第13話永遠の死と永遠の生


客観side



「くそっ、くそっ、くそ・・・ッ!!!なんなんだよあの女はよォ!!」



男は暗い森の中を重い足取りで移動しながら、ストレスを発散するかのように喚き散らしていた。



男の左目と右腹からはだらだらと真っ赤な血が溢れ出ている。痛みに勝る苛立ちは、いつしか男の感情を憎しみへと変化させた。



「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、絶対に殺してやる・・・ッ!!!」



待っていろ、女ァ!!と叫んだ男は、気が狂ったように笑いながら森を抜けた。もう二度と光を宿すことの無い左眼は、禍々しい憎しみが渦巻いており、見る者を恐怖の底に落とすようなものであった。



星々に照らされて、憎しみに染まった赤い右瞳だけが、本来の色を宿していた。



この日男に芽生えた怒りは、やがて女に影を落とし、そして命をも刈り取る怒りへと形を変える。



───────────これが、幾千人目かの憤怒が生まれた瞬間であった。



客観sideEND



トモリside



敵と遭遇した後、直ぐに夜になった。因みに敵の内気絶させた2人はロープで縛っており、もう1人はもう完全に位置が掴めなくなっていた。



まぁ捕虜が2人もいれば十分だし、別にいいかと楽観視する。そして私達は再び、本来の目的である洞窟の調査を開始した。



しかし魔法陣の封印が中々難解で、解くのに3時間も費やした。一応あともう一押しで解除出来るようにはしたのでいつでも洞窟内に入れるのだが、真白が昔何かを掘る音を聞いたのは夜中の2時頃だと言うので、その時間まで仮眠を取る事にした。



私は木にもたれ掛かり、地面に腰を下ろした。すると真白は当たり前のように私の隣に座り、何の躊躇いもなく私の肩に頭を乗せてきた。こういうのにも何だか慣れ始めている。はぁ、慣れって怖いな。



真白は目を瞑ったあと直ぐに寝てしまったのか、スヤスヤという気持ち良さそうな寝息が耳元で聞こえてきた。



そんな寝息を聞きながら、私は空を見上げた。



すると、闇と同化したような暗い空に浮かぶ、この世の何よりも美しい満天の星々が目に入った。



それらを見ていると虚無感が芽生え始めるのは私だけではないだろう。しかし、私はこの虚無感が好きだった。星々に比べたら、人間なんてゴミ以下の価値しかない屑であろう。だから私もそうだ、それでいいんだと、私を正当化することで、明日を生きていけるから。



自分を第一に考え、他者を傷付け、人の痛みから目を逸らして。そうして成り上がってきた私という存在でも、まだ生きてていいのだと、明日も生きていいのだと、そう思うことができるから。



だから私は、星が好きだ。星を見るのが、何よりも大好きなんだ。



でもその日・・・不思議と虚無感は生まれなかった。



理由は多分・・・隣に寝ている真白が原因だ。



星々は相も変わらず美しかった。しかしそこに虚無感などなく、私の心は形容し難い温かいもので満たされているような・・・そんな心地になったのだ。



隣に誰かがいるだけでこうも感情の色が変わるのかと、私は人間というものを心底不思議に思った。



それから約数十分間、私は夢中になって星を見ていた。食い入るように見る様は、傍から見たら狂っているようにも見えたかもしれない。



そしてようやく2時頃になり、真白の言葉通り何かを掘るような音が洞窟内から響き始めた。



しかし、耳を済まさなければ聞こえないほどの極々小さな音だ。普通の人間じゃ聞き取れないくらい小さい。こんな音を聞き取れるなんて、やはり真白は有能だな。



おっと、そろそろ真白を起こして中に潜入しなければ。あまり時間を置きたくないからな。



『真白、起きろ。音が鳴り始めたぞ。』



「んん・・・ふぁぁぁ、ねむ〜い。」



・・・そういえば真白って、人間に擬態してるだけなのに睡眠は必要なんだな?・・・いや、活動してるのは人間の体なわけだし、人間が生きるのに必要な水や食料、睡眠なんかは必要なのか?今度真白に聞いてみよう。



『早く行くぞ。』



「ふぁ〜い。」



今のは返事か?・・・まぁいい。それよりも、流石に真白の容姿は目立ち過ぎるな。いくらマントを羽織っても、流石に私みたいな動きは出来ないだろうし・・・。



『・・・真白、暫くスライムになって私の鞄の中に入っててくれ。感覚共有と伝心で同じ景色は見えるようにしておくから、何か気が付いた事があれば言ってくれ。』



「りょ〜かい、任せてよトモリちゃん。」



真白はそう言うと、即座に白いスライムへと戻った。・・・こうして見るとなんだか懐かしいな。



私は真白を鞄の中に詰め、感覚共有と伝心の魔法を発動させた。



『”・・・どうだ?聞こえるか?”』



一応確認を取ると、おけけ〜という緩い返事が返ってきた。・・・もう少し緊張感を持って欲しいけど、まぁいい。そっちの方が私の気も楽だしな。



私はフードを被ってることを確りと確認し、極限まで気配を消した。そして洞窟の入口までスタタッと近寄り、 魔法陣の封印を手早く解いた。



これを解いたことで何かの防犯装置が作動することも考慮していたが、流石に解除されるとは思っていなかったのか、特に何の危険もなく中へと入れた。



洞窟内は暗く、普通なら明かりが無ければ進めないほどだったが、夜目が利く私にはそんなもの必要ない。



私は色々な罠を警戒しつつ一本道を突き進み、音が鳴っている場所に辿り着いた。



そこは他と比べれば比較的明るく、中の様子もよく見えた。



中には大勢の人間がいた。だが全ての人がボロボロで、廃人のように目が虚ろだった。それでも手だけは休めることなく鉱石を掘り続けており、正直言ってかなり異様な光景であった。



周りには縦15cm、底面の直径2cmほどの丸い空き瓶がゴロゴロと転がっており、瓶の縁から垂れている液体の色は赤だった。



ポーションは緑色なので、明らかにポーションでは無い。



「”ビンゴみたいだねぇ。つまり夜な夜な聞こえてくる何かを掘るような音は、行方不明になった冒険者・・・それから、多分鉱夫も混じってるだろうね。あぁ、楽しくなってきたなぁ〜。”」



『”気楽すぎ。下手したらこれ、結構大きな問題に発展するかもしれないんだぞ?”』



「”あはは、それはそれで面白いからいいじゃん〜。”」



面白そうって・・・はぁ。真白はまるで子供のようだよな。



・・・しかし、面白いというのは同意見だ。こういうハラハラ系の事件は結構好きだしな。



私は隠れながらそんなことを考えていたのだが、行方不明者達がいる場所の奥の道から足音が聞こえてきたため、思考を止めてそちらに意識を集中させる。



行方不明者達の傍まで歩き、立ち止まったのは、赤い軍服を着た男であった。そいつは観察するように行方不明者達を一瞥した後、手に持った紙に何かを書いてその場を去った。



見る感じ見回りだな。紙は報告書か何かだろうか。



「”・・・あの瓶、もしかしたらヤバいものが入っていたかもしれないね。”」



『”ヤバいもの?なんだ?”』



「”薬だよ、く、す、り。あ、良薬の方じゃないよ?・・・あれは多分、毒の方のクスリだね〜。”」



毒の方・・・麻薬とか、そういう部類のものか。行方不明者達の様子から察するに、人格を破壊し廃人にするようなものだろう。そして廃人になった者に対して暗示系の魔法を掛け、言うことを聞かせている。



「”クスリを使ったことで、あの人間達は一生使い潰せる人形に成り果ててる。もう二度と暗示が解けることは無いだろうね〜。”」



まぁ、そうだろうな。つまりは一生意志を持たない、植物人間と同じ状態になるということ。



この暗示を解いてしまえば、二度と目を覚まさないだろう。



まぁ、だからと言って解かないわけにもいかないんだけどさ。



『”こいつらは放っておこう。先へ進むぞ。”』



「”はぁ〜い。”」



私は素早く移動し、行方不明者達の傍を駆け抜けた。そして先程の赤い軍服の男が消えて行った場所を辿り、奥へ奥へと踏み込んでいくのだった。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る