第51話正義の奴隷


エストレアside



現在時刻22時45分。真っ暗な会場には、同じように真っ黒な格好をした人間がたくさんいた。



ドレスコードは黒。そして、顔を隠すための仮面。この国ではオークションは当たり前に行われてるのに、そもそも仮面なんかで顔を隠す必要があるのか。



・・・いや、このオークションに参加している人間たちにとっては、これはただの娯楽。遊びだ。この仮面もお遊びの一つなのだろう。



人の命を遊び道具にしている、なんて。別に、驚きもないけれど。人間なんてそんなもんだろ。



虫のように湧いてくる人間たちを見て殺意が湧いてくる。いっそ殺してしまえれば、この溜飲も下がるのに。



無意識のうちに人間たちを睨み付けていた。その時、隣にいるタクヤの声が頭の中で響いた。テレパシーだ。



「”・・・エストレアさん、あそこ。”」



あそこ?とタクヤの視線を辿ってみると、そこには一際目立つ派手な装飾をした男がいた。男は奴隷3人を連れていて、その他にも護衛のような屈強な男を4人連れていた。



「”一番目立ってるね・・・。”」



「”やっぱ変だよな?周りのヤツらも顔色伺うように遠巻きに見てるし。”」



ユウヤとタクヤの会話を聞きながら、俺は近くにいた他の客に小さな声で話し掛けた。



「失礼。あのお方はどなたなんですか?」



「君、知らないのかね?世間知らずもいたもんだ。」



「なにぶんこの国に引っ越してきたばりでして。宜しければ教えて頂けませんか?」



「ふむ・・・ならば仕方ないか。あのお方はナハト帝国の国王陛下だ。あのお方のおかげでこんなに堂々とオークションが開けるんだ。君も、国王陛下に感謝することだね。」



「・・・なるほど。教えて頂きありがとうございました。」



ニコリ、微笑んでからその場を離れ、タクヤとユウヤがいる場所に戻った。2人も俺とさっきの男の会話を盗み聞きしていたようで、刺すような視線を国王に向けていた。



「”・・・さすがはヴァイス王国の国王を操っていた黒幕さん。どうしようもないくらいの悪党だ。”」



「”あんな奴ら、こてんぱんにしてやりましょうよ!”」



「”いや・・・本気を出したら時間稼ぎにならない。遊んでやる、くらいの気持ちでいいさ。”」



「「”了解!”」」



元気な返事が頭の中で響いたところで、ようやくオークション開始の10分前になった。



「・・・そろそろ席につこうか。」



2人に声をかけると、2人は頷いて俺に着いてきた。座るのは一番入口に近い席。幸いなことに入口は一つなので、ここさえ封じてしまえば非力なお貴族様じゃこの会場からの脱出は不可能。



この作戦の要は、どれだけ時間を稼げるかってところにある。



王様にこの会場から逃げられて、王宮に帰られたら終わり。いかに長く王様をこの会場に引き止め、且つ大騒ぎを起こすか。それがトモリたちの作戦遂行に大きな影響を与える。



俺たちチーム1の作戦は、こうだ。まず23時になったら俺が会場にある扉や穴なんかを全て氷で塞ぐ。その間にタクヤは壇上に上がり、マイクを奪いここにいる人間の危機感を煽ることを話してもらう。話すことは自由でいいよと言ったらタクヤが凄くいい笑顔で頷いたのがちょっと不安だけど・・・。



・・・そしてユウヤには水を出してもらう。魔力は俺が分け与えるから、ユウヤなら永遠に水を出せる。



なぜ水を出すかについては、まぁ直ぐにわかるだろう。



「”・・・あの!エストレアさん、やっぱり奴隷たちは・・・、その・・・”」



俺たち3人の中で、比べるまでもなく優しいユウヤがテレパシーで話しかけて来た。



恐らくオークションに出される予定の奴隷たちが気になるんだろうな。でも、その件についてはもう何度も説明したはずだ。今更変更は許されないし、第一助けたとして、その後は?助ける方が残酷なことだってある。



「”助けない。ユウヤの奴隷を助けたい気持ちは美しいけど、この作戦は狼少年を助け出すためのものだ。他の人に気を配る余裕は、俺達にはない。それに助けた後、ユウヤは奴隷たちをどうするつもり?”」



「”そ、それは・・・、”」



「”子どもにこんなこと言うのは残酷だろうけど・・・俺はトモリと違って優しくないから言うよ。───────そういうのはね、自己満足って言うんだ。”」



「”・・・っ!!”」



「”!エストレアさん、流石にそこまで言うこと、「”いいんだ、タクヤ。僕も・・・頭では理解してるつもり。”」・・・ユウヤ。”」



「”・・・わかりやすく、トモリとユウヤで比較してみようか。例えば、今回みたいな奴隷オークションがあったとする。ユウヤはそういう奴隷オークションとかが許せないだろうから、今みたいに何とかしようとする。でも、一人じゃ何も出来ない。仮になんとかして奴隷を解放できても、その後は?奴隷たちの生活は?ユウヤが働いてお金を稼ぐの?奴隷が一人や二人だけだったとしても、きっと大変だよ。直ぐに飢え死ぬ。”」



そう言うと、ユウヤはぐっと悔しそうに拳を握った。言い返したいけど、その通りだから何も言えない・・・ってところかな。



「”じゃあ、今度はトモリで考えてみようか。トモリは基本的になんでも持ってる。お金も力も魔法も。だから俺たちがいなくたって一人で何とかできる。やろうと思えば奴隷を解放して全員を養って生きていくことも容易いだろうね。でも、トモリは絶対にそういうことをしない。”」



「”・・・!!どうして、ですか?力があるのに・・・誰かを助けられる力があるのに・・・!トモリさんだったら、僕たちを助けてくれたみたいに、奴隷たちだって助けられるのに!!”」



「”・・・じゃあ、助けられるのに助けないのは怠慢だってこと?力がある人は、絶対に弱い人を助けなきゃいけないって?それこそ、おかしいと思わない?それじゃまるで、強い人は弱い人の奴隷だ。選択の自由がない。・・・俺はね、トモリにはそんな風になって欲しくない。ありもしない正義を無理矢理掲げさせて、人助けをさせるなんてこと、俺がさせない。・・・トモリにはトモリの意思で生きて欲しい。そして、心のおもむくままに、どこまでも自由でいてほしい。俺はそんなトモリが好きだから。”」



「”・・・・・・!!”」



・・・まぁ、そんな自由なトモリは、この状況を見越してたみたいだけど。ユウヤは私と違って優しいから、って。だから、奴隷を助けたいと言うと思う、って。そのときは・・・、



「”・・・でも、ひとつ訂正。君は何も出来なくはない。”」



「”え?”」



「”君には、家族がいるじゃん。この世で最も美しく、最も自由な家族が。”」



「”!!トモリ、さん。”」



「”・・・トモリから、伝言。ユウヤの意思を尊重するって。もし本気で助けたいと願うなら・・・力を貸す、って。”」



「”っ!!僕のこと、ちゃんと考えて、くれてた・・・?トモリさん、僕のこと・・・ちゃんと、”」



「”当たり前だろユウヤ!だってトモリさんは、俺らの家族なんだから!!”」



「”・・・ッ!!!ぅ、うぅ〜!”」



テレパシーでも泣いていたユウヤは、現実でも静かに泣いていた。仕方ないな、と頭をポンポン撫でてやると、ユウヤは縋るように俺の腕を掴んだ。



「”ぼぐっ、だずげだい”!!”」



すっごい涙声だし何言ってるか聞こえなかったけど。なんて言ったのか、大体わかった



「”・・・ん、了解。”」



俺の話を聞いてもなお、助けたいというのなら。しょうがないから、手伝ってあげる。



俺は未だに泣き続けるユウヤの頭を撫で続けた。そして、いよいよ作戦開始の時が迫る。

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