛みが限界突破した。



『っ、た、』



痛いの慣れてるけどさぁ、好きなわけじゃないんだよ。本気で痛すぎる・・・。



痛い痛いと体を動かせずにいると、エノテラの声が聞こえて慌てて立ち上がった。



そして余裕そうな表情を作り、服の瓦礫を払いながら外に出る。



うん、作戦通り上手くいった、けど囮作戦はもう二度とやらない。絶対にだ。



『・・・勝負は私の勝ち、でいいかな?』



さも作戦通りですよみたいな雰囲気で言うことを忘れない。うん、完璧。



「・・・チッ、好きにすれば。」



よし、良かった卑怯だなんだと言われなくて。面倒なことにならずに済んだ。



『エノテラ、彼を抑えたまま城まで。あ、誰にも見られないように裏から行こうか。』



「かしこまりました。」



エノテラの返事にこくりと頷き、痛む体を無理やり動かして城へと向かったのだった。

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