第59話灯す慈愛の光

トモリside



『・・・・・・ミヤ、ミツヤ?』



ルーフスとアーテルを連れて廊下を歩いていると、見覚えのある2人が地面に倒れているのを見つけた。



私は慌てて2人に駆け寄り、そっと脈を確認する。・・・うん、生きてる。でもどうしてこんなところで倒れてるんだ?危なくなったら連絡してって言ったのに・・・。



「・・・・・・あ。」



『・・・あ?』



なんか今ルーフスからあ、って声が聞こえたんだが??絶対何か知ってるだろ。



「そいつら気絶させたの俺だわ。」



『は??』



お前マジで許さんからな、と睨み付けるが効果はなし。いつか絶対に殺してやる・・・。



とりあえずテレパシーでエストレアを呼んでみる。しかし応答は無い。もしかして、あの戦地にいるのか?



『・・・アーテル、頼みがある。』



「・・・なによ。」



『この2人を瞬間移動で安全な場所まで送ってくれないか?』



「・・・・・・・・・。」



『頼む、アーテル。』



「・・・・・・・・・はぁ、わかったわよ。」



アーテルはやれやれ、というように肩を竦めると、ミヤとミツヤを両脇に抱え一瞬にして消えた。そしてまた数十秒後には戻ってきたのだから、やはり瞬間移動はすごいな。



『ありがとう、アーテル。』



「・・・言っておくけど、貸し一つよ?」



『ん、それで構わない。』



子供たちが危ない目に遭うよりはマシだ、と納得する。何を要求されるか分からなくて怖いが、今はそんなこと言ってる場合じゃないしな。



「んなことよりも、早く止めた方がいいんじゃねぇか?」



『・・・・・・言われなくても止めるさ。』



それにしてもやばいな。思っていたよりも被害が大きい。早く狼少年を止めないと。



「・・・ねぇ、気のせいかあの狼・・・こっちに向かってない?」



『え?』



そう言われて狼少年をじっと観察してみる。確かに、狼少年は少しずつだがこちらに向かっていた。



『・・・ッ!!』



「トモリ?どうかしたの?」



『や、あの・・・なんか、目が合った気がして・・・。』



「「は??」」



いやそんな目で見るな。私もなんで目が合ったって思ったのか分からないんだから。気のせい・・・と思いたいけど絶対気のせいじゃないと私の中の勘が言っている。



『き、気のせい・・・気のせいだ多分。それよりもアーテル、瞬間移動でなんとか近くまで行けないのか?』



「は?瞬間移動を連発出来るわけないでしょ。さっきのが限界よ。」



『え??』



「何よその目。まさかアナタ知らないの?瞬間移動は使用者の魔力を3分の1使用するのよ。」



『は??』



初耳。あれ、ということはさっき2回使ってたからあともう1回使ったら魔力スッカラカンってこと?



・・・・・・今更だけど、エストレアって凄いんだな・・・。この前5回くらい連続で使ってたし。



『・・・わかった。なら私の魔力を分けるから、それで瞬間移動してくれ。』



「「は??」」



なんなんだこの空気。さっきからみんな驚いてばっかりじゃないか。



「あなたまさか、最上級魔法の《魔力譲渡(チャームトランスファー)》が使えるっていうんじゃないでしょうね!!?」



『使えるが?』



「チッ、マジで規格外だなほんとに人間か?」



『失礼だな。』



・・・あれ、この魔法って確か相性が必要なんだっけか?前に真白がそんなことを言っていたような言ってなかったような・・・ま、いっか。



『《魔力譲渡(チャームトランスファー)》』



「ちょ、まだやるとは言ってな・・・ッ!!」



どのくらいあげればいいのか分からなかったから、とりあえず半分あげたけど・・・足りるか?



「・・・・・・ば、っ」



『ば?』



「ばっかじゃないの!!?魔力譲渡なんて危険な行為をホイホイするんじゃないわよ!!相性が悪ければ最悪死ぬことだってあるのよ!!?」



『あ、はいそうでした。聞きました昔。』



アーテル、真白と同じこと言ってるな。まぁでもそれだけ危険ってことか。これからは気を付けよう・・・。



「はぁ・・・じゃあ、移動するわよ?というかこんなに魔力要らないのよ。あたしの魔力限界超えてるじゃない。」



え、じゃあ魔力は私の方が多いってことか?やった、初めてアーテルに勝った。



「全くもう、嬉しそうな顔しちゃって・・・。ほら、行くわよ。あたしに掴まりなさい。」



言われた通りアーテルの腕に掴まる。反対側にはルーフスがいたからとりあえず睨み付けてはみたものの、鼻で笑われた。くそ、これじゃまるで私が子供みたいじゃないか・・・。



ムスッと顔をゆがめてむくれていると、いつの間にか景色が変わっていて、ドォォォン、という爆音が近くで響いた。そして人々の悲鳴が鮮烈に聞こえた。



何よりも、約500m先に狼少年がいる。遠目で見るよりも大きくて思わず息を飲んだ。



そうやって狼少年に気を取られていたからか、足先にあった何かに躓いてしまった。



しかし横にいたアーテルが支えてくれたことで転ぶのは回避出来た。・・・あれ、私なんか、めっちゃアーテルにお世話されてる?



・・・え、というか今私が躓いたのって、



『・・・げこちゃん?』



最近知り合いが地面に倒れてる確率が高い気がするって、あれ?げこちゃん息してなくないか?



「・・・カエルレウム、まさか死んでる?」



「マジか。」



なんでこの2人は仲間なのにこんなに冷静なの?次誰に隊長やらせる?じゃないんだよ冷たいな。



と、とりあえず止血・・・いやポーションか?



私は魔法袋からポーションを取り出して豪快にげこちゃんにふりかけた。うん、傷は塞がった。でも何故か意識が戻らないな。



『(確か・・・真白を蘇生した時は魔力譲渡を無意識のうちに使ってたから蘇生出来たんだっけ?でも魔力譲渡は魔物だから有効だったのかな?どうなんだろ・・・うぅん。わからん。)』



とりあえず全部試してみよ、とまずは魔力譲渡をしてみる。しかし反応は無い。ならば、と今度はありったけのポーションをふりかけてみたがやはり反応は無い。・・・え、もしかしてこれマジで死んでる?



「トモリ、あなたがそこまでする義理は無いわよ。放置でいいのよ放置で。」



「そんなことしたって無駄だっつーの。諦めろ。」



マジで冷たいなこの2人。さっき私を手伝うと言ってくれた2人はどこに行ったんだ。



「・・・それにカエルレウムは、というかメメントモリは、どうしようもないやつの集まりなのよ。死んで当然のクズしかいないの。カエルレウムだって、人を沢山殺してる。アナタだって、殺されかけたんでしょう?」



『は?』



人を沢山殺してる?私も殺されかけたから?カエルレウムはどうしようもない奴だから?それが、なんだと言うんだ。私は、そんなどうしようもないろくでなしのげこちゃんに、さっき救われて、助けられたというのに。



私、自分至上主義だからさ、道端に人が死んでようがどうでもいいんだよ。基本的には。



でも・・・げこちゃんは、私の事”色欲”だって知ってても、それでも助けてくれた。面倒がってはいたけど、怖がってる素振りはなかった。



前の世界でも、私を助けてくれる人なんか父さんと友達3人しかいなかったのに。だから、



そんな命の恩人さえ見捨ててしまったら───────私はきっと、ひとりぼっちになってしまう



それは少し、ほんの少しだけ、寂しい。だから・・・、



『・・・』



──────────助けたい、そう思った直後の事だった



『・・・ッッ!!!』



「トモリ?どうかしたの!?」



───────どくん、心臓が鳴った



何故か体から力が抜けて、がくん、と地面にしゃがみ込んだ。



『ぁっ、な、にが・・・っ、』



「ちょっとトモリ!しっかりしなさいトモリ!!」



「まさか怖気付いたか?・・・いや、お前はそんなタマじゃねぇわな。」



『は、は、はっ、は、ぁッ、は、』



なんだこれ、なんだこれなんだこれ・・・っ、息ができない、苦しい・・・っ!



「ど、どうしよう、トモリが・・・、ト、トモリ、ゆっくり息吸って!だ、大丈夫、大丈夫だから!!」



「チッ、アーテルお前ポーションは。」



「持ってねぇよ・・・っ!怪我なんてしないし!!」



「使えねぇ。つぅか落ち着け。お前が慌ててどうするよ。」



「んなこと言われたって・・・っ、もしトモリに何かあったら・・・!!」



「だからってお前が慌ててたら元も子もねぇだろうが。黙って深呼吸でもしやがれ。」



「そうだな・・・い、いや、そうね・・・あたしらしくなかったわ。」



『は、はぁ、はっ、ぅ、ぁっ、!』



─────アーテルとルーフスの声が段々と聞こえなくなっていく。



視界もぼやけてきて、意識すらも、深い海の底へと沈んでいくように、ゆっくり、ゆっくりと堕ちていく。



静かで暗い、海の中のような感覚。そんな感覚が崩れたのは、突然頭に酷く鋭い痛みが走ったから。



痛くて痛くて、容赦のない激痛に体が言うことを聞かない。



このままだとダメだ、そう思うのにやはり体は動かなくて。早々に諦めそうになった、その時。



”トモリ”と、私の名を呼ぶ、優しい声が脳内に流れ込んできた。



流れ込んできた・・・?いいや、違う。これは記憶。私の中にある思い出。数少ない父さんとの思い出だ。



私は父さんと歩いていた。手を繋いで、ニコニコ笑い合いながら。



何をしていたのか、そこがどこなのか、もう思い出せないくらい遠い記憶だけど・・・この時父さんが何を言っていたのかは、なぜだかどの記憶よりもはっきりと覚えていた。



───────”灯を点せ、されば光は汝に宿らん。灯を燃やし、命を灯せ。されば汝、禁忌をも超越する光とならん。”



”とーさん?なにいってるのー?”



”んー?灯の名前の由来だ。人の心に命を灯し、あらゆる生き物の光になりますように、って願いを込めてるんだぞ。だから灯、困ってる人がいたら助けるんだ。そうしたらきっと、倍になって感謝が返って来る。・・・人の弱さを包み込める、優しい人間になってくれ。”



”うん!あたし、だれよりもやさしくなる!!それでね、いつかとうさんのひかりになるの!!”



”・・・!!ははっ、灯は生まれた時から俺達の光だ。母さんも、お前のことを愛してるんだぞ。”



”そうなのー?あたしのおかーさん、いつか会いたいなー。”



”・・・会えるさ。いつかきっと、な。”



”うん!!”



──────少し前、この夢を見たことがある



それは、確か真白の蘇生をした次の日だった気がする。



今この瞬間にこの夢を見たのも、何か意味があるのだろうか。



”──────────灯、誰よりも優しくなれ”



あぁ・・・父さん、ごめんなさい。私は誰かを救う光にはなれなかったよ。



でも・・・父さんが言っていた言葉の意味、やっとわかったよ。



『──────────』



意識が覚醒した。気を失ってからそんなに経っていないのか、未だに私はアーテルに抱えられていた。



アーテルの顔には心配の文字が浮かんでおり、その泣きそうな顔に罪悪感を抱いた。



「・・・っ、トモリ!!よかった、目を覚ましたのね!!」



『むぐっ!!?』



アーテルに力強く抱き寄せられ、私の顔がアーテルの硬い胸筋に埋まる。見かけによらず筋肉ある・・・苦しい・・・。



「クハハ!おい、その辺にしといてやれアーテル。じゃねぇと、そのクソ女また目を覚まさなくなるぞ?」



「はっ!ご、ごめんなさいトモリ!苦しかった?苦しかったわよね!!?」



『あ、あぁだいじょぶ、だいじょぶだから肩を揺らすな!』



こいつなんでこんなに動揺してんだ?とこっちが困惑しつつも、私はピクリとも動かないげこちゃんを見つめた。



「トモリ・・・?アナタ、そんなにカエルレウムのこと・・・。」



『・・・・・・・・・よし。』



「と、トモリ・・・?」



なんか、できる気がする。何がって、そんなの決まってるじゃないか。



『──────私の名前の由来、教えてやるよ。』



「え?」



『──────人の心に命を灯し、あらゆる生き物の光になりますように。』



「っ、!!それ、って・・・、」



この世界に来て魔法に出会うまで分からなかったけど、父さんが言っていたあの言葉。あれは多分───────。



私はアーテルの手から離れ、げこちゃんの傍にしゃがみ込んだ。そしてげこちゃんの胸に手を当てて、目を閉じた。



ふぅ、と息を吐き出し集中力を高める。魔力を込めるんじゃなくて、命を灯すイメージで。



『──────── 灯を点せ、』



「「っ!!?」」



空気が変わった。どこかピリついた魔力が私から放たれ、後ろにいる2人が息を飲んだのがわかった。



『されば光は汝に宿らん。灯を燃やし、命を灯せ。』



──────父さんが言っていた言葉は、間違いなく魔法の詠唱呪文。つまりは、



『されば汝、禁忌をも超越する光とならん。』



─────父さんは、こちらの世界の人間だ






『─────── 《慈愛の瞳(カリタス)》』



────────光が、全てを覆った



───────天地がひっくり返る予感がした


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