第39話依然、素直にはなれない


「あ、おかえりトモリちゃん。」



『・・・・・・・・・ただいま。』



最近、真白がどの程度私の行動を読んでいるのか怖くなる時がある。今だってそうだ。



『・・・あの、真白?』



「ん?なぁに?」



『どうして宿に?』



「だっていつまでも森にいたら風邪ひいちゃうじゃん。」



その通りなんだけどさ。・・・はぁ。やはり真白にはなんでもお見通しなわけだな。



・・・そう。会話で分かると思うが、真白は何故か近くの街の宿にいた。



星約を交わした者の位置は直ぐに分かるため、まさかと思いつつ宿まで来てみたのだが。本当にここにいるとは。



・・・私の行先が分かっていたとしてもさ?少しくらい心配とかしてくれてもいいのに。



そんなふうに謎の対抗心が芽生えた私は、思わず言うつもりのなかったことを口にしていた。



『・・・アーテルとルーフスに会った。』



「アーテルは大体予測できてたけど、ルーフスとも会ってたの?だからこんなに遅かったのか。」



『・・・・・・アーテルとは、デートをしてきたんだ。ルーフスとは殺し合い。』



「デートかぁ、やっぱりあの時見逃してもらう条件はそれだったんだね。でもルーフスは分からないなぁ。殺し合いってことは、トモリちゃんに恨みでもあったのかな?」



『・・・・・・・・・その戦いで手を怪我した。』



「でもちゃんと治したんでしょ?成長したねぇトモリちゃんも。」



・・・・・・ニコニコニコニコ、こんなに真白の笑顔が嫌になったことがあっただろうか。いいや、ない。



・・・・・・やっぱり、怒ってるんだろうか。勝手に決めて勝手にアーテルのところに行ったから。



だから、心配もしてくれなかったんだろうか。怒ることも、してくれない。・・・寂しい。



別に真白に心配かけたかったわけでも、怒らせたかった訳でもない。真白は単純に私のことを信頼して、絶対に帰ってくると信じてくれていたのかもしれない。でも・・・それでも、



─────少しくらい、心配して欲しかったな。



『・・・・・・エストレアは?』



「夕食の買い出しに向かったよ〜。エストレア、トモリちゃんのこと心配してたよ。泣きそうになってたし。」



・・・その言い方じゃ、真白は私のこと心配してなかったみたいだ、なんて。悲しむ資格なんてないって分かってる。分かってるよ。



・・・エストレアには、後でちゃんと謝る。・・・・・・真白にも、謝らないと。



『・・・・・・真白、』



「なぁに?」



『・・・・・・・・・ごめ、』



謝ろうと口を開いた瞬間。ガチャ、と扉が開く音が聞こえてきた。



そしてその直後にはガタゴトと何かが落ちる音と、温かいぬくもりが私を包んだ。



「────────トモリ・・・ッッ!!!」



『、!!えすと、れあ。』



ぎゅうぎゅうと私を抱きしめるエストレアの手は震えていて、心配をかけたのだと改めて感じた。



その瞬間、ドッと罪悪感が湧いてくる。謝らないと、と本能的に感じ取った。



『・・・・・・すまなかった。』



「・・・もう、いきなり消えたりしないで・・・ッ、俺を置いてかないでっ!!」



『あ、ぁ。悪い、悪かった、エストレア。』



「ばか、ばかトモリ!もう絶対離さないから!!」



『それは・・・困る。』



「困らせてるの!・・・ほんと、良かったぁ・・・ッ、」



心底安堵したような声。その声を聞いて、こっちが泣きそうになる。



「・・・ほら、早くご飯食べよ〜。ボクお腹すいちゃった。」



「そうだね。トモリ何食べる?色々あるよ。」



『あ、あぁ。・・・・・・なんでもいい。』



「そう?じゃあこれ食べて!絶対美味しいから。」



『分かった、ありがとう。』



なんでもないような顔をした真白を見て・・・また、泣きそうになった。



ご飯の味は、よく覚えてない。



──────────────────



・・・眠れない。真白のことが気になりすぎて。というななんで3人とも同じ部屋なんだ?空き部屋がひとつしか無かった?しょうがないけどすっごく気まずいよ。



はぁ、とため息をついて、体を起こす。そしてエストレアの方を見ると、エストレアはすぅすぅと規則正しい寝息を立てて眠っていた。



真白は・・・私に背中を向けていてよく分からないけど、多分寝てる。



・・・・・・・・・寝てる、よな?



ごくりと生唾を飲み込む。私は少し緊張しながら、そうっと真横にある真白のベッドに足をかけた。



そしてゆっくりと真白が寝てるベッドに侵入した。



持ってきていた枕を真白の枕の隣に置き、真白が被っている布団に忍び込む。



真白が動く気配は無い。その事にホッとしつつ、真白の背に向かって小さな声で呟いた。



『───────ごめん。』



起きてる時に言えって、まだ素直になれない私に、真白は怒るだろうか。でも、やっぱり少し気恥しい。



だから、こんな形の謝罪でも、許してくれ。



『───────私の事、信頼してるから先に街に向かったって、分かってる・・・けどね、やっぱり少し、寂しかった。・・・ちょっとだけでもね、心配とか・・・して、欲しかった・・・。真白、ごめんね・・・真白・・・ごめ、ん・・・ましろ・・・、』



────────ましろ。



名前を呟くだけでも安心してしまう。大好きで、愛おしい名前。私は目の前にある真白の姿に安心感を抱きながら、目を閉じ眠りについた。



「・・・・・・もぉ、起きてる時に言ってよね。」



少し赤くなった顔には、気付かないふりをして。真白は愛しい人の顔を見るために体の向きを変え、ぎゅうっと包み込むようにして抱き締めた。



無意識なのか、弱い力で服を掴んでくるトモリが愛らしい。真白はふふふ、と嬉しそうに笑い、そして眠りについたのだった。

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