第40話新たな出会いと始まり
『・・・なぁエストレア、いい加減機嫌を直してくれないか。』
「・・・・・・ふんっ!」
「あはは〜、どうするのトモリちゃん。」
『どうするって・・・、』
エストレアの不機嫌の一因が真白なんだけどな?まぁ、ほとんど私が悪いんだが・・・。
真白のベッドに忍び込んだ次の日。私達3人は直ぐに街を出て、次の街に向かっていた。
魔物がかなりいる森らしく、先から何度も魔物に遭遇している。
まぁでも、八つ当たりなのかエストレアが全部倒してるけど。
・・・朝起きたら何故かエストレアに怒られたのだが、どうやら男のベッドに忍び込むなということらしい。
男って言うか、真白はスライムなんだけどな。そして何故自分じゃなく真白だったのだと未だに拗ねているのだ。
真白も真白で何も言ってくれないし。というか真白の方はなんだが機嫌がいいみたいで、いつもよりも少しだけ優しい気がした。
「・・・大体、昨日どこに行ってたのかも教えてくれないし。でも何故か真白は知ってるみたいだし。・・・・・・トモリってば真白と一緒に寝てるし。」
『・・・昨日のはただの私のわがままで。えっと、とある人達ととある約束をしててね?その約束を果たすために週一回だけ逢いに行くんだよ。』
「・・・その約束は、言えないことなの?」
『まだ、な。・・・というか、真白にも約束の内容は話してないぞ。頭がいいから勝手に察してるだけだ。』
「てへ☆ボクってば白の眷属だからさぁ。」
「白の眷属!?ってことは・・・魔物?」
あぁ・・・そういえば言ってなかったっけ。真白がスライムだってこと。
『真白のこの体は私の姿を真似てるだけだ。実際はスライムでな。』
「スライム・・・?って、あの水色のプヨプヨした?子供でも倒せる雑魚モンスター?」
「失礼だなぁ。まぁ間違っては無いけど。ボクは白の眷属だから元々自我みたいなものがあったんだよね〜。あと体の色も水色じゃなくて白。白だから、ほら、髪の色も白でしょ?目の色はトモリちゃんの真似っこだけどさ。」
「・・・ほんとだ。真白に興味が無さすぎて気が付かなかったけど、真白ってトモリに似てるね。」
「酷くない?ボクはエストレアのこと出会った時から観察してたのに。」
「それは警戒してたからでしょ。・・・でもそっか、真白は魔物なんだ。」
『あぁ。一応姉弟で通してる。』
「姉弟ね・・・なら、いいか。」
お?ようやく納得してくれた?いやぁ、良かった。このままじゃ一生拗ねたままかと。
『・・・ほら、分かったなら移動するぞ。とっとと森を抜けよう。』
「そうだね。一々魔物を倒してたらキリがないし。」
「じゃあ汚しそうで嫌だけど、これ付けるね〜。」
そう言って真白が首に付けたのは私があげた真白の体質を打ち消すチョーカー。
エストレアは不思議そうにしてたけど、私は頭を抱えて心の中で叫んだ。
魔物が多かった原因はそれだ、と。何のための魔物吸引体質を抑制するチョーカーだよ、と言いたくなった。
頭のいい真白なら当然分かっているはずなのだが、汚したくないのかあまりチョーカーを付けたがらない。
チョーカーを大切にしてくれるのは嬉しいのだが、私としてはそれを付けてくれた方がもっと嬉しいわけで。
・・・まぁ、真白が愛おしそうな顔でチョーカーを見てるのを見てると、全部どうでも良くなっちゃうんだけど。
そういうとこ、真白に甘いよなぁって心底思う。でも・・・そんな自分が、割と好きだから。暫くはこのままで・・・のんびりとした関係で居られたらいいと思う。
チョーカーを付ける真白を見てそんなことを考えていたのだが。少し遠くの方に不思議な気配を感じて、ふと足を止めた。
私の後ろにいた2人も気付いたみたいで、警戒を強めた。それを確認してから、私は探索魔法を起動して正確な位置を調べる。
『200・・・いや、150か?そのくらい先に人が一人、そしてその数m先に魔物が5体。多分追われてるな。』
さて、どうしたものか。森を抜けるにはここを突っ切るのが一番早いんだけどな。かといってこのまま進めば面倒事に巻き込まれる。
『・・・・・・はぁ。』
選択肢は3つある。まずその1、追われている人を見捨てて逃げる。正直これが一番楽なのだが、デメリットがデカすぎるのだ。
なんせ逃げるとなると方向感覚を見失うことになる。他の人なら話は別だが、運の悪い私だと確実に迷う。つまり街への到着が大幅に遅れる。
その2、隠れてやり過ごす。これはいちばん無難で危険が少ないが、追われている現場を目撃せざるを得ないので半分関わってしまうことになる。
最後にその3、普通に助ける。これは1番面倒な方法。助けてじゃあさようならって出来ればいいけど、もし追われている人が助けを求めてきたりしたら面倒だ。
考えてるうちにどんどん距離が縮まってる。でもなぁ、どれもこれも面倒臭いんだよなぁ・・・。
「どーする?トモリちゃん。」
「別に助ける必要は無いと思うけど。メリットがない。」
「ボクもそう思うけど、どう行動しても基本面倒だからなぁ。」
「確かに。・・・じゃあ両方殺っちゃえば?」
「いいね♪名案じゃん。」
・・・・・・なんか、後ろの2人の会話が私以上に不穏なんだけど。第4の選択肢作り出しちゃってるし。
それにしても2人とも冷た過ぎないか?いや、私が言えたことじゃないのは知ってるけども。
まぁ真白は元々魔物だし、人間を助けるなんて考えが無いのは知ってるけど。じゃあエストレアは?エストレアも・・・うん。エストレアはもっと重症、というか人間を恨んでてもおかしくないな。
この2人に任せたらダメだと思った。だから選択肢2と3を足して2で割った選択肢を選ぶことにする。
『”とりあえず2人とも気配消してその木に登れ。”』
一応テレパシーで伝えると、真白は慣れているため指示に従いスタスタと登っていった。しかしエストレアは初めて使うためか少し戸惑った顔をしており、数秒沈黙したあとようやっと真白を真似て木に登り始めた。
2人が木の上に登り切った後、私も素早く木に登った。
『”真白は1番前の魔物2体、エストレアは真ん中の魔物2体を頼む。”』
「「”了解。”」」
2人の肯定の声を聞いてから、魔法を発動させる準備をする。私が倒すのは、1番奥の1番強い魔物。Lvにすれば大体200ってところか。
・・・・・・どうしてそんなハイレベルの魔物がこんな森にいるのか、気になるけどひとまずは倒さなければ。
『”来た。攻撃まで、5、4、3、2、1、GO!”』
追われている人間が私たち3人のいる木を通り過ぎた瞬間、真白とエストレアの攻撃が前4体を屠った。真白は土魔法、エストレアは氷魔法だ。
手下4体がやられたことで驚いた様子を見せた奥の魔物は、それでも追っていた人間を殺すために再び走り出した。
『(させない。《魔力撃(チャームショット)》)』
心の中で魔法を発動させた瞬間、魔物の体を私の魔力が貫いた。完全に貫通し、魔物の腹部分にかなり大きな穴を開けた。
そして、魔物は白目を向いて倒れた。呆気ないな、と思いつつ面倒事に巻き込まれないために早々に逃げようとしたのだが・・・ふと、真白が私の肩にちょんちょんと触れた。
どうした?という意味を込め首を傾げると、真白は苦笑いで下を指さした。そこには、何故か地面に伏している追われていた人がいた。
もしかして流れ弾にでも当たったか?と思ったのだが、どうやらそうでは無いらしい。真白曰く、勝手に倒れたとのこと。
魔物に追われていたショックで倒れたのか或いは・・・疲れが溜まっていたのか。
なんにしろ少し気になることもあったので、木から降りて追われていた人の姿をしっかりと観察した。
『・・・・・・もふもふ、』
思わず口から出た言葉に、自分自身が驚きハッとする。慌てて口を塞いでみるが、真白はニヤニヤしていて、エストレアは苦笑いをしていた。やめて恥ずかしい忘れてくれ・・・。
綺麗な灰色の髪だが、放置していたのか伸びっぱなしで胸までの長さになっており、ボサボサでお世辞にも綺麗とは言えない髪。そして印象的な・・・ふわふわとした耳。まさか追われていた人がこんなにもふもふした毛を持つ──────所謂獣人、だなんて思わないじゃないか。
それにしても綺麗な灰色だな・・・あぁ、耳が、耳がある・・・ふわふわの耳・・・触りたい、触っちゃダメかな・・・?
「・・・獣人族の耳と尻尾は家族かパートナー以外の人には触らせないっていう掟があるんだよ。」
『んっ、ぇ、!?な、なんのことエストレア・・・?』
「あはは!動揺し過ぎだよトモリちゃん〜。」
くっそ、こんなにもふもふなもふもふが目の前にあるのに、お預けだと・・・?そんな、そんなことできるわけ・・・っ!
『・・・・・・真白、こっち来い。』
「はいはぁい、なぁに。」
柔らかく笑いながら私の目の前まで来た真白。真白は私が何をしたいのか分かっているのか、少ししゃがんで頭をこちらに向けてくれた。
私はその頭をわしゃわしゃと撫で回す。サラサラな髪、綺麗な白い色、もふもふじゃないにしろ、精神は安定してきた・・・。
「・・・トモリ。もちろん俺にもするよね?」
『え、エストレアも?』
「するよね??」
『します。』
エストレアは怒らせちゃいけない・・・怒ると拗ねるから。・・・拗ねてるとこ可愛いけど。
「ん。」
エストレアが嬉しそうに笑って頭を差し出してきたので、遠慮なく撫で回す。うわぁ、真白とは違う髪質・・・少し癖毛なのかな?でもエストレアの方がもふもふしてる・・・。
『・・・・・・・・・。』
客観的に見て、今の私ってどうなのだろう。というか何この構図。シュールすぎない?
一周まわって落ち着いてきた私は、ゴホンと咳払いをひとつ零し、エストレアから手を離した。
エストレアは寂しそうにしつつも、最後には幸せそうな顔で笑った。
・・・こんな風に撫でるだけでこんなに綺麗な笑顔を浮かべてくれるなら。いくらだって撫でてあげるのに。
なんて。こんなこと考えてる場合じゃないんだった。
『真白、その獣人の容態は?』
「うん、この子すんごいボロボロだねぇ。汚れてるし、服だって所々破れてるのに修繕が施されてない。何よりこの首輪。この首輪から考えるに、多分この子奴隷だね。」
『奴隷か・・・。』
「奴隷ってことは、主人から逃げてこの森に入ったってこと?」
『そうとも限らないが・・・その可能性は高いな。』
こんなになるまで逃げてきたのだとしたら、相当遠くから来たのかもしれない。
『・・・・・・・・・仕方ない。今日はここで野宿にしよう。』
「あれ〜?もしかして、獣人贔屓かなぁ?あのトモリちゃんが誰かを看病しようとするなんて。」
『違う。・・・気になることがあるだけだ。』
決して、もふもふが気になるからとかでは無い。・・・決して。
自分に言い聞かせるように心の中で言い訳を施す。あくまで私は、気になることを探るために看病するのだ。
「・・・その気になることってもしかして、さっきの魔物のこと?確かにあの魔物は上位種で、普通この森には現れないけど・・・何かの陰謀じゃあるまいし、自然的に発生した可能性も無くはないんじゃない?」
『分からないが、何か嫌な感じがする。その嫌な感じを確かめるために話を聞きたいだけだ。』
「嫌な感じ・・・ねぇ。」
真白はもしかしたら何かに気付いているのかも知れない。でも話さないってことは・・・まだ確信がないのか、それとも・・・。
『・・・とにかく、この子を看病する。真白は枝を、エストレアは水を頼む。』
「りょーかい!」
「分かった。任せてトモリ。」
2人はそれぞれ返事をすると、別の方向へと歩き出した。
こうして、保護した獣人の看病は始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます