第25話そうして世界は廻ってる


革命をするんだったらそれ相応の服装の方がいいよね、ということで、王子様は私の作った服を着せて髪も整え、どこに出しても恥ずかしくない程の少年に早変わりさせた。



そして今。部屋を出て王の間に向かっているのだが、そういえば名前を聞いていなかったなと思い、隣を歩く王子様に問い掛けてみた。



『あの、王子様ってお名前はなんですか?あ、因みに私はトモリです。』



「トモリか・・・可憐な名だな。僕はディランだ。ディラン・セシル・フィッツウィリアム。」



・・・ディランね。それにしても、ディランはよく笑うな。あんなクソみたいな空間に監禁されていたとは思えない程素直だ。



『ディラン・・・いや、ディラン様?』



「フッ、トモリだけは僕に対しどんな無礼も許そう。好きに呼ぶといい。」



ずっと思ってたけど、服装変わっただけでこんなに口調変化する?いや、王様っぽく振る舞おうとしてるんだろうけど・・・なんか、ね。



『・・・じゃあディラン、ディランも好きな口調でいいよ。私達は”家族”なんだから、さ。』



「!!あはは・・・トモリは凄いね。・・・実は僕、さっきみたいな話し方って好きじゃないんだよね・・・もっと気楽に話したいのに・・・。」



ああ、こっちのが私は好きだな。子供って感じがしていい。生意気じゃなくて。



『ところでディランは何歳?12?』



「えッ、じゅ・・・12?僕が?」



『・・・・・・え?』



いやいやいや、そんなショタみたいな見た目でまさか成人してますとか言わないよね?ね?頼むそうだと言ってくれ。



「・・・むぅ、確かに僕、栄養足りてなくて小さいけど、これでも今年で15になるんだよ?」



『・・・・・・・・・え?』



15?嘘でしょマジか。でも良かった、私より年下で。



っと、話してるうちに王の間付近に着いたな。ていうか・・・警備が厳重だな?正面突破か、策を練るか・・・。



『・・・ゴホン、ご命令をどうぞ?我が君。』



「・・・あぁ。僕の騎士トモリに告ぐ。───────服従する者以外は、全て捩じ伏せよ。」



『御意のままに。』



ふむ、ならばここは正々堂々正面突破で行きますか。



・・・あぁ。その前に。言わないといけないことがあったんだった。



『───────家族として、騎士として。あなたを全てからお守り致します。だからあなたはただ前だけを向いて、どうか目を逸らさずに堂々としていてください。なんて言ったってあなたは・・・この国の未来を見据える方なんですから。振り返ることなど許されない。前を見て、前だけを見て、そして前にだけ足を進めてください。』



「・・・っ!!・・・あぁ。覚悟は、出来ている。」



・・・なら、いいんだ。こんな子供に任せるのは酷だと思っていたけど・・・ディランはきっと、いい王様になるだろう。



私は太陽のように眩しいディランに少し目を細め、そして逸らすように前を向いた。



そしてディランの前に出て、腰に提げている刀を抜いた。



その刀を高く高く振り上げ、声を張り上げて叫ぶ。



『私は時期国王ディラン様の騎士、トモリだ!今からこの国を暴君から救うため、革命を始める!!従う者はディラン様を守る剣となり盾となれ!逆らう者は情け容赦なく切り捨てる!!だから今!この場で決めよ!!現国王か、時期国王ディラン様か!!君達はどちらにつく!!』



叫んでから、刀を前へ振り下ろす。ビュンッと風を切る音が、沈黙の中に空虚に木霊した。



王の間を守っていた兵士や騎士達がざわめき出す。迷っている者、最後まで現国王と命を共にしようとする者、ディランにつこうとする者、様々な感情が入り乱れ、その場には混乱が訪れた。



しかしそんな混沌の中であっても、確かに共通する強い意志が、この者達には存在した。



「───────僕はこの国の王になる。」



─────それは、



「───────僕は、この国の民達の、王になる!!」



──────全員が全員、



「────────だから僕を信じて着いてこい!!君達にまだ、この国を守りたいという想いがあるのなら!!!」



──────この国を守りたいという意志を持っていることだ



「「「「「うおおおおぉ!!!」」」」」



今、この場が1つとなった。それは強い力を生み、この国を良い方向へと導く標となるだろう。



─────────────────



王の間へはあっという間に入ることが出来た。ディランの言葉はその場にいたほとんどの騎士や兵士を虜にし、戦う力を与えた。



もちろん現国王に着くという者も僅かだがいた。しかしディランに着いた騎士と兵士が瞬殺したのだ。だから私は1度も手を汚すことなく、中に入ることが出来た。



王の間には貴族や騎士がたくさん存在した。その一番奥の少し高いところにある玉座には、現国王が。



「き、貴様ら!こんなことをして許されると思っておるのか!?全員死罪だぞっ!!」



「──────死罪はあなただ、父上。」



「でぃ、ディラン!?まさかこの軍勢を率いているのは、お前か!?何を馬鹿な真似を!!お前に何ができる!!?」



「───────少なくとも、あなたを殺すことくらいはできる。覚悟を決めよ、父上。・・・いいや、前国王よ!!」



「きっ、貴様あぁぁぁぁっ!!やれ!!やってしまえぇぇええ!!」



開戦の火蓋は切られた。今、歴史に残る革命が幕を開けたのだ。



私も剣を抜いた。そして、玉座に向かって歩き出したディランの右斜め後ろに控える。



王は貴族達と共に固まって怯えていた。早くやれと喚き散らしている。



あぁ、気に食わないな。やはり、王というものは全くもって気に食わない。



この豚野郎の何が偉いのか。頭がいい?戦争の才がある?そこで命を賭して戦っている騎士達よりも強い?



いいや、どれも当てはまらない。だというのに、この豚野郎は今も玉座に座っている。可笑しいとは思わないか?



何が出来る訳でもない、強いて言うのなら昔の先祖が何かを成し遂げ、今の地位にのしあがっただけで。この豚野郎が、何かをした訳では無いのに。



あぁ、気に食わない。全くもって、気に入らない。



だからこの手であの豚野郎を殺してやりたいけど・・・それはきっと、私の役目では無い。



『・・・周りの貴族はどうする?』



「いらない。アイツらは腐ったゴミと同等の価値しかない。」



『了解。』



ボソッと確認を取って許可を得た。ならば、王にぶつけられないこの怒りを、周りの貴族共にぶつけるとしよう。まぁ、そうだな。言わばこれは・・・八つ当たりだ。



私は行き場のない怒りを抱えながら歩いた。その道中、ディランに剣を向けた奴らは全員切り伏せた。1寸の迷いもなく。



そうして血で染まった絨毯の上を歩く。ディランは私が切り伏せた奴らには目もくれることなく、強い目で現王を睨み付けていた。



その目に王は、酷く怯えた。そばに居る貴族達を盾にするように前に出し、未だ醜くも生き残ろうとしている。



滑稽だ。滑稽すぎて笑えてくる程に。何が王だ。何が暴君だ。誰かに守られてなきゃ保てない威厳も権威も、結局は全てがまやかしでしかないじゃないか。



だから私は昔っから──────権力者が大っ嫌いなんだよ



そいつらは世のため人のためだと謳いながら、生きるために這い蹲る、私みたいな人間を簡単に殺すんだ。そういう犠牲の上で、安全で平和な国は出来てる。



──────私は、国のために殺された。そういう、人間だ。



『──────なぁ』



「ひっ、や、やめてくれぇ!!殺さないでくれ!!何でもするから・・・!!」



私が声を掛けると、貴族が命乞いをするように叫んだ。



その声が、耳障りな雑音にしか聞こえなくて。いっそ口を切り落とそうかとこの数秒で何度も思った。



『お前は、何人殺した?』



「わ、私は誰も殺してなどいないぞ!だから助けてくれ!金ならいくらでも出す・・・!!」



「貴様!私を裏切る気か!?」



「仕方ないだろ!!?もうこの国は終わりだ!!」



あはは・・・本当にムカつくな。殺してないだと?・・・ならば、今この瞬間、外で苦しんでいる人達はどうなるんだ。



見殺しにしたんじゃないのか?見殺しにして、自分達だけ助かろうとしたんじゃないのか?



私は未だにギャーギャー騒ぐ貴族と王を見下ろし、黙らせる意味を込めて貴族の腕を切り落とした。



「・・・え?・・・う、うで、わた、私のっ、私の腕がァァァァァァッ!!!」



『─────お前らには今、二つの選択肢がある。』



小さな声で言ったつもりだった。だが思った以上に響いた声に、ふと辺りの音に耳を傾けた。貴族の悲鳴で1度戦いを辞めたのか、部屋の中はシーンと静まり返り、そして全員が全員、私達の方を向いていた。



しかしそんなものどうでもいい。今はただ、このクズを──────殺したいだけ。



『─────楽に死ぬか、それとも苦しんで死ぬか。どちらを選ぶかはお前らに任せるが・・・後者は選ばないことを勧める。』



これでも裏社会で生きてきた人間だ。拷問の心得は当然のようにあるし、なんなら拷問は得意分野だ。もう殺してくれと言いたくなるくらい痛めつけることくらい容易に出来るんだぞ。



そういう意味を込めたつもりだった。しかし目の前の男は腕が無くなったことに夢中で、私の言葉を聞いていなかったらしい。



叫ぶしか能がないのか、と言いたくなるくらいにうるさい。・・・あぁ、もういいや。



私は舌打ちを1つ零しつつ、貴族の首をスパッと飛ばした。僅か0.1秒。そんな短い時間で、人間の生命は終わりを迎えた。呆気ないなぁ、と思い思わずため息を零す。



それに反応し、次は自分だと感じたのか、残りの貴族共は逃げるため走り出そうとした。



・・・まぁ、許さないけど。私は貴族達が走り出す前に刀を振るった。貴族達の首は一斉に飛んだ。



一応、血飛沫が飛ばないように外套でディランを守ったのでディランの服や体には赤色1つない。ディランがお礼を言うようにこちらに目配せしたので、とりあえずこくんと頷いておいた。



・・・さて。残るは王ただ1人か。私はディランに短刀を渡した。それをディランは受け取り、再び王の元へ足を進める。



「──────圧政を繰り返し、民達を苦しめる暴君よ。」



「や、やめろ!やめてくれディラン!私はお前の親だぞ!?殺すんじゃない!!」



「僕は時期王として、今のあなたを見過ごす訳にはいかない。よって──────革命のもと、あなたを死罪とする。」



「嫌だ・・・っ、死にたくない!!私が何をした!?精々娘を攫ったり、税を上げたりしたくらいであろう!?た、確かにお前を監禁したことは悪かったと思ってる!!しかし・・・、」



「─────くらい?・・・巫山戯るなッ!!お前はそれをされた側の気持ちを考えたことはあるのか!?どれだけ苦しい生活を送り、それでも毎日懸命に生きているのか、お前に分かるのか!?」



「ヒィッ、悪かった!!ゆ、許してくれ!!」



「・・・もう、よい。」



「・・・!!」



「もう、終わりにしよう。」



────────ディランの冷たい一言と共に、王の心臓に短刀が突き刺さった。



バタリと体が倒れる音がし、倒れた王の体からダラダラと血が溢れてくる。



全てが終わった。刹那の間静寂が訪れたが、その直後、割れるような歓声が部屋中で響いた。



「「「「「うおおおおぉ・・・ッ!!」」」」」



歓喜、感動、安堵、様々な感情が混ざり合う。皆が笑みを浮かべ、勝利を喜び、感動を分かちあった。中には号泣している者もおり、その涙でこの国の民達の生活がどれだけ困窮していたのかが直ぐにわかった。



だから今すぐにでも宴会でもしてみんなで喜びを噛み締めて欲しいが、その前に。



『喜ぶのは後です!今は外の現状を何とかしなくてはなりません。動ける者は王宮内にあるポーションをかき集め、外の人達に届けてください!あとこの部屋や外の死体の処理なども任せます。私は今から解毒剤の開発に専念しますので、何かあれば私の所へ!』



「「「「「はい!!」」」」」



・・・この人達、よく従ってくれるな。私は余所者だっていうのに。



『・・・ディラン様はどうなさいますか?お休みになるのであれば私が部屋を御用意致しますが。』



私はじっと王の死体を見つめていたディランに話し掛けた。ディランは1度目を瞑ったあと、体を翻し私の方を向いた。



「休む?何を言っている。・・・民達が大変なのだろう?だったら休んでいる暇などない。僕にも出来ることはある筈だ。」



その言葉を聞いて、私は無意識のうちに頬を緩めていた。あぁ、本当にこの子は良い子だ。



『では誰か、ディラン様の護衛をお願いします。私は部屋の一室を借りて解毒剤を作りますので。』



「お任せ下さい!!」



返事をした騎士にディランを任せる。・・・さて、私は解毒剤を作るとしますか。



ようやく終わった革命に安堵しつつ、だけどどこかスッキリとした気持ちを抱え、私は空いている部屋に向かったのだった。

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