第17話探し人、未だ来ず


探索魔法を用いて恩人を探し始めて早2日。恩人の反応はまったく掴めていなかった。



まあ、それも当たり前と言える。そもそもの話、あの恩人があの場に現れるまで私は一切その気配を感じ取っていなかった。つまり恩人は瞬間移動系の魔法を使ってあの場まで移動してきたのだろうと推測できる。



ということは、既にこの辺に居ないことは愚か、もしかしたらこの国にすらいない可能性だってあるのだ。



”ディスオーダー”の討伐依頼自体は私達が今居る国、ヴァイス王国の首都”ヴァイスハイト”にある冒険者組合が出した依頼だろうから、あの魔物の死体と赤い軍服の男達はヴァイスハイトに連れていったはず。



連行するために1度ヴァイスハイトには行ったと思うけど、それからもし瞬間移動でどこか違う国に行っていたら、私達じゃもう探し出すことは難しくなる。だからなるべく早く首都ヴァイスハイトに着いて、恩人を探し出したいのだが・・・。



ここでひとつ残念なお知らせがある。私達が今居る場所は、無法の森と呼ばれる所謂危険地帯なのだ。まぁ私達にとっては危険でもなんでもないのだが、この世界の平均的なLvの人からしたら危険らしい。



その無法の森にいることがどうして残念なのかというと、この森には出会うと方向感覚を狂わせる魔物が存在するからだ。



その名もシグネット。白鳥みたいな見た目だが、白鳥よりも小さくて翼が鋭い。しかしミニマムサイズで可愛らしいので、魔物契約で飼う人もいるらしい。



だが可愛いからと侮るなかれ。先程も言った通り、シグネットは方向感覚を狂わす技を持っている。



いや、技というより体質と言った方がいいかもしれない。シグネットは身の危険を感じると、とある特殊な粉を振り撒くのだ。その粉が、方向感覚を狂わせる・・・アナステージアと呼ばれるものだ。



これを浴びれば約1時間は感覚が鈍る。が、しかし。シグネットと出くわす可能性は3%程度だ。つまりレアな魔物なんだ。だから余っ程運が悪くない限りは出くわすことはない。



・・・・・・何度も言うが、余っ程運が悪くない限りは、だ。もう察してると思うが、当たり前のように出くわした。私からしたらそりゃあそうだろうな、という感じだ。魔物吸引体質の真白と運の悪い私が居て、出くわさないわけが無い。



という訳で。長くなってしまったが、私達はシグネットの妨害により2日間も森の中で彷徨っているのだ。



だからいつまで経っても首都ヴァイスハイトに着かない。このまま永遠に着かないんじゃ・・・?なんて思い始める始末だ。



『・・・もうさ、着ければ?それ。』



「や・だ!何回言われても、街に着くまではぜーったいに着けない!!」



我儘め。アクセサリーさえ着けてしまえば少しは上手くいくというのに。さっきからこの会話を10回程繰り返しているが、いつまで経っても答えはノー。ならどうしろって言うんだ。強行突破なんて無理だぞ?



何しろ真白は知らないかもしれないが、私の運は-30000で・・・・・・・・・・・・・・・、うん?あれ、え?



ふと開いた自分のステータスを見て唖然とする。どうして運が-30000から-29000になっているんだろうか。え、奇跡?一体何が起こったんだ?



顔にはあまり出さずとも眉間にシワが寄ってしまう。真白が不思議そうに首を傾げてるが、今は衝撃で声が出ないのでそっとしておいて欲しい。



・・・よく見ると、運だけじゃなくてLvも上がってるな?250から270になってる。・・・少々上がりすぎでは?



それに、魔属性で最上級魔法の《魔力譲渡》も獲得してる。これは多分、真白が死んだ時ずっと魔力を注ぎ続けていたらしいから獲得できたのだろう。



何があってこんなに色々と上がったのかは知らないが、ユニークスキル《灯を与えし者》の影響が多少なりともあることは間違いないだろう。



あとは、エクストラスキルの《共有》の効果だな。真白が魔物を倒すと、その倒した分の経験値の3分の2を獲得できるから。



なるほど、それは上がるわけだ。どうして今まで気が付かなかったのだろう。色々と便利だと言うのに。まぁ、今気づけたのだし良しとしよう。



私は色々と上がったステータスを確認しつつ、森を出るために足を動かし続けたのだった。



────────────────



『やっと着いた・・・。』



「づがれだあぁぁぁ・・・。」



あれから彷徨うこと数時間。なんとか森を抜け出し、無事首都ヴァイスハイトの門の前に到着した。



正直言って早くちゃんとした場所で寝たいという気持ちが強い。ここ数日は休む暇もなく魔物が襲ってきたから、熟睡できた試しがないのだ。



『真白、そろそろアクセサリー着けておきなよ。もう街に入るから。』



「ふわぁーい。」



真白はほんとにしんどそうだな。まぁ自業自得ということで。それよりも・・・門の前に門番が居るということは・・・つまり、身分証か何かが無いと中に入れないのか?それとも唯の見張り?



「あー・・・やっぱり門番がいる。ヴァイス王国はナハト帝国やグラツィア王国といった大国に挟まれてるから、商人や旅人の休息の地として利用されることが多いんだよね〜。だから宿がたくさんあって、活気もそれなりにある。流通も悪くないんじゃないかな。ただ、異国人が多く訪れる分、問題や犯罪も起こりやすい。それを防止する一つの手段として、こうして検問を実施してるの。身分証を提示出来る人だけを通す事にしてるんだよ。」



・・・知っていたが、真白は本当に博識だな。生まれて3年とは思えない頭の良さだ。



というか・・・どうしよう。私、身分証持ってないや。



『・・・やるか。』



「門番を?・・・まさか身分証持ってないの〜?」



『その通りだよ何か悪いか。』



「へぇ。・・・・・・・・・今更だけど、トモリちゃんってどこから来たの?」



『本当に今更だな。』



出会ってから1週間以上は経ってるし、なんならそれなりに仲良くなったのに。まぁ、私があまり自分のことを話さないからだろうけど。



『・・・遠い所だ。多分もうそこには帰れないがな。だから身分証など持っていないんだ。』



「遠い所・・・か。まぁ、身分証を持っていないなら仕方ないし、もうやるしかないね。」



『あぁ。だが穏便に済ませられそうならそうするからな。あまり問題は起こすなよ。』



「はぁ〜い。」



やる気のない返事だな。・・・まぁ、こんなことにやる気を求めるのもどうかと思うが。



私は真白と共に門番に近付いた。門番は私達に気付くと、訝るように目を細めた。



そして一定の距離を保って私達が止まると、門番の方から話し掛けてきた。



「ヴァイス王国の首都、ヴァイスハイトへようこそ!失礼ですが、あなた方の入国の目的をお教えください。あと、身分証となる物もお見せして頂いてもよろしいですか?」



『入国の目的は観光と人探しです。・・・身分証は、無くしてしまって今はないんです。』



「そうでしたか、失礼致しました!再発行は役所と、冒険者や商人の方であれば組合で行えますので、この後行ってみてください。あなた方の観光が素晴らしいものになることを祈っております!」



『ありがとうございます。』



ふむ、意外とあっさり通れたな。あの門番案外話が分かる人間か?・・・・・・・・・いいや、そうでも無いか。



私は中に入って直ぐ、張り付くような視線を感じ取って思わずため息をついた。真白も気付いたようで、面倒そうに顔を歪めている。



「あっさり通したと思ったら、そういうことか・・・回りくどいなぁ。」



ボソッと真白が呟いた言葉に、私も同意するように頷いた。怪しい人物は見張らせておいて、何かあれば対処出来るようにしておく・・・か。なるほど、これなら犯罪を未然に防ぐことも可能であろう。だがしかし私達のような善良な人間からしたら迷惑でしかない。



これでもし見張りを撒こうものなら確実に黒だと思われて連行されるだろう。だからここは、大人しく役所に行って身分証を発行してもらおう。そうしたら多少は疑いも晴れるだろう。



・・・そういえば、さっきの見張りは組合でも発行でいるとかなんとか言ってたな。どういう意味だ?



『”・・・質問なんだが、組合で身分証の発行ができるのか?”』



「”まぁ、できると言えば出来るね〜。そもそも身分証は、基本的にその発行した国でしか使用できないものなんだよ。例えば森に薬草を取りに行く時とかには身分証を見せて、再度街に入る時も身分証を見せる。こうして安全を保ってるの。まぁ国によって違うけど、ヴァイス王国ではこういうルールになってるよ。”」



思わず伝心で真白に問い掛けてみると、真白は懇切丁寧に身分証について教えてくれた。



なるほど分かりやすいが、肝心の組合についてはどうなんだ?



そう思っていると、私の気持ちが伝わったのか、真白が説明を始めた。



「”そして組合で発行した身分証は、国のものと違って、例外を除く全ての国で使用可能になってる。組合に登録するだけで検問をパスできるし、何かあっても組合が後ろ盾になってくれるから、発行するなら組合の物がいいかもね〜。”」



・・・なるほど。それなら断然組合のものの方がお得だな。特に私達みたいな旅人には。



「”因みに組合には色々あって、まず1番人気で有名な冒険者組合。次に商業組合。後はマイナーなのがいくつか。因みに、ボクのオススメは冒険者組合かな〜。”」



確かに、冒険者組合なら魔物倒したら報酬得られるからいいかもな。楽だし。



『じゃあ冒険者組合に行こうか。もしかしたら探し人もいるかもしれないし。』



「そ〜だねぇ。というか場所分かるの?」



『適当に歩いてれば着くだろ。』



「・・・・・・もしかして、森の中で2日も彷徨った理由、トモリちゃんじゃないの?」



『そんな訳ないだろ。人を方向音痴みたいに言うな。』



「えぇ〜。」



なんだその何か言いたげな顔は。言っておくが、本当に方向音痴とかじゃないからな?



じとーっとした顔でこちらを見てくる真白を睨みつけ、強く否定しておく。真白ははぁ、とため息を吐いて、こっちだよ〜。と私の手を引き始めた。・・・子供扱いしてないか?



私の扱いに対して少し物申したいが、今はいいや。



そうして私達は多少寄り道をしつつ、冒険者組合に向かったのだった。







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