第16話旅立ちに備えて
なんだかんだあったが、漸く落ち着いて話せるようになった。
真白はさっき取り乱したことにはもう触れてこなかった。勿論、どうして”ああ”なってしまったのか、その理由も。
そんな優しい真白に私は甘えた。聞かないでくれてありがとう、と内心でお礼を述べつつ、ズズズ、と火傷しそうなくらい熱いスープを啜った。これは先程作ったスープで、具はソーセージとジャガイモと玉ねぎだ。所謂ポトフっぽい味と見た目になっている。
相変わらず私の料理は美味い・・・と自画自賛。安心する家庭の味を口にして、ふと脳裏に浮かんだ日本の光景。しかし直ぐに嫌な事を思い出したので慌てて首を横に振った。真白が不思議そうな顔で私を見ていたが、知らんぷりをして私が起きるまでにあった出来事を共有し始めた。
『じゃあ早速だが・・・真白はいつから起きてるんだ?』
「ボクもトモリちゃんとあまり変わらないよ。えっと、確かトモリちゃんが起きる数分前に目覚めて〜・・・とりあえず辺りの散策に行こうかなって思ってあの場を離れたんだけど。」
よぉし分かったそこから先は何も言うな。私の黒歴史を思い出させるな。というかニヤニヤするんじゃない。
『ゴホンッ、それで?何かわかったの?』
「うん。まず見て分かると思うけど、ここはボク達が気絶した場所では無いよ〜。恐らくあの洞窟から1kmほど離れた場所。」
『なんでまたそんな場所に・・・。というかどうして私も気絶したって分かったんだ?真白は私が気絶する前に気絶してただろ?』
「だってそうでしょ〜?もしトモリちゃんが気絶してなかったとして、気絶したボクを運ぶんだったら、もっと安全な場所に運ぶだろうし。こんな森のど真ん中に運んだりはしないかな〜って。」
確かにそうだが。つまり真白が言いたいのはこういうことだろう?
────────何者かが私達をここまで運んだ。
それも、真白は気絶してて知らないかもしれないけど、多分私達を助けてくれた人が。
推測だけど、あの後赤い軍服の奴らの援軍が来た可能性が高い。だからそのままあの場所で気絶していたら、今頃は殺されていたかもしれない。つまり命の恩人だ。しかし・・・、
『(運ぶならもっとあっただろ・・・どこかの小屋とか家とか。どうして森の中なんだ。)』
助けて貰っておいて図々しいが、文句のひとつでも言いたい気分だ。
「それにしてもさぁ、ボクが気絶している間に何があったの〜?ボク情報が少なすぎてちぃーっとも頭回んないんだけど〜。」
ふむ・・・私より確実に頭がいい真白に考えてもらった方が色々と分かることもあるか。
そう判断した私は、伝心で事細かに起こったことを話した。
首締められたって言った辺りから不穏な空気を醸し出し始めたけど・・・まぁ、一先ず置いておこう・・・。
「色々と言いたいことはあるけど・・・その前に。多分ボク達を魔物から助けてくれたのは、冒険者だと思うよ〜。そしてトモリちゃんの読み通り、ここまで運んだのもそいつの可能性が高いかなぁ〜。」
冒険者か・・・ということは、私達を助けた訳じゃなく、依頼のために私達を助けた、と考えるのが妥当か。
依頼は恐らく魔物の討伐だろう。若しくは、事件の解決か。
だから仕方なく私達を助けた・・・そして赤い軍服の奴らを連行し、冒険者協会に差し出した。その際邪魔だった私達を適当にポイした、みたいな感じか?
「トモリちゃんがやばいと思った黒い軍服のオネェだけど、はっきり言って素性とかはまだ分からないかな〜。まぁひとつ言えるとしたら、そんなヤバいやつが即効逃げ出した”デイズオーダー”って魔物が、すこぶる凶暴で強いってことだけだね。あと付け足すなら、恐らくその魔物を仕留めたであろうボク達のメシアも相当ヤバいやつだよ。」
そりぁそうだ。つまり今回のは、思わぬ強者達との邂逅だったということだな。
『・・・それで、これからどうする?』
「どうするって、そりゃあ・・・ねぇ〜?」
『ふっ、考えることは一緒か。』
私と真白は顔を見合わせてニヤニヤと笑う。助けて貰った借りはきちんと返さないと・・・ね?
─────────────────
「えっ、えっ、えっ、いいの!?ほんとに!?!!?!」
真白は興奮した様子で叫び、そしてニヤニヤと笑いながら自身の手中にある”アクセサリー”を眺めた。
その様子だけ見てると、なんだか末期のオタクみたいだと思うのは私だけじゃないはずだ。
さて、それはさておき。真白は何故”アクセサリー”を見てこれほどまでに興奮しているのか、だが。
実はこのアクセサリー、私がついさっき作った魔道具なのだ。
もう忘れていると思うが、私達が強引に洞窟に押し入り、敵と戦った理由を思い出して見てほしい。
そう、真白の体質を抑えるために必要な鉱石を掘るためだ。しかし運の悪いことに事件に遭遇してしまったため、鉱石を加工する暇がなかった。
だからついさっき、恩人にお礼をしに行く前にと、私が持てる技全てを注ぎ込んで作ったのがこのアクセサリーだ。
これで街に入ってもどこにいても魔物に襲われる心配は無いはずだ。
私は毎度毎度襲ってくる魔物との戦いも今日でおさらばだ・・・とこれまでの苦労を思い出して歓喜していたのだが、真白の方をチラリと見遣って暫し固まってしまった。・・・・・・えと、何してるのかな?真白さん?
「ふふふ、ほんとーに綺麗なアクセサリーだなぁ。ボクには勿体ないくらいだよ〜。」
『いや、それ真白以外が身に付けてもただの飾りでしかないから。真白専用だよ。・・・そんなことよりも、真白・・・?お前は一体何をしてるんだ?』
「え?なにが?」
なにが?え?え??だって、折角あげたアクセサリーなのに───────どうして身に付けずに鞄の中に仕舞おうとしてるのかな?うん?
そんな私の気持ちが伝わったのか、真白は真剣な面持ちで私を見た。
「トモリちゃん・・・・・・アクセサリーは愛でるものだよ?」
『なんて?』
もしや、真白はなにか私の知らない宗教にでも入っているのかな?じゃなきゃこんなに認識のズレが起こることもないだろうし。
『・・・アクセサリーは身に付けてなんぼだろうが。それに、身に付けないと効果が出ない。』
「えー・・・・・・だって付けてたら汚れちゃうじゃん。」
『当たり前だろ物なんだから。』
そう言いつつ、私は自分の顔を手のひらで覆った。まさかここまでオタク思考だったとは・・・。というかコレクション精神?どちらにしろ発揮するのは今じゃない。
『・・・とにかく、さっさと付けろ馬鹿。』
「むぅ〜。・・・・・・折角、好きな人から貰った初めての贈り物なのに。」
『・・・・・・、』
真白があまりにも悲しそうな顔をするので、一瞬好きにしろと言いそうになった。危ない危ない。
これは罠だ。あざとくて可愛らしい罠。真白は頭がいいんだから、演技で騙そうとするくらいする。絶対に。
だから頷く訳にはいかない。例え何があってもな。
「・・・どうしても、だめ?」
『うっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・街の外だけ、なら。』
「わぁ〜い、ありがとねトモリちゃん♡」
くっ・・・いっそ殺せ!大体あんな顔でオネダリされて断れる奴がどこにいる!?いたらそいつは人間じゃない!!
それに、別に森の中でもあまり危険は無い。私たちに適う魔物などこの森には生息していないのだし。
後は街の中でさえアクセサリーを付けてくれれば。だから、そう・・・これは引き分けだ。決して真白のお願いに負けた訳では無い。
私はせめてもの負け惜しみを心の中で吐き出していたのだが、心底大事そうに小さな木箱の中にアクセサリー・・・チョーカーを詰め込む真白を見て、先程まで感じていた敗北感は消え去った。
なんて言うんだろうか・・・こんなに喜んでくれているのだから、もうどうでもいいや、って感じだ。
私は野原に咲く花の如き温かな思いを深く噛み締め、恩人を見つけるために森の中を歩き出した。
後ろから真白が着いてきていることを確認し、探索魔法を駆使して恩人探しを始めたのだった。
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