第6話例えそれが仮初でも
私の美味しすぎるご飯を食べた後。食器などの片付けと寝る準備をし、漸く話が出来る態勢に入った。
『いい?私の質問に全て嘘をつかずに答えるの。分かった?』
「?あい!」
ほんとに分かってるのかこのスライム。適当に返事してるだけじゃないのか。
『じゃあ一つ目の質問。お前はどうして白いの?』
「白のけんぞく・・・だからー?」
『白の眷属・・・。』
その言葉、小屋にあった本で見たことがある。確か、主に白い色をした魔物のことで、知性の象徴・・・だっけ?・・・・・・待てよ?もし本の通りなら、このスライム頭いいんじゃ?
『・・・なら、どうして馬鹿なフリなんてしてるの?』
「・・・なんのことー?」
『これ以上惚けるなら八つ裂きにするけどいい?』
睨み付けながらそう言うと、マシロはぽけーっとした顔からスッと表情を変化させ、妖しく笑った。
「むぅ・・・だってぇ。トモリちゃん、不思議なスライムじゃなかったら助けなかったでしょ?だからボクに興味を持つように仕向けようとしてたのに・・・見破っちゃうなんて酷いよぉ・・・。」
しくしくと泣き真似をするマシロにため息をつく。酷いのはどっちだ。演技で私に近付くなんて罰則ものだぞ。一体どんな罰を与えてやろうか・・・。
『一応聞いてやるけど、何を思って私に近づいたの。』
「何って、そりゃあ・・・────トモリちゃんと番になりたくて?」
・・・・・・番?番って確か・・・魔物で言うところの、夫婦・・・のような関係のことだった気が・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?』
意味がわからなくて、意味不明だと思いっきり顔に出して訴えてみる。しかしマシロはニッコリと笑うだけ。この野郎・・・。
「ボクってさぁ、生まれた時から頭が良くて、それでいて白かったから、他のスライムから浮いちゃっててさ。ボク自身もスライムって感じじゃなくて、どちらかと言うと人間寄りの思考回路なんだ。だからどうしてもスライムの生き方が合わなくて、ボクは群れを抜けて1人で旅を始めた。旅を始めて少しして、ここに辿り着いたの。」
そして、トモリちゃんを見つけた。そう言ったマシロの顔が心底嬉しそうで、柄にもなく押し黙ってしまう。
でも、仕方ないじゃないか・・・。私は負の感情を向けられることには慣れているけど、正の感情をここまでモロに向けられるのは慣れていないのだから。
だから塚井からの好き好きアピールには大変苦労させられた。正直最初は苦手・・・というか嫌いだったぐらいだ。
「ボクねぇ、色が見えるの。その人の本質が見える。赤、青、緑、黒、白、色んな色をした人がいるけど・・・トモリちゃんの色は、なんだか他の人と違った。」
・・・色が見える?あぁ、だから気配を消していた私に気付いたのか。マシロは私を見つけた訳じゃなくて、色が見えたから人間がいることが分かった、ということね。
それで・・・私の色が他の人とは違うって?それはつまり、私の色だけ毒々しい黒とかそういうあれか?
「トモリちゃんの色はねぇ─────桃色と、黒色だよ。」
・・・桃色と黒色?黒は分かるけど、桃色なんて私とは一番縁遠い色だと思うけど。強いて言うなら、髪の色が桜色ってくらいかな。
「んっとねー・・・桃色を黒が無理やり抑え込んでる感じがするんだよねー。まるで、そう──────優しいのに優しくないフリをしてる・・・みたいな?」
マシロのその言葉を聞いた途端、キーンという警告音が頭の中で鳴り響いた。
これ以上聞いてはいけないと、本能が告げていた。しかし、好奇心には抗えないのが人間の性というやつで。私の口は勝手に言葉を紡いでいた。
『・・・・・・・・・何が言いたい。』
声が少し震えていたのに気が付いた。あぁ、いけない・・・こんなの私じゃない、私はこの程度のことで動揺したりしない・・・、
──────これ以上表に出てくるな、マガイモノ。
────────絶望に押しつぶされて死んだ、弱い弱い少女の私よ。
スッ、と目を細め、感情を殺した。私は強いのだと、確りと心に刷り込んで。
それでも体までは制御出来ず、目が勝手にマシロの一挙一動を悉く追い掛けた。そうして唇が動くのを、スローモーションにした映像を見るかのようにただ眺めていた。
「────────トモリちゃんは、どうして強いフリをしてるの?」
本当は弱いクセに。唇の動きで、マシロがそう言ったのが分かった。だけど声が聞こえないくらい、私の意識は殻の中に篭ってしまっていた。
───────弱い?この私が?
有り得ない、と心の中で呟き嘲笑った。このスライムは何を言っているのだろう。
私は強いのだ。誰よりも、何よりも、強く生きている。
馬鹿馬鹿しい、何が強いフリをしている、だ。私は元から強い、ただの強がりとかじゃなく、ほんとに、
『何を言うのかと思えば、そんなことか。───────私は強い。誰がなんと言おうと、私は誰よりも強い。分かったらとっとと寝な。明日も早いんだから。』
強制的に話を終わらせたのは、私にまだ余裕がないからか。マシロは不満そうに私を見ていた。しかし向けられる全ての視線と感情を無視して、私は立ち上がり木の根元に腰を下ろし、目を瞑った。
マシロがどうして魔物に追われていたのか聞くのを忘れていた、と頭で考えながらも、今は何も考えずに眠りたい気分だった。
嗚呼・・・例えば過去さえも、悪い夢だったと言って笑えるような・・・そんな未来が、私にあれば良かったのに。
そんな”本当の強さ”が、私にあれば・・・、
──────私はきっと、こんなに息苦しい生き方をしなくて済んだ筈なのに。
『・・・父さん。』
無意識のうちにポツリと呟いたその声は、やがて闇の中へと消えていった。
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