ウソツキの末路
第48話潜入開始
いよいよ作戦決行の日の夜がやってきた。既にチーム1とチーム3とは別れ、私たちチーム2は王宮付近の路地裏に潜伏していた。
ずっと気を張っているのはしんどいだろうから今は気を楽にしておけ、とミヤとミツヤに言ったのだが、緊張しているのか表情は未だ固い。
それに、ミツヤはそれほどでもないが、ミヤは分かりやすく手が震えていた。ガタガタと震える手を隠すためか、血が出るくらいギュッと拳を握りしめていた。
思わずミヤの手をそっと握りしめたのだが、こんなときなんて声を掛ければいいのか分からなくて沈黙が続いた。
何か励まさないと、と思うのに、やはり気の利いた言葉一つ紡げなかった。
だから、その代わりにミヤの小さな体をぎゅうっと抱きしめた。ついでにミツヤのことも抱きしめ、2人にテレパシーでメッセージを送る。
『”──────大丈夫だ。”』
せめて少しでも気持ちを楽にしてあげたい、と思ったのだが、伝わっただろうか・・・と2人から離れ2人の顔を見る。
2人はパチパチと瞬きを繰り返していた。その目は度肝を抜かれた後のように丸い。何にそんなに驚いたんだ?と首を傾げてみると、私の心情を察したのか、2人がクスクスと小さく笑い始めた。
『”な、なにかおかしかったか?”』
思わず問い掛けると、2人は先程の固い顔とは打って変わって、明るい顔で笑った。
「”あのね、トモリさん”」
「”俺たちを見つけてくれて、ありがとう。”」
『・・・・・・・・・へっ?』
「”トモリさん、フードで顔が見えないし、声も冷たい感じだけど・・・でも、トモリさんが不器用なだけだ、ってこと、ちゃんと知ってるから!”」
「”俺たち、最初は信じてなかった。どうせすぐ捨てられるって思ってた。・・・気まぐれで俺たちを助けてくれたんだ、って思ってた。でも、そういうこと考えるの、やめた。俺たち、もうトモリさんがどう思ってるかとか考えないことにしたんだ。”」
『あ、あの、ちょっとま、』
「”わたしたち、トモリさんのことがほんとに、ほんとーに大好き。”」
「”だから、俺たちは俺たちの意思で、トモリさんについて行く。トモリさんのこと信じられるからとか、俺たちを捨てないからとかじゃなくて・・・ただ、好きだから、俺たちはトモリさんと一緒にいたい。・・・だめ、かな?”」
『・・・や、あの、ちょっと待って。』
やばい、どうしよう、感情がぐちゃぐちゃしてて思考が纏まらない。
テレパシー上手く使えてて偉いなぁとか、笑顔可愛いとか、とにかくいっぱい、いっぱい考えとか出てきていっそ鬱陶しいくらいに頭ん中グルグルしてるけど、でも、それでも1番強く思ったのは、
『”私も、ありがとう。──────見つけてくれて。”』
私の中に眠る弱さをすくい上げて、見つけてくれて、ありがとう。
子供たちに出会って、子供たちを助けて、ようやく理解した。
───────私が弱さだと決めつけて手放した優しさは、弱さなんかじゃないってこと。
むしろ優しさを弱さだと決め付けた私の心こそ弱いのだと。そう、気が付いた。
誰よりも父さんの優しさに救われたのは、助けられたのは私だというのに。その優しさすら否定して、偽善だと決め付けた。本当に、私は愚かだ。
そんな風に考えて、少し感傷的になった。しかしここは既に敵陣。気を引き締めないと、と思い直したその時。
少し遠くの方で、何かが爆発するような音が響いた。チーム1の合図だった。私たちは頷き合い、路地裏から王宮の方を観察した。
王宮からは騎士やら兵士やらがうじゃうじゃと出てきた。そして爆発した方向へと向かっていく。
それを見届けてから、索敵魔法で王宮内の警備が薄いのを確認し、気配を消して走り出した。
ミヤとミツヤの2人も気配を消して付いてくる。初めてにしては中々上手いな、と感心しつつ王宮の城壁をよじ登る。
ロープを垂らし2人にも城壁を登らせ、地面に降り立つ。そこでようやく、城内に侵入が完了した。
姿勢を低くし見つからないように素早く移動する。索敵魔法を常時利用するのは疲れるのだが、予めエストレアに魔力を大量にもらっていたので、あと1時間くらいなら持つだろう。
さて。早く狼少年を見つけなければ。今は王宮の警備が薄くて見つかりにくいとはいえ、長居は無用だからな。
『”警備の配置的に恐らく狼少年は最上階にいるはずだ。私はそこへ狼少年を迎えに行くから、2人は執務室を調べてみてくれ。”』
「”執務室・・・ですか?一体どこの、”」
『”───────王様の、だ。”』
そう言うと、驚いた顔をした2人が私の方を見た。私はこくりと一度頷くと、ぽん、と2人の頭を撫でた。
『”頼んだ。ミヤ、ミツヤ。”』
「「”!・・・まかせて!!!”」」
2人の声が同時に頭の中で響いた。それにクスリと笑い、2人に執務室の場所を伝えた。
伝えた場所が王の執務室だという確信はない。しかし、警備の配置を考えるとここしかありえないのだ。だから恐らく、正解。
私たちは背中を向け合い、それぞれ目的の場所へ向かって走り出した。
警備の兵に気付かれないように隠れながら走る。そうやって移動すること約5分。
ようやく最上階に辿り着いた。しかし、最上階の警備は他よりも格段に厚い。索敵魔法で警備の数を数えてみたら、なんと20人もの警備がいた。
王の執務室ですら5人だったのに、一体どれほどの財宝がこの階に隠されているのやら、なんて冗談めかして心の中で呟く。
『(狼少年がこの国の宝なのだとしたら、私はその宝を奪いに来た泥棒・・・いいや、盗賊、か?)』
まぁなんでもいい。狼少年が・・・仲間が戻ってくるのなら、私はどんな悪党にだってなってやる。
『───────奪取開始だ。』
私はバッとマントを”脱ぎ捨てた”。視認することで私の存在にようやく気が付いた警備のヤツらが、慌てながらこちらに剣と杖を向けた。
『──────お初にお目にかかる。』
「なっ、何者だ!?一体どこから、」
「奇妙な仮面の女め!!おい、魔法を放て!!」
「し、しかし!!」
「いい!部隊長である私が許可する!!放て!!打てぇぇえ!!」
私の話すら聞く気がないのか問答無用で魔法を打ってきた兵士たち。
話くらい聞けよ、とため息をつきながら、その魔法を結界で弾いた。
魔法と結界の衝突により煙が蔓延する。そんな中、コツコツと兵士たちに向かって歩く。
その間にも魔法が放たれたが、全て結界で防いだ。そして暫くして煙が晴れると、兵士たちは驚愕の表情を浮かべた。
「な、何故生きて・・・!?」
「ま、魔法を、」
隊長格の男が指示を出す直前。私はニコリと微笑み呟いた。
『────── 《星屑(スターダスト)》』
即座に手のひらサイズの星屑が数百個生成され、兵士たちに向けて放たれた。
ほとんどの兵士が悲鳴を上げて倒れた。そんな中立っていたのは、意図的に攻撃しなかった隊長格の男のみ。
なぜ倒さなかったのか、それは私のことをできるだけ具体的に伝えてもらうため。
まぁ私といっても、カツラを被り仮面をした私なのだが。
これで私がディランの騎士だとバレる心配は無い。思いっきり、暴れられるってわけだ。
因みに、子供たちとエストレアたちも返送しているので、姿形を覚えられても問題は無いし、仮に指名手配されたとしても見つかりっこない。
・・・さぁて。そろそろ終わらせるか。たっぷり時間をやったんだから、ちゃんとこの姿の私のことを覚えてくれよ?
『最後に聞きたいことがある。』
「っ、俺は何も教えんぞ。」
『この中にいる獣人。どうしてここまで厳重に守っているんだ?』
「さぁな。俺は知らない。」
『・・・お前、部下が大事か?』
「は?」
戸惑ったような声を聞きながら、近くにいた兵士を雑に掴みあげる。
「や、やめろ・・・っ!」
『やめろ?もしかして、まだ立場が理解出来てないのか?』
「っ、やめて、ください。」
あぁ、この人は部下思いなんだな。もっと嫌な奴だったら、こんな脅しをされることもなかっただろうに。
『うん。で、さっきの質問の答えは?』
「っ・・・くそ!中の獣人は陛下のお気に入りの奴隷だ。だから警備を厳重に、」
『あっそう。』
思ったよりも冷たい声が零れた。私は魔力で短剣を作り出し、未だ手の内にいる兵士を、
「待てッ!!!そ、そうだ、思い出したことがある!!」
『へぇ。・・・次は無いからな。』
魔力でできた短剣を消し、殺気を出して隊長格の男を怯ませた。・・・こんな姿、子供たちには見せられないな。
「へ、陛下が話しているのを聞いたんだ。中にいる獣人は特別だ、この世界を滅ぼせる古代兵器なんだ、って。」
『ほぅ。それで?』
「だ、だから厳重に保護して、来る勇者たちとの戦争で使用するって。そ、それだけだ!!本当にそれだけしか知らない!!」
『・・・ん、そうみたいだな。』
じゃあ、もういいや。私は魔力を男にぶつけ、男を気絶させた。
ふぅ、と息を吐き出す。ようやく狼少年を助けることが出来る、と安堵と油断にも似た思いを抱えて。
その油断が後々波乱を生むことには、気付かずに。
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