第60話平行線
光が、カエルレウムを覆った。光が私の魔力を全て吸い尽くして、やがて形を変えた。
形を変えた光は、すぅっと引き込まれるようにカエルレウムの中へと入った。そして光は消え、再び暗黒が戻ってきた。
『っ、!!!』
魔力が吸い尽くされたせいか、力が入らなくて地面に倒れ込む。
『・・・よかった。』
呟くと同時に、すぐ側から人が起き上がる気配がした。
「────────ぅん、あれ、俺・・・、」
「「ッッ!!!」」
「あ、トモリンじゃ〜ん。こんなとこで寝転がって何してんの〜?」
『・・・きゅーけい。』
「休憩?よくわかんないけど、疲れてんの?じゃあよしよししてあげる〜。」
よしよぉし、と言いながらげこちゃんが私の頭に触れる。優しいその手と体温に、思わず泣きそうになってしまった。
しかしその涙腺の緩みはアーテルが凄い形相で私のそばにしゃがみこんだ事で引っ込んだ。
「────────なに、いまの。」
アーテルの声は震えていた。形容できない感情が胸の内で燻っているかのような、言葉にできない顔をして。
「今のはなんだって聞いてんだよッッ!!」
見たことのない怖い顔。本気で怒っていた。いいや、怒っている・・・というか、感情の整理が出来ていないのか。
「ちょちょ、黒いのってば何ピリピリしてんの?落ち着きなよ〜。」
「・・・覚えてねぇのか、カエルレウム。」
「は?なにが?」
「────────お前、死んでたんだぞ。」
「───────────────は?」
困惑した顔。どうしたものか。というか・・・なんて説明すればいいんだ、これ。
「いや、俺生きてんじゃん。何言ってんのさ赤いの。」
「信じられねぇ・・・つぅか信じたくねぇが、蘇生したんだよ。」
「は?そ、せい・・・?なに、言ってんの・・・?」
「─────────そこに転がってるクソ女が、死んでたテメェを蘇生したんだよ。」
「・・・・・・・・・な、ぇ?なに、それ・・・、」
「────────驚くべきなのはそれだけじゃないわ。」
先程よりも数段落ち着いた声で告げたのはアーテルで、アーテルは真剣な顔で私を見つめていた。
「────────”慈愛の瞳”」
「え?それって確か、」
「そうよ。大罪系と対になる天使系の魔法。色欲が世界一嫌われた能力なら慈愛は、世界一愛される能力。でもこれらを持っていること自体は問題じゃない・・・単体でなら。」
「・・・そういうことか。大罪系と天使系の魔法は同時には所持できねぇはずだ、って言いてぇんだな?」
「えぇ。・・・答えてトモリ。アナタは、何?」
・・・何?とか酷くないか。私はただの私。私以上でも以下でもない。それに私だって、慈愛の瞳を持っていたなんて知らなかった。たった今突然、使えるようになったんだから。
「いいえ・・・違うわね。その前にまだ聞くことがあるわ。・・・アナタ、”慈愛の瞳”はいつ手に入れたの?」
『・・・たった今。』
「っ!!嘘よ、そんなの嘘よ!!」
『・・・、アーテル?』
「ならなぜ魔法が覚醒しているのッ!!?」
───────────────覚醒?
「さっきの詠唱、覚醒した”慈愛の瞳”の呪文だわ。何よりも、覚醒前の”慈愛の瞳”では死者蘇生なんかできっこないのよ!!」
『そ、んなこと、』
そんなこと言われても、本当に分からない。ただ夢中で、きっとこの魔法はげこちゃんを救えるんだって、思ったから。
『・・・しらない。』
「知らないですって?じゃあなんでその魔法を使ったのよ!」
『勘で・・・、』
「勘?アナタ、あの土壇場で勘を信じたって言うの!?」
そうだって言ってるだろ・・・というか、なんで私こんな責められるようなこと言われなきゃいけないんだ。
命を灯したのに、死者を蘇らせたのに、どうしてそんなこと言われなきゃいけないんだ。私はただ・・・恩を返しただけなのに。
『・・・別に、恩に着せたかったわけじゃない。』
「そんなの分かってるわよ。大体カエルレウムを蘇らせたところで、あたしたちに仮を作ることは不可能よ。」
「というかトモリン、どうして俺を生き返らせたの〜?別にトモリンが俺を甦らせる義理はないよね?」
「どうせ扱いやすいからだろ。メメントモリの中に知り合いがいたら何かと便利だしなぁ。」
本気で分かっていなさそうな3人の態度に、フツフツと怒りが湧いてくる。
確かに、私は不器用で気持ちを伝えるのは下手だ。それに別に伝わって欲しいと思わない。だけど・・・せめてげこちゃんにだけでも、わかってて欲しかった。
そう思うのは、私のわがままなんだろうけど。
だって、私だってこの3人に純粋な好意を向けられても気付かないし、何かの罠なんじゃないかと疑うだろう。
それでもちょっと考えたら分かるだろうが。死者蘇生の難しさくらい。命の重さくらい。
今こうして倒れ込んで、起き上がれなくなるくらい、力を使い果たして死者蘇生を行ったのに。
『わたし、』
「、トモリン?」
『──────邪な感情で死者蘇生を行えるほど、器用じゃないよ。』
私、嫌いな奴の死者蘇生なんか、死んでもしないよ。いい加減わかれよ、馬鹿野郎共。
「!!ともり『──────もういい。』っ!!まって、トモリン!!」
もういい。もう知らない。もう、こいつらの手なんか借りない。
『もういいッ!!!』
私は重たい体を持ち上げて歩き出した。アーテルとげこちゃんの引き止めるような声が聞こえたけど、もういい。もう知らない、あんな奴ら。
────────分かり合えるかもと、思ってた
でも、結局私たちは根本的に違う。私は命の重みを知っているが、あいつらは知らない。
きっと、大切な人が死んだ時でさえ、さっきみたいに冷たい顔をしているのだろう。
『(・・・あんな顔、初めて見た。)』
───────昔は私も、あんな顔をしていたのだろうか。
そう考えて、少し恐ろしくなった。
星約の姫君 白亜 @hisagi01
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