第52話本領発揮


「”─────ご来場の皆様、この度はお越し頂きありがとうございます!!”」



司会の人間の大きな声が会場に響いた。それを合図に、一斉に会場内は静まり返った。



「”今回のオークションでも、人間から獣人まで様々な商品を仕入れています!皆様どうぞ奮ってご参加ください!!”」



ぱちぱちと会場中から拍手がおこる。こんなに拍手の音を不快に思ったのは初めてだと思いつつ、テレパシーでついさっき席を立った二人に繋ぐ。



「”2人とも、準備はどう?”」



「”俺はもう壇上のすぐ側にいます!”」



「”僕も、騒ぎに乗じて奴隷を解放できる位置に陣取りました!!”」



「”オーケー。・・・今回の作戦、失敗は絶対に許されない。チャンスは一度きり。俺たちがどれだけ時間を稼げるかが鍵になる。・・・気負い過ぎる必要は無いけど、各自しっかりね。”」



「「”了解!!”」」



「”よし。じゃあ──────作戦開始だ。”」



俺は作戦開始を告げると同時に、態と音を立てて立ち上がった。それに会場内の全ての人が注目する。



俺は会場の人間の呑気な顔を見て、思わず笑ってしまった。



クスクスという笑い声が静かな会場に響く。



「”あ、あのぉ・・・お客様?どうなさいました?”」



司会の人間が俺に声を掛ける。それを聞きながら、俺は手のひらを真上に伸ばした。



「覆い尽くせ──────《凍結(フリーズ)》」



「なっ、今のは氷属性の上級魔法!?」



「おい、とりあえず取り抑えろ!!」



「一体何をする気だ!?」



「”み、皆さんどうかお、落ち着いてくださ、うわっ!?”」



司会の人間はいつの間にか地に伏しており、仮面で顔を隠したタクヤがマイクを握っていた。



「”あー、あー。聞こえるか?クズども。”」



「なっ、クズだと!?」



「ふざけるな!私たちをバカにしやがって!」



「そ、それより見ろ!出入口が!!」



「いや、出入口だけじゃない!色んな場所が凍っていってるぞ!!」



「だ、壇上にいる男とグルか!?」



「見ろ、壇上と客席の間にも氷が!!」



さてと。そろそろ避難するか、と俺は瞬間移動で壇上に移動した。隣にはマイクを持ったタクヤがいる。



「”はは!無様だなぁ!精々この氷の監獄の中で悔い改めることだ!!”」



「・・・タクヤ、キャラ変した?」



タクヤの豹変っぷりに思わず聞いてみると、タクヤはへへへ!といい笑顔で笑った。うん、やっぱりそういう顔の方が似合う・・・。



「”エストレアさん、奴隷たちの救出完了しました!”」



「”ん、じゃあ壇上の方に来て。”」



「”了解!”」



テレパシーで会話を繰り広げた後、ユウヤは直ぐにやってきた。3人目の登場に慌てふためいてはいるが、やはり決定的な恐怖は感じていないらしい。逃げようとする奴が一人もいない。



それをいいことに、俺はユウヤに視線で促した。仕上げといこうか。



「《水(ウォーター)》」



ただの、水。いいや・・・その水に俺の魔力が加われば・・・永遠に枯れない水源の出来上がりだ。



客達はまだ危機感が生まれていないのか逃げる素振りがなかったが、完全に壇上と観客席との間の隙間を埋めてやると、ようやく俺たちが何をしたいのか気付いた観客が騒ぎ始めた。



でも、もう遅い。観客たちは全員氷の壁に覆われたのだから。じわじわと上がる水嵩に恐怖しながら、精々トモリの敵になったとことを反省するがいいさ。



「この司会はどうします?」



「ヒィッ!こ、殺さないでくれ!!」



「それはお前の態度次第だ。・・・奴隷たちの首輪の鍵は?」



「こ、ここに!」



ジャラジャラと鍵のついたそれを奪い取り、ホイ、とユウヤに渡す。ユウヤは俺にお礼を告げると、奴隷たちがいる方へと走っていった。



「”ここは俺に任せていいから、2人は真白に連絡して奴隷たちを安全な場所に。”」



「”了解!”」



タクヤは返事をすると、直ぐにユウヤたちのいる方へ走り出した。



さてと・・・今ならまだ警備隊もこの事態を把握してないだろうし、真白もいるからユウヤたちは問題なく脱出できるとして。



問題は、ユウヤたちがこの建物を脱出したあと、どうやって騒ぎを起こして王宮から兵士たちを駆り出させるか。



・・・うん、”あれ”を試してみるか。



「あ、あの、私はもう行ってもいいでしょうか・・・?」



「・・・あぁ、うん。いいよ。俺は君たちを殺す気は無いから。ただし・・・、」



俺は懐からとある物を取り出し、司会の人間の”首”にガシャン、と取り付けた。



「・・・・・・・・・へ、ぁ?」



「うん、よく似合ってると思う。君にピッタリだ。・・・じゃ、もう行っていいよ。」



笑顔で手を振ると、司会の人間は慌てふためく。まぁ、当然の反応か。こんなオークションの司会やってるんだ、そりゃあ何度も目にしたことがあるよね。────奴隷用の首輪。



「こ、殺す気はないって・・・!こんなの、こんなのあんまりだ!!俺には家族がいるんだぞ!!」



「だから言ったでしょ?”俺は”殺す気はないって。・・・それにね、家族がいるのは君だけじゃないよ。」



「ぇ?」



「奴隷たちにもいたはずだ。家族が。離れ離れにされた子もきっといただろう。それなのに・・・俺には家族がいるのに奴隷にするのはあんまりだって?俺は、君たちが奴隷にしたことを君たちに返してるだけだよ?」



「っ!ゆ、ゆるし、ゆるして、」



「我儘だなぁ、殺すなって言ったり、もう逃げてもいいかって言ったり、今度は許してって言ったり。というかね、俺が君の我儘叶えてあげる義理、あるとでも思ってるの?」



「く、くそっ、くそ!!こんなことになるとは思ってなかったんだ!!」



許してくれ、なんでもするから。そんな言葉に惑わされるほど甘くないよ、俺。こういう人間は味をしめる。つまり・・・また同じことを繰り返す。そんな害悪になる人間を俺が放置するとでも?



「──────殺さないよ。絶対に殺さない。命令違反は死んでもしない。でも・・・殺すな、とは言われてるけど、それ以外のことは特に何も言われてないんだよね。」



「ひっ!!」



「大丈夫。殺すよりも辛いことなら、この世にいっぱいある。」



こいつらがいつかトモリに反抗しないように。歯向かわないように。俺が今、しっかりと躾ておかないと。



「”エストレアさん、安全なところに移動しました!”」



「”ふふ・・・了解。”」



楽しくなってきて、ニコリ、笑みをひとつ零す。そしてまた、先程と同じように手のひらを天に向けた。



「天を穿て──────《氷結剣(フリージングソード)》」



呟いた直後、耳を劈くような爆発音とガラスの砕けるような音が、同時に響いた。



氷の壁の中から悲鳴が巻き起こる。それもそのはず。なぜなら、約30mほどの氷で作られた剣が、外側から建物を破壊し、観客席の上層を覆う氷に突き刺さったのだから。



もちろん氷の壁が氷の剣を防いだため、中の人は無事だ。さて・・・これでようやく王宮から兵士たちが向かってくる。役目は果たした。あとはあと少しの間・・・時間を稼ぐだけ。



「い、今のは・・・まさか、う、ぅ、うそだ!嘘だ嘘だ!!だって、・・・ありえない!!」



「へぇ・・・まさか今のを知っているとは。」



「む、昔たまたま本で読んだ・・・今のは、使えるものはほとんどいないとされる──────最上級魔法、だな?」



「正解だよ。まぁ、コントロールが上手く出来なくてちょっと発動が遅れたけど。」



「っ、!?む、昔読んだ本では、最上級魔法氷結剣(フリージングソード)は・・・た、確か、1mにも満たない氷の剣で・・・何百本もの氷の剣を操り攻撃する、と・・・、」



「へぇ。でも、これでも大きさを抑えた方なんだ。それに・・・何百本も出したら、国どころか世界が滅ぶでしょ?」



「〜〜〜〜ッ!!化け物めっ!!!」



「褒め言葉だよ。」



と、その時。頭の中に真白の声が響いたきた。どうやらさっきの魔法のおかげで王宮にいた兵士たちはほとんど駆り出されたらしい。



トモリたちも王宮への侵入に成功したようなので、もうこれ以上ここにいる理由は無いな。



俺は手を翳し、氷の剣と氷の壁を解除した。その瞬間、じゃば、と溜まっていた水が溢れてきた。



俺は水に濡れないように結界で守りつつ、中から出てきた人間たちを観察した。



そろそろ限界が近かったのだろう、全員が息を切らし、苦しそうに蹲っていた。



未だに発動してるユウヤの水魔法は・・・いいか。別に。



さて、仕事は終わったしタクヤやユウヤと合流しよう、と思ったその時。待ってくれ!と司会の人間が俺を呼び止めた。心底どうでもいいが、仕方なく何か用?と聞いてみる。



「お前は・・・お前らは、一体何者なんだ!なんのためにこんなことをする!!正義のヒーローにでもなったつもりか!?」



「────────ふふ、」



「な、なにがおかしい!!」



「いや?ただ、君の目に俺たちが正義のヒーローに見えるってことはさ──────自分たちが悪党のクズ野郎だ、って自覚があるんだね?」



「っ!!」



俺たちはテロのつもりだったけど。そうかそうか、こいつらには俺たちが、正義の味方に見えるのか。



「それから・・・勘違いしてるようだから教えておいてあげるけど、俺たちの目的はこんなお遊びをぶっ壊すことじゃないよ?」



「な、なに・・・?」



「─────仲間を取り戻すために、俺は今ここにいる。」



「なか、ま・・・だと?仲間を取り戻すためだけに、お前らはオークションをぶち壊したというのか!!?」



「だからそう言ってるでしょ。」



面倒だなぁ、と思いながら受け答えをする。もう帰っていいよね?と聞くと、返事がなかったので帰ることにした。座標を設定して瞬間移動の魔法を発動する。



拠点にしている場所に瞬間移動すると、そこには待機組の真白とナツヤとマヤ、それから先程わかれたユウヤとタクヤ、あとは奴隷と思われる者たちが30人ほど。



人間もいれば獣人もいて、中にはエルフやドワーフなどもいた。歳も性別も様々で、最年少で6歳くらい、最年長で20代後半ってところか?



それから、奴隷たちの首には既に奴隷の首輪がなかった。そしてやけにユウヤとタクヤに懐いている。



「エストレアさん!お帰りなさい!」



「お帰りなさいエストレアさん!」



ここ数日で距離が近付いたユウヤとタクヤが俺に気付き、出迎えてくれた。俺はそれにただいま、と返し、真白の元に向かう。



「真白、トモリは?」



「おっつ〜エストレア。トモリちゃんは・・・うん、今んとこ順調っぽいね。」



まぁ連絡が来ないってことは順調ってことでしょ〜と真白は楽観的に言った。



「・・・トモリ。」



今すぐ迎えに行きたい気持ちに駆られるが、今は我慢だ。俺が今すべきこと・・・俺が今、できること・・・。



「・・・ユウヤ、タクヤ、みんなの分のご飯と寝床を作るから手伝ってくれる?」



「「!もちろんっ!!」」



怪我の手当もしないと・・・と思っていたら、ナツヤとマヤが救急箱を持ってこちらに来てくれた。



手伝う!と元気に言ってくれたので、怪我人にどこが痛むか聞いてきて欲しいと頼んだ。



流石に手当はさせられない。ユウヤは薪拾い、タクヤは寝床の準備をしているので、俺が怪我人の手当をするしかない。



30人近くいる怪我人にやる前からやる気を削がれつつも、俺は手当に取り掛かったのだった。



エストレアsideEND

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