黎明を目指す星

第23話全くもってらしくない


真白の気配を探ってその場所を目指す。早く会いたくて全力で向かった所、僅か3分で到着した。



屋根の上から真白の様子を窺うと、どうやら苦戦を強いられているらしい。一向に勝負がつかないようだった。しかし真白、見事に無傷だな・・・流石白の眷属。



真白を頭の中で褒め称えていると、ついに勝負が終わりそうな局面に入った。いくら真白よりも強かろうと真白の頭脳に勝るはずもなく、一瞬の隙を作り出し即座に魔法を打ち込んだ真白の勝利となった。



街を襲った魔物は今ので最後だったようで、真白は安心したように息を吐き出した。



それを確認してから、スッ、と軽やかに飛び降りる。そして気配に気付いた真白が上を向き、笑顔で手を伸ばしたので、遠慮なくその胸に飛び込んだ。



少し前までは私と同じくらいの体格だったのが嘘のように、真白は余裕で私を受け止めた。



「おかえりトモリちゃん!アーテルとルーフスに何もされてない?大丈夫?」



『あー・・・うん、まぁ平気。』



左手の傷治しといて良かった・・・。危うくまた真白に泣かれるところだった。



『・・・それよりも真白、先に後始末をしてしまおう。』



「そうだね〜。魔物もこれで片付いたし、早く街を元の状態に戻さないと。」



見たところ真白が全ての魔物をこの場所で食い止めたみたいなので、門以外には特に壊された建物はないみたいだ。



つまり今私達がやるべき事は、街の奥の方へと逃げていった住民への説明と、王宮に運び込まれた人達に掛かった吸魔の解毒。あとは、魔物を呼び寄せたと思われる街のベルの撤去、冒険者の中に紛れた裏切り者の粛清くらいか。



・・・いいや、くらいじゃない。めちゃくちゃ忙しいなこれ。だがまぁ、説明とベルと裏切り者の件は真白に任せて問題ないだろうし、私は吸魔の解毒剤を作ることに専念するとしよう。



そういう考えに至ったところで真白を見ると、真白も私を見ていて少し驚いた。



『・・・どうかしたのか?』



「んーん、別に〜。ただ、ボクが頑張ったらご褒美欲しいな〜なんて。」



ご褒美ね・・・そういえば真白って好きな物とかあるのか?食べ物もなんでも食べるしな・・・。



『・・・・・・・・・なら、この件が全部片付いたら、2人で街を散策しよう。』



「えっ!いいのぉ!?やったぁ!!」



真白は私を抱き抱えたまま、くるくると回り出した。ちょ、目が回る・・・嬉しいのは分かったからもう少し速度を落とせ・・・。



『ふふ、あと少し頑張ってくれ。真白ならこれくらい楽勝だろ?』



「もっちろん!!3時間で何とかしてみせるよ〜!!」



『頼もしいな。じゃあ、細かい部分は全部任せる。私は解毒剤作りに専念するからな。』



「は〜い!まっかせといて〜!!」



ようやく地面に下ろしてくれた真白の頭を撫でつつ、解毒剤を作るために王宮へと向かう。



さぁて、私も頑張って作りますか。



真白が頑張っているなら、私も頑張れる・・・なんて、ちょっとらしくないかな。



まぁ、今はかなり気分がいいから、なんでもいいか。



─────────────────────



王宮に着いた。とりあえず王様に挨拶と説明を、と思っていたのだが、何故か王宮警護の騎士達に捕まった。



まぁ、捕まったと言っても牢屋に入れられたとかではなく、ここは関係者以外立ち入り禁止だ、とかまさか敵の仲間か!?とかそういう類の、言葉での足止めを食らっている。



冒険者組合のプレートを見せても誤魔化すなと言われる始末。はぁ、なんだか面倒になってきたな。もう助けなくてもいいのでは・・・?



せめてアルバートさん達の分の解毒剤は作りたかったのだが、仕方ないか。



どこか別の場所で作って後日渡そうと考えていると、王宮の門の奥が何やら騒がしいのに気が付いた。騎士達もそれに気が付いたのか、怪訝そうに門の中を見遣った。



私も気になったので覗いてみると、そこには地面に倒れ、苦しそうに喚いている男の人が。傍にはその娘らしき子がいて、必死にお父さんと呼び続けていた。



恐らく吸魔の症状だろう。魔力と生命力を限界まで吸われて、もう死ぬ直前なのだ。



騎士達もそれに気付いたのか、慌てたようにその男に駆け寄った。



「大丈夫ですか!?おい、ポーションはまだか!!」



「そ、それが、まだ見つかっていなくて・・・!!」



「くそっ!しっかり!!しっかりしてください!!」



「う、う”あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」



「お父さん・・・?お父さん!!いや、いやぁぁぁ!!!だれか、だれか助けてええぇぇぇ!!!!」



同じように吸魔に侵されている周りの人達は、自分も最後はああなるのかと悲痛な顔を浮かべていた。



どこからともなく悲鳴も聞こえる。喧騒の中、しかし私には今死の淵にある男の、その娘の声しか耳に入っていなかった。



だって────────あまりにも、私と似ていたから



私もああして父の死を嘆いた。誰か助けてくれと、声を枯らしながら叫んだ。



───────でも結局、誰も助けてなんかくれなかった。



ねぇ、よぉく覚えておきなよお嬢ちゃん。



────────この世に救いなんてないんだよ



そう頭の中で呟いた。呟きながら、私は、静かに足を踏み出した。



そうして躊躇うことなく門を潜り、騎士達が止めるのも聞かず男の体に手を翳した。



『───────《魔力譲渡(チャームトランスファー)》』



直前で見た男のHPと魔力の上限になるまで、私のHPと魔力をこの男に注ぎ込む。



すると男はみるみるうちに呼吸が安定していき、やがて穏やかな顔で眠りについた。



「お、父さん・・・?」



娘が男を呼びながら、目に涙を溜める。そして嬉しそうに笑いながら、男に抱き着いた。



「お父さん・・・ッ!!!良かったよォ!!」



うえぇぇん!!と大泣きし出した娘を見て、ようやく現状を理解したのか、周りの人達が段々歓声を上げ始めた。



「う・・・うおおおおぉ!!すげぇ!!奇跡だ!!」



「あの子がやったのか!?ありがてぇ!!」



「なんというご慈悲・・・神に感謝を・・・!!」



「魔法使い様バンザイ・・・っ!!」



「お姉ちゃん、本当にありがとう・・・!!ありがとうぅぅ!!」



涙で顔を濡らした娘が私に土下座する勢いで感謝を述べる。それをちらりと横目で見つつ、ポンポンと頭を撫でてやった。



というか・・・あーあ、やっちゃったよ。できる限りこんな大魔法使いたくなかったんだけどな。しかも、こんな人が沢山いる場所で。



「あの!先程は疑ってすみませんでした!そして、我が国の住民を助けて頂き、ありがとうございます!!」



「なにか我々にできることがあれば、何なりとお申し付けください、魔法使い様!!」



騎士達は興奮気味にそう言った。本気でこの国の民を守りたいのだろう。目には強い意志が宿っている。



・・・守りたいものがあるというのは、いいものなのかもな。



『・・・では、聞いてください。ここにいる方全員です。私はこの呪いの解毒剤を作ることが出来ます。』



「解毒剤が・・・!?」



「なんと・・・っ!!」



「おお、神よ・・・!!」



・・・一々騒ぐな鬱陶しいな。要件だけ聞けよ。



『ですが作るのにかなり時間が掛かります。3日・・・いいえ、1日は時間を要するかと。しかし1日経てば必ずここにいる皆さんに解毒剤をお渡し致します。だから皆さん、どうか耐えてください。まだ諦めないで、希望はあります。・・・私を、信じてください。』



暫くの間、沈黙が訪れた。だがしかし、それは悪い沈黙ではないと直感で感じ取っていた。大丈夫、全部上手くいく。



だってこの人たちの目は────誰1人、死んでないから。



「・・・・・・俺らは嬢ちゃんを信じるぜ!!」



「ああ!俺らがなんでも手伝う!!だから俺らを助けてくれ!!」



「ありがとう、本当にありがとう、お嬢ちゃん!!」



うおおおおぉ!と歓声が起こった。それが返事のようなものだった。だから私はニッと笑い、立ち上がって全員に指示を出し始めた。



『とりあえずピンチの人は私のところに来てください!必ず全員全快させます。それから解毒剤のことを王に説明したいので、謁見したいのですが。』



「!陛下に、ですか。」



騎士や街の住民の顔が曇った。おっと?これはまた・・・なにかありそうな予感がするぞ。



一難去って・・・というか去る前にまた一難来てるな?問題起こるの早過ぎない?



『・・・なにか、あるんですか?』



「いえ、えっと・・・、」



言い淀んだ騎士達をじっと見つめる。気まずそうなその顔は、どこか話すのを躊躇っているように感じる。



言いたくないなら仕方ないか、と諦めようとした時。知り合いの声が奥の方から聞こえてきた。



「─────暴君なんだ、この国の王はな。」



そう言って歩いてきたのは、昨日知り合った冒険者の先輩、アルバートさん。



国民や騎士達はアルバートさんの言葉に驚いたように目を見開いた後、サッと顔を逸らした。



「何もかもを自分の都合で決めちまう。国民のことなんか何も考えちゃいないんだ。奴隷だってかなり買い込んでるって噂だし、この国の女子供も連れてかれた奴は大勢いる。なんでも裏社会と繋がりもあるって話だ。」



『・・・とんだ豚野郎ってわけですね。』



「ぶっ、確かに豚みたいな見た目だが、お前怖いもの知らずだな・・・。」



えっ、それは王宮でそんな話してるアルバートさんも同じでは?



「まぁ・・・そんな王だからよ、ポーションも全部独り占めしてやがんだ。今、魔力に余裕のある騎士達が街にポーションを探しに行っているが、恐らくもうねぇだろうな。」



・・・なるほどね。なら協力は望めないどころか、色々と要求されるかもしれないわけか。納得。



というか、そんな豚野郎なら殺してしまえばいいのに。いい後継者がいないとか?



『革命はしないんですか?』



「それができれば苦労はしねぇよ。あんな王にも一応ガキが居てな、そのガキがかなり頭がいいんだ。俺達国民はそのガキが王になることを望んでる。だがしかし、革命を恐れた王がガキを監禁しちまったのさ。監禁場所は誰も知らねぇから、もし王を殺しちまえば見つからねぇかもしれねぇ。つーわけで、誰も革命なんて出来ないっつーわけだ。」



・・・探索魔法使えばよくないか?もしかして使えないのか?



『アルバートさん。』



「あ?どうした。」



『ちょっと革命してくるんでここ頼みます。』



「おう。・・・・・・・・・は!?お前何言ってんだ!?俺の話聞いてたか!?」



『はい。その上で言ってます。安心してください、王子様の場所も分かるんで。』



「なっ、おい!!」



私はカバンからポーションを取り出し、アルバートさんに押し付けた。そして地面を蹴り、勢いよく走り出した。



というか私、なんでこんなことしてんだろ・・・。



面倒事に自ら首を突っ込んでいくなんてらしくない。でも、やはり気分は悪くない。理由は分からないが、今日はそういう日なのだと自分を納得させ、王宮の中に潜入した。


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