第53話生きるために
客観side
時は少し遡る。トモリとわかれたミヤとミツヤは、警備に見つからないようにそろそろと廊下を歩いていた。
「”王の執務室・・・トモリさんの話では、この先だよね?”」
「”うん。・・・よし、今なら誰もいなさそう。行こう!”」
「”うん!”」
2人は走り出した。なるべく静かに、そして速く。あとは曲がり角を曲がり、部屋に入るだけ。そう思った2人には、気付かぬうちに油断が宿っていた。
2人は同時に曲がり角を曲がった。角を曲がって、最初に見えたのは王の執務室。誰もいない、そう思ってそのままの勢いで廊下を駆けた。
「”あった!ここが執務室だわ!”」
「”うん!・・・あれ?”」
「”どうしたの?ミツヤ。”」
「”いや、足音が・・・”」
「”足音?”」
ミツヤは猫の獣人だった。だから足音を聞き分けることが出来る。
「”・・・・・・やっぱり。誰かこっちに来る!”」
「”えっ、もしかして警備の人・・・?”」
「”多分・・・でも、なにかおかしいんだ。”」
おかしい?とミヤはミツヤの言葉に首を傾げた。ミツヤはまだよく分からないのか、情報を探るため目を閉じ音に集中した。
「”・・・きこえない。”」
「”え?”」
「”武器を、持ってない・・・。”」
ミヤはその言葉の意味を考えた。ここの王宮の人達は、兵士も騎士も剣を持っていた。でもミツヤの言う足音の主は件を持っていない。考えられるのは・・・、
「”召使いの人とか・・・?あとは・・・部外者の人が侵入してきた、とか・・・。”」
「”見回りは召使いの仕事じゃないと思う。だから、考えられるのは部外者の・・・、”」
「───────そこに誰かいるのか?」
「「ッ!!!」」
まさかこの距離で気付かれたのか?とミツヤは心臓をバクバクさせながら策を考える。足音は3つあった。だからいるとしたら3人。ただのこそ泥なら簡単に捕まえられるだろうけど・・・ただのこそ泥が、王宮を狙うはずがない。
つまり、相手はかなり腕に自信がある。ミツヤはそこまで考えて、トモリに助けを求めるかどうか悩んだ。しかし、ミツヤにも意地がある。せめてミヤを逃がして時間稼ぎを、と思っていたその時。
3つの気配が、こちらに向かってきた。ぞわり、と鳥肌が立つ。最早2人に冷静な判断などできなかった。
「この城の者か?早く出てこい。」
「今なら楽に死なせてやる。」
「ただし・・・情報を吐いたらな。」
情報、と聞いて2人の頭の中には自然とトモリが浮かんできた。トモリのことを話すくらいなら・・・と覚悟を決めようとした。しかし、誰がなんと言おうと怖いものは怖い。幼い2人には尚更、死ぬ覚悟など到底出来るはずもなかった。
──────────それでも
「《風圧(ウィンドプレッシャー)》!」
「《光源(ブライト)》!!」
「なっ!!?」
「くっ、眩しい!」
「「”諦めない・・・ッ!!”」」
2人は前に出て攻撃を仕掛けた。ミヤの光魔法で怯ませ、ミツヤの風魔法で距離をとる。戦法としては悪くなかった。しかし、2人は子供。そして、経験の浅い戦闘初心者。一方相手は、
「・・・っ、ぇ?」
「そ、んな・・・っ!?」
暗くてよく見えなかったが、ミヤの魔法により見えるようになった敵の姿。敵は3人。そこまではよかった。でも、敵の服装を見て、2人は固まったのだ。
「いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて・・・行儀の悪い。」
「アーテル様の土産にもならんな。」
「軽く捻ってやろう。」
黒い、軍服。それは、絶望の証。孤児でも知っている恐怖の象徴。
────────────メメントモリ
そして、メメントモリという悪の代名詞に加えて、黒い軍服。それは、アーテルを隊長とするテネブラエ隊の証。
メメントモリの7つある隊の中で、最も恐ろしく強い隊。最恐であり最強。
隊長であるアーテルはいない。でも、関係ない。ここにいる3人が、メメントモリなことに変わりはないのだから。
「”に、逃げるぞミヤ!早く!”」
「”で、でも、怖くて動けない・・・っ!!”」
ガタガタと震える2人と、無感情な顔で見下ろす3人。勝敗は決した・・・かに思われた。
「”──────あー、あー、聞こえてる?ミヤ、ミツヤ。”」
「”っ、真白さん!!”」
「”その様子じゃ何かあったみたいだね〜。結構ピンチな感じ?”」
「”い、今、目の前にメメントモリがいてっ、!!”」
「”く、黒い軍服の人が3人・・・!”」
「”うわぁ、テネブラエ隊じゃん。・・・なるほどね〜。よし、じゃあ2人とも、ボクの言う通りに動いてね。”」
「”は、はい!”」
「”何をすればいいですか!?”」
「”─────倒しちゃえ♪”」
「「”・・・・・・え??”」」
2人はあまりに現実味がない真白の指示に、思わずフリーズした。だが時間が無いことを思い出し、真白に叫んだ。
「”無茶ですよ!相手はメメントモリですよ!?勝ち目なんてないです!!”」
「”そうですよ!絶対に勝てっこない!!”」
「”いやいや、ボクはできないことは言わないよ?期待とか見込みとか不確定なことじゃない。これは確定した未来だよ。覆りっこない。”」
「”そんなこと、わたしたちには・・・、”」
「”俺たちにそんな力ないし・・・”」
真白はすごく頭がいいことくらい、2人も知っていた。しかし、命を賭ける場面で頭がいいから信じろ、だなんて言われて敵に突っ込めるかどうかと聞かれれば、答えはノー。2人はすでにほとんど諦めていた。
敵が近くまで迫っている。もう3mもない距離だ。2人は、ただ震えるしかできなかった。
「”───────トモリちゃんが冒険者になったときね。」
「”え?”」
「”先輩の冒険者に言われたんだよ。死ぬ覚悟がない奴は帰れ、ってね。”」
「”っ!死ぬ、覚悟・・・。”」
「”・・・・・・ッ、”」
2人は、確かに甘かった。自分の命を簡単に他人に預けた。死ぬ覚悟なんてしてなかった。
もう泣き出しそうだった。トモリの役に立ちたかったのに、こんな形でお別れをすることが、2人には何よりも耐え難かった。
まだ半分も恩を返せていないのに、と俯いた。その時、真白の声が、優しく響いた。
「”──────死ぬための覚悟など生憎と持ち合わせていない、然れど死なないための覚悟ならこの中の誰よりも持っている。それだけは、自信を持って言えます、・・・って、昔トモリちゃんが言ってたの。”」
「”・・・え?”」
「”それ、って・・・、”」
「”2人はまだ子供だ。死ぬ覚悟なんか別にしなくていい。その代わり───────生きるための覚悟を、今、して欲しい。その上で・・・敵を打ち倒して。何よりも・・・生き残るために。”」
「「”ッ!!はい!!”」」
トモリの言葉。それから、真白の激励。それを聞いた2人は、先程の様子が嘘のように目に輝きが戻った。
「”・・・何をすれば、いいですか。”」
「”俺たちは・・・真白さんの指示に従います!”」
「”・・・上出来。今からボクが君たちの身体能力を強化する。”」
「”身体能力を強化・・・?”」
「”話はあと。・・・大丈夫、ボクを信じて。”」
真白の真剣な声に、2人は覚悟を決めた。
目の前に迫る敵を見つめる。敵との距離は、もう1mもない。
「大人しくなったな。」
「これもアーテル様の恩恵だ。」
「さて・・・教えてもらおうか。君たちの目的はなんだ?」
「・・・教えない。」
「・・・なに?」
「絶ッ対に、教えてやらない!!」
ミヤの叫び声と同時に、逆上した敵の手が伸びてきた。
ミヤとミツヤは真っ直ぐに敵を睨み付けていた。その目にもう、曇りは無い。
「”───────覆い尽くすは太陽。闇も光も等しく無に帰せ。月は何もかもを侵蝕するだろう。いでよ、《月蝕(エクリプス)》!”」
詠唱が完了した。その時、2人は勝利を確信した。
──────敵から伸びてきた手を、ミヤが軽く掴んだ。
「ぐっ、ぐぁぁああっ、なんだ、この力は!!」
「よそ見とは、随分余裕だな?」
「なに!?ぐわっ!?」
「うわぁっ!!」
ミツヤは素早く敵の背後に回り、回し蹴りを繰り出した。その力はいくら獣人といえど、子供が出せる力では無い。油断に油断を重ねていた敵2人は、回し蹴りで1発KOされた。
残っているのは・・・ミヤが腕を掴んでいる敵のみ。
「くっ、こんな小娘に・・・っ!!」
「これで、終わりだ!!」
ミツヤの背後からの一撃に、残っていた敵も気絶した。2人は倒れている敵を見つめた後、目をぱちぱちと瞬かせた。
「か、った・・・?」
「勝ったんだ、俺たち!」
「やった・・・やったぁ!」
「”おつかれ、2人とも。武勇伝は後で聞くとして・・・今は、お仕事の続きをお願いしてもいいかな〜?”」
「「”はい!!”」」
2人は倒した敵を縄で縛ると、王の執務室の前に立った。
「・・・入ろう。」
「・・・うん。」
慎重に中の気配を探りつつ、2人は執務室のドアを開けた。
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