第26話解かれる呪い


空き部屋を見つけ部屋に入り、鍵を閉めてから解毒剤の制作を開始した。



と言っても吸魔の解毒剤なんて作ったことないから、勘と今までの経験や知識から適当に作ってるだけだけど。



まぁなんとかなるでしょ、と軽い気持ちで制作を開始して1時間が経過した。途中経過としては、惜しい所までは来てるとだけ言っておこう。



何かが足りない、というのが今の感想だ。しかし一体何が足りないのかが分からないから困っているのだ。はぁ、どうしたものか・・・。



完全に集中力が切れ、ドカッと机の上に頭を乗せる。机に頭をぶつけたことによる痛みが広がるが、気にする余裕もないくらい焦っている。



『(やはり仕上げは魔法か?でもどの魔法だ?浄化系?それとも敢えての魔属性?しかし浄化したところで浄化されるのは瓶の中身のみだ。瓶に浄化の効果が付与される訳では無い。だったら魔属性は?瓶の中身に魔力を注ぎ込んだら?・・・いや、それだと魔力回復に近い効果しか出てこないか。だったらいっそ新しい魔法を・・・、)』



そこまで考えて、ふと人の気配が部屋の中からすることに気が付いた。



まさか気配にすら気づけないほど集中していたとは、と少し反省しつつ、後ろにある気配を探る。



・・・ふむ、この気配は・・・。私はむくりと体を起こし、前を見たまま後ろにいる人物に声を掛けた。



『─────どうかした?ディラン。』



「へっ!?ど、どうして分かったの!?」



いや、普通に探索魔法で・・・って、そういえばディランは監禁されていたから、魔法とかの知識はあまりないのか?



『・・・勘?というかディラン、この部屋鍵掛けてた筈だけど。』



「それなら普通に鍵で開けたよ?」



・・・あぁ、鍵あるのか。もしかしてディランが素手でぶち壊したのでは?とか考えちゃったよ。



『・・・所で、住民達の様子はどう?』



「あ、うん。王宮内のポーションをかき集めてみんなに配ったから、なんとか今は保ててる状態。というかトモリ、住民達にあんな高価なポーションあげて良かったの?あれ、一瓶で数十万はするやつなんでしょ?」



・・・え、あのポーションってそんなに価値あったの?私が適当にその辺の草で作ったポーションなのに?今度大量に作って売ろっかな・・・。



『いいよ別に。私はそんなに使う機会ないし。』



「そっか。住民達のためにありがとね、トモリ。・・・ところで、解毒剤の完成・・・・・・は、まだみたいだね。」



あぁ、と短く返事をし、ふと考える。ディランなら何か分かるかもしれない、と。まぁ、分かるまではいかなくとも、ヒントくらいにはなるかもだし・・・聞いておいて損はないだろう。



『・・・ディランは呪いを解除するための解毒剤って、どんなイメージだ?』



「え、イメージ?・・・うーん、僕は本の知識しかないからよく分からないけど・・・昔読んだ本には、呪いを掛けられた人間を魔法で助ける話が描かれてたんだ。だから僕は、呪いは薬じゃなくて魔法で治るイメージがあるかなぁ・・・。まぁこれは、あくまでも本の中だからだろうけどね。」



・・・なるほどね。だがディランが言うように、魔法でなんでも治せるのは本の中だけだ。例えば回復魔法が使えない人が回復手段として用いるのがポーションだ。同じように、呪いを解く魔法が使えない人が解毒剤を使って・・・・・・、



・・・・・・呪いを解く魔法?



『・・・っ!!ナイスだディラン!やっと解毒剤の製造法が分かったぞ!』



「え、ほんとに!?凄い!!」



『今暇なら手伝ってくれると助かる。一度にたくさん作るから、ディランは瓶に詰めていってくれないか?』



「わかった!!」



ディランの返事を聞き、私は作業に取り掛かった。大きな鍋を用意し、中に材料を詰め込む。そしてグツグツと煮ること数十分。後は最後の仕上げとして、先程ディランの話でヒントを得た魔法を掛けるだけだ。



『(でも・・・問題なのは、私はこの魔法を持ってないということ。)』



特別使えない魔法という訳では無い。エクストラスキルなので、習得が難しいというだけで。



まぁ、この魔法が使えないと意味が無いので、無理矢理にでも覚えて見せるけど。



『(大丈夫だ、魔法はイメージが大事なんだし、イメージさえ何とかなれば。・・・・・・あれ、呪いを解くイメージってなに?)』



やばい。ここに来て童話系の本を読んでこなかったことの弊害が。どうしようか、呪いを解くと言えばなんだ?何かあるだろ、こう、何か、何か・・・。



数分考えて私は悟った。あ、無理だ、と。だから自分で考えるのはやめて、ディランに頼ることにした。



『・・・ディランは、呪いを解くイメージって出来る?』



「え、うん。本の挿絵とかで乗ってたのを見たことがあるから。」



ふぅん、そうかそうか。それはいい。



『んじゃあ、ちょっと失礼。』



「ふぇっ、と、と、と、トモリ!!??!」



ディランの手を引っ張って引き寄せ、手をギュッと繋ぐ。



そしてもう片方の手で鍋に手を翳し、魔法を発動する準備をする。



『《共有(コネクト)》』



先ずは私とディランの脳内を共有。今回の場合は、私がディランの脳内を見る形だ。



因みに何故こうして手を繋いでいるのかと言うと、真白とは違いディランは私と星約を交わしていないため、上手く共有しにくいのだ。相性が悪いと、共有出来ない場合もあるらしいし。



っと、それよりも。ディランの脳内を覗き、呪いを解くイメージを固めて魔法を発動しなければ。



私はディランの脳内から呪いを解くイメージを探した。9割恥ずかしいと嬉しいで占められていたのには驚いたが、なんとか見つけることが出来た。



このイメージを頭に浮かべつつ、魔法を発動する。



『──────《解呪(ディスペル)》』



放った魔法は鍋の中身を包み込むようにして全体に染み渡り、やがて緑色だった液体が橙色に変化した。



これで完成かな、とひと息つき、ディランにお礼を言おうと横を向いた。



しかしディランは何故か顔を真っ赤にして目を回しており、気絶する寸前みたいな状態だった。



『でぃ、ディラン!?どうかしたのか!?』



「うぅ・・・/////」



『?』



・・・よく分からないが、とりあえずそこにあるソファに寝かせておくか。私は転けそうになっているディランを横抱きにし、ソファにそっと置いた。



そして大量の解毒剤を瓶に詰め、その後も人数分を作って住民達に配ったのだった。




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