第14話地獄へようこそ、されど己が進む道も地獄なり


暫く暗い空間が続いたが、やっと開けた明るい場所に出た。その場所からは合計4つの道が枝分かれしており、1番左の道が人の気配が2つ、その隣が8つ、更に隣が1つで、1番右の道には誰もいないようだった。



とりあえず1番右から行ってみる。数分ほど進むと、茶色いドアが見えてきた。そのドアには鍵が掛かっていたが、ドアを酸で溶かして中に入った。



「”トモリちゃんが酸属性だったとは知らなかったよ〜。まぁでもその前に・・・これは、倉庫かな〜?”」



『”みたいだな。さっきの赤い液体の瓶もあるぞ。”』



赤い液体の瓶は大量にあって、1000本以上はあると思う。あとは食料や水など、生活用品と・・・探し求めていた、鉱石があった。



その数は数え切れないが、見ただけで途方もない数だということが分かる。・・・あの廃人達が、何も分からずに掘らされ続けた産物だということも。



だから私みたいな奴に鉱石を活用されるのでは、掘った者達に対して流石に可哀想だと感じた。だから数個だけ頂いて、後はそのまま置いていくことにした。この件が終われば、直にまた流通するようになるだろうから。



次に生活用品を調べたが、こちらは特に何もなさそうなので、赤い液体の瓶を調べることにした。



瓶に手を翳し、解析を開始する。・・・ふむ、やはり真白の読み通りクスリみたいだな。それも、かなり依存性の強い。飲み続けると、廃人になったにも関わらずこのクスリを求め続けるほどだそうで、一本飲んだだけでも効果は相当なものらしい。更にこのクスリには何も食べなくても生きていける効果があるみたいで、このクスリさえ飲んでいれば”生きていくことだけ”はできるだろう。・・・そこに、意思があるかはともかく。



まるで生き地獄のようだ、と思ったが、あの人達に同情してしまえば、私は私を保てないと分かっていた。だから目を瞑り、見えないふりをするのだ。



「”人間、何も飲まず食わず働かされてたらいくら怪しいものでも飲んでしまうものだからね。1度これを飲んでしまえば最後、もう二度と人間には戻れない。・・・これを考えた人は人間というものを深く理解しているよ。”」



・・・それは褒めてるのか?というか、私だってそのくらいは思いつくけどな。



『”・・・っ、誰か来た。というか・・・人の動きがおかしい。入口からもかなりの人が入ってきてる。もしかして、侵入がバレたか?”』



「”みたいだねぇ〜。まぁ、少し遅いくらいだけど・・・ボクはもう少し早くバレると思ってたよ。それこそ、霧を使って攻撃してきた3人のうち、逃がした奴が仲間に報告してると思ってたし。侵入はバレてるとばかり。”」



・・・・・・あぁ、そうか。そういうことか。やっと謎だったことが分かった。



『”街の冒険者達はどうして瞬間移動で魔物の存在を確認しに行かないのかずっと疑問だったんだが、ようやく分かった。恐らく瞬間移動を使って洞窟内に移動しようとしたが、出来なかったんだ。”』



「”出来なかった?”」



『”あぁ。この洞窟に刻まれていた封印の魔法陣があっただろ?あれには多分、洞窟内での魔法を封じる効果があるんだ。だから瞬間移動で洞窟内に移動出来ず、入口前の森の中に着いた。それに混乱している間にそいつの魔法を霧で再び封じ、逃げ場を塞ぐ。そしてじわじわと追い詰めて、気絶させたら洞窟内に入れて働かせる。魔法陣の刻印があんなに真新しかったのは、何度も何度も出入りしているからだ。つまり・・・この事件は最初から魔物の仕業なんかでは無く・・・人間の・・・恐らく何らかの組織の仕業だろうな。”』



「”・・・なるほどね。その推理にはボクも賛成だよ。それなら、逃げた霧使いが洞窟内の仲間と連絡を取れなかったのも頷ける。洞窟内で魔法を使えないんじゃ、連絡したくても出来ないもんね。だから・・・多分、組織本体の方に連絡しに行ったんだろう。そして外から人が来てるということは・・・それは組織本体の人間の可能性が高いかな。”」



つまり、追い詰められたのはこっちってことだ。さて、どうしようか。ここは一本道で逃げ場などないし、今からあの開けた場所に戻ろうものなら、挟み撃ちにされて終わる可能性が高い。



それならここで迎え撃つ方が効率はいい・・・か。



「”ボクも戦おうか?”」



『”いや、邪魔だから・・・そうだ、お願いがあるんだが。”』



「”なんか酷いこと言われた気がするけど・・・なぁに?”」



『”真白って虫とか小動物とかに擬態出来る?”』



「”出来るよ〜鼠なら。ほら!”」



ほら、と言われたので鞄を開けてみると、小さくて白いネズミがチューと鳴いていた。うん、これならいけそうだな。



『”今から外に出て、入口を土魔法で塞いで欲しい。そして、多分外にも敵がいると思うから、全員気絶させて。出来るか?”』



「”!うん、出来るよ。というか、やる!!”」



・・・嬉しそうだな。まぁ、やる気なのはいい事だ。真白は頭がいいから、任せておけば外のことはどうにかなるだろう。



『じゃ、任せた・・・ぞっ!!』



「ちゅ!?チュー・・・っ!!?!?」



鼠を力いっぱい放り投げると、鼠は鳴きながらも着地して、こちらに向かってきた人間の足元をのらりくらりと交わしていく。やがて見えなくなったところで、敵が私の前に現れた。



「大人しく捕まってもらおうか、お嬢ちゃん。」



「お前、あの”赤眼の暴れ屋”を追い払ったんだってな。その戦闘力がありゃ、俺の”イグニス”隊も上に上り詰められる。」



「なぁに、悪い様にはしねぇよ。」



やってきた男達は、やはりというか赤い軍服を着ていた。ひぃ、ふぅ、みぃ・・・うぅん、わからん。目視だけでも20人はいそうだが。



『・・・お前らの目的は?』



「あぁ?どうせ仲間になるんだし言ってもいいか。俺らはな、ここの洞窟を独占して鉱石を原価の3倍近い値段で売り捌いているのさ。うちの組織の活動資金の3割近くがこの洞窟だ。」



・・・へぇ?そりゃあいいこと聞いたな。こいつらの組織とか心底どうでもいいが、人をあんな風にして働かせていたこいつらに、腹が立たないわけではない。が、私もこいつらと同じく人間の屑である。私も同じようなことをしたこともある。でも・・・それでも、同類だからというのは、多少の共感の種にはなれど慈悲を与える理由にはならない。



────────よって、ここで死んでもらう。



そして巻き添えを食らうあの廃人達には悪いが、あのまま生きていく方が酷だ。だからもう、楽にしてやる。



誰かを殺すということを自覚した瞬間、懐かしい感覚が私の手に蘇ってきた。



そうだった。私は何度も、こうして・・・。いや、今はその話はいい。



『──────この赤いクスリは?』



「それは毒のようなものだ。人の神経を蝕み、感情を殺し、このクスリ無しでは生きていけない体に作りかえるのさ。このクスリは裏社会で何千万、何億という数が売られている。因みに、活動資金の4割がこのクスリの売上だ。」



──────経験上言うが、こういう人に害しか与えない奴らはさっさと殺すに限る。なんと言っても、私に害を成しそうな奴らは消しておかないと安心できない質でね。



あぁ、胸が踊る。魔物を殺す時はあんなに怖いのに、人間だとこんなにも慣れ親しんだ隣人のような感覚になるのは、どうしようもなく狂ってるとしか言いようがない。



まぁ、それでもいい。早く殺してやりたいと、私の心が叫んでいるんだから。



『(そろそろ・・・かな。)』



「おい、聞いているのか?そろそろ行くぞ!」



男の一人が私の腕を掴んだ。その瞬間、鳥肌が立ち、男が掴んでいる部分から腐っていくような錯覚を覚えた。



耐えられない、と目の前の屑を消そうとしたその時。真白の柔らかい声が頭の中に響いた。



「”──────入口塞いだよ〜。頑張ってね、トモリちゃん!”」



『・・・・・・・・・、ふっ。』



「あ?何がおかしいんだよ。」



『いいや?私も随分丸くなったものだと思ってな。』



「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!!早く行くぞ!!」



グイッと腕を引っ張ってくる男を無視し、私は掴まれている腕とは反対側の腕でフードを取った。



その瞬間、誰かが息を飲み、歓喜の声が上がり、ザワザワと騒がしくなり始めた。



「っ、へぇ、いい女じゃねぇか。」



腕を掴んでいる男が言った。そして、私の腕を掴む手に力が増した。あぁ、後で消毒しなきゃな。でも今はそれよりも。



『───────《酸性霧(アシッドミスト)》』



呟いた途端、辺りに霧が広がり始めた。そして・・・、



「う、うわあああっ!!!?か、体が溶けて・・・っ!!」



「だ、だれか!!助けてくれえぇぇぇぇ!!



「ごめんなさい、ごめんなさい!!助けてぇぇえええ!!!」



霧を浴びた人間の皮膚がみるみるうちに溶けていった。それを冷めた目で眺めつつ、そろそろ外に出るかと足を進める。すると、足を誰かに掴まれて進行を止められる。



はぁ、とため息を着きながらも下を見ると、最早原型を留めていない顔と体をした男が。恐らくだが、さっき私の腕を掴んでいた男だろう。



あぁ、面倒だな。私は素早く刀を抜き、男の腕を切り飛ばした。死ぬほど痛いはずなのに、もう声すら出せない男に少しの憐憫をくれてやる。



が、次の瞬間にはもう前を向き、再び歩き出した。



後でしっかり腕と足を消毒しなきゃ。私の体を触っていいのは、友達3人と真白だけなのだから。



私は触れられた箇所を何度も何度も擦りながら、外を目指した。あぁ、早く真白に会いたい。



トモリsideEND



客観side



薄暗い暗闇の中を、白色の鼠が疾走する。鼠は次々とやってくる人間を全て避けて走り続け、やっと洞窟から外に出た。



外には赤い軍服を着た人間が沢山いて、奥の方で指揮官と思われる男が部下に指示を飛ばしていた。



鼠は冷静に人間を観察する。どんな仕草も見落とさないように、じっくりと。



そのことに指揮官を含めたその場の人間は気付かない。が、それはは当たり前である。



いくら警戒していても、ただの鼠に気を配る者などあまりいないだろう。



鼠はそれを理解していた。だからそれら諸々全てを計算し尽くし行動に移す。鼠の生まれてからの癖と言ってもよいものであった。



「(指揮官の周りは流石に警備が堅いな。崩せなさそうだなぁ、これは。)」



あの人はいつも無理難題ばかり言うよなぁ、と鼠は心の中で思った。一見するとただの文句なのだが、鼠はそれを嬉しいと感じているので鼠も大概だ。



鼠の気分は最高潮に達していた。好きな人に頼られるというのは、人間でも魔物でも変わらず嬉しいことなのだろう。



「(・・・でも、まぁ。やるって言ったし・・・それに、トモリの役に立ちたい。だから、)」



鼠は覚悟を決め、頭の中でこの場所の空間を思い浮かべる。今鼠の頭の中では常人が理解出来るはずのない計算が行われている。天才と言うより、人知を越えた神に近い領域と言ってもいいかもしれない。



全てを見通し、全てを計算する。それ即ち、未来を見るのとほぼ同義である。



これが鼠・・・いいや、”星約騎士”真白の真骨頂であり、戦い方である。



真白は全てを見通せたのか、やっと体を動かし始めた。向かう先には指揮官がいるが、当然気付かれない。



真白はそうして鼠の姿のまま指揮官の背後に立ち、そして迷うことなく人間の姿に戻った。



いきなり現れた気配に場は混乱と驚愕に包まれる。が、指揮官は流石というか、直ぐに背後を振り向き警戒態勢を取ろうとした。しかしもう手遅れだ。



なぜなら真白は、それすらも”読んでいた”から。その先の一手を考えていたから。



「(オーラでかなりの戦闘経験者なのは分かる。だから推測は簡単に出来た。でもまぁ、どちらにしろこの中にボクより強い人間はいない。それならさっさと、)」



終わらせてしまおう、真白が心の中でそう呟くと同時に、指揮官に向けて手を翳し、魔法を放った。



「《土球(アースボール)》」



真白の手から球体の土・・・泥団子のような形のものが飛び出した。



これは初級魔法で、基礎中の基礎の技だ。だから魔法名を聞いて指揮官も一瞬油断した。しかし考えても見れば、真白のLvは150で指揮官のLvは50と、圧倒的すぎる差があるのがわかる。ハンデだとしてもお釣りがくるくらいには力の差がある。



この世界の魔法は、Lvによって威力が変化する。つまり何が言いたいのかと言うと・・・。



「あ、ごっめ〜ん、これでも”か・な・り”手加減したんだけどさぁ。」



指揮官はモロにお腹に入った土球により遥か後方に吹き飛ばされた。それを見た赤い軍服の人間達は一瞬恐怖に呑まれかけた。しかしそれを殺意に変えたのは真白の先程の言葉であった。



あはは〜と笑いながら謝る真白には罪悪感などない。寧ろ煽っているのだ、この場の人間を。なぜなら一方的な恐怖だけ与えたら、逃げられた時面倒だから。



案の定人間達は怒りを露わにして真白に向かってきた。真白はその行動に呆れを通り越して寧ろ感心していた。ここまで思い通りに動くとは心配になるほどに単純である。



「あはは、ほらほら早く倒さなきゃ〜。指揮官様の仇だぞ〜?」



真白は笑いながら土球をバンバン打ち込んだ。人間達は単純な奴しか居ないのかそれとも学習しないのか、同じように同じ攻撃でやられる者しかいなかった。



攻撃を避けた者は一切居らず、あっという間にしーんと場が静かになった。



真白はそれをつまらなそうに見つめながらも、役目を果たすべく出入口に向かう。



「《土壁(アースウォール)》」



呟くと、出入口が土で出来た壁で塞がった。本来は防御魔法に分類されるものだが、使い方次第ではこのように道を塞ぐこともできるし、なんなら攻撃にも使える。要は柔軟にものを考えればどんな魔法も役に立つということだ。



「”──────入口塞いだよ〜。頑張ってね、トモリちゃん!”」



伝心の魔法で言われていた通り出入口を塞いだ旨を伝える。返事は無かったが、中から悲鳴が聞こえてきたことで一方的な殺戮が起こっていることは想像に難くない。



「さぁて・・・楽しいお話し合いの時間だよ〜。」



真白はその悲鳴を聞いて安心し、さっさと次の作業に取り掛かったのだった。



真白sideEND



トモリside



「じゃっじゃ〜ん!全員捕まえたんだ〜。えへへ、えらい?ボクえらい?」



外に出ると、えっへん!とドヤ顔で私を見てきた真白。その後ろには倒れている人が数十人程。うん、やっぱり真白はやれば出来るな。



『はいはい、偉い偉い。それより、リーダー格はいた?』



「いたよ〜。でも中々口を割らなくて、ちょっと本気出しちゃった☆」



てへぺろ☆と言いそうな勢いの真白は、とある人物を指差した。そいつはヒューヒューとか細い呼吸を繰り返しており、真白に半殺しにされたんだな、と直ぐに分かった。



爪がないところを見ると、真白は相当拷問について詳しいな?もしかしたら歯もなかったりしてな。まぁ確認するほど興味は無いが。



『その情報はひとまず後だ。今は王都に行って洞窟のことを伝えに、「─────その必要は無いわよォ。」・・・っ、!!?!』



どこからともなく声が聞こえたと思ったら、いきなり感じたとてつもなく嫌な気配に慌てて後ろを振り向いた。



そこには綺麗なお姉さん・・・じゃなく、黒髪黒目の綺麗で細マッチョなお兄さん?いやオネェか?がふふふ、と笑いながらこちらを見ていた。赤い軍服の奴らの仲間かと思ったが、毛色が違うのかこいつの着ている軍服は黒だ。



「あらあらァ、アナタあたしの気を食らっても平気なのね?・・・そっちの子は耐え切れなかったみたいだけど♪可愛い子ねェ。」



『っ、真白!!』



そいつの言葉を聞き、思わず真白のいる方を見た。そこには苦しそうな顔で倒れている真白が。



だけど私は動けなかった。真白を助けて逃げなきゃいけはいのは分かってる、でもどうしても本能がこう言うんだ。──────真白を置いて私だけ逃げろ、と。真白を囮にすれば逃げられる、と。



私の本能がそう言うくらいだ、こいつは余っ程強いのだろう。それは身に染みて感じてる。だからこそ、動けない。



今、この瞬間──────迷ってしまったから。



その隙を突かれた。相手はいきなり距離を詰めてきて、私の首を片手で掴んだ。



そして軽々と持ち上げ、じわじわと指に力を込めていく。



「ふふふ、アナタ一人なら逃げ切れたのに・・・馬鹿な子ねェ。でも、そういう子は嫌いじゃないわァ♪だから──────たァーっぷり痛ぶって、殺してアゲル♡」



『っ、な、せっ、・・・!』



考えなきゃ、考えなきゃ考えなきゃ・・・っ、



────────なにを?



私が、生き残れる道を、私が・・・・・・、



────────真白はどうするの?



真白・・・真白は、後で助けに・・・とりあえず私だけでも助からないと・・・生きないと・・・っ、



────────見殺しにするんだね



み、見殺しなんかじゃ・・・!



────────結局貴方は・・・弱虫のまま、なんにも変わってないんだよ。



『・・・っ、!!』



あぁ、嫌、嫌だ・・・このまま死ぬのも、1人で逃げるのも、真白を失うのも。全部全部──────クソ喰らえだ。



『────────・・・っ、罪に、溺れし・・・我が瞳よ・・・っ、』



「・・・っ、は、アナタまさか、大罪者なの!?」



そいつはそう言うと、私から離れようとし、手を離そうとした。しかし私がそいつの手を力強く掴んだため、そいつは私を振り払おうと必死に手を振った。しかし私は意地でも離れないと言う様に、しつこくそいつにまとわりついた。



『色欲(ルクスリア)の・・・っ、名において、はぁッ、死を断行、・・・せよ・・・っ、されど、色欲に・・・っ、堕ちる者にのみ、祝福・・・っ、あらん・・・ッ!!《色欲の瞳(ルクスリア)》!!』



「色欲・・・っ!?くそっ、離せェェッ!!!」



そいつは焦りを露わにして、私に至近距離で魔法を放とうとした。



「っ、死ねっ!!色欲の罪だなんて、一体何をしたらそんな忌々しいものを手に入れられるの!?アナタ、下手したら全世界を敵に回すことになるわよ!?」



目の前の男が何かを言っているのが分かるが、恐怖と息苦しさで理解が追いつかない。



だけど魔法陣が構成されていく様を見て、いよいよヤバいなと思い始めたその時。



近くから魔物の鳴き声が聞こえてきた。それに驚いたのか、そいつは魔法をキャンセルし、声のした方をバッと見た。



「・・・チッ!命拾いしたわね。・・・ま、流石に今のアナタじゃこの魔物には勝てないだろうけど。」



精々頑張りなさい♪そう言ったそいつは、消えるように闇の中へと去って行った。



そいつの手から首が離れたことで体が投げ出され、私は地面に座り込んだ。



『はっ、はぁっ、ゲホッ、ゴホゴホッ、』



助かった、そう思ったが、私に覆い被さる様に出来た影を見て、その希望は消え去った。



ゆっくりと振り返ると、そこには大型の魔物が。そいつは見たことの無い魔物で、鉱夫達がディスオーダーと呼んでいた魔物だと直ぐに分かった。しかし・・・本当に存在していたとは。



私は絶望に塗り潰された視界の中、遠のく意識と震える手を無理やり押さえ込み、体を引き摺るようにして真白の元に向かった。



真白は眠るように気絶していて、思わず安心のため息をついた。



そして何も考える暇もなく、私は無意識の内に真白を結界で覆っていた。



何をしているのか、なんて、私が1番聞きたかった。私は私が1番大事なはずなのに。あぁ、でも。真白を守って死ねるのなら・・・悪くは無い、最期かもしれない。そう思ったら笑えてきて、ふっと小さく笑った。



閉じていく瞼の中、最後に映ったのは・・・美しい星々と──────────黒いマントを羽織った、綺麗な空色の髪の男だった。



トモリsideEND



???side



暗い暗い闇のような空間。その空間の中心にある大きい円卓を囲いこむ、6人の人間がいた。



その者達は一貫して軍服を着用していたが、全員が全員、色の違うものを着ていた。



そして、”黒い軍服”を着用する黒髪の青年は、一人椅子に座ることなく立っており、更に5人分の注目を浴びていた。



彼は淡々と言葉を紡ぎ、事実を着々と述べていた。報告のようなそれは、彼がとある言葉を言うまで続いた。その言葉とは、”赤”の死だ。



それに反応し、今までぼうっと話を聞いていた青い軍服を着た少年が口を挟んだ。



「───────赤いのがやられた?それ、マジの情報なの〜?」



「ホントよ。ま、”赤”が乗り込んだ筈の洞窟には彼の死体は無かったけれど。」



「・・・なぁに、それ。どゆこと〜?新しいなぞなぞか何か?」



おれわかんなぁーい、と言った青の少年は、早く続きを話せと言うように黒を見た。黒は少年にため息をついてから、詳細を話し始めた。



「──────”溶けていた”のよ。洞窟内の人間、全員ね。洞窟内の様子を見に行かせたLv100以下の部下数人も、洞窟の奥に行くと同じように溶けたから確実よ。恐らく酸属性の使い手の仕業ね。」



「─────────犯人の目星は?」



感情を感じさせない声で問い掛けたのは、緑色の軍服を着た青年。



緑の青年は、黒の青年のことだから犯人の目星くらいついているものと踏んでいた。だからこそ、次の瞬間に見せた黒の青年の反応に心底驚いた顔をしたのは、必然と言えよう。



「・・・・・・・・・・・・、っと、あの、ね?」



黒の青年は何かを思い出したように静止し、やがて慌てたように言葉を紡ぎ出した。明らかにおかしい、そう感じたのはこの場にいる黒の青年以外の全員だ。



「なっ・・・、どうされたのですか”アーテル”様!御様子が、!!ま、まさか犯人に何かされたのですか!?」



バンッ、と机を壊す勢いで叩き付け、アーテル・・・黒の青年へ問いかけたのは、白の軍服を着る少女。少女の目は心配そうにアーテルを見ていた。



「大丈夫よ、えぇ平気だわ。犯人、犯人ね・・・─────色欲の、スキルを持つ少女だったわ。」



色欲、その単語が出た瞬間、部屋の空気がピリついた。大罪系の中で最も忌み嫌われるスキル、それが色欲。だからこの世に顕現しないことを誰もが願っていたほどだ。しかし、どこにでも例外はある。例えばこの男、



「・・・色欲、ねぇ。つっても女なんだろ?だったらいいじゃん。な、その子可愛い?それとも綺麗系?」



こいつは茶色の軍服を着ており、付け加えるなら生粋の女好きである。



「・・・知らないわよ。フード被ってて顔見えなかったんだから。」



「へぇ、そりゃ残念。今度見に行こっかな。」



「なっ、ダメよ!!」



アーテルが思わずといった調子で叫ぶと、途端に空気はしんと静まり返った。



「・・・え、なになに、もしかして色欲の色香にアテられちゃった〜?ごしゅうしょーさま〜。」



「ちがっ、そんなんじゃないわよ!」



「・・・落ち着きなよ。とりあえずさ、”赤”の後任を決めなきゃでしょ。アーテルの話はその後。」



「そ、そうね。さ、早く決めちゃいましょ。」



アーテルは取り繕うように緑の青年の話題に乗っかり、すっと席に着いた。



とある組織の会議にて、闇夜に潜む悪のお話。



???sideEND








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