第49話思わぬ邂逅


気絶させた兵士たちを見下ろしながら、先程聞き出した情報を思い出す。



『・・・古代兵器、勇者たちとの戦争に使う、ね。』



その話が本当なら、尚更放置はできないな。他の勇者たちはどうでもいいが、友達を危険な目には合わせたくは無い。



『・・・そろそろ迎えに行くか。』



倒れている兵士たちを避けながら、デカい扉に向かって歩き出す。



どうやって扉を開けるか、そんなことを考えていたその時。ちゃぷ、と足元から音がした。



・・・血?兵士たちの?いいや違う、血にしてはサラサラしている、それに、



バッと足元を見た。そこにはいつの間にか水溜まりのようなものができていて、その水溜まりは1秒ごとに水嵩が増している。



いや、待て。違う水溜まりじゃない、”この廊下”に水が溜まっているんだ・・・!



でも階段は?階段がある限り水がたまることは無いはず。それに隙間ならどこにだって、あれ、そもそもなんで急にこんな水が・・・、え、あれ、待って、うしろ、



『(だれか、)』



ほぼ反射で後ろを振り向いた。その瞬間、視界に映り込んだのは青色の軍服で。それはどこか、アーテルの軍服とよく似ていた。



『(いや、似てるんじゃない・・・色が違うだけで、デザイン自体は同じだ。)』



「──────・・・あー。・・・お初にお目にかかります〜で、いいんかな?」



二ヒヒ、と笑っていた。でも男のシャツには赤いシミがついているから、見るからにサイコキラーみたいだ。



─────────あれ、というかその血って、



『・・・がは、・・・、』



口から血がドバドバと飛び出てきた。あぁ・・・なんか熱いと思ったら、お腹から血ぃ出てたのか・・・。



人の腹剣で刺しながら笑ってるなんて、頭がおかしいんじゃないのか。私でもそんな顔しないぞ。



「俺ねぇ、カエルレウムってーの。メメントモリの”アクア”って隊の隊長で〜、歳は16歳。キミ、情報と違うけど、トモリちゃん、であってる〜?」



は、は、は、と短い呼吸を繰り返す。痛みよりも眠気が強くて、ほぼ男の話なんて頭に入ってこない。というか、なんか体が動かないなと思ったら・・・いつの間にか氷で足元を固められてたんだな。いや、腕とか頭も動かないから・・・何か薬でも剣に塗られていたのか。



「あれ?聞いてる〜?・・・まぁどのみち殺しちゃうしいっか〜。」



ぐりぐり、と未だに刺さったままの剣を傷の更に奥まで刺し込まれ、訪れていた眠気は吹き飛び痛みが全身に伝わった。



「あは、その顔いーね。まぁ顔の半分見えてねぇけど〜。・・・っと、そうだった。」



男は徐に剣から手を離し、今度は懐から短剣を取りだした。



そしてニコニコ笑いながら短剣を構えた。───────最後に映ったのは、男の笑う顔だった。



『〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!』



痛い痛い痛い、痛い、いやそれよりも、暗くて不安で、怖い。何が、何が起きたの?真っ暗で何も見えない、何も、何も・・・、



「うん。これでもうこの仮面いらないね〜。あ、でも詠唱でも呪い掛けれるんだっけ?」



じゃあ喉も潰すか〜という軽い声が聞こえてきて、ようやく頭が冴えてきた。



さっきなんか自分で言ってた気がするけど、多分メメントモリの人だ。そして私のことを知っている。



変装しているのになぜ分かったんだ?もしかして、魔力とかでわかるものなのか?



あとは、そもそもどうしてここにメメントモリがいるのか。古代兵器って言ってたし、狼少年狙いか?だったら止めないと。



あれ・・・そうだ、思い出した。ずっと古代兵器って言葉に聞き覚えがあったのは、アーテルが言ってたからだ。



アーテルとデートした遺跡は元々古代兵器が眠っていた場所で、アーテルは古代兵器を手に入れるために遺跡に行った。でも見つからなかったから、遺跡を私物にした、と。



じゃあメメントモリは古代兵器を探してここまで来た、ってことで間違いないな。あぁ、くそ、ここにきたのがアーテルならまだ話が通じたのに。



なんだこのサイコパス野郎は、アーテルとは比べ物にならないくらい頭がおかしい。



見た目だけなら普通の少年・・・いや、目鼻立ちのいい少年、なのに。



男は金髪碧眼で身長は175cmくらい。まだ大人になりきっていない子供らしさが残る顔立ちだ。



でも、いくら顔立ちが良くても、ここまで性格が破綻していたら恋人どころか友達にだってなりたくはないな。・・・頭の中の真白に人のこと言えないでしょ〜とか言われた気がするが、今はそれどころじゃない。



とにかく早くどうにかしないと今度は目だけじゃなくて喉まで潰される。そんなの御免だ。



『・・・ゴホン、待て少年早まるな。私を殺せば悲しむ家族がたくさんいるんだ。』



「この局面でそんなこと言う人初めて見た〜。でもだぁめ、キミには俺の目的のために死んでもらうから。」



『わ、私を殺せば私を追って死ぬ人がたくさん出るぞ?いいのかそれでも?』



「うん?あー、色欲の呪い?別にいいんじゃない?俺には関係ないないし〜。」



『なら、とりあえず仲直りしよう。握手しよう。な?』



「別に喧嘩してなくない〜?そもそも友達でもなんでもないっしょー。」



くっそ言葉が通じない。どうする?どうすれば・・・子供たちに応援を頼む?いいや、危険すぎる。それに単純に、この男自体が教育に悪いから子供たちに会わせたくない。



『・・・い、1回だけ、お願いごと聞いてやるから。』



「えー別にお願いごと聞いてもらわなくてもキミが死ねば叶うしなぁ。」



『チッ・・・なら死ぬ前に、お前の目的を教えろ。なぜ私を殺す?』



こうなったら私も殺る気を出すしかない。この男が動機を話している間に心の中で詠唱して攻撃を・・・。



「え、もしかしてまだ気付いてないの〜?鈍感だなぁキミ。」



ウザイ・・・けど我慢だ。早く詠唱を開始しないと。



「俺がキミを殺す理由はぁ、」



よし今だ!とポイズンアローと唱えようとしたその時だった。男の口から、信じられない単語が聞こえてきたのは。



「────────お金、盗るためだよ〜。」



『・・・・・・・・・・・・・・・・・・は??』



お、・・・おかね?お金、だと?お金を盗るためだけに私を殺すと?いやいや・・・いやいやいや、



『ふざけているのか?第一、お前は私のことを知っていたじゃないか。変装していたにも関わらずな。それにこんな王宮にまで忍び込んでくるなんて、』



「え?知ってる人に会ったら普通挨拶するくね?俺したよね〜ちゃんと。」



挨拶?そんなの刺された衝撃で聞いてないが??それに刺す前に挨拶しろよ。殺る気満々じゃないか。



「てか、変装?やっぱそれ変装だったん〜?でも残念、俺のユニークスキルのおかげでキミのことは最初から知ってたんだよね〜。」



『は?どういう意味だ?』



「俺のユニークスキルはね、俺の半径数十m以内に存在する人の中で1番お金持ちの人の情報を教えてくれるってやつなんだよね〜。」



『は???』



「で、ヒットしたのがキミってわけ。」



・・・あぁ、そうか。王は今数km離れたオークション会場。つまり範囲外にいる。だから私は狙われたのか。くっそ、なんなんだその動機。



『だが、お前はメメントモリだろう?古代兵器を探してるんじゃないのか?』



「俺は確かにメメントモリだけど、古代兵器の任務担当じゃねーの。俺はただ、ギャンブルで負けて無一文になってたところにたまたま偶然キミを見つけて、お金盗りに来ただけ〜。まぁでも、古代兵器がこの場所にあるなら・・・もうそろ担当の奴が来るんじゃねーかな〜。」



『は、・・・なんだ、それ。』



正直ふざけんなと罵って殺したい気分だが・・・今はそれどころじゃない。というか、男の目的がお金だとしたら、正直そっちの方が有難い。



『・・・名前、なんだっけ?』



「俺?俺はカエルレウムだよ〜。」



『カエルレウム、私と取り引きしないか?』



「取り引き〜?でも殺した方が早いし、」



『私はお金を腐るほど用意できるぞ。』



「結婚しよう。」



がしっ、と手を掴まれる。目がなくてもわかる。こいつ、本気だ。というか態度変わりすぎじゃないか?どれだけお金好きなんだ。



『結婚な、結婚。・・・したければとりあえず全身の傷治して動けるようにしろ。』



「御意。」



なんだこいつ、いきなり出来る男感出してきやがって。ってあれ、目が見えるし傷も痛くない。仕事早すぎないか・・・?



「家はギャンブルが盛んなナハト帝国に建てたいなぁ〜。あとお小遣いとして月に中金貨1枚は欲しいし〜、家の家事はぜぇんぶキミにやって欲しい〜。あとねあとね、俺働きたくないから仕事はしたくないんだけどいーい?んでね、とりあえず結婚資金として大金貨1枚ちょーだい♡」



『奇遇だな、私も家事はしたくないし働きたくないんだ。お前が全部やるなら結婚してやらなくもないが。』



「え〜!するって言ったじゃん!!嘘つき〜。あ、じゃあヒモでもいいよ!」



『結婚するのとどう違うんだ?どっちも穀潰しなら同じだろう。』



「ぶぅ。・・・俺ってばこんなにかーいいよ?あとかっこいい!」



『自分で言うな。』



絶対にこいつとだけは結婚しないからな。絶対にだ。でもこいつ、諦め悪そうだしなぁ・・・。



『わかった。とりあえず結婚の話は一旦置いておこう。んで本題だが、この石をやるから言うこと聞け。』



「ひゃっほう!売れば金貨1枚はくだらないじゃんこの宝石〜!俺なんだってするよ〜トモリちゃん〜!」



トモリちゃんか・・・トモリちゃんって呼び方は真白と友達の塚井にしか許したくないんだが。



『あー・・・その、け、結婚する以前にそもそも仲良くならなきゃだろ?お互いにあだ名、付けないか?』



「あだ名?じゃあトモリンで〜。」



『トモリン・・・??』



なんか可愛いあだ名だな・・・。まぁいいや。こいつは確か、カエルレウムだったな・・・カエルじゃだめか?うーん、げこちゃんとか?いいかもしれない・・・。



『げこちゃんで。』



「え?」



『げこちゃん。可愛いだろ?』



「げこちゃ・・・え?安直ぅ・・・。まぁいいけど〜。」



いいのか。私だったら考えたやつの頭を心配するけどな。



まぁあだ名の件はさておき・・・とりあえず一安心だな。一時はどうなるかと思ったが・・・これでようやく狼少年を助けられる。



絶対に狼少年を助けると決意を新たにし、大きな分厚い扉を見つめたのだった。







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