第18話矛盾した生きたがり
「いらっしゃいませ!ようこそ、冒険者組合へ!!本日はどのような御用向きですか?」
真白の手に引かれるままに歩いていくと、本当に冒険者組合に着いた。
どうして冒険者組合の場所なんて知ってるんだ?という疑問が生まれるが、私と出会う前に探検でもしたのだろうと納得した。しかしそれでも、真白の有能っぷりには毎度舌を巻く。
と、考えている間に冒険者組合の中に入っていた。
中には屈強な男や魔法使いなど、様々な人間がいた。そいつらは見慣れない顔だからか、私達のことを凝視している。
それにしても・・・結構広いな。2階建てで、左奥の方に大きな階段が見える。そして奥には受け付けがあり、それ以外のスペースは主に冒険者が雑談出来るような机と椅子が置かれた待合場のようだ。右奥の、受け付けの隣には依頼の紙が貼られている掲示板がある。まるでファンタジーの王道みたいな冒険者組合だな。
組合内の物に目を配るのをやめにして、冒頭で大きな声で挨拶をしてきた受付嬢の方を見た。受付嬢は茶髪に茶色の瞳で、清楚な青のワンピースに身を包み、可愛らしい顔を明るい色に染め、誰が見ても気を良くするような愛想のいい笑顔を浮かべていた。
『え、えっと・・・冒険者登録したいんですけど。』
いかにもお日様の下で育ったような受付嬢の笑顔に若干怯みながらも、なんとか要件を伝えた。
「かしこまりました!2名様でよろしいですか?」
『はい。』
「それでは、こちらの紙に名前と年齢と、それから魔法が使える場合は属性も全て記入してください。その後、この水晶でレベルを計り、私が記入いたします。もちろん見たレベルは口外致しませんので、ご安心ください。」
なるほど、プライバシーはしっかりと守られているんだな。だがしかし、見ようと思えば見れるのであまり意味を成していない気もするが。
と、冒険者組合の登録の仕組みについて色々と考察しつつ、渡された紙にサラサラと必要事項を書き込んでいく。
その際、全ての属性を書けと言われたが、星属性っていうのは書かない方がいいかもな、と判断した私は、酸属性と毒属性の二つだけを記入した。
記入が完了し、受付嬢に紙を手渡す。同時に真白も紙を渡した。
受付嬢は記入漏れがないかを数秒の間確認し、それから次の説明を始めた。
「次はLv測定になります。この水晶に手を翳してください。Lvは私にだけ見えるようになっておりますので。それでは、まずは真白さんからどうぞ。」
「は〜い。」
真白は素直に返事をし、そっと水晶に手を翳した。すると水晶は光を放ち、やがて一瞬ごとにゆっくりと色褪せていく。そうして最後は光が失せ、元の透明な色に戻った。
「えっ、!!?」
受付嬢は思わずといった表情で驚きを口にした。その声に反応したのか、暇を持て余していた冒険者達が一斉にこちらを向いた。
それに気付いた受付嬢は自身の失態を認めサァッと血の気が引くも、すみません!と勢いよく謝り水晶に現れた数字をサラサラと紙に書き足した。
その反応を見ただけでも、この世界でのLvの基準が分かってしまう。つまりLv150はこの世界の平均からすると異質なのだ。
「お、お次はトモリさんどうぞ・・・。」
若干疲れた顔をしつつも、流石に私は平均的なLvだと思ったのか、油断した顔で私にそう言った。
その表情に悪戯心を擽られた私は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、すっと水晶に手を翳した。
「へ・・・・・・・・・うええぇぇぇぇぇええっ!!??!?」
耐えきれず叫んだ受付嬢は、パクパクと口を開閉しながら私を見た。
その驚いた顔を見て内心達成感を感じつつ、ニコリと笑みを浮かべ、無言の圧で早く書けと訴えた。それを察したのか、受付嬢は何度も何度も水晶を確認して、ようやくLvの記入を始めた。
そして勢いよく立ち上がった受付嬢は、転けそうになりながらも走り出した。
「ギルドマスターに印を貰ってきますので、少し待っててください!!」
吐き捨てるように叫んだ彼女の表情には、焦りが見え隠れしており、やはり私のLvも規格外なのだろうと納得した。そしてその事をギルドマスターに相談しに行ったということも、なんとなく分かった。
そういえば・・・この世界の平均的なLvってどのくらいなんだろうか?
暇だし真白に伝心で聞いてみようと思ったのだが、どうやら私達に用事がある人が沢山居るらしいことを背後に忍び寄る気配から察して、また後で聞こうと決意した。
真白も気が付いたのだろう、二マっと楽しそうな笑みを浮かべ、私にアイコンタクトを送ってきた。
その表情に呆れてため息をつくが、真白には全く効果がない。はぁ・・・。
本当に───────面倒だ。
「──────おいガキ共。ここはお前らみたいなのが来る場所じゃねぇぜ?とっとと帰りな!」
「お前らみたいなのにうろつかれると迷惑なんだよ!失せろ!!」
「冷やかしか?何の能力もないガキが!!その上等な服から見ても、どうせ今まで親に甘やかされて生きてきた類だろ?うぜぇんだよそういうの!!」
「いいか?俺らはな、命懸けで戦ってんだ!!命懸ける覚悟のねぇガキが、冒険者の世界に足を踏み入れるんじゃねぇよ!!」
代わる代わる浴びせられる罵詈雑言の後、ギャハハハという下品な笑い声が建物内で広がった。それは壁にぶつかり反響し、騒音となって返って来る。実に不快だが、まぁまだ我慢出来る範疇だ。先程の聞くに絶えない的外れな言葉も、広い心で許してやろう。
それにしても、だ。私が作ったこの服が上等だと気付けるくらいには見る目はあるのに、先程受付嬢がLvを見た時の反応には気付けないとは、なんという馬鹿・・・いや間抜けだろうか。
どう見ても一般Lvを超えてる人に対する驚きの表情だっただろうに。見てなかった?いいやそれは無い。冒険者のほとんどの人が受付嬢の反応見てたの知ってるよ?それなのに、気付いた人はいないなんて・・・。
「───────もしかして、馬鹿しかいないの〜?」
「あ゙あ゙ん!??」
「んだとガキ!!誰が馬鹿だ!!」
あぁ、良かった。危うく私が言うところだった。真白が代弁してくれた・・・というより言いたかっただけだろうが、それにしてもいい笑顔で笑ってんなぁ・・・。
「だぁ〜って、そうでしょ?ボクらが普通じゃないことくらい、服装や雰囲気、それからさっきの受付のお姉さんの顔見てればわかんじゃんか。それに気付かないなんて、余っ程の馬鹿しかいないと思うんだよね〜。」
「そ、それは!・・・それが本当だとしても、どうせ親のコネとかで成り上がったボンボンだろ!?」
「そ、そうだ!!死ぬ覚悟のねぇ奴が、冒険者の世界に来るんじゃねぇよ!!!」
・・・死ぬ覚悟、ねぇ?
『──────死ぬ覚悟なんかしてませんよ。』
「は、はぁ!?何言って、」
『だって私、死にたくないですし。』
文句を言ってきた冒険者の目を真っ直ぐに見つめて、少しの笑みを浮かべる。フードを被っているため目が合うことは無いが、私の雰囲気が変わったことには気付いただろう。
「っ、甘いこと言ってんじゃ、「待て!」アルバートさん!?」
「どうして止めるんだアルバートさん!!」
アルバートさんと呼ばれた男は、今まで流れを傍観していたのだろう。冒険者達を掻き分け、奥の方からドシドシと音を立てて歩いてきた。厳つい顔に茶髪に茶色の目、そして男らしい髭が特徴的な大男であった。
冒険者仲間がさん付けで呼んだということは、かなり上位の冒険者且つ人望も厚いと思っていいだろう。
「黙ってろおめぇら!!・・・ガキ共、名は。」
名前を聞かれ、暫しの間沈黙していると、真白がどうする?と問い掛けるようにこちらを見てきた。ふむ・・・。
『・・・トモリです。こっちは弟の真白。』
弟発言に思うところがあるのか、ムッとした顔で真白がこっちを見てくる。・・・仕方ないだろ?
「トモリに、真白か。それで、さっき言ってた言葉は嘘じゃあねぇんだろうな?」
さっき言ってた言葉、と頭の中で反芻し、あぁあれかとようやく理解した。
『当たり前でしょう?どうして生きるために冒険者をやるのに、死ぬ覚悟なんかしなきゃならないんです?』
「冒険者は、危険が付き物だ。魔物の討伐依頼だって沢山あるんだからな。魔物に殺されたヤツや、行方不明になったヤツは数え切れねぇほど居る。それほど危険なものなんだ、冒険者ってのは。・・・でもおめぇのそれは、そういう次元で言った言葉じゃねぇんだろ?なぁ、トモリよ。」
どうして分かったのだというように、少し目を見開いた。そうだ。私が言っていた死ぬ覚悟なんかないという言葉は、決して冒険者の仕事を侮って言った言葉ではない。寧ろ逆で、冒険者の仕事の危険さを知っているからこそ言った言葉だ。
『・・・私が言いたいのは、その危険を理解した上で、それでも死ぬ気はないということです。』
「なっ、!!?」
「てめぇ何言って、」
怒鳴りつけようとしたであろう冒険者達の言葉を遮り、出来るだけ大きな声で言う。
『─────私は本気です。死ぬための覚悟など生憎と持ち合わせていない、然れど死なないための覚悟ならこの中の誰よりも持っている。それだけは、自信を持って言えます。』
「!!・・・変わったガキ・・・いや、嬢ちゃんだな。───────ふっ、気に入った!!」
「アルバートさん!?」
・・・ん?気に入った?いや意味分からん。私は私の中の私理論をペラペラ話してただけなんだが?
『”・・・これ、どういう流れ?”』
「”トモリちゃんが冒険者の代表格に気に入られる流れだねぇ〜。さっすがボクのトモリちゃん♡”」
伝心で真白に伝えられた内容に思わず顔を歪める。嬉しくないんだが?私は穏便に済ませたかっただけなのに・・・どうしてこうなった。
「俺の名はアルバートだ!好きに呼べトモリ、真白!これからよろしくなぁ!」
『あ、はい。よろしくお願いします・・・。』
「よろしく〜!」
アルバートさんが認めたからか、他の冒険者の目も柔らかくなった。居心地が良くなったって意味ではプラスだけど、面倒くさいって意味ではマイナスだぞこれ。
とか考えていると、アルバートさんがニコニコしながら寄ってきて、強い力で私の方に腕を乗っけてきた。反対側の腕の中には真白もいて、苦笑いで私を見ている。重い・・・。というか嫌な予感が・・・。
「んじゃま、野郎ども!トモリと真白の冒険者入りを祝って、宴だああぁぁぁああ!!」
「「「「「うおおおおおお!!!」」」」」
『(やっぱり・・・。)』
嫌な予感的中、と楽観して考える。はぁ、切実に帰りたい・・・。
その後、冒険者プレートを持った受付嬢が戻ってきても、宴は続いた。ここは休憩所であって酒場じゃありませんよ!と酒を持ち込む冒険者達に注意を促す受付嬢だったが、途中から飲み比べに参加して沈黙した。
もっと頑張ってくれ、と思いつつも、次々と運ばれてくる料理に悪い気はしなくて、気楽に宴を楽しんだのだった。
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