第24話少女に傅く王様のお話


『お邪魔しまーす。』



「っ、!!」



うわ、めっちゃ怖がられてる。そりゃそうか。絶対に王様しか開けられないはずのドアを私がぶっ壊して入ってきたんだからな。



そう、私は監禁されているという王子様の元を訪れていた。



王子様はまさにザ・王子様という感じの金髪碧眼で、綺麗な顔をしていた。だがしかし、まだガキだ。見た目的に考えても、恐らく12歳くらいであろう。



こんな幼い子を王にするのか・・・それはかなり罪悪感があるが、私は早くこの件を終わらせたいんだ。許せ王子様。



私は恐怖する王子様の前に跪き、スッ、と手を差し伸べた。



『参りましょうか、王子様。』



「え?」



『この国を、変えましょう。』



「僕が・・・?でも僕は、」



『あの豚・・・じゃないや。現国王・・・つまり、あなたのお父上に未練はございますか?』



無いわけないだろうが、とりあえず聞いてみる。こういうのは、本来ならもう少しゆっくりと考えて決めて欲しいことだけど。



今はそんな時間ないから、どうか許してくれよ、王子様。



「・・・ある、よ。ある・・・。でも、それはあの人に対してじゃなくて・・・家族、に対して。王様になったら、もう誰かに甘えることは出来ないの・・・?」



・・・そうだよなぁ。まだ、幼い子供だもん。甘えたいよな。それをいきなり王様に、なんて。馬鹿げてる。でも、それでもこの国にはこの子が必要なんだろう。



『──────ならば、私があなたの家族になりましょう。そうして、あなたを守る剣となりましょう。』



「・・・うん。」



王子様は頷いた。その目には、もう迷いなどなかった。この子は私よりも余っ程強いのだと、私は確信した。



「──────僕の剣となり、圧政を行う暴君に鉄槌を下せ。」



『───────仰せのままに、新たなる王よ。』



さぁ、一方的な殺戮の始まりだ。



トモリsideEND



王子様side



その日はいつもと変わらない朝から始まった。古いベッドで目を覚まし、小さな窓から押し込まれた汚れたパンを食べる。



そして後はこの狭い空間内に唯一存在する本を読み、一日を過ごす。



こんな価値のない日々がいつまで続くのか。どうして僕は生まれてきたのか。なんのために、僕は。



毎日毎日同じことを考えた。でも答えなんか出なくて、今日もまた変わり映えのしない一日が始まる。



────────そう思ってた



「(外が騒がしいな・・・)」



何かあったのだろうかと、僕は食事が出される窓から少し外を覗いて見た。



あの父親に見つかったらお仕置されるかも、と思ったものの、やはり好奇心には勝てないようで、僕はキョロキョロと外の様子を探った。



しかし外には何も無い。それどころか先程の喧騒が嘘のように静かだ。



おかしいな、と思い首を傾げた。─────その瞬間の出来事だった。



────ガッシャンッ!!



鈍い音と鋭い音が重なり合い、けたたましい騒音を作り出した。それの正体は、今僕の目の前を横切ったものが、壁に激突したことが原因だろうけど・・・。



「(今の、もしかして・・・人?)」



確かに見えた。速すぎてしっかりとは見えなかったが、確かにあれは人の形をしていた。



僕は慌てて窓を限界まで開け、吹っ飛んだ人を探した。



しかしそれを見つける前に、隣から物凄い音が響いた。



思わず耳を塞ぎつつ隣を見ると、そこには粉砕した扉があった。



「っ、!」



そして扉を壊した人は、なんでもない事のように部屋の中に入ってきた。



黒い外套を羽織り、目元が隠れる程深くフードを被った、女の人。



思わず驚きで目を見開いた。だってこの扉は父親しか開けられないもののはずだ。それに父親はこう言っていた。この扉は例え銃で打とうが砲弾を打ち込もうが傷1つつかない代物だ、と。



だからここから出るのは諦めろ、お前は二度とここから出られず、一生ここで惨めに暮らすしか無いのだと。



そう、言っていたのに。



「(──────この人なら、僕を助けてくれるかな?)」



まるで閉じられた心の扉を無理矢理壊すかのように、その女の人は易々と扉を壊した。



粉々に、それはもう、清々しいくらい一瞬で。まるで僕のこの小さな世界を笑うように、その人は、僕のもう1つの未来を簡単に作ってしまったのだ。



────────期待しない方が、おかしかった



『─────お邪魔しまーす。』



「っ、!!」



期待したいとは思った・・・けど、やはり怖いものは怖い。僕はここ数年外に出ていない。だから、普通の人だとしてもかなり怖いのだ。



僕は数歩後退り、壁にぶつかって地面にしゃがみ込んだ。



怖くて仕方なくて、ぎゅうっと目を瞑り、何も見ないようにしようと思った。



しかし、数秒後。その女の人がしゃがみ込んだ気配がして、パチリと目を開けた。



女の人は、フードの中からこちらを見ているような気がした。



見えない女の人の視線に打ち付けられたように動けないでいると、女の人はおもむろに僕に手を差し伸べた。



『参りましょうか、王子様。』



「え?」



どこに、と目線で訴えかける。しかし女の人はその問いに答えることはなく、言葉を続けた。



『この国を、変えましょう。』



この国を・・・変える?そんなの・・・、



「僕が・・・?でも僕は、」



『あの豚・・・じゃないや。現国王・・・つまり、あなたのお父上に未練はございますか?』



未練・・・未練なんか、ここに入れられた時にとっくに捨てた。でも・・・それでも、家族という温もりを欲してしまうのは、我儘なのかな?



「・・・ある、よ。ある・・・。でも、それはあの人に対してじゃなくて・・・家族、に対して。王様になったら、もう誰かに甘えることは出来ないの・・・?」



僕は・・・ただ、普通に家族と仲良く暮らせればそれで良かったのに。お金が無くたって、学校に通えなくたって、僕はそれでも家族が欲しかった。



だから、嬉しかったんだ。



『──────ならば、私があなたの家族になりましょう。そうして、あなたを守る剣となりましょう。』



女の人が、僕の家族になると言ってくれて。僕は思った。この人のために生きようと。この人の為に、この国を変えようと。そしてこの人が僕に求めていることをしようと。



──────どうしようもないくらい、期待に応えたかったんだ。



「・・・うん。」



小さな声で返事をし、頷いた。それを聞き取れたのか、女の人は満足そうに少し頬を緩めた。



僕は出来るだけ真剣な顔をして、声も張り上げて、そして目の前の女の人に届くように、伝えるように、言葉を発した。



「──────僕の剣となり、圧政を行う暴君に鉄槌を下せ。」



厳粛な雰囲気でそう述べると、女の人は少しだけ笑みを深め、こう言った。



『───────仰せのままに、新たなる王よ。』



──────これは、歴史に残る革命のお話



後のヴァイス王国国王、ディラン・セシル・フィッツウィリアム・ヴァイスと、



この時はまだ何者でもなかった普通の少女、トモリの、



────────世界を揺るがす出来事の、その1つ目である



王子様sideEND








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