恋と死の約束
第19話まもなく悲劇は訪れん
宴が終わり、日も落ちて来た逢魔時の刻。私と真白は宿を取り、同じ部屋で宴の疲労を癒していた。
『あ゙ーー、づがれだぁ・・・。』
煩わしいフードを外し、心からの本音を吐き出しながらベッドにダイブすると、真白が珍しいとでも言うように声を掛けてきた。
「そんなに隙見せるなんて初めてだよねぇ。ま、確かに疲れたけど〜。」
『・・・その割には、結構楽しそうだったな?』
「・・・・・・まぁ、それなりには・・・って、なぁにその顔〜。言っておくけど、トモリちゃんも楽しそうだったからね〜?」
『はいはい。』
その顔って、どんな顔をしていたんだろうか、と考えて、直ぐにやめた。だって、きっと嬉しそうな顔をしていたのには違いないのだから。
・・・昔、街を滅ぼすことになんの感情も抱かなかった真白が、少しずつ人間らしい感情を抱き始めてる。この変化が最近の私の楽しみでもあり、喜びでもある。それに気付いたのはいつだったか、もう忘れてしまったが、まるで親のような感情を抱くものだと思わず笑ってしまった。
『・・・そういえば、恩人探しは出来なかったな。』
「だねぇ。ま、明日すればいいじゃん。のんびりとね。ボク達は目的も終点もない、自由な旅人なんだからさぁ〜。」
それもそうか。というかすっかり忘れていたが、私は友達を探すために外に出たんだった。このことは真白にはまだ言ってないから、そのうち話しておかないとな。
まぁ、今日は疲れたから寝るが。いつか、そのうち。気が向いたら話そう。そう決めて、私は眠気に抗うことなく眠りについた。
──────────────────
『ぅ、・・・ん?』
とある異変に気が付き目が覚めたのは、眠りについてから数時間後であった。時間にすれば午前4時頃で、丁度朝日が昇り始める時間帯である。
隣のベッドに眠っていた真白も私と同じ異変に気が付いたようで、ほとんど同じタイミングで目を覚ました。
『なんか、違和感が・・・。』
違和感の正体を探るために視線をキョロキョロと動かすが、寝起きの目と頭では何も分からない。
んー、と唸りながら目を擦り、もう一度違和感の正体を探る。体や精神に何らかの攻撃を受けているのかと思い、取り敢えずステータスを開いてみた。
状態異常の欄を見てみると、そこにはいつも通りの”絶運”と、もう一つ。
──────”吸魔”という状態異常が、掛かっていた。
『「・・・・・・”吸魔”?」』
真白も私と同じ行動を取っていたようで、タイミングを同じくしてその言葉を口にした。
私と真白はお互いの顔を見遣った。その後真白は何かを考えるように数秒間黙り込んでいたのだが、一息ついた真白はとりあえず今の状況を整理しようと言った。それに賛同し、今までの状況を思い返してみる。
「まず今の状況だけど、ボク達は宴を終えて夕方頃宿を借り、部屋に入るなり早々に眠りについた。そしてついさっき、何らかの違和感を感じて目を覚まし、ステータスの状態異常の欄を確認すると、平生では見られないような状態異常”吸魔”を見つけた。」
『”吸魔”の効果は言葉通りで、状態異常に掛かった人の魔力を吸い上げること。これは毒に近い特性を持っていて、解毒薬を飲まなければ永遠に魔力を吸われ続ける。吸われるスピードは大体1秒で1、つまり1分経てば60の魔力が減る。』
「普通の魔力を持たない人ならこの状態異常に意味なんてない、ただの無意味なものだけど、魔力持ちなら話は違ってくる。魔力を持っている人の場合、魔力と生命力は繋がっている。つまり魔力が枯渇すれば生命力を消費し始める。そして生命力を完全に消費仕切ってしまえば、その人は死ぬ。」
『ということは、HPと魔力を足した数値がその人のタイムリミット。私の場合は約40日は生きられるな。』
「ボクも焦る必要はないかなぁ〜。というか、なんなのこれ。寝てる間に誰かに掛けられたの〜?」
そこが謎だ。私のポッシブスキルが発動しているから、部屋の中に誰かが侵入すれば分かるようになっている。にも関わらず、いきなり付与された状態異常。
『・・・昨日の宴で毒でも盛られたか?・・・・・・いや、それならもっと早くに効き始めるはずだ。それに、あの冒険者達に嘘はつけないだろうし。』
「だねぇ〜。馬鹿丸出しの善良な奴らだと思うから、今回の件には多分関係ないよ〜。・・・ってなると、次に問題になってくるのが、」
『付与対象と方法、だな。』
「そのと〜り!やっぱりトモリちゃんは頭い〜ねぇ。」
真白に言われても嫌味にしか聞こえないな・・・。まぁ、本心からの褒め言葉だろうけど。
それはさておき、さっき私が言った付与対象と方法について説明しよう。まず付与対象だが、これがかなり重要になってくる。もしこの付与対象が私達2人だけなら、目的はさておきとっとと犯人を探して解毒薬を確保し、それを飲めば万事解決だ。
しかし付与対象がここ”ヴァイスハイト”なのだとしたら、その被害は凄まじいものとなる。
例えば、魔力持ちの赤子や老人に状態異常が付与されていたとしたら、それは秒刻みで命に関わる事態へと発展するであろう。
仮にこれを阻止するのであれば、犯人を突き止めて解毒薬を確保、では遅すぎるのだ。そもそも解毒薬があるかどうかも分からないのに、犯人が持っていることに期待して探し出すのは余りにもリスクが高い。それに持っていたとしても、人数分無ければ意味が無い。
私達の場合は2週間は問題ないが、街の住民達は違う。もし状態異常に掛かっているとしたら、きっと今この瞬間、命に関わる危機に陥っている人もいるだろう。
それを放置し、犯人探しをするのが得策とは思えない。
次に方法だ。これは単純な話で、どのような方法で状態異常を付与したのか。魔法なのか、何らかの毒なのか、或いはそれ以外の何か・・・呪いの類なのか。まぁ、これについてはどれだけ考えても答えが出るとは思えないが。
その他にも、敵の目的や数、潜伏場所など、調べなければいけないことが山ほどある。迷っている暇は1秒たりともない。
・・・動くなら、早い方がいい。選択しなければ。今、ここで。
『─────真白はどうしたい?助けたい?それとも、見捨てて逃げる?』
私の気持ちは、言うまでもなく分かっていると思うが。そうつけ加えて、真白を真っ直ぐと見た。
真白は私の目を見て、少し怯んだ。しかし、困ったように目を伏せながらも、しっかりとした声で言った。
「───────逃げたい・・・けど、なんでだろうね。・・・・・・ボク、どうしてか少しだけ助けたいって思っちゃった。」
昨日の冒険者達を思い出しているのだろうか。真白は1度目を閉じて、そして今度はしっかりと、私の目を見て言った。
「─────助けに行きたい。もしも街の人が、ボクらの力を必要としているなら。」
真っ直ぐな目を見て、私は嬉しくなって真白の頭を撫で回した。ちょ、やめてよも〜と言う割には嬉しそうで、同時に私の心でユラユラ揺れていた迷いも消し飛んだ。
『行こうか、真白。』
手を差し出すと、真白は嬉しそうに手を取った。そしてぎゅっと腕に絡み付いてくるのは、最早当たり前となりつつあった。
私と真白は準備を整えて、直ぐに外へ出た。
─────────────────
向かったのは冒険者組合だった。こんな朝早くに起きる人はあまり居ないだろうし、そもそも気が付かないのでは、と思ったから。しかし冒険者であれば流石に気付いているだろうと予想し、猛ダッシュで向かったのだ。
数分で着いた冒険者組合の建物内に入ると、中にはアルバートさんを含む数十人の冒険者が居た。そして、忙しそうに走り回る受付嬢達の姿も。その姿を見て、付与対象は”ヴァイスハイト”なのだと悟った。
「よぉ、お前らも気が付いたのか!」
声を掛けてきたのはアルバートさんで、宴で仲良くなった冒険者達も集まってきた。
『はい、それで・・・一体なにが?』
「それがまだ分からねぇんだ。だが魔力が少ねぇやつはもう限界だ。どうにかしねぇと、大量に死者が出るぜ、こりゃ。」
もう限界の者が・・・。魔力譲渡で魔力を分け与えてもいいけど、それは悪魔でも最終手段。なるべく目立つ行動は避けたい。
どうしたものかと策を講じていると、階段から降りてくる人間の気配を察知し、そちらに顔を向けた。
「伝令!ギルドマスターから緊急依頼です!動ける冒険者は全員強制参加で、魔力持ちの人達を全員王宮へ送り届けるように、とのこと!魔力回復薬を街中から集めているそうですから!!陛下からの許可も降りているそうです!!」
「よしきた!野郎ども!!気合い入れろよ、今回はいつもの依頼とは一味違ぇからな!!絶対にヘマすんじゃねぇぞ!!」
「「「「「「うおおおお!!!」」」」」」
物凄い雄叫びが上がり、冒険者達は一斉に走り出した。
それと同時に、外から緊急の鐘が鳴るのが聞こえてきた。これで起きていない人達も起きるだろう・・・が、何かが引っかかる。
今鳴った鐘の音色もなんだか嫌な感じがしたのだが、それよりも・・・魔力持ちのみを王宮へ送るとなると、首都の街は戦える人間が居なくなるんじゃないか?
もしかして敵の狙いはそれ?いいや、魔力のない人間に一体何をしようって言うんだ?ただ殺すだけなら魔力持ちを態々王宮へ追いやる必要は無いはず・・・。
「・・・・・・トモリちゃん。」
『!真白・・・?』
「───────分かったよ。敵の狙いも、方法も、何もかも。」
『!!それは、』
私が言葉を紡ごうとした瞬間、アルバートさんが私の肩を叩いた。
「行くぞお前ら!!急げ!!」
「・・・アルバートさん。」
「あん?なんだ真白!時間がねぇんだから早く要件を、」
「──────ボクとトモリちゃんはここに残ります。・・・何も言わず、ボク達を信じてくれませんか?」
『・・・!・・・お願いします。』
真白はアルバートさんにそういうのと同時に、私にも伝心で言葉を伝えてきた。
器用だな、と感心していたのも束の間。真白の言葉に目を丸くした。が、直ぐに無表情に戻り私もアルバートさんにお願いをした。
「・・・よぉし、わかった。お前らを信じるぜ。後は頼んだぞ、おめぇら!!」
「まかせてくださ〜い」
『はい。』
私と真白はアルバートさんを見送り、その場を後にした。
『”・・・私は何をすればいい?”』
「”トモリちゃんは敵を叩いてくれればいいよ。とりあえず、ボクが合図するまでは気配を消して隠れてて。”」
『”わかった。”』
伝心で真白と会話をしてから、私はそっと気配を消して路地裏の影に溶け込んだ。
真白は私がいなくなったあと、自身も姿を消して走り出したのだった。
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